朽ちた時計
あの日。
あの日に俺は燃え尽きてしまった。
あれからしばらく廃人のような生活を送っていた。
何も手が付かず、話しかけられても、一言二言返すことすらできなかった。
あれからもう何年たっただろう。
俺はかろうじて、こうして生き、以前の生活を取り戻そうとしているが、なかなか上手くはいかない。
一見、平凡そうな生活を送っているように見えるが、俺の心の中には蛆虫が這って俺の心を蝕み、確実に俺の精神はやられている。
心の底には朽ちた懐中時計が埋まっている。
そう、その時計はあの日から一ミリ秒だって進んではいない。
俺の身体や精神はあの日から止まったままだ。
太宰治はどんな心境で「生まれてすいません」と書き残したのだろう。
太宰治の「人間失格」の最後はこう綴られている。
いまは自分には、幸福も不幸もありません。
ただ、一さいは過ぎていきます。
自分がいままで阿鼻叫喚で生きて来たいわゆる「人間」の世界において、たった一つ、真理らしく思われたのは、それだけでした。
自分がいままで阿鼻叫喚で生きて来たいわゆる「人間」の世界において、たった一つ、真理らしく思われたのは、それだけでした。
ただ、一さいは過ぎて行きます。
俺の人生も、きっと一さいが過ぎ去って何ものをも残さないだろう。
それが唯一の真理なのだ。
