思い出したくないことなど

成人向き。二十歳未満の閲覧禁止。家庭の事情でクラスメイトの女子の家に居候することになった僕の性的いじめ体験。

【愛と冒険のマジックショー】8 人質たちの長い夜

2024-12-20 23:12:29 | 11.愛と冒険のマジックショー

 

 倉庫に中に引っ張り込まれた僕は、すぐさま後ろ手に手錠をかけられた。
 黒い宝石の、黒で衣装を統一した戦闘員たちがライフル銃を持ってあちこちで歩哨に立っている。
 衝立と金網で囲まれた一画に連れて行かれた。

 人質たちがいっせいに顔を上げた。ざっと二十人ほどだろうか。一見したところ、女子ばかりのようだ。
 彼女たちはまったりと過ごしていた。あちこちで小さな輪を作って座り、トランプをしたり、軽食やケーキを口に運びながらお喋りしたりしていた。輪には加わらず、炭酸飲料とスナック菓子を横に置いて熱心に漫画に読みふける者、壁にもたれて眠る者の姿もあった。
 まるで誰かの誕生パーティーに招待されたけど、肝心の本人が姿を現さないので、適当にばらけて好き勝手に時間を潰しているみたいだった。
 その人質女子たちが手をとめて、新たな人質である僕に眼差しを注いでいる。
 恥ずかしい。後ろ手の手錠をガチャガチャ鳴らしても無駄だった。素っ裸の僕におちんちんを隠すことはできない。

 人質の中にメライちゃんの姿を認めた僕は、思わずその名を呼んだ。メライちゃんはマジックショーの時と同じスクール水着のままで、なぜかひとりだけ後手に縛られていた。細い紐が柔らかい肉体に食い込んで、胸やウエストのくびれを生々しく見せる。
「よかったじゃねえか、彼女と一緒になれてよ」と桃李さん。僕の背中をドンと押して人質の中に放り込むと、高笑いして囲いから出て行った。

「ナオスくん」
 上気した顔のメライちゃんが緊縛された不自由な体をよろめかせて立ち上がり、おぼつかない足取りで僕のそばに来て、腰を下ろした。
「メライちゃん、なんでメライちゃんだけ縛られてるの」
 改めて見回す。メライちゃん以外の人質女子は誰も身体を拘束されていなかった。
「ここから逃げようとしたから見つかっちゃって、二度と逃亡できないよう裸になるか縛られるか、どちらか選べって迫られたから、縛られることにしたの」
「そっか」
「裸にされるのは絶対や、だ、し」一音ずつ力を込めて強調する。
「そりゃ、そうだよね」
 全裸で後ろ手錠をかけられている僕は、それ以上何も言えなくなった。

 メライちゃんと僕は人質になったいきさつを互いに語り合った。
 マジックショーの舞台が終わった時、メライちゃんは隠し部屋の中だった。台本では僕が隠し部屋に入り、ステージに残るのはメライちゃんのはずだったのに、なぜか鷺丸君が予定よりも一回多く回転扉抜けをやったものだから、逆になってしまった。
 おかげで僕はずっと長く素っ裸をステージで晒す羽目になり、のみならず強制的に勃起する薬剤を注入され、想定外の災難にも巻き込まれた。

 いっぽうで回転扉の隠し部屋にこもったメライちゃんはマジックショー終了後、そのまま道具係によって倉庫に運ばれた。メライちゃんの着替えの洋服は、鷺丸君のお姉さんが舞台袖に持ってきてくれる手筈だったから、このハプニングにより、服の受け渡しがうまくいかなくなった。
 まさか自分が倉庫に戻るとは思っていなかったメライちゃんは、スクール水着姿のまま、鷺丸君のお姉さんが洋服を届けてくれるのを待った。ところが、鷺丸君のお姉さんはなかなか現れなかった。
 とりあえず股間の膨らみを成すおちんちんの形をした粘土細工を取り外した。マジックショーの本番前、鷺丸君によってスクール水着の裏側にむりやり接着剤で付けられたものだ。その疑似おちんちんは汗を吸って柔らかくなり、形を崩して性器に接触するようになっていたという。
 メライちゃんの体はすっかり熱くなっていて、体じゅう汗まみれで、彼女いわく「ほんとにもう、全身が痺れて、やっかいだったんだから」
 それで、仕方なく一度水着を脱ぐことにした。
 全裸になったメライちゃんは、水着の股間裏に貼り付けられた忌々しい粘土細工を床に叩きつけると、踵で踏み潰した。

 早く普通の服に着替えて夏祭りを楽しみたいと思っていたメライちゃんは、衝立の角からそっと顔を出し、「あの、すみません」とたまたま通りかかった係員に声をかけた。
 事情を説明し、早く着替えを持ってきてもらえるように頼んだものの、係員の返答は悪意を感じるほどそっけなかった。たとえ関係者であっても「出し物を終えている場合はみだりに倉庫へ立ち入りできません」無味乾燥な規則を繰り返し伝えるばかりだったという。
 つまり、これって、ステージショーの演目すべてが終わるまで、鷺丸君のお姉さんは倉庫に入れず、倉庫を出てみずから鷺丸君のお姉さんの元へ行かないかぎり、スクール水着のまま過ごすしかないっていうことなのかしら。
 ええ、そうです、と無愛想な係員。
 ステージ上ならともかく、着替えを持ったお姉さんを探してピチピチのスクール水着姿のまま、浴衣をまとった人々で賑わう夏祭りの会場内を歩き回る、などという行為は、メライちゃんにとって「考えただけでも体がガクガク震える」恥ずかしさなのだった。
 夏祭りに来ている妹たち弟たちと合流して屋台の並ぶ会場をぶらぶらしたかったのにな、とメライちゃんが諦めのため息をついた時、武装した黒い服を着た人たちが何人もぞろぞろと倉庫に入ってきたそうだ。黒い宝石の面々だった。籠城を決め込んだ彼らは倉庫に残っている者を一人残らず人質とした。

 人質の中には、この倉庫でエンコと僕をいじめたチアダンスチームの女子六人もいた。六人ともステージで見事なチアダンスを披露したときと同じ、青と白の縦縞タンクトップとフリル付きの真っ赤なショートパンツという衣装だった。ステージを終えて倉庫内の控え室に戻ったところを黒い宝石に捕らえられた。
 半袖のブラウスにチェックのミニスカートを身に着けた女子のグループは、高校の陶芸クラブの部員だった。自分たちの製作した陶器をブースで販売していたのだけど、倉庫の隣だったのが運の尽きだった。黒い宝石に脅され、ここに連れ込まれた。

 人質に取るなら男よりも女を、と黒い宝石が考えていたのは明らかだった。倉庫の近くで若い女性のグループたちは、いきなり降ってきた縄に絡め取られ、彼女たちが睦まじくお喋りに興じていた体育会系の男性たちから引き離された。
 その気になれば彼女たちを取り返すこともできたはずなのに、男性陣はなぜか揃って臆病風に吹かれてしまった。彼らの白いシャツを満帆のように見せる隆々たる肉体がピアスや首飾りと同じ、一種のアクセサリーに過ぎないことを思い出したのかもしれない。
 倉庫内で人の出入りのチェックや誘導を担当していた係員の半数以上は尻を蹴飛ばされ、外へ追いやられた。尻を蹴られなかった残りの係員は全員女性であり、それゆえ人質として監禁されることになった。
 最後に捕獲した僕を含めると、黒い宝石が倉庫に監禁する人質の数は全部で二十二名に達した。僕以外は全員女性であり、僕以外は全員衣類をまとっていた。そして、身体を拘束されているのはメライちゃんと僕だけだった。

 黒い宝石は、門松会長の暗殺が失敗した場合に備えて、人質をこっそり倉庫に確保していた。そのことに誰も気づかなかった。
 化けの皮の剥がれた桃李さんが、僕の首筋にナイフを当てて桐江未沙さんや警察を牽制しながら、僕を倉庫に連れ込むまでは。

 僕を除く人質はすでに三時間以上もここで過ごしていることになるが、特段疲れたような様子の者は見当たらなかった。彼女たちの年齢が、係員を除いて最年長でも二十四歳を超えない若さで、体力に恵まれていたこともあるだろうけれど、やはり比較的自由に行動できたこと、環境にも恵まれていたことがその大きな理由だろう。
 水洗トイレや洗面所は自由に使えた。それらは清潔できっちり男女別に分かれていた。ほかに多目的トイレもあった。
 また、衝立の反対側に回れば水やコーヒー、紅茶、烏龍茶、サイダーなどが好きなだけ飲めたし、トースターで食パンをこんがり焼き、バターや木苺のジャムを塗って食べることもできた。
 長テーブルにはゆで卵やウインナーをたんまり盛った皿が並び、その横にはサラダバーもあった。デザート類の充実さは目を見張るほどで、ホテルで過ごすような快適な環境と言っても過言ではなかった。

 ただせっかくのサービスも僕はほとんど利用できなかった。後ろ手錠をかけられているからということもあるが、それだけが理由ではない。両手の自由が利かないという点では後手に縛られているメライちゃんも同じだけど、彼女の場合は、同じ人質仲間が手助けしてくれたから、飲み物もトーストもデザートも、望む物はほぼ口にすることができた。
 それにたいして僕は、これらのサービスの利用に著しい制限が加えられた。飲料は水しか許されず、食べてよいものは床に落ちたサラダの切れ端だけだった。

 なぜか。
 その理由は人質たちがこれらのサービスを女子専用と思い込んだことによる。
「いや、女子専用ではなく、人質専用のサービスと思うけどな」
 こうやんわりと抗議してみたけど、取り合ってもらえなかった。
 人質は僕を除いて全員女性なので、彼女たちはこれを人質向けではなく、女性向けのサービスだと受け取ったのだった。
 黒い宝石の者は、これまで誰もこのサービスを利用しなかった。僕よりも長く倉庫に監禁されているメライちゃんに聞いても、このサービスコーナーで立ち止まるのは、やはりいつも人質だった。
 ところが木原マリさんだけは例外で、ずかずかとドリンクバーに行き、当たり前のようにアイスコーヒーを飲んだ。
 この事実は飲食サービスが人質限定ではなく、誰でも利用可能であることを示している。少なくとも僕はそう読み取った。
 しかしほかの人質たちは別の受け取り方をした。木原マリさんは女性だからこそ、このサービスを享受する権利があると認識したのだった。
 このようなわけで、遺憾なことに、彼女たちは、同じ人質仲間でありながら、男児である僕には、このサービスを利用する資格がないと判断したのだった。
「あなたさあ、男の子だよね?」と、陶芸部の女子がサラダバーに近づいた僕に話しかけてきた。
 いきなり攻撃的な口調だったので、僕は返答に窮してしまった。
「丸裸で、おちんちん丸出しなんだから、それはもう、どんな小さくたって、ごまかしようがないもんね」と畳みかけてくる。
 蔑みの眼差しを向けられて、僕は後ろ手錠をかけられた素っ裸の身をすくめた。
「悪いけど、ここにあるサラダもパンもデザートも、もちろん飲み物も、あなたは利用できないよ。これは全部、女性用なんだから。水を飲みたかったら洗面所に行きなよ」
 そう言うと、彼女はフンと鼻を鳴らしてどこかへ行ってしまった。
 ほかの人質たちも、彼女に同意するように、うんうんと無言で頷き、ウインナーをくわえようとした僕に非難の眼差しを向けた。
 かくして人質向けに用意されたと思われるサービスは、当の人質たちによって女性専用にされてしまい、僕は利用を許されなくなってしまったのだった。

 チアダンスチームの女子がお椀に注いでくれた水を後ろ手錠のまま吸い、床に落ちて彼女たちが踏みつけたサラダの切れ端をむしゃむしゃ食べた。隣ではメライちゃんがバターをたっぷり塗ったトーストを陶芸部の女子に食べさせてもらっていた。
 また、トランプや漫画、雑誌の貸し出しもあって、人質たちは暇な時間を遊戯や読書に興じて過ごした。
 後手縛りのメライちゃんと後ろ手錠の僕は、カードゲームに参加できないし、漫画や雑誌を読むことも叶わない。隣り合って、ぽつぽつとお喋りをするしかなかった。
 トランプをするいくつかの輪から歓声やらキャッキャッと騒ぐ声が聞こえてきた。ずいぶんと楽しそうな人質たちだなと思った。この先、どうなるか分からないのに。

 機動隊が動員されて倉庫を囲んでいる。機動隊は最初、しきりにメガホンで「あきらめて人質を解放し、両手を上げて出てきなさい」と、投降を呼びかけていた。
 黒い宝石は無線機を使って自分たちの意思を伝えた。まずメガホンによる説得をやめさせた。やかましいだけだ、すぐにやめろ、さもないと人質の服を引っ剥がすぞ、もうすでにひとりは真っ裸だが、こいつは男の子で最初から真っ裸だった、次は女子の服を引っ剥がすぞ、と脅すと、機動隊はメガホンでの呼びかけを中止し、以後、やり取りはもっぱら無線機でおこなわれるようになった。

 黒い宝石は、機動隊に何もしないことを求めた。「二十二人の人質の安全、生命を脅かしたくなければ、とにかく何もするな。隙を見つけて突入しようなどと考えるな。我々は人質の殺害をためらわない」と脅した。
 続けて、ミヤジマジョーの釈放を要求した。
 門松会長の頭上に吊したバケツを狙撃して、バケツの中にセットした爆弾がその衝撃で爆発することを狙った黒い宝石のテロ計画は、失敗に終わった。爆弾は取り外されて、ただ空っぽのバケツだけがカムフラージュとして吊されていた。そのことを知らずにミヤジマは狙撃現場にあらわれ、待ち構えていた捜査関係者に取り押さえられたのだったが、そのミヤジマを釈放しろと迫るのだった。

 人質を取られている機動隊は要求を呑むしかなかった。黒い宝石が慎重に倉庫のドアを開けると、そこに警官に付き添われたミヤジマジョーが立っていた。中に入ったミヤジマジョーは付き添いの警官を外に残したままドアを閉めた。
 僕は急いで背中を丸くして、ほかの人質の後ろに隠れようとしたけど、無駄だった。人質の中で僕だけ全裸であり男子であり、しかも手錠をかけられているから、目立つことこの上ないのだった。
「また会ったな、クソガキ」
 ミヤジマジョーは僕を見て言い、ニッと不敵な笑みを浮かべた。

 監視役の男に腕時計を見せてもらった。夜の十時三十分を回ったところだった。
 僕はあいかわらず素っ裸で、後ろ手錠をかけられたままだった。衝立にもたれてぼんやりと倉庫の高い天井を見つめている。
 僕の隣ではメライちゃんが僕の右肩によりかかって静かな寝息を立てている。
 この光景を鷺丸君が見たら嫉妬するだろうか。それとも、人質にされた不安定な状況だから仕方がないと思ってくれるだろうか。いずれにせよ、僕はこっそり、静かに喜びの感情に浸っていた。

 マジックショーの演出の関係でメライちゃんと僕は同じ髪型にさせられたけれど、それは見た目だけで、メライちゃんのショートカットの髪質は僕とちがい、もっと柔らかいように感じられる。おまけに石鹸のいい香りもする。
 チア女子チームの何人かがいまだにトランプで遊んでいた。最初の頃と比べるとだいぶ静かになった。それ以外の人質たちは漫画を読んだり、眠ったり、小さな声でお喋りしたりして過ごしていた。
 手錠をかけられているせいでメライちゃんの肩に手をやることもできないのがもどかしかった。メライちゃんのスクール水着に包まれた肉体を肌で感じながら、僕は目をつむり、考えた。
 黒い宝石の籠城する倉庫を機動隊が包囲している。僕が知りたいのは黒い宝石が僕たちを人質にして、どんな行動を起こそうとしているのか、ということだった。
 なんといっても無差別爆弾テロを目論む連中である。絶対に油断ならない。とくに人質女子にたいする彼らの手厚い扱いは気になるところだった。爆弾テロという非道を目論む連中がこれほど親切にもてなすには何かわけがある。
 この人質女子への至れり尽くせりのサービスには必ず裏がある。僕はそう読んでいた。

 チアダンスチームのひとり、アキヨさんという人が桃李さんに僕の手錠を外すように頼んでくれた。
 別に僕を気の毒に思ったから、ではない。
 素っ裸の男の子を四つん這いにして椅子にしたり歩かせたりしたい、この際だから少しいじめて楽しみたい、とその理由を伝えると、桃李さんはにっこり笑った。
「そうだよな、同年代の男の子が真っ裸でいるんだから、もてあそびたいよな。ちょっと待ってや」と快諾して事務室に入り、鍵を取ってきて手錠を外してくれた。
「じゃ、行くよ」
 お尻をパチーンと平手打ちされた。

 四つん這いの犬の姿勢で倉庫内を散策させられる。
 黒い宝石が籠城してから、倉庫内のレイアウトは大幅に変わった。彼らにとって使いやすいよう、ステージショーの演目ごとに設けられていた仕切りはすべて外し、人質エリアと休憩所、黒い宝石の人たちの専用エリア、がらくたエリアの四つの仕切りに組み替えたのだった。
 人質は、黒い宝石の専用エリア以外であれば倉庫内のどこでも自由に行き来できた。
 出入り口や外壁沿いには、ほぼ等間隔にライフル銃を肩に提げた歩哨が立っていた。
 アキヨさんは僕に、彼らの前を通る時には高く掲げたお尻をことさらにぷるぷる揺らすように命じた。揺らし方が足りないと、容赦なく平手打ちされた。
「痛いです。そんなことしなくてもいいのに」
 たまらなくなって文句を言うと、
「黙ってな。これくらいしないと、いじめの見せしめ散歩らしく見えないでしょうが」
 チアダンス女子、アキヨさんは冷たく言い放った。

 アキヨさんは、黒い宝石が最終的に何を望んでいるのか、人質をどうしようとしているのか知りたいという僕の思いに共感してくれた、数少ない、というか、メライちゃん以外では唯一の人質だった。
 ほかの人質たちは、「そんなの、わかったところでどうすんのよ」「せっかく居心地も悪くないんだから、もっとリラックスしたらどうなの」と、驚くほどのんき、かつ楽観的で、僕の危機感を一笑に付した。
 いや、彼女たちの甘い考えをけなす気持ちはない。ただ言えるのは、人質にたいする空港ラウンジ並みのサービスには絶対に何かよくないことが隠されているということだ。まずは黒い宝石の狙い、考え、計画を探りに行かなければならない。そのためには僕ひとりでは無理で、どうしても誰かの助力が必要だった。
 僕としてはメライちゃんにお願いしたかったけど、彼女は後手縛りされているから、ほかの人に頼むしかなかった。
 チアダンス女子のなかで、僕の抱く危機感を即座に理解し、二つ返事で引き受けてくれたのは、アキヨさんだけだった。
 彼女はついでに、僕をいたぶる機会も見逃さなかった。

 全裸四つん這いでお尻を叩かれてはプルプルと揺らして、カモフラージュの散歩を続ける。黒い宝石の戦闘員たちがにやにや笑って通り過ぎる。
 幸いにして特に怪しまれることもなく、がらくたエリアに到着した。ここは、ステージショーの舞台装置、道具類など、もともと倉庫内のあちこちにあった物を一カ所に集めたエリアで、ほとんど粗大ゴミ置き場のようだった。マジックショーで使用した隠し部屋付きの回転ボックスが長机と演台の間に斜めに挟まっていた。
 雑然と、しかしぎっしり物が置かれて、人の入り込むスペースはなかった。しかしこのエリアこそ僕の目的地だった。
「なんか心配だわ、あんた、見つからないといいけど」
 アキヨさんがガラクタの隙間に裸身を入れた僕を見ながら、心配そうに言った。
「僕は体が小さいから隠れやすいよ。連中が来たら教えてね」
「任せて。しっかり頼むわね。あなたならきっとできる」
 僕とエンコにさんざん意地悪をしたチアダンス女子のひとりであるアキヨさん。その彼女が同じ人物とは思えないほどの優しい声を出して、僕を励ました。

 彼女のすがるような思いのこもった目に見送られながら、狭い隙間にかろうじて裸身を滑り込ませて、ぐんぐんと奥へ、腹這いになったり、木登りの要領で無造作に積まれたキャビネットや丸テーブルを越えたりして進む。
 積まれた物をうっかり崩して大きな音を立てると気づかれてしまうので、立ちはだかる障害物には慎重に対処しなければならなかった。腹這いになってくぐり抜けられる場合はまだよかったけど、その隙間がない場合は適当に足をかけてよじ登らなくてはならず、危険な事態になってしまうこともある。
 一度なぞはキャビネットの天辺にやっとお腹をつけたところ、急にギーと音を立ててキャビネットが傾き始め、天辺で腹這いの僕は滑り落ちて、その先の洗濯機に頭ごと突っ込んでしまった。
 洗濯機の円錐のドラムの中には大量のサラダ油が入っていた。油まみれになった裸身をぐるりと回して、なんとか這い出る。来た方向を振り返ると、アキヨさんが心配そうに隙間から顔を覗かせていた。大丈夫だと手を振って伝えて、折り重なった長机の間に生じた狭い空間に裸身をねじ込むようにして入れる。
 全裸でよかったと思うのはこういう時だ。もし衣類を身に着けていたら進むたびに衣類が引っかかって、難儀しただろう。無理をすれば最後にはパンツまで脱げてしまったに違いない。そんなアクシデントに見舞われて素っ裸になってしまうくらいならば、最初から衣類なぞ身に着けていないほうがよほどさっぱりする。しかもサラダ油にまみれているおかげで、裸身が思いのほかスムーズに快適に進む。

 よじ登っては腹這いになり、隙間に裸身を投じたりして進むうちに金網が見えてきた。金網の向こうは黒い宝石の専用エリアであり、衝立に沿って無線機を置いた事務机がひとつ、中央に打ち合わせ用の長机が三つ、コの字に並んであった。僕は向かい合って座るミヤジマジョーと桃李さんを見た。ふたりとも真剣な表情だった。
 もう一人、無線機から流れてくる早口の指示だか情報だかを一心に書き留めているアフロヘアの姿もあった。
 僕は斜めに置かれたキャビネットの裏側に回り、なぜか妙にベトベトする床に腹這いになって、背もたれを斜め下に向けたソファが作る三角形の小さな隙間に入った。金網近くまで接近する。
 この位置なら、金網の向こうの人物に気づかれる心配はない。彼らの誰かが床にでも這わないかぎり、金網越しに見える逆さに置かれたソファの下に僕が潜んでいると気づくのは不可能だ。
 金網の向こうでは、ミヤジマジョーが無線への応答に指示を飛ばしている。彼らの無線の相手は仲間から警察に変わっていた。警察と交渉するのは、もっぱらアフロヘアだった。投降を勧める警察にたいして、下手な真似をしたら人質の命は保証しないと突っぱねる。
 ぼんぼりのような形をしたアフロヘアは背筋を伸ばして前傾姿勢のまま、ミヤジマに指示されたことをてきぱきと警察に伝えていた。スピーカーを通して警察の応答もあまさず耳に入ってくる。
 おかげで僕は黒い宝石と警察のやり取りをすっかり聞くことができた。

 必要な情報を得たので、そろそろ戻ろうと思った刹那、座面を下にして置かれたソファの脚に膝をぶつけて、ガタッ、と物音を立ててしまった。警察の声が途絶えた。無線のスイッチを切ったようだ。男たちは金網に寄ってそれぞれに目を凝らした。「なんだ、誰かいるのか」とミヤジマが怒声を放った。僕は戸棚の下の隙間で腹這いのまま息を殺した。
 男たちは席に戻り、ふたたび無線機のスイッチを入れた。僕は芋虫のように腰を上下に揺すって進み、アキヨさんが伸ばしてくれた手を掴んだ。
 ガラクタの積まれた狭い空間からぐいと引っ張り出した僕を見て、アキヨさんは驚きの声を上げた。「なんでお尻とか背中がベトベトしてんのよ。わ、やだ、全身にサラダ油がべったり付いてる」
 僕は自分のお腹周りや足を見た。お尻にも目を向ける。確かにサラダ油まみれだけど、今さらどうしようもなかった。
「情けないなあ、おちんちんまでテカテカ光ってるよ」
 は、恥ずかしい。ベトベトするおちんちんに手をあてて隠す。
 とにかく今はまずい状況なのだった。黒い宝石が機動隊の包囲する倉庫からどのように脱出しようとしているのか、僕はすっかり聞いてしまった。それは、自分たち人質にとって大変に危機的な、生命が脅かされる状況だった。もう時間の余裕はない。今するべきことはただひとつ、アキヨさんを促して人質たちのいる場所に戻ることだった。
 
 黒い宝石は倉庫内に時限爆弾を仕掛けた。同時に、外部の仲間に連絡して大型ヘリコプターを手配した。これを使って一味はここから逐電する魂胆だった。
 残念ながら僕たち人質二十二人はヘリコプターに乗せてもらえない。この倉庫に残され、爆弾の爆破を待つだけの身となる。
 恐ろしい話だけど、これが黒い宝石の計画だった。
 人質にたいする厚遇は、見殺しにする人質へのせめてもの情けだった。飲み物だけでなくパンやサラダ、ウインナー、ゆで卵が食べ放題というのも、彼らの冷酷な計画を考えると理に適っていた。
 ヘリコプターに黒い宝石一味が乗り込んだら、もうごくわずかの物資しか載せられない。彼らは廃棄するしかない物を人質たちに与えて、恩を売っていたにすぎない。

 いよいよヘリコプターによる逃走作戦を開始するにあたって、黒い宝石はいくつかの班に分かれてせわしなく動き回るようになった。ひとつの班は天井の一部の板を外す作業にかかった。明らかに僕たち人質への監視がおろそかになりつつある。
 ありがたいことに四つん這いでの散歩のあとは手錠をかけられていなかった。僕は正座し、おちんちんを股間の中に押し込んで隠すと、折を見計らって、メライちゃんとアキヨさんに自分たちの置かれた状況と黒い宝石の計画を教えた。
 彼女たちは仰天したが、幸いにしてすぐに冷静になってくれた。
「それ、間違いないよね」
 メライちゃんが上目遣いで訊ねた。後手に縛られて、縄の食い込んだスクール水着が女体の未だに未成熟な段階にあることを痛々しいまでに強調していた。
「残念だけど、僕が聞いたかぎりでは間違いない」と僕は言った。
「わたしたち、助かるかしら」アキヨさんが不安げな顔を僕に向けた。
「ねえ、ここに取り残されて爆弾が爆発するのを待つだけなの?」と、不安そうに問うメライちゃん。
「助かる方法は必ずあると思う。それを考えたいの、三人で」
 僕はメライちゃんとアキヨさんの顔を交互に見て、協力を要請した。

 とりあえず人目につかない場所にそっと移動する。そこでメライちゃん、アキヨさん、僕の三人は膝を詰めて、この危機的な状況をどう逃れるか、話し合った。
 命綱をつけた黒い宝石の戦闘員は、倉庫の天井の板をあらかた外してしまい、端っこに数枚残すだけとなった。おかげで夜空がだいぶよく見える。あの夜空にヘリコプターがあらわれ、この倉庫の中へ縄橋子を垂らす算段なのだろう。
 無線機の雑音の中から僕が聞き取ったところによると、ヘリコプターの到着は夜中の十一時五十分とのことだから、セットした時限爆弾が爆発するのはそれ以降なのだろう。それまでになんとかしてここを脱出しなくてはならない。 

 倉庫から爆弾が爆発しないうちに逃げ出す方法について、僕たちは集中して話し合い、そのあいだ、三人の中で僕だけが全裸であるということも忘却するほどだった。だから木原マリさんが近づいてきたことに直前まで気づかなかった。
 アキヨさんのパチパチした目配せによって、初めて僕は自分のすぐ後ろに木原マリさんが立っていることを知った。でも、そんなにびっくりしなかった。なにしろ考え事に夢中だったから。
「何よ、そんなこわい顔して睨まなくてもいいでしょうに」
 いきなり木原マリさんに裸の背中をバシーンと平手打ちされた。
「べ、別に睨んでなんかいませんよ」
 そう返しながら、僕は両の肩甲骨を寄せるようにして痛みをやり過ごした。
「嘘ばっかり。あんたにはずいぶんと邪魔されたから、たっぷりお返しさせてもらうつもりだったのよ」
 木原マリさんが勝ち誇った顔をして言った。白いブラウスに紫のロングスカートという衣装がこの人らしくない、清楚な印象を醸し出していた。
「もしかして僕を探してたんですか?」
「そのとおりよ。どうせオールヌードのままだろうから目立ってすぐに見つかると思ったのに、なかなか見当たらなくて倉庫の中を探し回ったわ。人質たちを自由にさせておく組織の考えの寛大さには、ほんとに呆れちゃう。こんなところに隠れてたのね」
「べつに隠れてたつもりじゃないけど」
「嘘ばっかり。わたしに会いたくなかったくせに。でも、ここで会ったが百年目ね。さ、立ちなさい」
 木原マリさんは僕の腕を取って立たせると、広い倉庫内を歩き始めた。素っ裸の僕も一緒に歩かざるを得ない。
「あ、だめでしょ、勝手に隠しちゃ」
 取られていないほうの手でおちんちんを隠す僕に気づき、叱責する。
 とても逆らえる状況ではない。観念して手をおちんちんから離す。歩くたびに揺れるおちんちんが丸見えになった。
 周囲には黒い宝石の成員だけでなく人質女子の姿もあった。計画実行に向けて忙しそうに行き交う黒い宝石の人たちですら、通り過ぎがてら素っ裸の僕へ目を向けた。ましてやたっぷり暇を与えられた人質女子には、全裸のまま片腕を取られてどこかへ連行される僕を眺めるのは格好の気晴らしだった。
「それにしてもずいぶんと不思議な取り合わせだったわね」と木原マリさんが言った。
 スクール水着姿で後ろ手に縛られている女の子、チアダンスのユニフォーム姿の女の子、それと素っ裸の男の子という、一見接点もなさそうな三人が何をそんなに熱心に話し合っているのか、と問う。
「これからの夏休みの過ごし方について、話し合ってたんです」
「あなた、ほんとのこと言いなさいよ」
「ほんとのことです。アキヨさんというチアダンスの女子は、これからダンスチームの合宿があって、ソウルまで行くそうです。全国ダンスコンクールに向けて練習に励むみたいです。スクール水着のメライちゃん、あの縛られていた女の子は、来週、親戚とキャンプに行くって目を輝かせてました」
 すらすらと嘘八百を延べる。こんなにも淀みなく話をでっち上げられるとは、自分でも意外だった。まるでY美じゃないかと思った。素っ裸の僕を引き回すところを通行中の、比較的良識ある人に見咎められると、Y美は、僕が性的加害者であるから猛省させているのだといった類いの、とんでもない作り話を即興で繰り出して、僕を内心大いに驚かせたものだけど、それと同じことをたった今、僕自身もやってのけたのだった。

 やっと木原マリさんが僕の腕を放してくれた。衝立で仕切られた通路を抜けて、真四角のスペースに入れられた。
 縦横の長さがそれぞれ五メートルほどの、何もない空間だった。
 ドアのある面とその左右の面は白塗りの衝立で区切られ、残りの一面、ちょうど僕の前方の面には金網が張られてあった。じつは金網よりも先に目に入ったのは、金網の向こうにある奇妙な形をした数々の物体だった。発明コンテストに出品した発明品が置かれているのだと気づいた。
 発明コンテストの出品物紹介と審査の場に居合わせることはできなかったけど、自分のステージ本番前に倉庫の中をうろついたおかげで、僕はこれらの奇妙な品々をすでに見知っていた。その中には、木原マリさんによって無理矢理体験させられた、あの忌々しい自動洗体機もあった。
 洗体なんて嘘っぱちもいいところで、手の込んだやり方で性感という性感を刺激するマシーンだった。洗浄用の管がお尻の中にまで入ってくるなんて、誰も想像するだろうか。
 その横にあるのは食塩水自動生成機だ。バケツの中の爆弾を処理するのに、僕は全裸のままワイヤーを腹這いになって進み、この発明品で作られた食塩水を背中に乗せて運んだ。この機械がなければ爆弾の処理にうんと手こずったに違いない。
 中央にでんと構える屏風の形をした発明品は、確か、屏風の部分がわずかでも濡れると下の台座の部分から強力な電磁波が出て、周辺の電子機器の作動を停止させるという代物だったと思う。
 周囲から隔離したこの一室に僕を連れてきたのは、単純に僕を痛めつけるためだった。木原マリさんは僕の右腕を背中に回して捻り上げた。つま先立ちになって痛みに耐える僕を、木原さんはどす黒い憎しみのこもった目で見下ろした。
「あなた、なんでわたしがあなたを探してたか、分かってるでしょ。覚悟してね」
 ヒギィ。
 脇腹に痺れるような変な感覚が走った。いったい何をされたのか、よく分からない。木原さんは警棒のような物を握っていた。それを今度は僕のお尻に当てる。ギャアア。強い電流が流れて、全身がピクピクと震えた。

 腕を放された僕は四つん這いになって、荒い息を吐きながら痛みのようものが過ぎるのを待った。しかしインターバルは極端なまでに切り詰められた。ゾクゾクッとする新たな刺激が走ってきたのだった。木原さんが僕の背中に電流の流れる警棒を二度三度と叩きつけたのだった。
 ギャアア・・・・・・。
 それは痛み、紛れもなく痛みそのものなのだけど、鞭で打たれた時のような、打たれた部位にダイレクトに伝わる痛みとは少し違った。
 まず刺激、強烈な刺激に襲われ、痛覚は遅れてやってくるのだった。刺激はそれを直接受けた部位だけでなく、肌全体にたちまちパッと布を広げるように伝わる。ブオンと音がして分厚い刺激が全身の肌感覚をいじくり回す。その刺激が全身に行き渡って、はじめて痛みを覚える。
 強烈な刺激にヒクヒクする、そのヒクヒクの感じは、正確には痛みというよりは、むず痒い感じの極度に強まったものと言うべきかもしれない。いずれにせよ僕に耐えがたい思いをさせるという点では、背中やお尻を板切れで叩かれるのと変わらない。
「もう堪忍して、やめて、許してください」
 涙声になって訴え、這うようにして木原マリさんから逃れようとするのだけど、電流警棒を片手に持った彼女は、薄笑いを浮かべながらじわじわと距離を詰めてくる。
「そんな簡単に許せるわけないでしょ。あなた、自分が何をしたのか分かってるの?」
「ヒギャア・・・・・・。ご、ごめんなさい」
 背中とお尻を連続して警棒で打たれる。警棒から流れる強い電流を浴びて、頭が真っ白になる。全身がピクッと動物的な反応をして、僕自身で制御できるものではなかった。
 今更ながら衣服をまとっていない自分を悔しく思う。服の上からだったら、こんなにも変な刺激に悩まされなかったろうに、全裸で素肌に直接刺激を受けるものだから、ピクッピクッと一糸まとわぬ体が暴れて、それで木原マリさんを楽しませてしまっている。もう四つん這いの姿勢は維持できなかった。横向きになってピクピクと体を震わせるしか能がない。しかも口から涎を垂らして。

 こんなにも木原マリさんを激怒させた理由を、もちろん僕は知っている。爆弾騒ぎのどさくさにまぎれて夏祭り実行委員会の事務所から現金一千万円を持ち逃げしようとしたところを僕と桐江未沙さんに阻止されたからだ。黒い宝石の一味であることを僕に見破られたのも癪に障ったようだった。
 横向きに倒れているとおちんちんの袋が無防備に股からはみ出てしまう。パンツ一枚すら滅多に与えられない僕は、おちんちんの袋を攻撃されないよう、ほとんど無意識のうちに股の中に収めるなどして防御するのだけど、この時は連続した電流攻撃によるムズムズするような刺激の大波に揉まれて、不覚にも隙があった。そこへお尻を蹴られたのだからたまらない。
 木原マリさんのパンプスの先端がおちんちんの袋を直撃し、アヒィィィ、僕は悲鳴を上げて悶えた。刺激というよりも、まさに痛みそのものだった。
「答えなさい、なんでわたしが黒い宝石の者だって気づいたの?」
 電流警棒を振り上げた木原マリさんはそれを僕の脇腹へ振り下ろした。低く唸る電流刺激の連続に僕はなすすべもなく、ただ泣きわめいて許しを乞う。もちろん質問に答えるまで攻撃の手は休めてもらえない。
 脇腹の次はお尻で、ついには小さく縮こまったおちんちんにも警棒をぶつけられた。アウウッ、痛い。固い物が陰嚢に衝突した痛覚とともに、ズドンと響いた電気ショックに僕は声も出ず、ただ呻いて、神経の一本一本を手荒くいじられるような尋常でない刺激に気を失う寸前まで追い立てられた。
 とにかく息絶え絶えになりながら、なんとか僕は説明しおおせた。
 ミヤジマジョーのズボンの尻ポケットから落ちた財布を口で拾わされた時、中に入っていた木原マリさんのヌード写真を偶然見てしまった。それで彼女とミヤジマジョーの関係を察し、彼女もまた黒い宝石の一味ではないかと疑ったのだった。
「ヌード写真てどんなやつよ?」と木原さんが顔を朱に染めて訊ねた。
「あの、滝の下で正座してる写真です。縛られたまま」
「え、まさかあんた、あの写真、見たの?」
 こくり、と頷いた瞬間、罵声が僕の耳元でつんざいた。
「このド変態がッ」
 激昂した木原マリさんが電流警棒をめったやたらと僕の裸身に振り下ろした。「てめえ、あれ見てチンコおっ立てたろ。ええ? 正直に言えよ、この変態野郎が」
 理不尽極まりなかった。僕はひたすら許しを乞うた。剥き出しの肌を打たれる痛みもさることながら、全身が痺れて、ろくに体を動かせなかった。
 僕にヌード写真を見られたのがそんなに悔しいのだろうか。自分は全裸の僕を思う存分嬲っているくせに。
 ウググッ。背中とお尻を連続して蹴られる。木原マリさんの怒りは収まるどころか、むしろ増しているようだった。痛めつけるほど増長する憎悪の念。ぐったりした僕にできることといえばせいぜい体の向きを変えることぐらいで、そのあいだも木原さんは僕の脇腹や背中、お尻、太股に蹴りを浴びせ続けた。
 うつ伏せに倒れ込んで、ついに頭を上げることくらいしかできなくなった。両の手首を背中に回され、カチリ、という音を聞いた。僕は感情を失っていたようだった。
 再び手錠をかけられたと気づいたのは、少ししてからだった。

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11 コメント

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Unknown (Gio)
2024-12-21 12:12:54
更新お疲れ様です。
いじめられっこの幸福論までは常に受身で辛い運命を受け入れるがままだったナオス君がマジックショー編はすごく主体的に動いていて新鮮ですね
電気責めで袋を責められるシーンも良いです。
メライちゃんも素っ裸にされて二人そろって全裸放映されるかもと妄想が膨らみます。
返信する
Unknown (M.B.O)
2024-12-21 23:22:01
 なんか人質にとられてるって緊張感が無さすぎる気がしますね…
返信する
Unknown (Unknown)
2024-12-22 16:48:25
イメージ画像?だとショートボブよりも長めっぽいからほんとに女の子に見えそう。劇中で男が欲情するのも髪型の要因が大きいんかな
返信する
Unknown (hal)
2024-12-22 20:43:43
「おちんちん」は
物語の中で常に
嵐のように頻発しますが、
「チンコ」って意外にも
どの登場人物の口からも出てこないワードだったので新鮮でした。
返信する
Unknown (hal)
2024-12-22 20:56:54
ナオスくんが
普通の中学生らしく「チンコ」とか「金玉」
とか言うのではなく
「ぼくのおちんちん」とか
「おちんちんの袋」
とか言うのが 何だかとても
幼く可愛いのです
返信する
Unknown (Gio)
2024-12-22 22:19:14
>hal さんへ
>ナオスくんが... への返信

横から失礼いたします。すごく共感します。内面描写では大人びたナオス君が、中学生なのにおちんちんと幼い感じで良いですね
返信する
Unknown (Unknown)
2024-12-23 19:09:39
もうテロリストの爆弾爆発させてモブ人質爆死させた方がいいんじゃないんですかねぇ。人質集団のこのクソ民度を見ると

…それができないナオスくんは優しすぎるな

絶対これからナオスくんがどれほど活躍してこいつらの命を救っても、女側が手柄独り占めしてナオスくんの頑張りは伏せられて「始終全裸で興奮してただけのマゾショタ」程度の了見で終わるのがもう見えるのが胸糞悪いわ
返信する
Unknown (hal)
2024-12-23 19:43:59
> Gio さんへ
> 横から失礼いたします。すごく共感します。内面描写では大人びたナオス君が、中...... への返信
「チンチン」とか
「チンポ」とか
細かく呼称が変わるのは、
絶妙ですよね
たかが一本のチンチンの表現なのに
登場人物や場面に合わせて
その都度違っていて
キャラクターの性格とか、
ナオスくんに対しての心理的な優位とか
すんなり印象が入ってきて 、
お話にすっかり引き込まれては夢中で読んでしまうんです。
返信する
Unknown (Unknown)
2024-12-23 20:44:15
サイト閉鎖した恥ずかしい事文庫では始終「おちんちん」
最近リニューアルした厨房cfnmでは初期の頃は「ちんちん」で、近年は「おちんちん」
なろうでは作者によるが「チンコ」「ペニス」

作者によっていろいろな呼び方の好みを感じられるな
ちなみに個人的には「おちんちん」「ちんちん」がエロすと情けなさを感じるから好き
返信する
Unknown (M.B.O)
2024-12-24 00:09:17
> Unknown さんへ
> サイト閉鎖した恥ずかしい事文庫では始終「おちんちん」... への返信

恥ずかしいこと文庫って懐かしいですね…私もファンだったんです。
『D&H』は私にとって神作品だったので完結まで読みたかったのですが閉鎖してしまって残念です。
 作風によっておちんちん、ちんぽ、ちんこ、ペニスと表現は色々ですよね
返信する

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