思い出したくないことなど

成人向き。二十歳未満の閲覧禁止。家庭の事情でクラスメイトの女子の家に居候することになった僕の性的いじめ体験。

【愛と冒険のマジックショー】2 注射器を持つエンコ

2024-12-04 23:20:16 | 11.愛と冒険のマジックショー
 自分たちの仕切り内、マジックショーに欠かせない装置であるボックスの保管場所に戻ろうとした僕は、そこに人の気配を感じて、急いで身を引き、腰を落とした。
 そっと仕切りの中を覗く。ひとりの女子がボックスの前に立っていた。きょろきょろと辺りを見回している。僕は小さく、あ、と声を上げた。
 同級生のエンコだった。
 Y美の取り巻きグループのひとりであるエンコは、メライちゃんや僕よりもちょっと背が高いくらいで、グループの中では最も小柄だった。その割に恰幅がよくて、体重は大柄女子のY美やS子を優に超えるというのだから、グループ内ではよく身体的なことでからかわれていた。しかし本人は笑ってこれを聞き流し、むしろY美に気に入られようとしていろいろと尽くすのだった。Y美のためにパンやコーヒー牛乳を買いに行ったりするのは日課だったし、指示命令は迅速にこなした。ちなみにエンコの不在時は、僕が買い出しをさせられた。
 このようなわけでY美はエンコのことをあまりひどくはいじめなかった。S子と一緒にエンコの身体的特徴を冷やかすことはあっても、基本的には可愛がっていた。むしろ、エンコが男子に「おい、チビブス」などと悪口を叩かれ、水をかけられたりすると、いきなり物陰からY美が出てきて、その男子の股間に痛烈な蹴りを見舞うのだった。

 股間を蹴られた男子は、四人がかりで保健室に運ばれた。その日の授業はもう出られそうになかった。僕は彼を保健室に運んだ一人である。
 昼休み、様子伺いの僕に彼はベッドで話してくれた。「Y美の蹴りは、やばかった。あの女は金玉蹴りに慣れてる。ためらいというものがまったくなかった。どこに玉があって、どう蹴ればよいか、すっかり心得ている」
 それはそうだ、と思ったけれど、僕はうまく返事ができなかった。
 うう、と彼が顔をしかめた。「金玉が痛い。痛みがひいてきたと思うと、突然ぶり返すんだよな」
「だいじょうぶ? ちゃんと冷やしてるの?」
「氷がずれたようだ。悪いけど、戻してくれるかな」
 僕は布団の中に手を入れた。布団の中の彼は下半身裸だった。太股の外側にあった氷の入った袋を掴んで、股間に戻す。指先にチリチリと陰毛の感触があった。

 学校から帰ると服を脱いでパンツ一枚にならなければならない僕は、毎日のようにY美に気分次第でいじめられている。ときには粗相をしてしまって罰を受けることもある。
 ある日、僕は草むしりがいい加減だったという理由で、身に着けているたった一枚のパンツを脱ぐように命じられた。
 Y美の見ている前で半べそをかきながら、パンツを脱ぐ。素っ裸になると鴨居に吊され、両足を開いた状態で固定された。
 おちんちんの袋の中の玉を責めた場合、男子はどれくらい痛がるものなのか、Y美は僕の体を使って試した。研究と練習は深夜まで続いた。いつ終わるとも知れない地獄の時間。袋の中の玉を握っては緩め、また握り、少しずつ力を加える。左右の玉を交互に責めて、果ては左右のどちらが痛いかなどと問う。むろんどちらも同じ程度に痛い。
 僕の悲鳴が大きくなったのと夜を遅くなったとの理由で手拭いを噛まされた。おば様が二階に上がってきて、「そろそろ寝なさい」とY美に声を掛けなければ、Y美の玉責めの研究はまだ続いただろう。後ろ手に縛られた手をほどいてもらっても、膝に力が入らず、立てなかった。猿轡にした手拭いが唾液でびっしょりだとY美がぼやくのを聞きながら、その場にうつ伏せに倒れていた。ゆっくりと這うようにして自分の部屋に戻ったのは、午前二時を過ぎてからだ。

 とにかくこんな経験をしているから、Y美が男子の玉を正確に一発で仕留めたと聞いても、格別に驚かないのだった。なにしろ彼女は僕自身のおちんちんを使って研究どころか、指ではじいたり蹴ったりして、責めの練習までこなしている。
 ごめんね、と僕は彼に謝った。「なぜお前が謝るんだ」と訝る彼。自分の意思ではないにしろ、Y美に玉蹴りの経験を積ませてしまったのは僕なのだから、そのことで申し訳ないと思ったのだけれど、うまく説明できない。それで、「いや、なんでもない。痛そうだったから」と適当に茶を濁した。
「お前も蹴られてるんだろ?」
 不意に彼が言った。
「え、なんで?」
「Y美んちに世話になってるお前がやられてないわけないよ。家では制服を脱いでパンツ一丁になんなきゃいけないみたいだし」
「え、な、なんなの、いきなり」
「ごまかすなって」ベッドの彼は力なく笑った。「クラスで噂になってるよ。お前、つくづくかわいそうだよな」
「うん、まあ、そういうルールがあって・・・・・・」
「パンツ一枚での生活か。もしかして、Y美とかも裸なのか?」
「いや、Y美さんは脱がない。普通に服を着てる」
「なんだ、つまらないな。Y美って、結構オッパイとかあるのかな。服の上からだと、そんなあるように見えないけど」
「もうやめようよ、この話。僕は知らないんだから」
「そうか、一緒に暮らしていながら、見たことないのか。ますますかわいそうな奴。いつも自分だけ裸にさせられてな」
 同情されて、僕は言葉に詰まった。
 布団の裾から彼の手が伸びてきて、僕の手をがっしりと握った。
「すべすべして柔らかい手だな。女みたいじゃねえか」
「女の人の手、握ったことあるの?」
「ない。だから、もう少し触らせてくれ」
 彼は僕の手の甲に頬ずりをした。「なんか、気持ちいいよなあ」
 調子に乗らないでほしいと思った。僕は強引に手を引き抜いた。
 彼は残念そうな顔をした。
「でも、おれもかわいそうな奴のひとりだよ。お前の十分の一にも足りないかも知れないけどな。おれはお前を仲間だと思ってる」
「やめてよ。一回蹴られたくらいで大げさな」
 僕はなんだか無性に腹立たしくなって、再び伸びてきた彼の手の甲をパチンと打った。
 僕の反応に驚く彼にくるりと背を向けると、急ぎ足で教室に戻った。

 エンコのことに話を戻す。
 鮮やかな緑のワンピースを着たエンコは、ハンドバックを腕に掛けて、ボックスの扉をあけようとしていた。
「な、何か用かな、エンコさん」
 思い切って物陰から出た。一糸まとわぬ素っ裸の身なので恥ずかしかったけれど、エンコが僕を探しているのは明らかだし、彼女にはもうこれまで何度も裸を見られているから、割り切るしかないと思った。いや、エンコには全裸をしげしげと見られただけでなく、射精させられたことまで何度かあった。
 きっかけはいつもY美の「やってみな、エンコも」の一言だった。エンコは全裸で縛られた僕のおちんちんにまったくなんのためらいも見せずに手を伸ばし、扱いた。「もう無理、だめ、ああ、やめて・・・・・・」僕が精液を放ったあとも、エンコは同じペースで扱き続けるのが常だった。
 射精後も扱き続けられる僕が、もうやめて、無理、放して、と情けない声で訴え、裸身をがくがく震わせるのを見て、Y美たちはいつも爆笑するのだった。Y美を笑わせ、喜ばせることで承認欲求を満たすエンコにとって、同級生のおちんちんに直接手を触れ、扱き、ついには射精させてしまうことなど、なんでもないのだった。
「あらやだ、どこに隠れてたのよ、ナオス君」
「人に見つかったら鷺丸君に怒られるから、隠れてたんだよ」
 僕はおちんちんを手で隠したまま答えた。何度も裸を、それどころか射精の瞬間すら見られている相手であっても、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。エンコは素っ裸の僕を見てもまったく動じなかった。おそらく僕がどんな格好だか、あらかじめ聞いて承知していたのだろう。
「そっか。ナオス君、その格好じゃあ、人に見られたくないよね」
「うん」蔑むようなエンコの視線が僕の剥き出しの肌に刺さって、チクッとする。
「でも会えてよかったよ。じつはさ、わたし、Y美ちゃんに頼まれててさ」
 言いながら、エンコはハンドバッグの中に手を入れた。
「頼まれてた? 何を?」
「これをね」
 ハンドバッグから出したエンコの手に握られていたのは、注射器だった。
 注射器の端に黄色のテープが貼られてあった。
「じょ、冗談だよね?」気づくと僕は後ずさりしていた。自分の目を疑って何度も見直したけど、注射器であることに間違いはないようだ。
「冗談なわけないじゃん。まじだよ」エンコが詰め寄ってきた。
「やめてよ」僕は極力まじめな顔をして、言った。「これから僕、マジックショーに出演しなくちゃいけないんだよ。分かってるでしょ?」
 その注射器は初めて見る物ではなかった。苦い思い出がよみがえる。
 以前、僕はY美にあの注射器で打たれた。おちんちんの根元付近に注射器の針が刺さり、ほどなくおちんちんが熱を帯び、どんどん硬くなった。まったく僕自身の意思とは関係がなかった。何度も射精させられてもう精の尽き果てていたのに、おちんちんは隆々と鎌首をもたげて脈打った。
 あの時の注射器には特にテープは貼られてなかったと思うけど、この黄色のテープ付きの注射器にもおちんちんをむりやり硬くさせる液体が入っている。
 マジックショー出演を控えた今の僕は、何があっても断じて注射器を打たれてはならなかった。もしも打たれたら、勃起した状態でステージに上がることになる。素っ裸で、ただでさえ恥ずかしいのに、自分の意に反して最高度に硬くなったおちんちんをぶらぶら揺らして、舞台上を走り回ることになる。
「そう、ナオス君、マジックショーでテレビに出るんでしょ。だからこそ、これを打って」エンコは注射器の中身を蛍光灯の白い光に透かした。「ちゃんと男の子だってアピールしなくちゃ。そのままだと、ちっちゃすぎてよく分からないでしょ」
 無茶苦茶だった。薄笑いを浮かべるエンコがとんでもない性悪女に見えた。
「お願い、それだけはやめて、やめてください」僕は必死になってお願いした。どうすればエンコが翻意するか、少し考えて、僕はこう頼むことにした。「なんでも言うこと聞くから、エンコさんのしもべになってもいいから」
「何言ってんのよ、ナオス君はすでにY美ちゃんの奴隷じゃないの。わたしのしもべになんか、なれっこないのよ」
「そ、そうだけど」悔しいけど、認めるしかなかった。「でも、エンコさんの言うことで僕にできることなら、なんでもするから」
 エンコが立ち止まり、考える素振りをした。言ってしまった。なんでもするから、なんてあとで絶対に後悔するに決まっている。でも、あの注射針をおちんちんに刺される以上にまずいことはちょっと考えられなかった。
「ほんとになんでも言うこと聞くの?」
「う、うん」僕は緊張に裸身をコチコチにして頷いた。「僕にできることなら」
「じゃあ、おちんちん見せて」
「へ?」
「ナオス君のおちんちんをじっくり見て、触りたいのよ。わたしの言うこと聞くんでしょ。はい、気をつけ」
 僕は素直に従って、エンコにここで会って以来、ずっと隠していたおちんちんから手を外した。
「わあ、久しぶり、おちんちんくん、元気だった?」
 目を輝かせて、エンコが僕の前で膝をつき、丸出しにさせられたおちんちんに話しかけた。それから手でゆっくり皮を戻した。「ナオス君、見栄張っちゃって。剥けてないくせに無理に剥かなくていいのに」
 おちんちんを晒さなくてはならなくなると、手を離す直前、ほとんど無意識のうちに皮を剥いてしまう。その癖を僕はこれまで何度も女子にからかわれてきたけれど、どうしてもやめられないのだった。
「ね、ナオス君、気持ちいい?」
 おちんちんをペタペタ触ったり、袋を揉みしだいたりしながら、エンコが甘ったるい声で訊ねた。こんな風にいじられるのはしょっちゅうだから、特別気持ちいいということはなかった。それよりもエンコの出した条件がこの程度で済んだことで、内心ホッとしたというのが本当のところだ。
「う、うん」エンコの要求がこれ以上エスカレートしないように、彼女の歓心を買うために、気をつけの姿勢を保ったまま、体を多少くねらせ、感じている振りをする。
「そう? その割にちっとも硬くならないね」
 揉む加減をしきり変えながら、エンコが首を傾げた。おちんちんを片手でつまみ、裏側や根元、袋の皺などを矯めつ眇めつする。
「くわえちゃおう」いきなりパクッとおちんちんを口に含んだ。
 ウッ。モワッとした感触が下腹部全体に走る。僕は苦悶に顔をしかめた。のっけから強のモードでおちんちんを吸われる。でも、残念ながらそれほど性的な快感は起こらなかった。おば様は改めてすごいと思った。おば様に舌で舐められ、吸われると、たちまち性的な快感のさざ波が寄せてきた。舌を絶妙な加減でおちんちんに絡ませる。エンコの場合は、ただ痛いような、くすぐったいような感触だけで、少しも性的感興は高まらない。
「なんか、変な味」
 ペッ、とおちんちんを吐き出すようにして、エンコが言った。僕がこれといった反応を示さないから、つまらなかったのかもしれない。この調子でいけば、ほどなくエンコは男子の体への興味をなくすかもしれない。うん、性的ないじめを最小限に抑えるには、やっぱり感じないでいるにかぎる。万が一感じてしまったとしても感じない振りをして凌ごうと思った。しかし案に相違して、エンコはいくら僕が不感症の殻に閉じこもっても、いっかなおちんちんいじり、袋いじりをやめなかった。
 ここにはY美がいない。エンコと僕のふたりっきりだ。考えてみると、エンコにとって性的な事柄、男子の体に関する好奇心を存分に満たすことのできる、またとない機会なのだった。もしもY美たちと一緒だったら、エンコは皆を喜ばせるのに忙しくなって、自分の性的好奇心を満たすのは二の次になるだろう。今こそ誰にも気兼ねなく男の子の体をいじられる。僕が感じようが感じまいが、そんなことは大して重要ではないのかもしれない。
「ね、もっといろいろなところ、触ってもいい?」
 エンコの嬉しそうな顔から僕は急いで目を逸らし、「うん」と答えた。もう勝手にしてという気持ちだった。あの恐ろしい注射を打たれずに済むのなら、あちこち触られることなど、なんでもないと思った。
「手を頭の後ろで組んでみて」
「な、なんで?」
「いいから」
 僕は素直に従うことにした。すでに気をつけの姿勢でおちんちんを丸出しにしていたから、姿勢を変えて新たに露わになる部分は、脇の下だった。エンコは僕の脇の下に鼻を近づけ、クンクンと鳴らし、息を吸った。
 濡れた柔らかい物が脇の下をくすぐった。
「舐めちゃった、ヒヒ」と照れ笑いしながら、エンコが言った。それからもう一度、今度は反対の脇の下を舐めた。
「青白くて、すてき。大人になっても毛が生えないといいね」
 どうも僕の体を気に入ってくれたらしい。気に入ったらその体を、体の持ち主である僕の意思とは関係なく、自由に扱える権限が自分にはあると宣言するかのように、エンコは僕のお尻を分厚い手のひらで揉みしだいた。

 四つん這いにさせられた。
 どうして女子は僕の排泄器官を見たがるのだろう。お尻の穴に視線を感じる。
 エンコがじっと見ている。やがてお尻に手をかけ、指でまさぐりながら、お尻の穴をこじ開けた。
「やっぱりY美ちゃんたちにいろいろ入れられてるだけあって、ずいぶん柔らかくなってるね。ほら、こんなにお尻の穴が開くよ」
「い、痛いよ。もう少し優しくして」
「そうなの?」エンコが半信半疑の声を出した。「なんかヒクヒクしてて、あんまし痛そうじゃないよ」
 アヒィッ・・・・・・。挿入した二本の指をお尻の中で広げようとしている。僕は背中を弓なりに反らせて、呻いた。
「痛いよ、やめて」
「そっか、ほんとに痛いんだね。ごめん、やめるよ」 
 やっと指を抜いてくれた。パチンとお尻の締まる音がした。 
 次にはブリッジの姿勢を取らされた。おちんちんを大きくする注射器を打たれないためには、エンコの言うなりになるしかない。
「ねえ、もう少しお尻を上げられるかな」
 ほんのりと赤いエンコの顔を逆さに見ながら、僕は指示どおりお尻を天井に向けて突き上げた。アウウッ。エンコにおちんちんをいじられて、僕は恥ずかしながら喜悦の声を上げてしまった。

 倉庫の中は、いつも誰かしら人が出入りしていた。舞台道具を運び出したり、戻したりする物音や運搬スタッフの声がほとんど絶えることなく聞こえる。
 エンコと僕は四方を衝立に仕切られた空間の中にいるので、誰かがこちらに迷い込んでこないかぎり、とりあえず人に見られる心配はない。
 マジックショーで使用する唯一の舞台道具である四角錐の縦型ボックスの横で、僕は素っ裸のまま、いろいろと犬のポーズを取らされていた。「おて」や「チンチン」の所作を何度か繰り返すと、エンコは立ち上がって、「じゃ、ちょっとお散歩しようか」と言った。
 仕切りの外に出るのはまずい。今の僕は、絶対に人に見つかってはならなかった。一糸まとわぬ格好でいるというのもそうだけど、裸でいるところを人に見られると、鷺丸君の発案した一大マジックの種明かしになってしまう。
 それでもエンコは僕の反対を押し切って、僕の首にビニール紐を巻き付けると、それを手綱にして引っ張った。
「膝はつかないでほしいの。ねえ、伸ばして、そう、そう。お尻をうんと高く上げてね。いい感じだよ」
 口調は優しいけど、要求していることは厳しい。エンコは手綱を引き引き、通路に面した出入り口とは反対の奥側から仕切りの外に出た。
 仕切りの奥側からであれば、道具類を運搬する人たちに目撃される心配は少ない。ただよその仕切りを通り抜けていくので、その仕切り内に人がいたらアウトだ。
 発明コンテストの出品物が並ぶ仕切りの中に入る。さきほどの女性スタッフの姿はなく、無人だった。そこに置かれた奇抜な品々にエンコは目を留めるでもなく、通り過ぎる。原色のけばけばしいドレスがたくさん吊された仕切りも抜けて、次の仕切りに入る。そこは長机と椅子がいくつかと、大きな鏡があるだけの、物置というよりは事務所のような空間だった。そこもほかの仕切りと同様に無人だったけれど、衝立の向こうから若々しい女の人たちの話し声が聞こえた。隣の仕切りにいるようだった。
 人に見つかってはいけないというルールをエンコも承知しているから、当然ここで引き返すだろうと思った。しかしエンコにその気はなかった。話し声のする仕切りへ一歩二歩と近づく。「や、やめて」極めて小さい声で、それでも口を大きく動かして、なんとか踏みとどまろうとするも、僕の首に掛けられたビニール紐がぐいと引っ張られた。
 お尻を高々と上げた四つん這いの僕を見下ろして、エンコは小さく微笑んだ。腰を落とし、僕と目の高さを合わせると、そっと耳に口を近づけてきた。
「ねえ、お願いがあるんだ。最後のお願い。言うとおりにしてくれたら、注射は絶対に打たないんだけど」
 そして、僕の首からビニール紐を外した。

「こんにちは、皆さん、お久しぶり」
 明るく挨拶しながら、エンコは仕切りの中に入った。テーブルを囲んでおやつを楽しんでいた六人の女の人たちがいっせいにギョッとした顔をした。
「わあ、エ、エンコ・・・・・・。あんた、いったい・・・・・・」
 彼女たちが驚くのも当然だった。エンコのすぐ後ろを、素っ裸の僕が四つん這いでお尻を高く上げて入ってきたのだから。
「あ、これね。紹介するわ」
 エンコは僕のほうを振り向いて、目配せで起立を命じた。立ち上がると、四つん這いの時以上に恥ずかしさがこみ上げてきた。おちんちんを両手で隠しているのに、剥き出しの肌に注がれる女子たちの視線が痛くて、ろくに顔を上げられない。
「わたしの彼氏、ナオスくん」
 エンコが僕を紹介する。僕は俯いたまま軽く頭を下げた。
 六人の女子はチアダンスのメンバーで、青と白の縦縞タンクトップとフリル付きの真っ赤なショートパンツというユニフォームを揃って身に着けていた。彼女たちの仰天ぶりは尋常一様ではなかった。
「エ、エンコ、あんた、彼氏できたんだ。でも、なんで彼氏、裸なの?」
 裏返った声で問うひとりに、エンコは余裕の笑みを浮かべて返した。
「彼、まもなくステージに上がるからね。全裸が彼の舞台衣装なんだよ」
 チアダンスのメンバーたちは、納得した様子だった。こんなにあっさり事情を飲み込むのは意外に思われたけれど、もしかすると、マジックショーに裸の男子が出るという噂を聞き知っていたのかもしれない。
 メンバーたちから次々と発せられる質問にエンコは淀みなく答えた。全員、隣町の中学生だからばれないと思ったのだろうか、エンコは嘘八百を並べ立てた。
 チアダンスのメンバーとエンコのやり取りから、僕はだいたい次のことを察した。ここにいる六人の女子は学校活動とは関係のないチアダンスチームに所属しており、彼女たちとは異なる中学校に通うエンコも、かつては同じチームのメンバーだった。
 肥満の体型を変えようとしてチアダンスを始めたエンコは、とりあえず専門のクラブチームに入ることにした。そこまではよかったけど、どういったクラブチームに所属するべきか、その選択を誤った。エンコが選んだクラブチームは専門的にすぎたのだ。たちまち彼女はその緩慢な身のこなし、ぶよぶよしてろくに上がらない足を仲間たちからばかにされ、疎んじられるようになった。おそらく陰湿ないじめも受けたことと思われる。それでとうとうチームを脱会してしまった。
 衝立の向こうにかつてのチームメイトがいると知ったエンコは、僕という彼氏ができたということにして、彼女たちを見返してやろうと思ったのだろう。メンバーの六人は、いずれも細身で、いかにも男性に好かれそうな顔立ちだったけれど、彼氏のいる者はひとりもいないとのことだった。ダンスの練習に忙しくて彼氏を作っている暇がないらしい。
 エンコは得意顔だった。どうなの、あなたたち、切れのあるダンスができてご自慢でしょうけど、彼氏いるのかしら。いないわよね。でもわたしにはいるの。さんざんわたしをばかにしたくせに、わたしに先越されてるのよ。さぞかし悔しいでしょうね。
 そう暗に伝えるかのような、鼻にかかった物言いをした。しかしエンコがどう思おうと、メンバーたちはエンコの優位を微塵も認めていないようだった。それはエンコどころか、その彼氏とされている僕にまで侮蔑的な態度で接していることからも、はっきり感じられた。
「ねえ、エンコの彼氏くん。きみ、どうせ素っ裸なんだから、おちんちん隠してばかりいないで、ちょっとは見せてよ」
 こんなふうに冷やかされると、顔を赤くして黙ってしまう僕に代わってエンコがいきり立った。「だめだよ。ナオスくんのおちんちんはわたしだけが見て、触るんだから、関係のないあなたたちには見せないよ。お尻ならいいけど」
 そう言ってエンコは僕の両肩に手を当てると、くるりと後ろ向きにした。さっそくお尻を複数の手が揉みにくる。柔らかい、プリプリしてるね、とチアダンス女子たちが声を上げるなか、またしてもエンコの抗議。
「見るだけにしてよ。触っていいなんて言ってないでしょ」
 本当に僕がエンコの彼氏なのか、疑いの念を捨てきれないメンバーのひとりが、エンコと僕に自分たちの前でキスすることを求めた。すると、ほかのメンバーも大いにおもしろがった。本当に付き合っているのならできるはずでしょ、という理屈で僕にエンコへのキスを強要する。
 最初は恥ずかしがっていたエンコだったけれど、すぐに覚悟を決めて、薄く目を閉じ、唇をそっと突き出した。太くて、ぬめぬめしたなめくじみたいな唇が蛍光灯の光を返して白っぽく見えた。まるで唇がエンコの顔を離れて飛び出してきたみたい。僕はもうエンコの唇に自分の唇をくっ付けざるを得なくなった。もし断れば、エンコと僕は付き合っていないという事実を認めることになって、結局僕はエンコとの約束不履行により、勃起させる注射をおちんちんに打たれてしまう羽目になる。
 それを回避するには、気持ち悪くても我慢して、エンコの求めに応じてキスをするしかない。何一瞬のことだ。僕は目をつむり、自分の唇をエンコのそれに重ねた。プチュッと、水分たっぷりのぶよぶよした物体が音を立てた。
 ふう、なんとかキスを終えた。ところが、チアダンスのユニフォームを着た女子たちは納得しなかった。僕の生理的な嫌悪を抑えたキスを少しも心が籠もっていない、こんなキスでは女の子は喜ばないと罵倒し始め、本当に付き合っているのか、ふたりが恋人どうしなのかますます分からなくなった、と難じた。エンコがふたりは心の底から互いを好きなのだと恥ずかしげもなくのろけてしまったものだから、チアダンス女子たちは、キスすることで生理的な反応があるはずだと思い込んでいた。そこでもう一度、今度はおちんちんを隠さないでキスしなさいよ、と僕に命じるのだった。
 ちょっと待って。その理屈、飛躍がある。
 本当に好きどうしならキスによる生理的な反応があるだって? まあいいや、百歩譲ってこれを認めたとして、その生理的な反応をおちんちんだけに見ようとするのは、おかしいんじゃないか。顔が赤くなるとか、呼吸が乱れるとか、脈が速くなるとか、もっといろいろな現象もあるのに、なにゆえにおちんちんだけに生理的な現象を見ようとするのか。
「ばっかじゃない。そんなの当たり前じゃん」
 チアダンス女子たちは僕の反論を一蹴した。
「わかりやすくて、誰の目にも明らかで、手間がかからないでしょ。女子と違って男の子は単純なんだよー。あきらめて、おちんちんを見せなさいよ」
 いやだった。何よりも服を着た女子たちに、まるで正当性の感じられない、彼女たちの側の一方的な理由によっておちんちんを晒すのは、非常な抵抗を覚える。これまで何百回と経験してきたけど、こういうシチュエーションはどうしても慣れない。
「そうか、そういう理由なら、ナオスくん、おちんちん、恥ずかしいけど、出しちゃうしかないかもね」
 頼みの綱のエンコまで譲歩の姿勢を見せた。エンコはすぐに僕の恨みがましい上目遣いの視線に気づき、「わたしだって自分の彼氏のおちんちんを、ほかの女子にしげしげと見られるのはおもしろくないよ。だけど、わたしたちがほんとに付き合ってるって証明するためだと思えば、我慢するしかないじゃん」と、いくぶんかムキになって弁解する。
 その弁解は半分命令のようなものだった。従わないと、おちんちんに注射されることを意味する。
「やだな」と僕。
「いいから早く」エンコが強い口調で促す。もう一度キスすることになって、もしかして彼女は期待に胸を膨らませているのだろうか。
 僕は観念して、おちんちんを覆っていた手を脇へ動かした。
「やだ、ちっちゃい」
 プッ、と吹き出すチアダンス女子たち。
「しかもツルツルだし」
「でも、一応、いっちょ前に皮は剥けてるんだね」人差し指の先っぽをおちんちんに接触するほど近づけて、指摘する。
「いや、剥けてないね。この子、手ェどかす前に剥いたよ」
「え、マジで?」
 笑われたくない一心で開帳前につい剥いてしまった。チアダンス女子たちの侮蔑をたっぷり含んだ笑いが肌に刺さってくる。エンコまでうつむき、笑いをこらえて肩を震わせている。エンコはさきほども僕のこの癖に気づいた。
「ちゃんとありのままを見せなさいよ」
 意味が分からず呆然とする僕にそのチアダンス女子は呆れ、フッと横を向いて息をつくと、もう一度僕の目を見据えて、威嚇した。
「皮を元に戻しなさいって言ってるんだよ」
 泣きたくなった。チアダンスの女子たちに囲まれて、素っ裸の僕に逃げ場がないのは明らかだった。それにしても、女子たちの見ている前でおちんちんの皮を戻すのは、ひどく恥ずかしい。
 ためらっていると、
「早くしなさい」と一喝。うんと年上の女性のような貫禄だった。
 僕はおちんちんに手を戻すと、そっと皮を引いた。
「そうそう。これがこの子の通常のチンチンだよ。情けないよね」
 女子たちはやっと納得した。
 皮被りのおちんちんを丸出しにしたまま、もう一度エンコと唇を重ねる。
 二回目のキスではエンコがより積極的に唇を押しつけてきた。ぬるぬると太くて厚い舌が入ってきて、僕の舌に絡みつこうとした。僕は慌てて舌を引っ込めた。エンコの舌の動きはおば様のそれとは比較にならず、寝そべるマグロのようで、ただ疎ましく感じられるだけだった。
 そして、残念ながら、まあ当然だけど、おちんちんには何の生理的反応も見られなかった。チアダンス女子たちはただ僕の恥ずかしいおちんちんだけを凝視した。

 チアメンバーの女子たちは、エンコと全裸の僕を並べて正座させた。ふたりが本当に彼氏彼女の仲なのか、問いただすためだ。質問にはおもにエンコが答えた。僕はそれに印を押すように「はい」「はい」と続けていく。
 だんだんエンコは言葉に詰まるようになった。無理に言葉を紡いで、つじつまが合わなくなることも増えてきた。そうなると、代わりに僕が答えることになる。しかし僕にうまく取り繕う回答なぞ、できるはずもない。たちまちチアダンス女子たちの怒りを買い、「しっかりしなさいよ」「テキトーなことばっか抜かして」と叱られて、背中や脇腹をいやというほど叩かれるのだった。
 チアダンス女子たちはエンコにたいして、いっそうぞんざいな口をきくようになった。エンコがチアダンスチームに所属していた頃の、エンコにとっては黒歴史の関係性が復活したと言ってよい。彼氏ができたという優位を示して、かつての関係性を変容させようとするエンコの試みは見事に失敗した。肝心の彼氏が僕、しかも全裸という情けない格好、男子として未成熟な肉体を丸出しにしているとあっては、なんのステータスにもならないのは必至だった。チアダンス女子たちにしてみれば、いじめの口実を無条件で与えられたようなものだ。
 持ち物検査と称してエンコのハンドバッグの中身がぶちまけられた。エンコと僕は未だに正座させられたままだった。ハンドバッグの中身でチアダンス女子たちの目を引いたのは、もちろん注射器である。普通の中学生はこういう物は持ち歩かない。
 注射器は二つあった。二本は端に貼ったシールで区別されていた。さっき見た黄色いテープと、もう一つは赤いテープが貼られてあった。
 これはいったい何か、なぜこれがハンドバッグの中にあるのか、問われてもエンコはだんまりを続けた。「早く言えよ、この豚がッ」頭髪を掴まれ、エンコは沈黙を破った。「注射器、です・・・・・・」見れば誰でも分かることを言った。
「てめえ、舐めてんのか」
 チアダンス女子たちに力いっぱい横面を張られ、とうとうエンコは明かした。
 おちんちんを大きくさせる薬剤の入った注射器と聞いて、チアダンス女子たちはこれを試さずにはいられなくなった。
「やめて、注射しない条件としてわたしの言うことをきくって約束して、ナオスくんは約束を守ってくれたんだよ。だから注射打ったらだめなの」
 エンコが涙声で訴えた。
「へえ、どんな約束したのよ」
 チアダンス女子に正座中の太股を踏まれたエンコは、問われるまま答えた。洗いざらい、すべてを話してしまった。いじめっ子の女子たちは腹をかかえて笑った。
「逃げて、ナオス君、逃げて」
 エンコが悲痛な声で叫んだ。その途端、エンコは床におでこを押しつけられた。
 立ち上がって、衝立の隙間に向かって走り出したものの、すぐに行く手を阻まれた。「オールヌードの彼氏くん、そんな格好でどこへ逃げられると思ってんのよ」と馬鹿にされる。
 たちまち僕は取り押さえられ、仰向けに倒れた。どっと集まってきたチアダンス女子たちに大の字に押さえつけられる。どんなに力を込めても手足を少しも動かせない。
 注射をおちんちんのどこに打つのか、チアダンス女子たちは誰も知らない。おちんちんの袋を持ち上げ、袋を手で押さえながら、肛門とおちんちんの根元の間の何もないゾーンの肌を伸ばして、「ここでいいの?」とエンコに訊ねた。「違う」とエンコが言った。
 次には玉の入った袋をいじくり回された。袋の皺を伸ばして、「ここ?」と注射器を片手に訊ねる。「そこじゃない」とエンコが言った。
「痛いッ」
 玉を圧せられて、僕は悲鳴を上げた。チアダンス女子たちはよってたかって袋を揉んで、その感触を楽しむのだった。
 手足の自由がまったく利かないので、僕にできる抵抗は叫ぶことくらいだった。しかしそれすらも猿轡で封じられた。手拭いを噛まされ、手拭いで作った大きなコブが口の中に入って動物めいた呻きした発せられなくなった。
 ングググッ・・・・・・。おちんちんの皮を剥かれた。すっかり露出した亀頭をぺたぺた触られる。尿道口がパクッと開いた。
「ここでいいの?」
 ヒギィィ。亀頭に痛みが走った。注射針がかすったようだ。チアダンス女子は黄色いシールの貼られた注射器を持ち直した。
「いや、そこじゃ・・・・・・」
「じゃあ、ここ?」
 手で押さえる位置が尿道口からその下の、精液の出口に移った。ムグググッ。僕はいまいましい猿轡を噛みながら首を横に振った。「そこも、違うったら」とエンコのもどかしげな声が聞こえた。
 せーの、という掛け声とともに体をひっくり返された。うつ伏せでやはり大の字に押さえ込まれる。複数の手が僕のお尻の割れ目に入ってきた。ウグッ。お尻の穴を広げられた。
「もしかして、こっちに打つの?」
 クスクス笑いながらエンコに質す。おちんちんを硬くさせる注射だから、そんなところに打つはずがない。チアダンス女子たちはそれを百も承知で楽しむのだった。
 せっかくの機会だからと、おちんちんやおちんちんの袋を見て触るだけでは飽き足らず、お尻の穴の皺や広がり具合まで調べ始めた。
「違うよ。おちんちんの根元近く」
 たまりかねてエンコが叫んだ。
 僕は再び体をひっくり返され、仰向けになった。エンコが直接示すことになって、おちんちんをつまんだ。軽く引っ張って、根元に近い部分を指先で突いた。
「この辺りだよ。引っ張った状態にして、打つの」
「分かった。あんたは見てて」
 おちんちんをつまむ手がエンコからチアダンス女子に代わった。別のチアダンス女子が注射器を持ってかがみ込んだ。
 ウグッグググッ。猿轡のおかげで「やめて、お願いだからやめて」と言えない僕は、首を左右に振りながら、哀訴の思いを込めた声を発するしかなかった。
 ああ、注射を打たれてしまう。打たれたらマジックショーの舞台に、おちんちんを大きくした状態で出なければならなくなる。
 ツンと上向きになったおちんちんをたくさんの観客に見られてしまう。テレビにもバッチリ映ってしまう。
 チクッ。おちんちんの根元近くに針の刺さる痛みが走った。ついに打たれてしまった。じわじわと液体が注入されていく。一所懸命練習してきたマジックショーのステージは、とんでもないことになるだろう。
 僕の目尻から涙が一筋こぼれた。

 暗い箱の中で、素っ裸の僕は自分の出番を待っていた。
 まもなくメライちゃんがこの縦型の四角い箱の中に滑り込んでくる。そうしたら僕は同じ回転扉でステージへ飛び出す。
 腰を下ろすこともできない狭い箱の中で、立ったまま深呼吸する。落ち着いて、落ち着いて、と自分に言い聞かせる。 
 取り押さえられ、むりやり注射を打たれてしまったおちんちんは、熱っぽく、なんとなく厚ぼったく感じられる。小さく縮んで、皮を被って、今の僕自身のようにビクビクして待機している。
 本番直前、おちんちんに注射されて、絶望に打ちひしがれる僕をエンコは慰めた。久しぶりに会ったチアダンス女子たちを見返してやろうとして失敗し、逆にいじめられ、おでこから血を流すほどの暴力を振るわれたエンコ。彼女もまたひどくショックを受けたかと思うけれど、気丈に振る舞い、僕には最後まで優しく付き添ってくれた。
 なぜ勃起させる注射器なんかを持ってきたのか、エンコの話によると、すべてはY美の指示だった。
 マジックショーのステージで勃起させるのがY美の狙いだった。千人を超える観客が控えているのみならず、テレビ中継までされる舞台で、素っ裸の身を晒す。それだけでも大変な勇気と覚悟が必要なのに、Y美はさらに勃起させることまで企てた。
 まったくおそろしい。Y美の嗜虐心は、僕をただ全裸で見世物にするだけでは満たされず、勃起させることまで求めるのだった。これはかなり早い段階から、計画されたものだと思う。思い当たる節があった。
 ステージ本番の一週間以上前から、Y美は僕を射精させないようにしてきた。これまではおちんちん嬲りのあとは大抵射精させられたものだし、もう無理、出ない、と涙ながらに訴えても、さまざまな手を使って僕の体から精液を搾り取ったものだけれど、寸止めばかりするようになった。
 基本的に僕はY美か、その母親であるおば様など、誰かしらの許可がなくては射精できない。こっそりひとりで射精するのは厳禁だった。もし見つかったら気を失うまで折檻されるに違いない。だからY美が僕の性的快感を面白半分に高めたとしても、射精直前で不意にどこかへ出かけてしまったら、もうそれで終わりなのだった。僕は荒い呼吸を自ら鎮め、高められた欲求が退いていくのをひたすら待つしかなかった。
 Y美としてはずっと寸止めを続け、射精させない状態で僕を本番の舞台に立たせるつもりだったのだろう。全然射精させてもらえず、もう出したくてたまらなくなっていると、おちんちんをちょこっと触られた程度で勃起してしまう。
 このマジックショーでは、回転扉でメライちゃんと入れ替わる際、おちんちんが必ず何かに当たった。ボックスのどこかにおちんちんがこすれてしまったり、メライちゃんの体の一部にぶつかったりした。太股やピチピチのスクール水着に包まれたお尻、手に接触すると、極めてわずかな時間とはいえ、ピクッと甘い電流が流れてきた。
 Y美はそのことを、練習時の僕の一瞬の表情の変化などで見抜いていたようだ。
 精液を何日も出さないでいると、この電流に似た刺激を受けるだけでおちんちんは反応してしまう。しかもそうした刺激をボックスに出入りするたびに受けるのだから、仕舞いにはステージ上で勃起するというハプニングになるのは自然の道理だった。
 まさにこれこそY美の企んだことだった。どんなに僕が自分の気持ちを律しようとしところで、寸止め射精禁止によって高められた欲情による生理的な反応は、絶対にコントロールできない。不覚にもステージ上で勃起してしまい、大笑いするY美の姿が目に浮かぶ。
 ところが本番の前日、最後の練習を終えようとした頃、Y美にとって予期しない出来事が起こった。ルコがメライちゃんに僕のおちんちんを面白がって扱かせたのである。
 八日間も射精のお預けをくらっていた僕は、感じまいとして渾身の力を込めて我慢した。しかし限界だった。「やめて、出ちゃうから、やめて」と切実にお願いしたにもかかわらず、メライちゃんはおちんちんを摘まんで前後に動かす往復運動をとめてくれなかった。まあ、メライちゃんもルコの命令で扱いていたのだから、独断では停止できなかったのだろう。とうとう僕はY美の許可なく、溜まりに溜まった精液をどっと放出してしまった。
 怒髪天を衝く形相になったY美を僕は忘れられない。怒りの矛先はメライちゃんではなく、メライちゃんにおちんちんを扱かせたルコに向かった。Y美に制裁され、ルコは子供のように泣きじゃくった。
 Y美の気はなかなか晴れなかった。本番前に射精させてしまったことで、計画が台無しになったのだ。そんなに簡単に苛々は収まらない。もうどうせ自然の勃起は望むべくもない、という諦めがY美にやけっぱちな行動を起こさせた。Y美は僕を無許可射精の罰として連続射精の刑に処した。結局僕はこの日、八回も射精させられた。
 前日に八回も射精させられたら、翌日のおちんちんはフニャフニャになる。しかしそれで諦めるY美ではなかった。欲情と刺激をもって勃起させるのが難しければ、薬剤を使うまでと考え、美容関連の医療に従事する母親をもつエンコに、こっそり勃起させる注射を持ってくるように伝えた。以前、僕はその注射を打たれ、素っ裸で、あまつさえおちんちんを硬くして、野外を歩かされた。思い出したくない屈辱の記憶だ。
 本番直前の僕に注射して、ステージ上で勃起させるというY美の企てを聞いたエンコは、さすがにその残酷さにぞっとしたらしい。しかし命令に背くと、どんなひどい目に遭わされるか知れたものではない。幸い現場にY美の姿はなかった。注射しないのを条件にして僕の体をいろいろ見ていじらせてもらうことにしたという。
 そこまでは、まあ、よかった。でも、そこで終わりにするべきだった。エンコがかつてのチームメイト、チアダンス女子たちに僕を彼氏として紹介したのは、やり過ぎだった。結局、チアダンス女子たちの手で僕は、あの忌まわしい注射を打たれてしまったのだから。
 注射された僕を見下ろしながら、チアダンス女子たちは「エンコ。あんたの真っ裸の彼氏、注射打たれて泣いてるよ」「注射で泣くなんて幼稚園児みたいだね」と、嘲笑した。

 しゃくり上げながら、自分たちの仕切りに戻ると、エンコは意外な事実を打ち明けた。
「あの注射器ね、黄色いシールの貼ってあるものとは別に、赤いシールを貼った注射器もあったでしょ。わたし、ふたつ持ってきてたの」
 そう言ってエンコは、ハンドバッグからふたつの注射器を出した。
「黄色いシールのほうは中身が食塩水で、無害だよ。おちんちんを硬くする液体が入ってるのは、こっちの赤いシールのほうなんだ。さっきナオス君が打たれちゃったのは、どっちだと思う?」
「わかんない。見てなかったし」
「黄色いシールのほうだよ」
「ほんとに?」
「ほんとだよ。だから、ステージでナオス君のおちんちんが大きくなることはないよ」
 思わずエンコの顔を見る。エンコははにかむように顔を伏せた。僕はエンコを抱きしめたくなった。そういえば、最初にエンコが僕に打とうとした注射器も、黄色いシールのほうだった。
「いくらY美ちゃんの命令でも、さすがに本番直前のナオス君に勃起する注射を打つのは、ひどすぎるって思ったんだ」
 エンコによると、本物の薬液を入れた注射器とは別に、Y美の目をごまかせる場合に備えて、もう一本、ただの食塩水を入れた注射器も用意しておいたという。幸い、Y美はケンカで負傷して、今日の夏祭りに来れなくなった。だから、勃起する薬液の入った赤いシールの注射器は、最初から使用しないつもりだったそうだ。
 なぜそんなに優しくしてくれたのだろう。エンコはその理由を次のように語った。
「この前、ナオスくん、Y美ちゃんたちに注射を打たれて、勃起状態で公道を引き回されたでしょ。あれ、ほんとにかわいそうだった。女の子たちばかりか、男の人たちにまで思いっきり馬鹿にされて。わたしがもし男の子で、あんな目に遭ったら、たぶんもう生きていけないくらいのショックを受けたと思う」
 思い出したくない過去でじりじりと身が焦がれる。
「でも、ナオス君、打たれたのが黄色いシールの注射器でほんとによかったね。二分の一の確率だったんだよ」
 もしチアダンス女子たちが赤いシールのほうの注射器を手に取っていたら、と思うとゾッとする。僕は勃起した状態でマジックショーに出ることになっていた。
「ま、安心しなよ。ステージで勃起することは絶対にないから。ちっちゃい、皮被りのまま、見世物になってね」
 そう言うと、エンコは僕のおちんちんの皮を引っ張り出して亀頭を包み、ツルンと袋を撫でて、立ち去った。
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3 コメント

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Unknown (Gio)
2024-12-05 18:03:10
更新お疲れ様です。
これまでいじめグループの目立たない一人だったエンコの人柄が深掘りされてナオス君のために取り入ってるY美の指示に逆らったり、彼氏に仕立てたりと意外な気骨や人間味があって登場人物の一人として再認識しました。案外ナオス君が抱き締めたら喜んでたかもしれませんね。
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Unknown (M.B.O)
2024-12-07 23:48:39
 エンコの可哀想な境遇にはなんとも言えない部分はあるのですが…ナオスくんのいじめに加担してしまったことは紛れもない事実ですよね。
 これからエンコがY美とどう関わっていくのか難しいところです。
返信する
Unknown (naosu)
2024-12-13 00:24:45
Gio様
エンコのこと、よく読んでくださってありがとうございます。大変嬉しいです。

M.B.O様
ありがとうございます。そのつもりがなくてもいじめに加担してしまうことってありますよね。
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