登校前に素っ裸のまま家の外に出され、Y美によって強制的に射精させられた僕は、しばし立ち上がることができないほどのショックを受けていた。1回目に続いて、またしてもY美とおば様に射精の瞬間を見られたのだった。
籠の中の服を取り出し、緩慢な動作で着込む。学校に着いた時は一時間目の授業が始まるところだった。職員室で生徒手帳に遅刻スタンプを押印された。これが3つ溜まると、放課後の奉仕活動に強制的に参加させられる。僕はこれが1つ目のスタンプだった。僕の遅刻が今回初めてだったことと、僕の顔色が優れないことを理由に、風紀委員の先生は、遅刻の理由を厳しく追求しなかった。気分が悪いのなら保健室で休むように勧めてくれるのだった。僕は「平気です」とだけ答え、教室に向かった。
学校ではいつも通りの時間が流れていた。クラスメイトがいて、先生がいて、笑ったり、話し合ったり、ふざけたりする。普通の中学一年生として、この学校に居場所を与えられているのは、有り難いことだった。僕は内気な性格で、あまりクラスメイトと話をするほうではなかったが、Y美の目を意識するようになってから、ますますその傾向が強くなった。授業中に発言する際なども、意識はいつもY美に向いていた。それは恐怖の対象に他ならなかったからで、僕の発表にみなが感心をしても、Y美ひとりだけがくすくす笑ったりしていると、たちまち赤面して、さっきまでの自信が揺らぐのだった。
クラスにはもう一人、僕が意識する女子生徒がいた。恐怖の対象とは正反対の存在であるメライちゃんは、ショートカットの目がくりくりした女の子で、気性のしっかりした利発な子だった。クラスの女子の中で一番小柄で、僕と同じくらいの背丈だった。Y美が僕とメライちゃんを双子のようだと言ったことがある。
メライちゃんは中学になってからこの地に引っ越してきたので、初め、クラスに馴染もうとする積極的な努力を人一倍していた。よそから来た者には冷たい土地柄で、彼女の努力が空回りして、女子の中でもぽつんと一人でいる光景を目にすることが多くなった。
六月に入ってから、メライちゃんはもう以前のような仲良しを作ろうとする振る舞いは控えるようになった。休み時間は図書室に行き、一人で読書していた。僕は同級生たちと他愛のない話をするのがしんどくなったり、その話の内容があまりに幼稚で耳を傾けているのか苦痛になったりすると、図書室に足を運んだ。最近では、メライちゃんに会うのが目的で図書室通いをしているほどだ。僕たちはいつのまにか、普通に話し合う友だち関係になっていた。
「なおす君さ、家では普段、どんなテレビを見てるの?」
「普通の四角いテレビ」
「え、やだな。そうじゃなくて番組だよ」
腹を抱えて笑いながら、メライちゃんが僕の肩を叩く。僕がY美のお供で見ているドラマ名を挙げると、メライちゃんは、ひどく驚いていた。
「意外だなあ。なおす君て女の子がみるようなドラマが好きなんだね。私はそういうの、あんまり見ないんだけどさ」
メライちゃんは旅行番組が好きだと言った。
「え、なんで笑うの。爺くさいって? 嘘、そんなことないよ。楽しいよ。旅行に行きたくても行けないんだから、せめてテレビで見てね。あ、寂しいか、やっぱり」
自分で突っ込みを入れて、メライちゃんは少し真顔になってから笑った。
もともと一人でいることが好きな僕と違って、メライちゃんは仲良しができれば仲良しと一緒に過ごす時間も大切にするのだった。メライちゃんには僕のほかにも図書室でよく顔を合わす図書室つながりができて、そのうちの何人かと仲良しになったのだった。
明るい笑顔で、大きな目をくりくりさせながら廊下を歩いているメライちゃんを見て、僕は密かに胸をときめかすのだった。
僕の精液を入れた瓶を、Y美は仲のよい友だちに見せると言っていた。僕の知らない処でこっそり見せたのだろうか。Y美がその瓶をクラスみんなの前で掲げるのではないかと不安で、僕はずっと落ち着かない気分だった。僕と目が合っても、これといった素振りは見せなかった。
そのY美が昼休みになって、突然メライちゃんを呼んでいる。この二人は仲のよい間柄ではない。メライちゃんが一時期クラスで浮いた存在になったのも、Y美の工作によるところが大きいとのことだった。Y美がメライちゃんと僕を双子のようだと評したのは、メライちゃんに対する悪口だった。僕と同じくらいの背丈で、胸の平らなところまでそっくりだと言って、メライちゃんをからかうのだった。
メライちゃんは目をぱちくりさせながらY美の席に近づいた。
机の中から例の瓶を取り出したY美は、匙で僕の精液を掬うと、メライちゃんの目の前に差し出した。
「これ、美容にいいゼリーなの。良かったら一口すすってみて」
「なあに、これ。なんか変なにおいがする」
「いいから、一口飲み込んでみなよ。たんぱく質が豊富で美容にいいんだって」
匙をメライちゃんの口元まで運び、「一口でいいから」と、勧めている。僕は恥ずかしさで顔じゅう真っ赤になってうつむいていた。メライちゃんに飲ませるわけにはいかないが、止めに入ったら、あとでY美の報復が恐ろしい。しかし、メライちゃんが飲むのを黙って見過ごすのも、忍びない。メライちゃんが自分の意志できっぱり断ってくれればよいが。
「いいよ。私、いらない」
蛇のようにしつこいY美の勧誘を、その威圧的な物言いにいささかも臆することなく、メライちゃんはあっさりとはね付けた。僕は心の中て喝采を送った。
「そんなに美容にいいんなら、私じゃなくて、自分で飲んだほうがいいんじゃない」
「なあに、その言い方」
「Y美さん、やっぱりあなた、少し変。こんなの持ってきて喜んでるなんて、どうかしてると思う。しかも騙して飲ませようとするなんて、最低だよ」
「あんた、この液がなんなのか、知ってんのかよ」
「知らない。興味ないよ。くだらない人とは喋りたくない」
大きな目でY美を睨みつけて、メライちゃんはその場を離れた。Y美は顔面蒼白だった。拳で机を叩くと、「くそ、チビ女め」と抑えた声で罵った。
ずっと曇っていた空からぽつりぽつりと雨粒が落ちてきて、終業とともに帰宅を急ぐ僕に当たった。家に着いた頃には本格的な降りに変わっていた。
濡れた制服を脱ぎ、家屋の外壁に沿って置かれた古い洗濯機の中に入れる。脱いだ靴は、以前は縁の下にしまうことになっていたが、今では、制服や靴下と一緒に洗濯機の中に入れる。Y美やおば様が縁の下まで靴を取るのが面倒なのだった。
この家の決まりに習ってパンツ一枚の裸になってから、裏口のドアをあけて家に入る。おば様が急いで取り込んだ洗濯物を居間の隣りの和室に干していた。おば様は仕事の途中に立ち寄って、こまごまとした家の用事を片付けているのだった。その姿は、仕事中に抜け出しているためか、秘書が社長のために家事を手伝っているみたいだった。
「二階に鞄を置いたら、すぐに来てくれる?」
帰宅した僕への挨拶の代りに、矢のようなおば様のせわしない声が飛んできた。僕は駆け足で自分の部屋に行き、鞄を置くと、すぐに階段を下りて洗面所で顔と手を洗い、うがいをした。
「早く早く。すぐに来てって言ったじゃない」
いつものおば様らしい、ゆったりとした言い方ではなかった。Y美に似ている。感情の移り変わりが激しく、些細なことで異様なまでに激昂するY美にそっくりだった。
「はい。ただいま」
洗面所から大きな声で返事をして、駆け足でおば様のいる和室に行った。
仕事に戻らなければならないおば様の代りに、僕が和室に洗濯物を干すことになった。布団のシーツを干していると、おば様が後ろからパンツのゴムを引っ張って、放す。パチンと音がする。雨が一段と強くなったようだ。今度は前からパンツのゴムを引っ張る。「じゃあ行ってくるわね」引っ張られたパンツの中を覗かれて、僕が恥ずかしがっていると、おば様はパンツのゴムから手を放す。パチンと音がした時には、もうおば様は和室から出ていた。
和室のカーテンレールに掛けられた物干しには、布巾類、枕カバーがぶら下がっていた。ほとんどがおば様の手で干されていて、途中で変わった僕が干した物は少なかった。洗面所では全自動洗濯機が回っていて、最後の濯ぎをしていた。それが終わったら洗濯機から洗濯物を取り出して、この和室に干さなければならない。雨が庭の土や石やアジサイを叩いて、盛んな音を立てていた。
洗濯機が洗濯を終えるまでのわずかな時間、僕は畳の上にごろりと横になった。今朝は三時間ほどしか眠っていないので、眠気を催したのだった。しかし、このまま深い眠りに陥ったら、Y美にひどく叱られてしまう。ほんの15分でもいいから眠りたい。そんなことを考えながらうとうとしていた。
はっと意識を戻した時は、夕方の六時を回っていた。まだY美は帰ってきていないようだった。僕は洗濯機から洗濯物を取り出しに、洗面所へ向かった。洗濯機の中からY美のシャツ、おば様のブラウスなどを取り出して、籠に入れる。カーディガンを取り上げて広げると、中から丸まった白い布が落ちた。Y美のパンツであることは、手に取って初めて分かったことだった。
これがY美のパンツか。同級生の女の子の下着を見るのは、初めてだった。Y美は僕をしょっちゅう素っ裸にして、おちんちんをくまなく観察し、肛門の奥まで知っていて、僕は射精の瞬間からうんちが出るところまで見られているのに、僕はY美がどんな体をしているのか、服の上からしか知らないのだった。下着姿すら見たことがない。洗濯物に下着が混じっていたのはこれが初めてで、下着類が干してあるのも見たことがなかった。自分の部屋か、僕の知らない場所に干しているのだろう。Y美のブラジャーも、シャツの丸首から一瞬見えたことがあるだけ。しかもその時、僕は下着を覗いた罰として、Y美からさんざん叩かれたのだった。挙句、素っ裸で土下座までさせられた。
見たくて見た訳じゃない、腰をかがめたY美の丸首から偶然ちらと見えただけだ。あの時に受けた不条理な思いが、今の僕を大胆にさせていた。手にしているY美のパンツを広げて、まじまじと見た。真っ白いパンツだった。ゴムの部分に簡単な花柄の刺しゅうが施されている。洗いたてながらY美の匂いは残っているだろうか。僕はパンツを鼻にくっ付けて、深呼吸した。僕のパンツの中で、おちんちんがもぞもぞする。
「ちょっと、何してんのよ」
いつの間にかY美が背後に立って、Y美の下着に鼻を当てて前を膨らませている、パンツ一枚の裸の僕を見ていた。雨の中を小走りに帰ってきたらしいY美は、濡れたブラウスをべっとり肌に付けた制服姿のまま、肩を上下させて呼吸している。鞄を持つ手がかわなわな震えていた。Y美は一瞬大きく泣き出すかのように顔を崩しかけたが、すぐにきりりと引き締まった表情になると、唇をかみしめ、ずかずかと僕に近づいて下着を奪い取った。そして、間髪を入れず、僕の頬を思い切りはたくのだった。
25cm近い身長差から振り下ろされた平手は、僕の左頬を引っ掛けるように叩いて、体ごと右の壁に激突させた。頭や右肩を壁にぶつけた痛みが新たに加わって、僕は呻きながら立ち上がった。
「夕食後に二階の和室に来なよ。折檻するから、覚悟してね」
そう言い残すと、Y美は僕の返事を待たずに洗面所から去った。僕はぼんやりと、階段を駆け足でのぼる振動が伝わってくる天井を見つめていた。
夕食は、針の筵という形容がぴったりの、恐ろしい時間帯だった。僕は緊張のあまり、食事がほとんど喉を通らない。おば様が心配して、僕の顔を覗き込んだ。
この食事のあと、僕は二階の和室で折檻を受ける。その恐怖でパンツ一枚の裸がぶるぶる震えるのだった。
食事中、Y美は学校でむかついたことをおば様に話していた。
「メライってくそちび女がいて、チャコと身長とか体つきが似てるんだけど、生意気で、人の親切を仇で返すのが大好きみたいな、ひどい性格なの。私が美容にいいからって勧めたものを、美容にいいんなら自分が飲めばいいって抜かしたんだよ。ひどいよね。まだこの土地に馴染みがないっていうから、親切にしてあげたのがよくなかったな。図に乗って、もう大変だよ。私は私、あんたなんかいなくっても友だちできる、みたいな顔してさ。ことごとく私のこと、無視するような態度なんだよ。ほんと、むかつく」
「そんな子いたんだ。この土地の子じゃないんだね。一度連れてきてよ」
「え、遊びにこさせるの?」
「そうよ」おば様が台所から運んできたさくらんぼを食卓に置きながら、答えた。
「やだな。あ、でもおもしろいかも。チャコを素っ裸にしてメライに見せてあげたら、あの女、なんて反応するかな。おちんちんいじらせてあげようか」
食欲がないのを無理して押し込んでいた僕は、ご飯を喉に詰まらせてしまった。おば様が僕の背中をさすってくれた。
「やめてください。そんなことしたら、僕がこの家でいつもそんな目に遭ってるってよその人に知られて、よくないですよ。メライちゃんは正義感の強い人だから」
「うるさいな。あんたに話し掛けてるんじゃないんだよ」
冷ややかなY美の目でじろりと睨まれて、僕は体が竦んだ。
「いや、でもチャコの言うとおりかもね。考えたほうがいいよ」
食卓から立って、おば様が食器の片付けを始めた。僕は急いで残りのおかずを平らげて、片付けに参加した。Y美は自分の食器だけ流しまで運ぶと、おば様に竹刀の場所を訊ねた。
「竹刀?」皿を洗いながら、おば様が聞き返す。
「そうだよ。お母さん、昔、剣道で県大会まで進んだんでしょ。竹刀が二本か三本、あったと思うんだけど」
「あるよ、私の寝室の押し入れに。使ってもいいけど、一番汚れたのにしてよ」
「分かった。ありがと」滑るようにY美がおば様の寝室に向かう。
おば様から洗った食器を受け取り、布巾で拭くのが僕の役目だった。台所に二人きりになって、黙々と片付けをしていた。
「聞いたわよ。Y美の下着の匂いを嗅いでいたんだって?」
僕はこくりと頷いた。
「あんたも、もう少し自制しなくちゃ。Y美は性的な欲望の対象にされることに極度の恐怖心があるのよ。それはあの子にとって不幸な出来事があったからなんだどね。だから、あなたみたいな男の子を性的にいじめることで、バランスを取ってるんだと思う。悪いけど、あの子のために、あなたには犠牲になってもらってるのは承知してる。その分、ご褒美もあげるから、しばらく我慢してね」
「不幸な出来事って、Y美さんに何があったんですか」
「それは、まだ言えない。竹刀持ってるから相当痛いかもしれないけど、我慢して折檻を受けてきな」
最後の一枚の皿を洗い終わって、おば様がエプロンを外した。僕はソファに座ることが許されていないので、床に腰を下ろして休んでいると、二階からY美の声がした。
「ほら、Y美が呼んでいるわよ。早く行っておいで。あとで手当てをしてあげるから」
テレビを付けてお気に入りのドラマにチャンネルを合わせたおば様がソファに深々と腰を掛けながら、僕に言った。
これから受ける折檻のことで体じゅうを震わせながら、うなだれて、僕は裏口から外に出た。トイレで用を済ませると、家にあがる。深呼吸しながら階段をのぼった。
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籠の中の服を取り出し、緩慢な動作で着込む。学校に着いた時は一時間目の授業が始まるところだった。職員室で生徒手帳に遅刻スタンプを押印された。これが3つ溜まると、放課後の奉仕活動に強制的に参加させられる。僕はこれが1つ目のスタンプだった。僕の遅刻が今回初めてだったことと、僕の顔色が優れないことを理由に、風紀委員の先生は、遅刻の理由を厳しく追求しなかった。気分が悪いのなら保健室で休むように勧めてくれるのだった。僕は「平気です」とだけ答え、教室に向かった。
学校ではいつも通りの時間が流れていた。クラスメイトがいて、先生がいて、笑ったり、話し合ったり、ふざけたりする。普通の中学一年生として、この学校に居場所を与えられているのは、有り難いことだった。僕は内気な性格で、あまりクラスメイトと話をするほうではなかったが、Y美の目を意識するようになってから、ますますその傾向が強くなった。授業中に発言する際なども、意識はいつもY美に向いていた。それは恐怖の対象に他ならなかったからで、僕の発表にみなが感心をしても、Y美ひとりだけがくすくす笑ったりしていると、たちまち赤面して、さっきまでの自信が揺らぐのだった。
クラスにはもう一人、僕が意識する女子生徒がいた。恐怖の対象とは正反対の存在であるメライちゃんは、ショートカットの目がくりくりした女の子で、気性のしっかりした利発な子だった。クラスの女子の中で一番小柄で、僕と同じくらいの背丈だった。Y美が僕とメライちゃんを双子のようだと言ったことがある。
メライちゃんは中学になってからこの地に引っ越してきたので、初め、クラスに馴染もうとする積極的な努力を人一倍していた。よそから来た者には冷たい土地柄で、彼女の努力が空回りして、女子の中でもぽつんと一人でいる光景を目にすることが多くなった。
六月に入ってから、メライちゃんはもう以前のような仲良しを作ろうとする振る舞いは控えるようになった。休み時間は図書室に行き、一人で読書していた。僕は同級生たちと他愛のない話をするのがしんどくなったり、その話の内容があまりに幼稚で耳を傾けているのか苦痛になったりすると、図書室に足を運んだ。最近では、メライちゃんに会うのが目的で図書室通いをしているほどだ。僕たちはいつのまにか、普通に話し合う友だち関係になっていた。
「なおす君さ、家では普段、どんなテレビを見てるの?」
「普通の四角いテレビ」
「え、やだな。そうじゃなくて番組だよ」
腹を抱えて笑いながら、メライちゃんが僕の肩を叩く。僕がY美のお供で見ているドラマ名を挙げると、メライちゃんは、ひどく驚いていた。
「意外だなあ。なおす君て女の子がみるようなドラマが好きなんだね。私はそういうの、あんまり見ないんだけどさ」
メライちゃんは旅行番組が好きだと言った。
「え、なんで笑うの。爺くさいって? 嘘、そんなことないよ。楽しいよ。旅行に行きたくても行けないんだから、せめてテレビで見てね。あ、寂しいか、やっぱり」
自分で突っ込みを入れて、メライちゃんは少し真顔になってから笑った。
もともと一人でいることが好きな僕と違って、メライちゃんは仲良しができれば仲良しと一緒に過ごす時間も大切にするのだった。メライちゃんには僕のほかにも図書室でよく顔を合わす図書室つながりができて、そのうちの何人かと仲良しになったのだった。
明るい笑顔で、大きな目をくりくりさせながら廊下を歩いているメライちゃんを見て、僕は密かに胸をときめかすのだった。
僕の精液を入れた瓶を、Y美は仲のよい友だちに見せると言っていた。僕の知らない処でこっそり見せたのだろうか。Y美がその瓶をクラスみんなの前で掲げるのではないかと不安で、僕はずっと落ち着かない気分だった。僕と目が合っても、これといった素振りは見せなかった。
そのY美が昼休みになって、突然メライちゃんを呼んでいる。この二人は仲のよい間柄ではない。メライちゃんが一時期クラスで浮いた存在になったのも、Y美の工作によるところが大きいとのことだった。Y美がメライちゃんと僕を双子のようだと評したのは、メライちゃんに対する悪口だった。僕と同じくらいの背丈で、胸の平らなところまでそっくりだと言って、メライちゃんをからかうのだった。
メライちゃんは目をぱちくりさせながらY美の席に近づいた。
机の中から例の瓶を取り出したY美は、匙で僕の精液を掬うと、メライちゃんの目の前に差し出した。
「これ、美容にいいゼリーなの。良かったら一口すすってみて」
「なあに、これ。なんか変なにおいがする」
「いいから、一口飲み込んでみなよ。たんぱく質が豊富で美容にいいんだって」
匙をメライちゃんの口元まで運び、「一口でいいから」と、勧めている。僕は恥ずかしさで顔じゅう真っ赤になってうつむいていた。メライちゃんに飲ませるわけにはいかないが、止めに入ったら、あとでY美の報復が恐ろしい。しかし、メライちゃんが飲むのを黙って見過ごすのも、忍びない。メライちゃんが自分の意志できっぱり断ってくれればよいが。
「いいよ。私、いらない」
蛇のようにしつこいY美の勧誘を、その威圧的な物言いにいささかも臆することなく、メライちゃんはあっさりとはね付けた。僕は心の中て喝采を送った。
「そんなに美容にいいんなら、私じゃなくて、自分で飲んだほうがいいんじゃない」
「なあに、その言い方」
「Y美さん、やっぱりあなた、少し変。こんなの持ってきて喜んでるなんて、どうかしてると思う。しかも騙して飲ませようとするなんて、最低だよ」
「あんた、この液がなんなのか、知ってんのかよ」
「知らない。興味ないよ。くだらない人とは喋りたくない」
大きな目でY美を睨みつけて、メライちゃんはその場を離れた。Y美は顔面蒼白だった。拳で机を叩くと、「くそ、チビ女め」と抑えた声で罵った。
ずっと曇っていた空からぽつりぽつりと雨粒が落ちてきて、終業とともに帰宅を急ぐ僕に当たった。家に着いた頃には本格的な降りに変わっていた。
濡れた制服を脱ぎ、家屋の外壁に沿って置かれた古い洗濯機の中に入れる。脱いだ靴は、以前は縁の下にしまうことになっていたが、今では、制服や靴下と一緒に洗濯機の中に入れる。Y美やおば様が縁の下まで靴を取るのが面倒なのだった。
この家の決まりに習ってパンツ一枚の裸になってから、裏口のドアをあけて家に入る。おば様が急いで取り込んだ洗濯物を居間の隣りの和室に干していた。おば様は仕事の途中に立ち寄って、こまごまとした家の用事を片付けているのだった。その姿は、仕事中に抜け出しているためか、秘書が社長のために家事を手伝っているみたいだった。
「二階に鞄を置いたら、すぐに来てくれる?」
帰宅した僕への挨拶の代りに、矢のようなおば様のせわしない声が飛んできた。僕は駆け足で自分の部屋に行き、鞄を置くと、すぐに階段を下りて洗面所で顔と手を洗い、うがいをした。
「早く早く。すぐに来てって言ったじゃない」
いつものおば様らしい、ゆったりとした言い方ではなかった。Y美に似ている。感情の移り変わりが激しく、些細なことで異様なまでに激昂するY美にそっくりだった。
「はい。ただいま」
洗面所から大きな声で返事をして、駆け足でおば様のいる和室に行った。
仕事に戻らなければならないおば様の代りに、僕が和室に洗濯物を干すことになった。布団のシーツを干していると、おば様が後ろからパンツのゴムを引っ張って、放す。パチンと音がする。雨が一段と強くなったようだ。今度は前からパンツのゴムを引っ張る。「じゃあ行ってくるわね」引っ張られたパンツの中を覗かれて、僕が恥ずかしがっていると、おば様はパンツのゴムから手を放す。パチンと音がした時には、もうおば様は和室から出ていた。
和室のカーテンレールに掛けられた物干しには、布巾類、枕カバーがぶら下がっていた。ほとんどがおば様の手で干されていて、途中で変わった僕が干した物は少なかった。洗面所では全自動洗濯機が回っていて、最後の濯ぎをしていた。それが終わったら洗濯機から洗濯物を取り出して、この和室に干さなければならない。雨が庭の土や石やアジサイを叩いて、盛んな音を立てていた。
洗濯機が洗濯を終えるまでのわずかな時間、僕は畳の上にごろりと横になった。今朝は三時間ほどしか眠っていないので、眠気を催したのだった。しかし、このまま深い眠りに陥ったら、Y美にひどく叱られてしまう。ほんの15分でもいいから眠りたい。そんなことを考えながらうとうとしていた。
はっと意識を戻した時は、夕方の六時を回っていた。まだY美は帰ってきていないようだった。僕は洗濯機から洗濯物を取り出しに、洗面所へ向かった。洗濯機の中からY美のシャツ、おば様のブラウスなどを取り出して、籠に入れる。カーディガンを取り上げて広げると、中から丸まった白い布が落ちた。Y美のパンツであることは、手に取って初めて分かったことだった。
これがY美のパンツか。同級生の女の子の下着を見るのは、初めてだった。Y美は僕をしょっちゅう素っ裸にして、おちんちんをくまなく観察し、肛門の奥まで知っていて、僕は射精の瞬間からうんちが出るところまで見られているのに、僕はY美がどんな体をしているのか、服の上からしか知らないのだった。下着姿すら見たことがない。洗濯物に下着が混じっていたのはこれが初めてで、下着類が干してあるのも見たことがなかった。自分の部屋か、僕の知らない場所に干しているのだろう。Y美のブラジャーも、シャツの丸首から一瞬見えたことがあるだけ。しかもその時、僕は下着を覗いた罰として、Y美からさんざん叩かれたのだった。挙句、素っ裸で土下座までさせられた。
見たくて見た訳じゃない、腰をかがめたY美の丸首から偶然ちらと見えただけだ。あの時に受けた不条理な思いが、今の僕を大胆にさせていた。手にしているY美のパンツを広げて、まじまじと見た。真っ白いパンツだった。ゴムの部分に簡単な花柄の刺しゅうが施されている。洗いたてながらY美の匂いは残っているだろうか。僕はパンツを鼻にくっ付けて、深呼吸した。僕のパンツの中で、おちんちんがもぞもぞする。
「ちょっと、何してんのよ」
いつの間にかY美が背後に立って、Y美の下着に鼻を当てて前を膨らませている、パンツ一枚の裸の僕を見ていた。雨の中を小走りに帰ってきたらしいY美は、濡れたブラウスをべっとり肌に付けた制服姿のまま、肩を上下させて呼吸している。鞄を持つ手がかわなわな震えていた。Y美は一瞬大きく泣き出すかのように顔を崩しかけたが、すぐにきりりと引き締まった表情になると、唇をかみしめ、ずかずかと僕に近づいて下着を奪い取った。そして、間髪を入れず、僕の頬を思い切りはたくのだった。
25cm近い身長差から振り下ろされた平手は、僕の左頬を引っ掛けるように叩いて、体ごと右の壁に激突させた。頭や右肩を壁にぶつけた痛みが新たに加わって、僕は呻きながら立ち上がった。
「夕食後に二階の和室に来なよ。折檻するから、覚悟してね」
そう言い残すと、Y美は僕の返事を待たずに洗面所から去った。僕はぼんやりと、階段を駆け足でのぼる振動が伝わってくる天井を見つめていた。
夕食は、針の筵という形容がぴったりの、恐ろしい時間帯だった。僕は緊張のあまり、食事がほとんど喉を通らない。おば様が心配して、僕の顔を覗き込んだ。
この食事のあと、僕は二階の和室で折檻を受ける。その恐怖でパンツ一枚の裸がぶるぶる震えるのだった。
食事中、Y美は学校でむかついたことをおば様に話していた。
「メライってくそちび女がいて、チャコと身長とか体つきが似てるんだけど、生意気で、人の親切を仇で返すのが大好きみたいな、ひどい性格なの。私が美容にいいからって勧めたものを、美容にいいんなら自分が飲めばいいって抜かしたんだよ。ひどいよね。まだこの土地に馴染みがないっていうから、親切にしてあげたのがよくなかったな。図に乗って、もう大変だよ。私は私、あんたなんかいなくっても友だちできる、みたいな顔してさ。ことごとく私のこと、無視するような態度なんだよ。ほんと、むかつく」
「そんな子いたんだ。この土地の子じゃないんだね。一度連れてきてよ」
「え、遊びにこさせるの?」
「そうよ」おば様が台所から運んできたさくらんぼを食卓に置きながら、答えた。
「やだな。あ、でもおもしろいかも。チャコを素っ裸にしてメライに見せてあげたら、あの女、なんて反応するかな。おちんちんいじらせてあげようか」
食欲がないのを無理して押し込んでいた僕は、ご飯を喉に詰まらせてしまった。おば様が僕の背中をさすってくれた。
「やめてください。そんなことしたら、僕がこの家でいつもそんな目に遭ってるってよその人に知られて、よくないですよ。メライちゃんは正義感の強い人だから」
「うるさいな。あんたに話し掛けてるんじゃないんだよ」
冷ややかなY美の目でじろりと睨まれて、僕は体が竦んだ。
「いや、でもチャコの言うとおりかもね。考えたほうがいいよ」
食卓から立って、おば様が食器の片付けを始めた。僕は急いで残りのおかずを平らげて、片付けに参加した。Y美は自分の食器だけ流しまで運ぶと、おば様に竹刀の場所を訊ねた。
「竹刀?」皿を洗いながら、おば様が聞き返す。
「そうだよ。お母さん、昔、剣道で県大会まで進んだんでしょ。竹刀が二本か三本、あったと思うんだけど」
「あるよ、私の寝室の押し入れに。使ってもいいけど、一番汚れたのにしてよ」
「分かった。ありがと」滑るようにY美がおば様の寝室に向かう。
おば様から洗った食器を受け取り、布巾で拭くのが僕の役目だった。台所に二人きりになって、黙々と片付けをしていた。
「聞いたわよ。Y美の下着の匂いを嗅いでいたんだって?」
僕はこくりと頷いた。
「あんたも、もう少し自制しなくちゃ。Y美は性的な欲望の対象にされることに極度の恐怖心があるのよ。それはあの子にとって不幸な出来事があったからなんだどね。だから、あなたみたいな男の子を性的にいじめることで、バランスを取ってるんだと思う。悪いけど、あの子のために、あなたには犠牲になってもらってるのは承知してる。その分、ご褒美もあげるから、しばらく我慢してね」
「不幸な出来事って、Y美さんに何があったんですか」
「それは、まだ言えない。竹刀持ってるから相当痛いかもしれないけど、我慢して折檻を受けてきな」
最後の一枚の皿を洗い終わって、おば様がエプロンを外した。僕はソファに座ることが許されていないので、床に腰を下ろして休んでいると、二階からY美の声がした。
「ほら、Y美が呼んでいるわよ。早く行っておいで。あとで手当てをしてあげるから」
テレビを付けてお気に入りのドラマにチャンネルを合わせたおば様がソファに深々と腰を掛けながら、僕に言った。
これから受ける折檻のことで体じゅうを震わせながら、うなだれて、僕は裏口から外に出た。トイレで用を済ませると、家にあがる。深呼吸しながら階段をのぼった。
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過去にナオスさんへ
「私は処女じゃない」
という台詞を言っていましたが、Y美は過去にレイプでもされたのでしょうか?
コメントありがとうございます。
Y美の過去のことは、まだ書けないですね。
怖いです。
Y美本人が近くにいて書けないのか、それとも
作中のタイミング的に書けないということなのでしょうか?
Y美がナオスさんで精神の均衡を保っているとうのも
あまり良くない気がします。