僕の肛門に埋められた尻尾は、あと少しの力で抜ける。抜くと同時に大量のうんちが出てくると思われるので、畑に肥料として提供することをおば様が独断で決め、畑に移動することになったのだった。
医師はお腹が張って苦しい僕に歩けるかと尋ね、Y美が「平気よね」と僕に確認するよりは医師に答えるように言うのを僕が返事したものと見なして、「よし」と手を一つぽんと叩くと、診察室から僕を連れて出ようとする。僕は何か身にまとう物を欲した。
「おお、そうか。君だけ素っ裸だったね。畑に行くのにその格好じゃ可哀想だから、検査着を貸してあげよう。それを素肌に羽織ったらどうかな」
看護婦に持ってこさせた緑の検査着を僕の前で広げて見せると、医師は細い目をいっそう細くして微笑んだ。
「まあ、よかったじゃない。やっと人間らしくなれるわね」
おば様が僕よりも先に手を伸ばして、検査着の布の感触を確かめている。
「上等な検査着じゃない。コットンの優しい肌触り」
「さすがにお目が高いですな。その検査着は、私が香港から取り寄せた最上級品です。貸し出すとなると、多少のレンタル料を頂かなければなりませんが」
「え、無料じゃないんですか」僕に検査着を渡そうとしていたおば様の手がぴたりと止まった。「ちょっとお借りするだけなのに」
「でも、外に持ち出すんでしょ。終わったら検査着を消毒しなくちゃいけない」と医師は難しい顔をして言うと、そのレンタル料の金額を提示した。千円だった。
「ごめんね。やっぱり裸のまま行ってくれる?」
羽織ろうとした僕の手から強引に検査着を奪って、おば様は僕にそう言うと、首を横に振っている僕を無視して、「やっぱりいいです。この子、裸のまま行かせますから」と、医師に押し返すのだった。
受け付けの窓口から女の人が首を出して、病院の正面玄関から外に出ようとする僕たちを見守っていた。
「いやです。裸のまま外に出るのは勘弁してください」
「悪いけど君、これも治療中のことと思って諦めてもらうしかないね」と、医師は検査着レンタル料の支払いを渋ったおば様をちらと見て苦笑すると、病院の外に出た。
恥かしがってなかなか外に出ようとしない僕のお尻をY美が手のひらで力いっぱい叩いた。受け付けの女の人が目をぱちくりさせて驚いていた。医師、僕、おば様、Y美の順で病院の前の道を左手に進む。夕暮れの明るさがまだ空に残っていた。僕は素っ裸のまま、おちんちんを手で隠して、うんちが溜まって苦しいお腹をもう一方の手でさすりながら、その苦痛に全身を小刻みに震わせていた。
後ろからおば様が、僕の背中がうっすらと汗で光っていることを指摘した。Y美が「これ以上脱ぐものがないのにまだ暑いんだね。私なんか服を着ていて涼しいと思ってるんだけど」と、のんきに僕をからかった。そして、僕のお尻の下で揺れている尻尾に触って、「もし今これを引っ張ったら、路上にうんちをぶちまけることになるのかな」と言って、笑った。「やめなさい」おば様がやんわりとたしなめた。
左に曲がって、畑道を行く。昼間の雨で草木がよい香りを漂わせていた。土を踏みしめて、緩やかな斜面を登った。その先にも畑が広がっていて、派手なアロハシャツを着たおじさんが手を振っていた。
「この子がうちの畑に肥料をくれるって」
医師の仲立ちで互いに自己紹介をすると、おじさんはじろじろと、おちんちんを隠して震えながら立っている僕を見た。
「真っ裸でここまで来たのか。一応、脱衣所もあるんだけどな」と、おじさんは隣りの掘建て小屋を指した。「ま、いいや。個人の趣味だから」
掘建て小屋の裏手に僕を案内すると、おじさんは、やわらかい土か小さな畝を作っている平らな地面を指した。この土の中に足を踏み入れて、草地に手をついて四つんばいになるように言うのだった。猛烈な便意でまともな思考ができない僕は、医師とY美とおば様に「向こうで待っててください」と、早口で叫んだ。しかし、医師は職務上立ち会う義務があるからと、その場を動かなかった。Y美とおば様は、動かないどころか、四つんばいで土にお尻を向けている僕に、さらに近づくのだった。
「やめてください。Y美さんもおば様もこちらに来ないで」
必死のお願いをY美は世迷いごとのように聞き流すのだった。
「あんたの尻尾が取れる瞬間をこの目で見届けたいのよ。ねえ、お母さん」
夕焼けの光が僕の四つんばいの裸を照らしていた。そうよ、とおば様が軽く答えるのを耳にすると、僕は目をつむり、草地の草をぎゅっと握った。やわらかい土の中に沈んだ足の裏が冷たかった。
この紐を引けばいいのかな、とおじさんが聞き、そうだと医師が答える。紐じゃなくて尻尾、とY美が突っ込みを入れた。一二の三でおじさんが尻尾を引く。抜けない。もっと力を入れて、と医師が言う。もう一度、一二の三。すぽっと、肛門から固形物が抜ける音がした。栓が取れたのだ。同時に、今までお腹の中で溜めに溜めていたものが一気にあふれ出てきた。
「すごい量のうんちだね。ずっと我慢してただけあるね」
「Y美ったら、そんなに人のうんちをじろじろ見るもんじゃないわ」
「やだ。お母さんだって、しげしげと見てるじゃない」
「私はチャコの保護者代理として、この子の健康状態をチェックしただけよ。たっぷり黄金色に盛り上がって、申し分ないわ」
「さぞかし立派な肥料になるでしょうね」
ずっと堪えてきたお腹の痛みが嘘のように引いたものの、みんなの前でうんちをさせられたショックで、未だに体の震えは収まらなかった。おじさんが差し出してくれたトイレットペーパーを横からおば様が取り上げて、私が拭いてあげる、と言った。僕は嗚咽しながら、されるがままになっていた。
「泣かないのよ、泣かない」
お尻を拭いているおば様の手が奥のおちんちんにまで伸びてきて、しごいたり撫でたりした。「やめてください。こんなところで」と、かすれた声で嘆願したが、おば様の指は執拗に絡まる。
おちんちんは僕の意に反して、大きくなってしまった。
「体を洗いに行きなさい」と、おば様は僕を草地に上がらせた。おじさんがおちんちんに手を当てて震えている僕を見て、目を丸くした。
「おいおい、おちんちんが立ってるじゃないか。同級生の女の子とその母親にうんちしているところ見られて、興奮しちゃったのか」
体を洗う場所を問うおば様に、畑を下ったところの川を示したおじさんは、どうせ体を洗うのなら汚れついでにもう一仕事してもらおうか、と僕にやわらかい土を掘り起こし、うんちとよく混ぜるように命じて、鋤を渡すのだった。
土とうんちをかき混ぜる僕のおちんちんは勃起したままだった。
「やめてよ、チャコ。なんで大きくしてるのよ。クラスメイトとして恥かしいじゃないの」
眉をひそめてY美が叱った。
土を盛ったリヤカーに乗せられ、おじさんに川まで運ばれた。川岸のコースを部活動中の女子中学生が走っており、走り終えた女子たちは川岸で休んでいた。その傍らをリヤカーに乗せられた僕が来て、そばの川に入らされた。膝までの深さしかない。
おじさんに言われて、まずお尻の穴を念入りに洗う。川の流れに向かってお尻の穴をひらく。それから、一度しゃがんで首まで浸かってから立ち上がる。おじさんは、モップに粉石けんを擦り込み川の水に浸けてから、僕の体をごしごし洗い始めた。
川岸の女子中学生の数が増えてきた。くすくす笑う声が聞こえた。一糸まとわぬ素っ裸で洗われている僕は恥かしくてまともに顔を上げることができない。おちんちんとお尻を隠していたが、手が邪魔だと怒鳴られ、モップでごしごし擦られている間は手をどかして、モップが別の部位に移動すると、すかさず手で隠すのだった。
「見えたね、おちんちん」
「うん。ばっちり見えた」
「ねえねえ、あの子、小学何年生くらいかな」
「さあ、四年生か五年生くらいかも」
川岸の女子中学生たちに、Y美が話し掛けた。
「お騒がせしてごめんなさいね。あの子、私の連れなんだけど、肥溜めに落ちちゃって」
「そうだったんですか。大変ですね」
Y美は彼女たちが陸上部の中学一年生であること、大会が近いため毎日六時半過ぎまで練習していること、などを聞いた。Y美が自分たちと同い年だと知ると、女子中学生たちは砕けた口調で訊ねるのだった。
「あの、裸で洗われてる子は、弟なの?」
「弟じゃない。同じクラスの男の子だよ。私たちと同い年だよ」
「ええー。うそでしょー」
女子中学生たちが一斉に嬌声を上げた。僕は川岸に上がって、洗い終わったびしょ濡れの体を震わせていた。寒い。おば様がハンカチで僕の体を拭いてくれていた。
昼間の長いこの時期が恨めしい。7時を過ぎてもまだ明るいのだった。おじさんに何か体を隠すものを貸して欲しいと頼んだが、すげなく断られた。僕はY美とおば様に前と後ろを挟んでもらい、おちんちんに両手を当てて、腰をかがめて駐車場までの道のりを急ぎ足で進んだ。途中、Y美が「走らないとまずいかも」と言い、おば様の「走ろう」を合図に走った。歩道をたくさんの人とすれ違った。子連れのお母さん、勤め人、学生。今日だけで僕は何人の人に素っ裸を見られ、笑われたことだろう。
駐車場に着いて、車に乗り込んだ。嘔吐して汚れたトランクではなく、後部座席のY美の隣りに座らされた。
もう僕は尻尾が外れたから犬ではなく、人間としてY美と一緒に並んで乗って構わないのだと、おば様が優しく教えてくれた。Y美がにっこり微笑んで僕のために席を空けてくれた。人間扱いをしてくれるのはとてもありがたいのだが、彼女たちは腰に巻く布切れ一つ与えようとせず、僕を生まれたままの丸裸の状態にしておくのだった。
おちんちんにしっかり手を当てて、もじもじしている僕を見て、Y美が言った。
「そうか。犬ではなくて人間だもんね。一人だけ素っ裸で車に乗っているのは、恥かしいよね。でも、我慢しなよ。明日の朝になったら、服着れるからね」
「帰ったら、とりあえずパンツ一枚は穿きたいと思いますが」
「駄目だよ。まず汚れたトランクを綺麗にしてよね」
「それが済んだら、パンツを穿いてもいいですか」
恐る恐る問う僕に、Y美はすぐに答えなかった。車の外を流れる景色にしばらく視線を送ってから、静かに言った。
「駄目だね」
「なんでですか」
いつまで僕をいじめれば気が済むのだろう。憤りを覚えたがそれを表に出さないように抑えて、訊ねた。
「理由はなんか、ないよ。そうやって一々理由を聞くところがむかつく。明日の朝、家を出る直前にパンツを含めて学校に着ていくもの全部一式出してあげるから、それまでは今と同じ、オールヌードのままでいなさい。朝の支度も素っ裸でするんだよ。新聞を取るのも、食器を並べるのも」
「可哀想じゃない。いい加減許してあげたら」
おば様が運転席から僕に同情した。
「チャコは人間だけど、奴隷みたいなもんでしょ。それなのに、生意気な口をきくから」
舌足らずなY美の答えにおば様は苦笑して、それ以上何も言わなかった。
おば様の運転はスムーズだった。信号で止まる時もほとんど体に感じさせない。急発進、急停車を繰り返し、乱暴なハンドルさばきでぐるぐる回った行きとは、別人のような運転だった。あの時、運転していたのは、ほんとにおば様だったのだろうか。
信号待ちの間、外で騒いでいる声が聞こえた。ふと見ると、隣りに止まったマイクロバスから、おばさんたちが覗いていた。全裸で乗っている僕を見下ろして、争うように指している。Y美が窓に顔を向けているので、おちんちんから手が離れていたのだった。
僕は慌てておちんちんを手で隠した。それでもおばさんたちの好奇の視線は、矢のように僕の裸に刺さる。信号は長く、なかなか発車しなかった。
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医師はお腹が張って苦しい僕に歩けるかと尋ね、Y美が「平気よね」と僕に確認するよりは医師に答えるように言うのを僕が返事したものと見なして、「よし」と手を一つぽんと叩くと、診察室から僕を連れて出ようとする。僕は何か身にまとう物を欲した。
「おお、そうか。君だけ素っ裸だったね。畑に行くのにその格好じゃ可哀想だから、検査着を貸してあげよう。それを素肌に羽織ったらどうかな」
看護婦に持ってこさせた緑の検査着を僕の前で広げて見せると、医師は細い目をいっそう細くして微笑んだ。
「まあ、よかったじゃない。やっと人間らしくなれるわね」
おば様が僕よりも先に手を伸ばして、検査着の布の感触を確かめている。
「上等な検査着じゃない。コットンの優しい肌触り」
「さすがにお目が高いですな。その検査着は、私が香港から取り寄せた最上級品です。貸し出すとなると、多少のレンタル料を頂かなければなりませんが」
「え、無料じゃないんですか」僕に検査着を渡そうとしていたおば様の手がぴたりと止まった。「ちょっとお借りするだけなのに」
「でも、外に持ち出すんでしょ。終わったら検査着を消毒しなくちゃいけない」と医師は難しい顔をして言うと、そのレンタル料の金額を提示した。千円だった。
「ごめんね。やっぱり裸のまま行ってくれる?」
羽織ろうとした僕の手から強引に検査着を奪って、おば様は僕にそう言うと、首を横に振っている僕を無視して、「やっぱりいいです。この子、裸のまま行かせますから」と、医師に押し返すのだった。
受け付けの窓口から女の人が首を出して、病院の正面玄関から外に出ようとする僕たちを見守っていた。
「いやです。裸のまま外に出るのは勘弁してください」
「悪いけど君、これも治療中のことと思って諦めてもらうしかないね」と、医師は検査着レンタル料の支払いを渋ったおば様をちらと見て苦笑すると、病院の外に出た。
恥かしがってなかなか外に出ようとしない僕のお尻をY美が手のひらで力いっぱい叩いた。受け付けの女の人が目をぱちくりさせて驚いていた。医師、僕、おば様、Y美の順で病院の前の道を左手に進む。夕暮れの明るさがまだ空に残っていた。僕は素っ裸のまま、おちんちんを手で隠して、うんちが溜まって苦しいお腹をもう一方の手でさすりながら、その苦痛に全身を小刻みに震わせていた。
後ろからおば様が、僕の背中がうっすらと汗で光っていることを指摘した。Y美が「これ以上脱ぐものがないのにまだ暑いんだね。私なんか服を着ていて涼しいと思ってるんだけど」と、のんきに僕をからかった。そして、僕のお尻の下で揺れている尻尾に触って、「もし今これを引っ張ったら、路上にうんちをぶちまけることになるのかな」と言って、笑った。「やめなさい」おば様がやんわりとたしなめた。
左に曲がって、畑道を行く。昼間の雨で草木がよい香りを漂わせていた。土を踏みしめて、緩やかな斜面を登った。その先にも畑が広がっていて、派手なアロハシャツを着たおじさんが手を振っていた。
「この子がうちの畑に肥料をくれるって」
医師の仲立ちで互いに自己紹介をすると、おじさんはじろじろと、おちんちんを隠して震えながら立っている僕を見た。
「真っ裸でここまで来たのか。一応、脱衣所もあるんだけどな」と、おじさんは隣りの掘建て小屋を指した。「ま、いいや。個人の趣味だから」
掘建て小屋の裏手に僕を案内すると、おじさんは、やわらかい土か小さな畝を作っている平らな地面を指した。この土の中に足を踏み入れて、草地に手をついて四つんばいになるように言うのだった。猛烈な便意でまともな思考ができない僕は、医師とY美とおば様に「向こうで待っててください」と、早口で叫んだ。しかし、医師は職務上立ち会う義務があるからと、その場を動かなかった。Y美とおば様は、動かないどころか、四つんばいで土にお尻を向けている僕に、さらに近づくのだった。
「やめてください。Y美さんもおば様もこちらに来ないで」
必死のお願いをY美は世迷いごとのように聞き流すのだった。
「あんたの尻尾が取れる瞬間をこの目で見届けたいのよ。ねえ、お母さん」
夕焼けの光が僕の四つんばいの裸を照らしていた。そうよ、とおば様が軽く答えるのを耳にすると、僕は目をつむり、草地の草をぎゅっと握った。やわらかい土の中に沈んだ足の裏が冷たかった。
この紐を引けばいいのかな、とおじさんが聞き、そうだと医師が答える。紐じゃなくて尻尾、とY美が突っ込みを入れた。一二の三でおじさんが尻尾を引く。抜けない。もっと力を入れて、と医師が言う。もう一度、一二の三。すぽっと、肛門から固形物が抜ける音がした。栓が取れたのだ。同時に、今までお腹の中で溜めに溜めていたものが一気にあふれ出てきた。
「すごい量のうんちだね。ずっと我慢してただけあるね」
「Y美ったら、そんなに人のうんちをじろじろ見るもんじゃないわ」
「やだ。お母さんだって、しげしげと見てるじゃない」
「私はチャコの保護者代理として、この子の健康状態をチェックしただけよ。たっぷり黄金色に盛り上がって、申し分ないわ」
「さぞかし立派な肥料になるでしょうね」
ずっと堪えてきたお腹の痛みが嘘のように引いたものの、みんなの前でうんちをさせられたショックで、未だに体の震えは収まらなかった。おじさんが差し出してくれたトイレットペーパーを横からおば様が取り上げて、私が拭いてあげる、と言った。僕は嗚咽しながら、されるがままになっていた。
「泣かないのよ、泣かない」
お尻を拭いているおば様の手が奥のおちんちんにまで伸びてきて、しごいたり撫でたりした。「やめてください。こんなところで」と、かすれた声で嘆願したが、おば様の指は執拗に絡まる。
おちんちんは僕の意に反して、大きくなってしまった。
「体を洗いに行きなさい」と、おば様は僕を草地に上がらせた。おじさんがおちんちんに手を当てて震えている僕を見て、目を丸くした。
「おいおい、おちんちんが立ってるじゃないか。同級生の女の子とその母親にうんちしているところ見られて、興奮しちゃったのか」
体を洗う場所を問うおば様に、畑を下ったところの川を示したおじさんは、どうせ体を洗うのなら汚れついでにもう一仕事してもらおうか、と僕にやわらかい土を掘り起こし、うんちとよく混ぜるように命じて、鋤を渡すのだった。
土とうんちをかき混ぜる僕のおちんちんは勃起したままだった。
「やめてよ、チャコ。なんで大きくしてるのよ。クラスメイトとして恥かしいじゃないの」
眉をひそめてY美が叱った。
土を盛ったリヤカーに乗せられ、おじさんに川まで運ばれた。川岸のコースを部活動中の女子中学生が走っており、走り終えた女子たちは川岸で休んでいた。その傍らをリヤカーに乗せられた僕が来て、そばの川に入らされた。膝までの深さしかない。
おじさんに言われて、まずお尻の穴を念入りに洗う。川の流れに向かってお尻の穴をひらく。それから、一度しゃがんで首まで浸かってから立ち上がる。おじさんは、モップに粉石けんを擦り込み川の水に浸けてから、僕の体をごしごし洗い始めた。
川岸の女子中学生の数が増えてきた。くすくす笑う声が聞こえた。一糸まとわぬ素っ裸で洗われている僕は恥かしくてまともに顔を上げることができない。おちんちんとお尻を隠していたが、手が邪魔だと怒鳴られ、モップでごしごし擦られている間は手をどかして、モップが別の部位に移動すると、すかさず手で隠すのだった。
「見えたね、おちんちん」
「うん。ばっちり見えた」
「ねえねえ、あの子、小学何年生くらいかな」
「さあ、四年生か五年生くらいかも」
川岸の女子中学生たちに、Y美が話し掛けた。
「お騒がせしてごめんなさいね。あの子、私の連れなんだけど、肥溜めに落ちちゃって」
「そうだったんですか。大変ですね」
Y美は彼女たちが陸上部の中学一年生であること、大会が近いため毎日六時半過ぎまで練習していること、などを聞いた。Y美が自分たちと同い年だと知ると、女子中学生たちは砕けた口調で訊ねるのだった。
「あの、裸で洗われてる子は、弟なの?」
「弟じゃない。同じクラスの男の子だよ。私たちと同い年だよ」
「ええー。うそでしょー」
女子中学生たちが一斉に嬌声を上げた。僕は川岸に上がって、洗い終わったびしょ濡れの体を震わせていた。寒い。おば様がハンカチで僕の体を拭いてくれていた。
昼間の長いこの時期が恨めしい。7時を過ぎてもまだ明るいのだった。おじさんに何か体を隠すものを貸して欲しいと頼んだが、すげなく断られた。僕はY美とおば様に前と後ろを挟んでもらい、おちんちんに両手を当てて、腰をかがめて駐車場までの道のりを急ぎ足で進んだ。途中、Y美が「走らないとまずいかも」と言い、おば様の「走ろう」を合図に走った。歩道をたくさんの人とすれ違った。子連れのお母さん、勤め人、学生。今日だけで僕は何人の人に素っ裸を見られ、笑われたことだろう。
駐車場に着いて、車に乗り込んだ。嘔吐して汚れたトランクではなく、後部座席のY美の隣りに座らされた。
もう僕は尻尾が外れたから犬ではなく、人間としてY美と一緒に並んで乗って構わないのだと、おば様が優しく教えてくれた。Y美がにっこり微笑んで僕のために席を空けてくれた。人間扱いをしてくれるのはとてもありがたいのだが、彼女たちは腰に巻く布切れ一つ与えようとせず、僕を生まれたままの丸裸の状態にしておくのだった。
おちんちんにしっかり手を当てて、もじもじしている僕を見て、Y美が言った。
「そうか。犬ではなくて人間だもんね。一人だけ素っ裸で車に乗っているのは、恥かしいよね。でも、我慢しなよ。明日の朝になったら、服着れるからね」
「帰ったら、とりあえずパンツ一枚は穿きたいと思いますが」
「駄目だよ。まず汚れたトランクを綺麗にしてよね」
「それが済んだら、パンツを穿いてもいいですか」
恐る恐る問う僕に、Y美はすぐに答えなかった。車の外を流れる景色にしばらく視線を送ってから、静かに言った。
「駄目だね」
「なんでですか」
いつまで僕をいじめれば気が済むのだろう。憤りを覚えたがそれを表に出さないように抑えて、訊ねた。
「理由はなんか、ないよ。そうやって一々理由を聞くところがむかつく。明日の朝、家を出る直前にパンツを含めて学校に着ていくもの全部一式出してあげるから、それまでは今と同じ、オールヌードのままでいなさい。朝の支度も素っ裸でするんだよ。新聞を取るのも、食器を並べるのも」
「可哀想じゃない。いい加減許してあげたら」
おば様が運転席から僕に同情した。
「チャコは人間だけど、奴隷みたいなもんでしょ。それなのに、生意気な口をきくから」
舌足らずなY美の答えにおば様は苦笑して、それ以上何も言わなかった。
おば様の運転はスムーズだった。信号で止まる時もほとんど体に感じさせない。急発進、急停車を繰り返し、乱暴なハンドルさばきでぐるぐる回った行きとは、別人のような運転だった。あの時、運転していたのは、ほんとにおば様だったのだろうか。
信号待ちの間、外で騒いでいる声が聞こえた。ふと見ると、隣りに止まったマイクロバスから、おばさんたちが覗いていた。全裸で乗っている僕を見下ろして、争うように指している。Y美が窓に顔を向けているので、おちんちんから手が離れていたのだった。
僕は慌てておちんちんを手で隠した。それでもおばさんたちの好奇の視線は、矢のように僕の裸に刺さる。信号は長く、なかなか発車しなかった。
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いつも楽しく拝見させてもらっています。
素敵な作品ばかりで、私は好きだなぁ。
当方もちょっと面白いブログやってます。
よかったら是非一度遊びに来てみて下さい。
虚坊
虚坊さまのプログ、拝見しました。
すばらしいワールドをお持ちですね。
大変な力量だと感服した次第です。
今後ともよろしくお願いします。