(続き)
ネタバレありますよ。台詞などは大体、ということで
この作品は若者二人の成長物語でもあるんだなと思います。
拡樹くんの櫂少佐とバディを組む田中少尉の宮崎秋人くんが素晴らしかったです
初めは全然信用してなくて、櫂少佐の下に付けられたことへの不満がアリアリ
また櫂が山本少将に心酔して称賛する少尉に「つまらん」とバッサリ言ったりするのでね
「誰かに盲従するのは成人した人間として無責任だ」と言うのですが確かにそうだなと思います。
今の若い世代を見てると、従順過ぎて心配になりますから
最初は反発していた少尉ですが、櫂のとんでもない才能と戦争回避のために懸命に行動する姿に心を動かされ
全面的に協力することに。
前半の二人の掛け合いが面白くて何度も吹き出しました
外部の人の協力もあって、二人はギリギリ巨大戦艦建造阻止を勝ち取り、対案である山本少将の航空母艦案が認められます。
ところが山本少将が航空母艦、航空機、それに関わる部隊等の整備をすでに進めていて、
さらには日米開戦に備えた作戦の計画まで進めていることを田中少尉は知ってしまいます
愕然とした少尉は、決然と戦争回避のためでは無かったのか、櫂や自分を騙したのかと少将を責めます。
和戦両方の準備をするのは当然だ、と山本少将は言うんですが、それはまあそうですよね。
政治にしろ会社経営にしろ上に立つ人は、いくつものプランを頭に置いておかないと対応できないでしょうから。
出来るものなら戦争回避するという少将に対して「嘘だ、空母を使いたいって顔に書いてあります!」と言い放つ田中少尉凄い
あれほど山本少将に心酔していた少尉が僅かな期間に成長したのは、櫂との出会いがあったからですよね。
少尉が面と向かって少将にそんな口をきくなんて、とんでもないことですどんな処罰を受けるかしれないのに。
でも山本少将は「もういい、出て行け!」とブチ切れてしまいますが、それでも櫂と田中に謝ってくれるんです。
新造艦の会議でも敗色濃厚だったのに、櫂が閃いて話し始めた途端、「来たっ!」てワクワクした顔になるのもだいぶ可愛くて
平山中将には「一見まともそうに見えるが所詮山本の本質は武人だ、武器があったら使わずにはいられない」などと言われてましたが。
でもなんか憎めない。それが人望があるってことなんでしょうかね
結局、史実は変えられないので日本はアメリカと戦争を始めてしまうわけですが、
山本提督としてはアメリカに打撃を与えて、戦況が優位なうちに終結させる、短期決戦を目指していたのでしょう。
つまり日露戦争のように逃げきろうとしていたのですが、日本は半年持たなかった
さらに山本提督自身亡くなってしまう。
そこからどんどん戦況が悪化して、日本中が空襲で焼け野原になっても、沖縄に上陸されても、
そして不沈艦と信じられていた戦艦大和が沈んでも、いつまでたっても日本は降伏しようとしない。
この後どれだけ犠牲が増えるかわからない。
大和を日本の依り代にしようと計画していた平山中将は絶望して自死を選んでしまいます
原爆を二つ落とされてもなお戦争を止めようとしない連中もいましたからね。
何のために戦争をするのかがもう抜け落ちている。国民がいなくなったら「国家」など無意味なのに。
止められない日本、っていうのは今も同じだなって思います。
「日本のいちばん長い日」っていう映画がありましたが、
あの時は日本に「天皇」がいたから戦争をやめられたんじゃないかと思ってしまいます。
逆に言うと、次に同じようなことが起きた時、止めてくれる人はいるんだろうか、と考えてしまいます
結局責任の所在が曖昧なんですよね、今も昔も。
軍事裁判を自らの手で開いて処断すべきだったのにできなかったのが大きいのかな。
公文書も随分焼かれたみたいですし。今現在も公文書の扱いが雑過ぎで、これでは将来検証できないのに、と思います
舞台「アルキメデスの大戦」は「責任」という言葉が度々使われていて、それがテーマなのかなと思います。
櫂がアメリカに行くのを止めて海軍に入って山本少将に協力するのも、首尾よく建造を阻止したのに海軍に残ったのも。
自分には見届ける責任があると櫂が考えたから。
櫂や田中に「責任を取りたいなら生きなければ、死んだら何もできない」と止められても、
「大和と共に沈んだ人たちに対して他に責任の取り方を知らない」からと平山中将は自殺してしまいます。
日本的な責任の取り方ではありますが、櫂の言うように本当はそれではダメなんですよね。
泣き崩れる櫂。色々なことを見通せる人なだけに、開戦を止められなかった悔恨に苛まれているんだろうと思います。
大和建造の復活にもかかわってしまいましたし。
それに対して、田中少尉は山本提督や平山中将は無責任だ!と怒りを爆発させます。
日本をこんな絶望的な戦争に巻き込んでおきながら「自分たちだけ先に死んで楽になるなんて!」と。
いや一度は山本提督が先に亡くなったのが羨ましい、と言って櫂にたしなめられたこともあったんですが
そして櫂を立ち上がらせて「私たちは生きて責任を取りましょう、末端とはいえこの戦争に関わったものとして。」
櫂に「どうしたらいいかわからないんだ」と言われると、
「忘れないこと、記録すること、自分たちの失敗を語り継ぐこと」
日本に二度と同じ過ちをさせないために、まずはそこから始めましょう、と櫂に提案します。
そうして二人が固い握手を交わして終幕でした。
その握手について一幕の初めの方、まだ櫂を信じていなかった田中少尉が、それでも戦艦建造を阻止するには櫂が必要と割り切って、
(それを実際口に出します)「あなたを支えます、何でもします。」と言って握手した時は、
櫂の方から有難うと手を出すのを、両手で握って返すんです。
山本少将と握手する時もそうしていたので、詳しくは知らないんですがそれが階級が上の人に対する礼儀なのかなと思います。
でも最後の握手はお互いが出した手をしっかり握り返していますが、二人とも片手で。
階級とは関係ない、信頼しあえる本当の仲間になったんだなと思いました。
田中少尉は天才ではないけれど、精神的にすごく健全で強い人だなと思います。
天才にはできない役割が、彼のような人にはあるんだろうなと思いました。
2年前に中止になったこの公演が、いまこの時に上演されたのは世界の状況を見ていると、必然だったような気がしますね
そして政商と癒着して税金を湯水のように好き勝手に使う軍の上層部を見ていると、まるで今の政府を見ているようでゾッとしました
でも櫂が言うように、戦争に引き入れた一番の責任は軍にあるにしても、
庶民にもまったく責任が無かったとは言えないんですよね。唯々諾々と上に従い続ける国民ではダメだということでしょう。
メディアもあてにならなかったりするので難しいですが、自分で情報を収集して自分で考え、行動する力をつけなければ、
再び同じ過ちを犯すことになるのではと思いました。
この公演配信のアナウンスも円盤の告知もありませんね
なるべく沢山の人に見てほしいなと思うんですが。
開演前、海の底のようなほんのり薄青い舞台から、ず~っと波の音が聞こえてました。
前にもどこかで聞いたような???って、今年観た拡樹くんの舞台「死神遣いの事件帖」と同じでした
時代背景も物語のテイストも、真逆と言っていいくらい違うのに波の音から始まるんだ~と思うと面白かったです