長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『英雄の証明』

2019-11-16 | 映画レビュー(え)
 
今や英国映画界の重鎮とも言えるレイフ・ファインズの監督デビュー作は英国俳優らしくシェイクスピア劇の映画化だ。沙翁後期の悲劇『コリオレイナス』をセリフはそのままに現代へと置き換えた本作は諸作と同様、難なく現代にフィットし、多くの物を映し出している。貧困に喘ぐローマ民衆のデモは公開当時のギリシア危機や、昨今さらに深刻化する格差問題を想起させる。さすが英国俳優、勝手知ったるシェイクピア劇をそう易々と読み違えたりはしない。

『コリオレイナス』は沙翁の諸作と異なる人物配置が特徴の作品だ。現代で言うタカ派軍人のコリオレイナスが2つの派閥の間で立ち回る事ができず翻弄され、自滅していく。彼はハムレットやマクベスという際立った個性の主役とは異なり、民意によって善政にも悪政にも成り得る民主主義のメタファーに見えるのだ。

原作ではそんなコリオレイナスの運命を左右する民衆達にページが割かれているが、ファインズはこれらをバッサリ削ぎ落している。自ら主演を務める彼の演技的欲求がそうさせたのか。悲運を辿るコリオレイナスのヒロイズムが優先された映画化である。


『英雄の証明』11・英
監督 レイフ・ファインズ
出演 レイフ・ファインズ、ジェラルド・バトラー、ブライアン・コックス、ジェシカ・チャステイン、ヴァネッサ・レッドグレーヴ
 

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