長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ボーダーライン』

2016-12-05 | 映画レビュー(ほ)

 現在、『ブレードランナー』続編が待機中のカナダの鬼才ドゥニ・ヴィルヌーヴがその実力を十二分に発揮したサスペンスアクション。
 冒頭から神経衰弱ぎりぎりの緊迫感で見る者を圧倒し、異界のようなメキシコの地獄めぐりに引きずり回す。『灼熱の魂』
『複製された男』『プリズナーズ』ほど物語に粘着性はないが、2度目のタッグとなる名手ロジャー・ディーキンスのカメラ、ヨハン・ヨハンソンのサスペンスフルなスコアを得てよりサスペンス作家としての成熟を示した格好だ(それにしてもヨハンソンの前作は「博士と彼女のセオリー」という振れ幅!)。

舞台はアメリカとメキシコの国境地帯。エミリー・ブラント演じるケイト(『オール・ユー・ニード・イズ・キル』直後のシャープで研ぎ澄まされた身体がアクションに映える)率いるFBIはカルテルのアジトで床や壁に埋め込まれたおびただしい数の死体を発見する。この残忍な手口こそ“カルテル”のやり方だ。彼女はその義憤と経験を買われ、CIA主導の特捜班に組み込まれる事となる。

始めこそジョシュ・ブローリンがのらりくらりと率いるこのチームの正体はわからないが白昼堂々、大渋滞のハイウェイで銃撃戦を繰り広げる大胆で凶悪な対外活動こそまさにCIAがこれまで中東で行ってきたそれであり、自国に都合の良い状況を作り出すために他国を侵害するアメリカのやり方である。原題“SICARIO”とはスペイン語で“殺し屋”を意味し、劇中でベニチオ・デルトロが扮する幽霊のようなヒットマンを指すが、同時に“殺戮者”という意味も持つ。それは他国に侵略、介入し、殺戮の上に押しつけの民主主義を築き上げてきたアメリカを指しているのだ。

デルトロ扮するアレハンドロはメキシコを“狼の国”と言う。
 かつて作家のコーマック・マッカーシーは真なる狼が住んだ土地としてメキシコを神聖視したが、今や野獣の国である。人であり続けるか、獣になるか。そんな善悪の彼岸を観客に突きつけるデル・トロは後半、実質上の主役として場をさらう凄味を見せた。陽の下では生きられないようなスリーピングアイズが人殺しの目付きへと変わる戦慄。そんなアレハンドロが娘とも妻ともダブらせるケイトとの言葉にならない関係性が、クライマックスに深い余韻をもたらしている。


『ボーダーライン』15・米
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演 エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン
 

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