昨年の12月に新井高子が主宰する季刊雑誌『ミて』(第117号)に寄せたエッセイです。
「死者のいる風景(番外編)——−ハバナの12月」 越川芳明
キューバのハバナに来てまだ2週間だが、12月は黒人信仰「ルクミ」(サンテリアとも呼ばれる)の儀式がそこかしこである。
儀式といっても、キリスト教みたいにどこか決まった教会や礼拝堂でやるわけではない。民家の中でプライベートにおこなうので、伝手(つて)がないと入れない。
私が泊まっているのは、ニューヨーク・シティのロア・イースト・サイドみたいに、道路はごみだらけで人でごった返すハバナの下町で「セントロ」と呼ばれる地区だ。
カサ・パルティクラルと呼ばれる下宿を経営しているのはブランカという中年の白人女性で、夫のガブリエル(愛称ガビー)は「ルクミ」の司祭(ババラオ)だ。
二年前の夏に「マノ・デ・オルーラ」という入門の儀式をおこなって、擬制の親子関係を結んだ。ガビーは私より二十歳ちかく年下だが、私の「パドリーノ(代理父)」である。
私にとっては、まるで私塾に寝泊まりしているようなものだ。分からないところがあれば、すぐに「師匠」に訊くことができる。家で儀式があるときは、身近で見ることができる。
夜遅くハバナに到着した日に直接訪ねていき、泊めてもらった。お土産の白いアディダスのスニーカーを渡して談笑していると、パドリーノが言った。
「あさって、マノ・デ・オルーラがある。三日目のイファ占いだけど」
ということは、きょう動物の生贄(マタンサ)の儀式をおこなっていたわけだ。何を屠ったのか訊くと−−−−
「雄鶏を8羽」という返事だった。
(つづく)
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