フランゼンより一世代上のポストモダン作家、ロバート・クーヴァーはやはり中西部のスモールタウンを舞台にした『ブルーニストの起源』(未訳、一九六六年)を書いている。
黙示録的世界の到来を待つ狂信的なキリスト教徒、それを迫害しようとする地元民など、登場人物の一人ひとりに焦点をあて、その心の内側からアメリカ的価値観の対立を風刺的に描きだす。
フランゼンもまた、もっとも保守的だと言われる中西部を基点にして、そのステレオタイプなイメージの背後に潜む矛盾や病理を登場人物の人格(パーソナリティ)を通じて風刺的に描く傑作小説『コレクションズ』を書きあげた。
フランゼンは現代小説の登場人物に関して、面白いことを語っている。
「リルケは人格が存在しない、あるのは交差する様々な領域であるという、ポストモダン的な洞察を予見していた。
すなわち、人格というのは社会的に構成されるものであり、遺伝子によって構成されるものであり、言語的に構成されるものであり、後天的に子育てによって構成されるものなのである。
(中略)それは生々しく、恐ろしく、底なしの何ものかなのだ。
それは村上春樹が『ねじまき鳥クロニクル』の井戸でさがしているものだ。
それを無視することは人間性を否定することに他ならない」と(『パリス・レビュー』二〇一〇年冬号)。(了)
ジョナサン・フランゼン(黒原敏行訳)『コレクションズ』(早川文庫、2011年8月刊)の解説
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