来てみればほゝけちらして猫柳 細見綾子
近くの公園で、猫柳が芽吹きだした。紅い殻を破るように、白い産毛がのぞいていた。少しでも多く陽光を呼吸しようと懸命な顔つきだ。枝はゆっくりと揺れ、人を誘っているようだった。
綾子の句は猫柳の花も終わりのころ。肋膜炎を患い、郷里丹波で静養中のもの。少し回復して、やっと歩けるようになったので散歩に出た。しかし猫柳の花の盛りは終りに近づいていた。期待は外れたが、新しい発見があった。蕊が露わに「ほゝけちらした」猫柳がむしろ新鮮だったのだ。
後年「つつましいものにも、こんな成熟のしかたがある」とこの句の背景を述懐している。
昭和二年、23歳の作。処女句集『桃は八重』所収。
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一行詩の紹介
じゃんけんはパーのみだして、花辛夷 やーこ
子宮で泣き、子宮で笑って卒業す らん子
芽吹きの野が、左回りの風と遊んでいる よひょう
気づけば、スズメに取り囲まれている 徒歩
地中に飽きた虫が、若草をノックしている 幹助
******************************詩の紹介
働く女 布野ボン太
他人の眼ではこの中年女は
ずいぶん苦労しているように見える
この女の辞書には苦労という言葉は
きっとないのだろう
春風に微笑を返し
お日様の温みに感謝している
近くに子供たちが
菜の花を摘んで
お飯事をしている
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