住宅顕信の15句 制作年、順不同)
降りはじめた雨が夜の心音
ずぶぬれて犬ころ
何もできない身体で親不孝している
若さとはこんな淋しい春なのか
立ちあがればよろめく星空
月明り、青い咳する
湯上りの聞こえぬ耳からふいてやる
窓に映る顔が春になれない
月が冷たい音落とした
気の抜けたサイダーが僕の人生
夜が淋しくて誰かが笑いはじめた
子には見せられない顔洗っている
ふと父の真似を子が爪をかむ
病んでいる耳に友の死を告げられた
人焼く煙突を見せて冬山
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★住宅顕信(すみたく・けんしん)の紹介
1961年、岡山県生れ。本名晴美。
87年、骨髄性白血病のため夭折。享年25歳。
創作期間は死の直前までの二年八ヵ月。句数は280余り。
尾崎放哉に心酔す。
精神科医、香山リカ等の働きにより、広く世に紹介される。
『十代はリーゼントにサングラス。つっぱっていた
十六歳で年上の女性と同棲。二十二歳のとき出家得度、そして結婚
翌年、白血病を発症。離婚。病室での育児。三年後死去』
〈住宅顕信読本〉中央公論新社、著者小林恭二ほか、より
句集に『未完成』(弥生書房)がある。