透水の 『俳句ワールド』

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春昼のオルゴール  木下夕爾の一句     高橋透水

2014年03月12日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
 春昼のすぐに鳴りやむオルゴール      夕爾

 ネジを巻いてもすぐにオルゴールが鳴りやむのか、古くて思いのままにならないのか、一読して何やら危うい感じのする句である。夜中でなく昼間という設定がむしろドラマ性を効果的に醸し出している。
 夕爾には「春昼」また「春の昼」を季語にした句が何句かある。

  春昼を来て木柵に堰かれたり
  春昼や坐してゐてたれも身じろがず

  春昼のつつじの花のもてる影
  春昼の波さわ立ちて岩を越えず


 また音に敏感だったのか、

  春暁の大時計鳴りをはりたる
  鐘の音を追ふ鐘の音よ春の昼
  ピアノの音まろぶ遅日の芝の上
  厨水暮春の音をなしにけり


等がある。
 夕爾の句は全体に詩的で情緒的であるが、スリリングな面も持っている。〈よく折れる鉛筆の芯春の蝉〉や特に〈遠雷やはづしてひかる耳かざり〉は、まさにドラマ性を演出している。これは〈子のグリム父の高邱春ともし〉にあるようにグリム童話の影響があるのだろうか。グリム童話にある恐怖性だ。
 しかし鑑賞句は子供が古びたオルゴールを飽きもせず鳴らしている光景とすると、優しい父親像を感じもする。俳人であり詩人である夕爾の感覚は、優しくも鋭いものだ。

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木下夕爾の詩も紹介します。

 踏切にて
   かたんと遮断機が降りて
   私を立止まらせる場所
   うらうらとした春の日の
   私の思いを切断する場所
   麦が青く菜畠が黄いろく
   電車が遠い潮騒を連れてやってくる
   ああ今二本のレールとともに光り走って来て
   私に突き刺さるものは何だろう
   そらまめの花の黒い眼のように物言わず
   亡霊のようにそこにむらがって
   私を見つめているのは誰ですか


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