透水の 『俳句ワールド』

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蕪村はその時、どこにいたか(二)    高橋透水

2014年03月02日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史

 まず、蕪村の菜の花の句を何句か紹介します。

菜の花や和泉河内へ小商
菜の花や油乏しき小家がら
なのはなや昼一しきり海の音
菜の花や鯨もよらず海くれて
菜の花に僧の脚半の下がりけり


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蕪村はその時、どこにいたか(一)の続き

 蕪村の「菜の花や・・・」について、面白いことがあるという、便利屋の言葉を皆は待った。三十代なのに、髪が薄い。
 と、その時である。ジャズが消え、「♪菜の花ばたけーに 入りに薄れ・・・」
とボリュームの高い音楽が、店内に流れた。蕪村の菜の花の句に、気を利かしたマスーターがBGを切り替えたのだろう。店内がぱっと明るい気分になった。
音楽好きなマスターが体を揺らすと、誰となく歌いだした。情報提供マンの便利屋も歌いだす。楽しいことがあれば、先ずそちらが優先。

 「♪見わたす山の端 霞ふかし
  春風そよふく 空をみれば   
夕月かかりて においあわし」
 歌い終わると訳も分からず、みなで乾杯した。
 興奮が衰えない。
「菜の花の句といえば、木下夕爾の〈家々や菜の花いろの灯をともし〉がある。この句のほうが庶民的な絵の世界を感じるね」
物知りが薀蓄をかたむけた。「ちなみにこの句は昭和二十三年作で『遠雷』所収されたんだがね」
「ほう!」と一同。
「菜の花いろがいいね」
「でも、その句に季語がないんじゃない!?」
「いいんだよ、そんなこと。季感があればいいんだ」
「なんで、季語季語っていうのよ。俳句がよければそれでいいじゃないの」
「いいじゃないの、幸せならば・・。で、どんな記事があったの」
 やれやれ、やっと皆はパソコンの画面を覗き込んだ。

 成るほど興味深い情報だ。少し長いのですが、下記に記しましたので付き合ってください。

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   菜の花や月は東に日は西に 

は安永三年の三月二十三日に詠まれた句だとされます。
 この日付をグレゴリオ暦で表せば、1774/5/3となります。もうちょっと先の
 季節に詠まれたことになりますが、この句がその日の眼前の風景を詠んだも
 のでは無いことは確実です。理由は詠まれたその日付です。
旧暦二十三日
 この歌が詠まれた日付は当時の暦で三月二十三日です。
 ご存じのとおり当時使われていた暦は新月の日を朔日とする太陰太陽暦です
 から、その暦で二十三日の月がどんな月かを考えると、この句の情景がその
 日には見えるはずのないことに気が付きます。
当時の暦で二十三日の月というと、ほぼ下弦の半月で有ったことが判ります。
 この辺は、さすがに日刊☆こよみのページの読者の皆さんには常識ですね。
 さらにこのメールマガジンの読者の皆さんには常識である知識からすると、
下弦の半月が昇る時刻は、真夜中の零時頃だ
 ということが判るはず。ちなみに今年(2009年)の旧暦三月二十三日は4/18
 ですが、この日の月の出の時刻は午前 1時 7分。真夜中です。
つまり、この日に「月は東に日は西に」という句のとおり、日が西に傾く夕
方に月が東の空に昇るというようなことはあり得ません。
 つまり、この日の夕方に菜の花畑の真ん中に立ってもこの句の情景は見える
 はずが無いのです。
(チャンスは満月の頃
 では「月は東に日は西に」という情景が見えるチャンスはいつ頃かというと、
 それは満月の前後。月と太陽の両方が見えることを考えると、満月かその二
 三日前が一番のチャンスといえそうです。
さてでは今日(2009/04/09)の月はどんな具合かというと、「満月」でした。
 「月は東に日は西に」の今月のラストチャンスでしょうか。
 今日の日没と月の出の時刻を計算してみると、
日没 18時 9分
  月出 17時57分 (いずれも計算地、東京の場合の数値)
 つまり、月が出てから10分ほどは「月は東に日は西に」という状況が見られ
 ることになります(もちろん、どちらも地平線、水平線が見えるような場所
 での場合ですけれど)。
 明日(4/10)の月の出は日没後となりますので、今日が今月の本当にラスト
 チャンスの日ということになりますね。)

◇蕪村が菜の花畑で月と日を眺めた日は?
 蕪村がこの句を実際にみた情景を思い出して詠んだとすれば、実際にこの情
 景を目にした日はいつかと考えると、おそらくはその月の十日~十五日ぐら
 い(当時の暦で)のこととではないかと考えられます。
その該当する日をグレゴリオ暦の日付で考えると、1774/04/20~04/25 頃と
 なります。
 菜の花の季節としてもまずまず。これで月と太陽の条件がそろって、
菜の花や月は東に日は西に
という句の元となったのではないでしょうか?
 さあ、今日の「月は東に日は西に」の情景を、皆さんはどんな場所で眺める
 ことになるのでしょうね?
(『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2009/04/09 号
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