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杉田久女の一句鑑賞(一)         高橋透水

2014年03月09日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
  歯茎かゆく乳首かむ子や花曇     久女

子の成長の喜びを花曇りの景のなかで、「乳首かむ」子の一点に絞って表現した。久女の初期のころの句であるが、乳子を育てた経験のある女性には共感できる句だろう。乳歯が目立ってきても胸をまさぐりお乳をねだる子。乳首を与えると、歯茎を擦り、あげくの果て乳首を噛んできた。「イタッ!」と悲鳴をあげるが、ここまで成長したのかと思うと痛さも喜びに変わる。誠に微笑ましい光景である。
 ところで授乳という母子の対話は、男性には未知の世界である。特に「歯茎かゆく」がわからないので、伊藤敬子著・「杉田久女」牧羊社を参考にさせていただくことにした。「生後半年をすぎるころ、個人差は大いにあるが乳歯が前歯の下顎に二本生える。その乳歯が生える前に歯茎がうづいてかゆい感じをもつらしい。・・・乳児は歯茎のかゆいのを母乳の乳首を噛むことによって癒すのだ」と解説していることは、大いに鑑賞に役立った。またこの句の制作年代は大正7年から昭和4年の間としている。

 ここで、久女の年譜を見てみると、
1907年(明治40)17歳。お茶の水高等女学校本科卒業。
1909年(明治42)19歳。8月、杉田宇内へ嫁す。宇内は愛知県西賀茂郡小西村出身。東京美術学校西洋画科卒業後、福岡県立小倉高等学校教師。小倉市に住む。
1907年(明治44)21歳。8月、長女・昌子生る。
1916年(大正5)26歳。8月、次女・光子生る。秋ごろ、次兄より俳句の手ほどきをうける。

 この経歴から察するに、鑑賞句は長女昌子でなく次女光子の授乳時の句であろうと思われる。

  入学児に鼻紙折りて持たせけり
 これも次女光子の入学式の朝の光景を詠ったのだろう。入学する子供を見送る不安と期待の親心。「鼻紙折りて持たせ」が全てを物語っている。子供はそうした親心を敏感に感じる。子供の感受性は親の想像を越えている。

★久女の初期の俳句を紹介します。
 
  春寒や刻み鋭き小菊の芽
  揃はざる火鉢二つに余寒かな
  小鏡にうつし拭く墨宵の春
  春の夜のねむき抑へて髪梳けり
  鉄瓶あけて春夜の顔を洗ひ寝し
  菓子ねだる子に戯画かくや春の雨
  春襟やホ句会つヾくこの夜ごろ
  草摘む子幸あふれたる面かな
  姉ゐねばおとなしき子やしやぼん玉
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