山間の交換駅で待っていた上り列車は「三つ葉のクローバーイエロー」のデザイン。
飛騨で生まれたファブリックブランド Bibbidi Bobbidi Fabric のラッピング列車が可愛らしい。
恵那にやってきたのは何年ぶりだろう。
どうやら2014年の桜のころ、馬籠宿から落合宿、中津川宿を経て大井宿(恵那)まで歩いている。
朝の凛とした空気の中、まだ雪を残した恵那山が美しかったのを思い出す。
8両編成が行き交う中央本線を横目に、明知鉄道はもちろん単行のディーゼルカー。
橙にクリームのラインを引いた100形は2016年の新潟生まれ、美濃の水には慣れただろうか。
チリリンと風鈴の音が聞こえてきそうな涼しげなヘッドマークをつけて、
今どきの若い娘(ディーゼルカー)は案外静かに走り出すのだ。
玉に瑕なのはオールロングシート、旅情という趣を大切にしてもらいたいものだ。
それでも呑み人は、高校生が降り切ったら、プシュッとラガーを開けてしまう。
一度は訪ねてみたい「極楽」は、朱の待合室に金色の觔斗雲(きんとうん)を載せ、中には阿弥陀様?
後光が挿したようなモニュメントがあって、あっベンチも觔斗雲だね。
やがて橙のディーゼルカーは岩村駅に到着する。すでに疎な乗客も半分はここで下車してしまう。
岩村町(すでに恵那市と合併している)は人口約5,000人、江戸時代には岩村藩が置かれた城下町だ。
永野芽郁さんがヒロインの連続テレビ小説「半分、青い。」の舞台といえばお分かりいただけるだろうか。
駅から岩村城跡へ続く1.3kmの本通り沿いに広がる旧家に商家、路地へ入ると見かけるナマコ壁、
江戸から明治の面影を残す旧い町並みに、ゆったりとして穏やかな暮らしを感じることができる。
町並みの中 “女城主” の岩村醸造さんは1787年(天明7年)創業の蔵、“あま酒ソフトクリーム” をいただいた。
ナマコ壁の路地を抜けたあたり、紫に染めた暖簾の食堂で一息。
冷やでいただくのは “女城主” の特別本醸造、なるほどまろやかで旨味のある酒だね。
アテの “枝豆” は茹でたてに塩をふって登場、これは嬉しい一品だ。
いつまでも暑いから、旅先のお昼はなんとなく蕎麦になる率が高い。いや年齢のせいでもあるか?
片田舎の蕎麦屋さんと言ったら失礼だけど、こちらの天ぷらは素晴らしく美味しい。
地の野菜をカラッと揚げて塩だけでいただくといい。これも酒がすすむアテになる。
本通りを上り詰めて岩村城(霧ヶ城)に辿り着く。とはいえここは登城口にすぎない。
標高717m、高低差180mの天嶮の地形に張りついた要害堅固な山城へは、さらに登らないといけない。
吹き出す汗と列車の時間を言い訳に引き返す太鼓櫓、今夕は薪能が演じられるという。
本通りを下り切ったころ、ほどなくさっきと同じ橙が1両で入線してきた。
なかなか出発しないと思ったら、大袈裟に車体を揺らして上りの恵那行きがやってきた。
ようやくシグナルに青が点って、明知鉄道の後半の旅をゆく。
いよいよ勾配もキツくなり、エンジンの音も心なしか低くなったようだ。
っと “女城主” のカップ柚子酒を開ける。シャーベット状態で買ったのにすでに温い。
くすぐる柚子の香り、ほどよい揺れに身をまかせたら、終点までの20分はあっという間だ。
小さなピークを越えて橙の単行ディーゼルカーが山を降り始める。やがて夕暮れ迫る明智駅だ。
駅舎にはこれまで様々走らせたイベント列車のヘッドマークが並んでいる。
かつて蚕糸産業が盛んだった明智町(現在は恵那市)は、建物や風景その町並み大正時代の風情が残っている。
かつての村役場は明治39年の建築というから、なるほどちょっとモダンな大正はこんな感じか。
旧明智郵便局(逓信資料館)も漆喰、腰板張を青くペンキ塗りして雰囲気を醸し出している。
静かな盆地と濃尾平野を隔てる低山に夕日が沈んで、25キロ50分の短い明知鉄道の旅は終わる。
江戸から明治そして大正の町並みを訪ね歩いて、なんだかずいぶん長く旅をしたような気分なのだ。
明知鉄道 恵那〜明智 25.1km 完乗
<40年前に街で流れたJ-POP>
さらば・・夏 / 田原俊彦 1983
幼少の頃は年に2回、夏休みと冬休みに帰るのを心待ちにして都会の生活をしていました。そして14年前の結婚後、夫婦で毎年訪れていた思い出の地
当然、明智鉄道の前身である国鉄明知線にも数限りなく乗った覚えがあります。そう、(大変恐縮ですが)、明知と明智の字も会社名、駅名、町の名と違うわけです
でも岩村を始め、久々に懐かしい風景が見られました。本当にうれしく思います
コメントが入ると思っていましたよ。ZUYAさんから。
でもまさかの校正が入るとは思ってもみませんでした。
有難うございます。
少し利口になりました。お恥ずかしいです。
ゆったりと時間が流れるステキなところですね。
次の機会には五平餅やらカステーラやらあまからやら、
食べてみたいと思うのです。