多くの軍人が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えているとして病院で治療を受けている。彼らの抱える苦しみは「何も起きていない」という言葉では説明できない。

2025-03-04 15:17:37 | 尹大統領は、おかしいね!
 

戒厳に動員された韓国軍人たち

「トラウマに苦しんでいる」100人余りが精神治療受け

登録:2025-03-04 08:26 修正:2025-03-04 09:51
12・3内乱「真実と嘘」 
内乱の残した傷
 
 
国会本会議が非常戒厳解除案を議決した昨年12月4日未明、軍の兵力が国会から撤収している/聯合ニュース

 「湖上に浮かぶ月の影を追いかけている感じ」

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は先月4日、憲法裁判所での弾劾審判の5回目の弁論に出席した際、「今回の事件を見て、実際には何も起きていないのに、何を指示しただとか、されただとか」と言いつつ、上のように述べた。この時、証人として出席したイ・ジヌ前首都防衛司令官が自身の刑事事件が進められているからとして沈黙したことを受け、尹大統領は非常戒厳の過程では実際に何も起きなかったと強調しつつ、弾劾訴追した国会側を批判したのだ。

 こうして尹大統領が非常戒厳を合理化する理由を探っている間にも、12・3非常戒厳での任務がどのようなものかも分からずに国会などに出動した軍人たちは、自責の念にかられる中で日々を過ごしている。多くの軍人が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えているとして病院で治療を受けている。彼らの抱える苦しみは「何も起きていない」という言葉では説明できない。

 3日のハンギョレの取材によると、検察の事情聴取に応じた軍人たちは自責の念を抱えていると口をそろえた。国会に出動した陸軍特殊戦司令部のA少佐は「14年間の軍生活に懐疑を抱いた」と語った。A少佐は非常戒厳の当日、部隊員たちとボーリングを楽しんでいたが、夜10時30分ごろに非常召集メッセージを受けて国会に出動し、塀を越えた。しかし市民の抵抗にあい、これといった行動は取れなかった。そのように対峙(たいじ)したことで、何かが間違っていることを感じたという。

 A少佐はその後の検察の事情聴取で、「雰囲気が非常に良くない。私を含めてPTSDでカウンセリングを受けている者は20人いる。家族も大変苦しんでいた。しかし上級部隊は『日常に戻れ』と無責任な面を見せた。非常にもどかしい」と述べた。A少佐とともに出動した特殊戦司令部のB大尉は、「非常戒厳状況後、3~5日間はつらかった。部隊員たちは表面的には平気なふりをしているが、実際はみな懐疑を抱いているようだ」と語った。「議員を引きずり出せ」と指示された特殊戦司令部のC中佐も、「多くの人員がストレスを感じており、100人あまりの兵力が兵営の相談官のカウンセリングと外部の病院の精神治療を受けている」として、「自責の念を抱いており、私もカウンセリングを受け、悔しくて涙が出た」と語った。

 707特殊任務団を乗せて国会に着陸したヘリを率いていた特殊戦司令部のキム・セウン特殊作戦航空団長は、「すべての責任は正確に状況把握もできないまま部下に危険な指示を下した私にあると思う」として、「私がいつまで団長として勤務することになるかは分からないが、私は操縦士が当時抱いた自責の念をすべて回復させてやってから退くつもり」だと語った。

 707特任団のキム・ヒョンテ団長も検察の事情聴取で、「一部の部隊員は軍生活に懐疑を感じ、周りの人たちと会うのを敬遠するなど、苦しんでいた」とし、「PTSDカウンセリングのようなこともおこなっている。我が部隊員たちは政治的な手段として利用されたと考えており、本当に何も知らない状態で単に投入されただけなのに、このような扱いをされていて残念だ」と部隊の状況を語った。

 中央選挙管理委員会に出動した国軍防諜司令部所属の軍人たちは、部隊がまたも「政治的」に利用されたということに自責の念を抱いていた。防諜司の前身である国軍保安司令部は、1979年の12・12軍事反乱の主役だった。当時の部隊長は元大統領の全斗煥(チョン・ドゥファン)だった。国軍機務司令部と名を変えた後の2018年には、朴槿恵(パク・クネ)元大統領の弾劾棄却に備えた戒厳令宣布を計画していたことを示す文書が明らかになっており、セウォル号遺族に対する査察など、部隊が政治的に利用されたという批判が相次いだことで、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に廃止され、軍事安保支援司令部として再創設された。尹大統領の就任後は、防諜司令部へとまたも名称変更された。

 防諜司に所属するD大佐は、「戒厳に防諜司が介入していた可能性があると思って非常に不安だったが、その心配は事実だった」として、「2018年の戒厳文書で組織が瓦解した時に司令部にいた。防諜司内でまたこのようなことがあるとは本当に想像もできなかった」と供述した。

 ノ・サンウォン元情報司令官の主導の下で選管委の掌握任務を担った情報司令部のE少佐は、「加担した人員は私を含めすべての日課が手につかず、パニック状態だった」として、「常に任務遂行と同時に清廉についての研修も受けている。だが今回は非常識な任務が与えられたことで、これまでの研修で形成してきた軍人精神がすべて崩壊してしまったように感じる。このトラウマを抱えてどうやってこれから仕事を続けていけばよいのかも心配」だと語った。情報司のF大尉も「保安が命なのに、このようなことで今まで苦労して積み上げてきたものが崩壊してしまっているようで、情けない気持ち」だと供述した。

クァク・チンサン、カン・ジェグ、チョン・ヘミン、ペ・ジヒョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1185136.html韓国語原文入力:2025-03-04 05:00
訳D.K
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検察の取り調べで、尹大統領から「国会議員の逮捕を指示」されたと供述したチョ・ジホ警察庁長はこの日、証人として出廷し、検察の調書の内容は事実通りであることを認めた。

2025-02-21 12:39:07 | 尹大統領は、おかしいね!
 

尹大統領の弾劾裁判、25日に最終弁論…3月初中旬に判決の見通し

登録:2025-02-21 02:34 修正:2025-02-21 07:23
 
 
20日午後、ソウル鍾路区の憲法裁判所の大審判廷で、尹錫悦大統領の弾劾審判第10回弁論が行われた。尹大統領が弁護人と話し合っている=写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 憲法裁判所は20日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾裁判の証人尋問を終え、今月25日の第11回弁論で証拠調査と最終意見陳述を行い、審理を終えることを決めた。判決は3月初め~中旬ごろに下されるとみられる。

 この日、証人として出廷したハン・ドクス首相は、昨年の非常戒厳宣布時に尹錫悦大統領から「2日後の行事に代わりに出席してほしい」と要請されたと明らかにし、「一日以上の維持が難しい戒厳だった」という尹大統領の主張とはかなり異なる証言をおこなった。ハン首相はこの日、憲法裁判所で行われた尹大統領の弾劾裁判に証人として出廷し、「(非常戒厳宣布の)2日後に貿易協会の『貿易の日』の行事があった。尹大統領から『そこに代わりに出席してほしい』とか、そういうことを言われたと思う」と語った。ハン首相はまた「非常戒厳は半日もすれば解除されると尹大統領が言ったことがあるか」と国会代理人団に問われ、「聞いたことがない」と答えた。尹大統領はこれまでの弾劾裁判の過程で、「どうせ戒厳というものは、長くても一日以上維持されることも難しい」と主張しているが、ハン首相の証言を総合すると、少なくとも非常戒厳を二日以上維持しようとしていたという尹大統領の意図がうかがえる。今月4日に続き2度目の出廷となった国家情報院のホン・ジャンウォン前第1次長は、「逮捕者リストのメモ」をめぐって尹大統領側と攻防を繰り広げた。検察の取り調べで、尹大統領から「国会議員の逮捕を指示」されたと供述したチョ・ジホ警察庁長はこの日、証人として出廷し、検察の調書の内容は事実通りであることを認めた。

 尹大統領はこの日、弾劾裁判に先立ち、内乱首謀容疑で起訴された刑事裁判の法廷に出向き、拘束の取り消しを主張した。ソウル中央地裁刑事合議25部(チ・グィヨン裁判長)はこの日午前10時、尹大統領の刑事裁判の初の公判準備をおこなった。尹大統領は法廷で裁判計画の議論を見守った。続く拘束取り消し尋問で尹大統領側は「拘束期間満了後の違法な起訴」だと主張したが、検察は「有効な拘束期間内に適法に起訴された」と反論した。

オ・ヨンソ、チャン・ヒョヌン、キム・ジウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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非常戒厳時に、クァク・チョングン前陸軍特殊戦司令官は、普段と同様に尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領からの電話に出て敬礼し、その後、「国会から国会議員を引きずり出せ」と隷下の部隊員に指示したという。

2025-02-13 19:48:44 | 尹大統領は、おかしいね!
 

【独自】「団結と叫んで尹大統領と電話、

数百人が聞いていた…引きずり出せと言った」

登録:2025-02-13 01:55 修正:2025-02-13 07:07
 
前陸軍特殊戦司令官の弁護人「『団結』敬礼後、大統領と通話…指揮統制室にいた全員が目撃」
 
 
クァク・チョングン前陸軍特殊戦司令官が6日、ソウル鍾路区の憲法裁判所で行われた尹錫悦大統領の弾劾審判第6回弁論に証人として出廷し、被請求人の尹大統領側の代理人の質問に答えている=憲法裁判所提供//ハンギョレ新聞社

 昨年の非常戒厳時に、クァク・チョングン前陸軍特殊戦司令官は、普段と同様に尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領からの電話に出て敬礼し、その後、「国会から国会議員を引きずり出せ」と隷下の部隊員に指示したという。国会、検察、憲法裁判所での表現が多少異なるとして尹大統領側は証言の信ぴょう性を問題視しているが、クァク前司令官が尹大統領の指示をそのまま伝えていたことを示すものだ。

 クァク前司令官の弁護人は12日、ハンギョレに「(国防部)長官の電話には(クァク・チョングン前)司令官は気軽に出るが、大統領は異なる。あの日尹大統領から2回電話がかかってきたが、すぐに姿勢を正して『団結』と言って敬礼して電話に出た」と明かした。続けて「この様子は指揮統制室の中にいた全員が目撃している」とし、「周囲の人々も大統領からの電話だということが分かっていたので、『引きずり出せ』という(クァク前司令官の)『大統領からの指示についての証言』に誤りがあるはずがない」と説明した。

 クァク前司令官は6日の尹大統領の憲法裁判所での弾劾審判第6回弁論に証人として出廷し、12月4日0時30分ごろに尹大統領が自身に盗聴防止機能付き電話(秘話フォン)で電話をかけてきて、「まだ国会内で議決定足数が満たされていないようだ」、「国会の中にはやく入って議事堂の中にいる者たちを連れて出てこい」と指示したと述べ、検察が起訴状に記した内容は「すべて事実」だと認めた。

 これに対して尹大統領の代理人団は、クァク前司令官が「引きずり出せ」と言われたという対象が要員、議員、人員と変化している、などの理由をあげ、クァク前司令官の主張を攻撃した。尹大統領も6日の弾劾裁判で、「(昨年)12月6日、まさにホン・ジャンウォン(前国家情報院第1次長)の工作と(クァク・チョングン)特殊戦司令官が(共に民主党議員の)キム・ビョンジュTV(ユーチューブ番組)に出演したときから内乱フレームと弾劾工作が開始」されたとして、クァク前司令官の証言に揺さぶりをかけた。

 これについてクァク前司令官の弁護人は、「(尹大統領側は)盗聴防止機能付き電話の記録がないという理由で立証するものがないと考えているようだ」とし、「クァク司令官の話はスピーカーを通じて旅団の指揮統制室に伝えられていた。(この指示を)見聞きした人だけでも数百人」はいると語った。

 クァク前司令官も憲法裁の証人尋問で、「戦闘統制室で(オンライン会議)開始時からマイクがついていた。消さずにいたように思う」とし、「大統領に指示されて話していることが、命令下達時から終わりまで、隷下全体の人員にまで生中継されていた」と述べている。

クァク・チンサン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が7日、与党「国民の力」の議員たちと面会し、「私たちは砂粒になってはならない」とし、党が自分を中心に結集することを求めた。

2025-02-12 13:08:46 | 尹大統領は、おかしいね!
 

ハンギョレ新聞【社説】

自分のために闘えという尹大統領の「獄中政治」、不服を扇動するのか

登録:2025-02-12 06:45 修正:2025-02-12 08:43
 
 
国民の力のユン・サンヒョン議員(左)とキム・ミンジョン議員が7日、京畿道儀旺市のソウル拘置所で尹錫悦大統領との面会後、インタビューに応じている/聯合ニュース

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が7日、与党「国民の力」の議員たちと面会し、「私たちは砂粒になってはならない」とし、党が自分を中心に結集することを求めた。自分の罪を軍人たちになすりつけたうえ、与党に向かっては自分のために闘えという「指令」を下している。12・3内乱事態以後、困窮に直面した国民のことは全く考えず、自分の身を案じるばかりの様子だ。

 尹大統領は同日午前、ソウル拘置所でユン・サンヒョン議員とキム・ミンジョン議員に会い、「(最大野党)共に民主党や左派は強力にカルテルを形成し、執拗に闘っているのではないか」と述べたと、ユン議員が伝えた。また「今は自由民主主義体制の危機」だとしたうえで、「もっと強力な姿勢を貫くことが重要だ」と強調したという。ユン議員は「(尹大統領は)わが党に期待を寄せている」と述べた。自身の罷免を既成事実化した早期大統領選挙の雰囲気にブレーキをかけ、「弾劾反対闘争」に集中せよという要求だ。

 ユン議員によると、尹大統領は特に、「憲法裁(弾劾審判弁論)に出席して良かった」と述べたという。「憲法裁に出席してみて、こんなふうにあまりにも曲解されていることがやっとわかった。憲法裁に出席を決めて良かったと思う」というのだ。だが、憲法裁判所弾劾審判が続くほど、尹大統領の非常戒厳宣布および国会・選管委の侵奪、政治家逮捕指示など違憲・違法行為が明確になっている。にもかかわらず、尹大統領は依然としてこれを野党の「内乱フレーム」による「曲解」だと言い張り、自身の行為が正当だったと強弁している。また、憲法裁で嘘と詭弁、そして部下に責任を押し付けるような尹大統領の赤裸々な姿を見て、ため息をつく国民が多いのに、尹大統領はまるで全く別世界で生きているようだ。

 前日の弾劾審判第6回弁論で、クァク・チョングン前特殊戦司令官は、「戒厳当時、尹大統領とキム・ヨンヒョン国防部長官から撤退を指示されたことがない」と証言した。尹大統領が戒厳令を「野党に警告するため」だと言い張り、「戒厳解除の決議が出るやいなや(戒厳軍の)撤退を指示した」と主張した内容と真っ向から対立する。国会の無力化を試みた主な証拠である「国家非常立法機構の予算編成」指示文書も、尹大統領が実務者を通じて渡したと、チェ・サンモク大統領権限代行が内乱国政調査特別委員会で繰り返し確認した。 「メモを渡したこともなく、しばらくしてから報道を見て知った」(1月21日)という尹大統領の主張と食い違う。

 守勢に追い込まれた尹大統領は、自分の弾劾審判を「政治工作」と主張している。政治家逮捕の指示を暴露した国家情報院のホン・ジャンウォン前1次長と、「国会議員を引きずり出せ」という指示を一貫して証言しているクァク・チョングン前司令官が野党と結託したという根も葉もない陰謀論を展開している。 同時に憲法裁が「曲解」しているとし、弾劾審判の結果に不服する可能性までちらつかせている。尹大統領は3日の与党指導部との面会に続き、7日に12・3内乱に同調しているユン・サンヒョン議員とキム・ミンジョン議員に会うなど、「獄中政治」を通じてこのようなメッセージを積極的に広げている。嘘と詭弁に加え、国民を引き裂こうとする扇動をいつまで我慢しなければならないのか。

(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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実際の狙いは自身と妻の刑事処罰の回避と、立法と選挙事務の掌握を通じた政権延長だった可能性がある。残りの弾劾審判弁論では、これについての調査と尋問がなされるべき」と述べた。

2025-02-07 13:18:17 | 尹大統領は、おかしいね!
 

「夫人リスクで窮地」の尹大統領、

10月に戒厳軍選抜…「長期政権も計画か」

登録:2025-02-07 02:38 修正:2025-02-07 09:46

 

尹大統領の起訴状に記された戒厳軍選抜の開始時期「10月14日」
 
 
尹錫悦大統領が6日、ソウル鍾路区の憲法裁判所で行われた弾劾審判第6回弁論に出席し、目をつぶっている=写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が内乱の首謀者という容疑は明らかだ。すべての取り調べに応じていないが、事実上、自白に相当する数々の発言をしている。国会の解散を前提とした非常立法機関の設置、ハンギョレなどの批判的な報道機関の封鎖など、国憲紊乱(びんらん)を目的としていたことと暴動の証拠があふれている。

 ただ、そのためか、起訴状では尹大統領が内乱という罪を犯した「直接的動機」が相対的に明確になっていないと評されている。この隙を突いて尹大統領は「野党独裁に対する警告のための戒厳」だったとの無理な主張を繰り返しているというのだ。長期間にわたる内乱謀議と順次実行、国会の解散と中央選挙管理委員会の掌握の試みなどに照らしてみると、内乱の直接の目的の全体像については「自身とキム・ゴンヒ女史の刑事処罰の回避」はもちろん、検察と軍を前面に押し立てた「尹錫悦式の長期政権」を思い描いていた可能性も調査すべきだ、とも指摘されている。

 検察は、A4用紙で101ページに達する起訴状で、国政状況についての認識▽軍の主な指揮官の集まりと政治状況の不満の吐露▽発言の強硬化などに項目を分け、巨大野党に対するコンプレックスと不正選挙だったとの妄想にとらわれた最高権力者が「自己催眠的国家非常事態宣布」に至る過程を説明している。犯行の動機とみなしうる部分には7ページほどが割かれている。

 起訴事実によると、尹大統領は昨年3月ごろからキム・ヨンヒョン前国防部長官(当時は警護処長)らに、軍部を動員した非常大権(大統領の権限)など、非常戒厳を念頭に置いたような発言をしはじめた。尹大統領は、非常戒厳を最終的にいつ決意したかについて「11月29、30日ごろ」(2月4日の弾劾審判弁論)と主張している。「監査院長の弾劾案が提出されるとの話が出てきた際に、キム・ヨンヒョンに戒厳の話をした」という。尹大統領は12・3非常戒厳宣布談話、12・12国民向け談話などで、戒厳宣布の理由として、監査院長と検事の弾劾▽予算削減▽不正選挙の確認、などをあげている。

 チェ・ジェヘ監査院長は、大統領官邸移転の違法疑惑に対する手抜き・でっち上げ・手加減監査で問題になった。民主党がチェ監査院長の弾劾の推進を表明したのは昨年11月1日、弾劾訴追案が国会本会議に上程されたのは11月28日だ。キム・ゴンヒ女史のドイツモーターズ株価操作事件を嫌疑なしとしたソウル中央地検のイ・チャンス地検長らに対する弾劾推進と本会議への上程も、同じ時期に行われている。民主党は、2025年度政府予算案の審査を前に、検察の特殊活動費の全額削減などを予告していたが、国会予算決算特別委員会で増額なしの減額案が野党単独で処理されたのは昨年11月29日だ。

 尹大統領は国政状況に対する不満がつのり、打開策としての戒厳の必要性について「苦悩」した末、それを最終的に決意したのは「11月29日」だと主張する。これは事実でない可能性が高い。非常戒厳の宣布を前提とした尹大統領の具体的な準備は、少なくともその45日前から実行されていた。

 尹大統領の起訴状によると、戒厳軍の実際の選抜は、2024年10月14日まで遡ることができる。

 起訴事実によると、キム・ヨンヒョン前長官は昨年10月14日ごろ、ムン・サンホ国軍情報司令官に「ノ・サンウォン将軍がやる仕事を手伝ってやれ」と指示したという。キム前長官とノ・サンウォン元情報司令官は、中央選管の職員の不正選挙関与疑惑を捜査することを目的とした「戒厳司令部傘下の第2捜査団捜査第2、第3部」の要員の選抜を計画していた。キム・ヨンヒョン→ノ・サンウォン→ムン・サンホ→情報司令部のキム・ヨングン大佐などへとつながる秘密のラインが稼動し、(特殊任務隊の)HID所属要員の選抜と中間報告がなされたという。検察はその時期を「2024年10月中旬」であると把握している。

 大統領関連事件の捜査経験を持つ元検察官の法曹人は6日、「民間人のノ・サンウォンは陸軍士官学校の先輩であるキム・ヨンヒョンの指示のみによって動いていた。キム・ヨンヒョンは尹錫悦の指示を受けて動いていた。戒厳司令部合同捜査団の傘下組織である第2捜査団が本格的に組織されはじめたといわれる2024年10月中旬は、尹大統領が戒厳宣布の理由としている監査院長と検事の弾劾案の提出や、民主党による予算削減よりも前だ」と指摘した。

 
 
尹錫悦大統領が6日、ソウル鍾路区の憲法裁判所で行われた弾劾審判第6回弁論に出席し、考え込んでいる=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 「2024年10月中旬」の政治・安保状況は、尹大統領を窮地に追い込んでいた。

 キム・ゴンヒ女史のドイツモーターズ株価操作事件に対する検察の嫌疑なしとの判断を前に、野党はもちろん、与党からも圧力が強まっていた。与党「国民の力」のハン・ドンフン代表(当時)は、龍山(ヨンサン)の大統領室内のキム・ゴンヒ女史系関係者を念頭に、大統領室の人的刷新を要求していた。ミョン・テギュン氏による「尹錫悦、キム・ゴンヒ夫妻と大統領選挙を前に毎日電話していた」との暴露もあった。国政監査では、監査院による大統領官邸移転疑惑に対する手抜き・でっち上げ・手加減監査が集中砲火を浴びていた。

 北朝鮮は、ビラに続いて平壌(ピョンヤン)上空に韓国の無人機が侵入したとして、「戦争勃発の導火線」、「対応報復」、「恐ろしい惨事」を予告し、波紋が広がっていた。これを否定せず黙認、ほう助する尹錫悦政権の意図が強く疑われていた時期だ。国軍防諜司令部が内乱・軍事反乱犯である全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)の写真を掲げていたことも明らかになっていた。

 尹大統領は「巨大野党の議会独裁に対する警告のための戒厳」だったと主張しつつ、監査院長の弾劾訴追案の提出が非常戒厳宣布の決定的ボタンだったと述べたが、それよりはるかに前から秘密組織を通じて戒厳軍の選抜に着手していたのだ。

 野党のある議員は「非常立法機関の設置構想などに照らしてみると、単なる不正選挙疑惑の確認ではなく、長期政権を計画していた可能性もある」と述べた。尹大統領をよく知る元検察官の弁護士は、「尹大統領は検察時代から不正選挙を疑っていたというが、ならば検察に捜査させておけばよかったのだ。今になって不正選挙疑惑の確認や野党に対する警告を語るのは、後からとってつけた言い訳であり、実際の狙いは自身と妻の刑事処罰の回避と、立法と選挙事務の掌握を通じた政権延長だった可能性がある。残りの弾劾審判弁論では、これについての調査と尋問がなされるべき」と述べた。

キム・ナミル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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