英国レディング大学のポール・ウィリアムズ教授の研究チームの調査によると、北大西洋と米国路線での深刻な乱気流の発生時間は、1979年の17.7時間から2020年には27.4時間へと54.8%増えている。

2025-02-08 09:09:05 | 科学最前線
 

空路には「地雷」増え、海路には安全地帯なし(1)

登録:2025-02-06 09:55 修正:2025-02-08 08:12
全知的気候変動の視点 
空路、海路の目撃者たち(4)
 
 
L機長が運航中に自ら撮影した積乱雲周辺の落雷発生の様子。強い上昇気流が下降気流と出会って垂直に発達した積乱雲はひょうや強い空気の渦を伴うため、空の安全にとって脅威となる//ハンギョレ新聞社

 「ファンファン(メーデーの前段階の非常信号)、タービュランス(乱気流)発生」

 昨年8月、中国の河北省上空を飛んでいた韓国のA社の民間航空機が、管制塔に緊急非常信号を送ってきた。同機体は1万メートル上空で強い乱気流に遭遇して激しく揺れ、100メートルほど急降下した。一部の乗客は天井に頭をぶつけ、トレーや毛布などの物品が床に散乱した。昨年12月13日、ソウル金浦(キンポ)空港で取材に応じた経歴30年のベテラン、L機長は、「瞬間、あらゆる考えが頭をかすめた」と言って当時を振り返った。機体を早く正常軌道に乗せなければという本能の裏では、激しく揺れる機体の中で乗客が負傷する恐れと、豪雨を避けるための航路変更を承認しなかった中国の管制当局を恨む気持ちが交錯した。幸いにもすぐに高度を回復したため、軽微な負傷者が10人あまり発生しただけで済んだが、あの日の記憶はL機長にトラウマとして残った。

民間航空機で30年の経験持つ機長「近ごろ晴天乱気流増えた」

 L機長にとって、中国北東部の上空は数え切れないほど飛んだ、慣れ親しんだ航路だった。「海に囲まれていて突然の豪雨など気象が急変する東南アジアや太平洋に比べれば、大陸性気候の影響で雨や気象の変化が少ない中国航路は無難なコース」とL機長は説明した。しかし、普段なら晴天が続く時期である8月初めであったにもかかわらず、あの日の河北省上空は台風を伴う強い豪雨に見舞われていた。昨年夏、朝鮮半島に猛暑をもたらした南の気団の勢力が異例にも中国北東部にまで押し寄せ、記録的な豪雨となったのだ。

 「経験したことのない状況だったので、豪雨を避けるため中国の管制当局に航路変更を要請しました。中国の手続きが厳しいうえ、別の飛行機も同航路の行き来に問題がなかったという理由で、承認が下りなかったんです。旅客機に搭載されている最先端の気象観測レーダーとリアルタイム予報データでも予想できなかった乱気流に、なす術もありませんでした」

 
 
飛行機の操縦席から眺めた空は雲だらけだ。飛行の過程では、雲は気流の流れを把握するうえで重要な手がかりとなる=ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 機長たちは通常、雲で気流の流れを把握する。「ゲリラ豪雨のような気まぐれな気象状況が発生する場所には、垂直に伸びる『積乱雲』が発生します。大気が温かいほど積乱雲は高く、大きくなり、積乱雲内部の渦も強くなります。運航中にこのような雲の塊が見えたら緊張するし、何はともあれ避けます」。しかし、近ごろの「晴天乱気流」は雲のない晴れた空に現れる。裸眼やレーダーでは把握できないため、なおさら危険だ。機長たちは、このような乱気流を「空路地雷」と呼ぶ。「文字通り晴天の霹靂(へきれき)です。気候変動のせいで空路にはより多くの、強い地雷が埋まっています」

 晴天乱気流は、航空機が飛行時間を短縮するために「高速道路」として利用する「ジェット気流」の周辺で多く発生する。地球の気温が高まれば高まるほど水蒸気と上昇気流が増え、それに伴ってジェット気流の流れにもずれが生じるが、その過程で晴天乱気流も増える。英国レディング大学のポール・ウィリアムズ教授の研究チームの調査によると、北大西洋と米国路線での深刻な乱気流の発生時間は、1979年の17.7時間から2020年には27.4時間へと54.8%増えている。中強度の乱気流の発生時間も37%(70→96.1時間)増加。米国大気研究センターの研究チームは、1970~2014年に比べて2056~2100年には乱気流の発生頻度が約2倍(高炭素シナリオによる)になるとの見通しを示している。

 空路の危険は年を追うごとにすべての季節へと拡大していっている。L機長は、昨年4月の豪雨による砂漠の中のドバイ空港の滑走路の浸水、昨年11月の韓国での秋の大雪による数百便の欠航を例にあげた。冬と春の渡り鳥の動線が不規則になっているのも、気候変動の影響だ。

「長年の飛行経験の蓄積がすべて役に立たなくなっています。だんだんとひどくなってきている空の異常気象を直に目撃すれば、先端技術と人間の知恵だけでそれを克服するというのは傲慢な考えだということが分かるでしょう」(2に続く)

 
 
//ハンギョレ新聞社
オク・キウォン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
 
 

空路には「地雷」増え、海路には安全地帯なし(2)

登録:2025-02-06 09:51 修正:2025-02-08 08:18
 
 
国際商船を運航するピョン・サンス船長が先月11日、釜山国際旅客ターミナル前に停泊する船の上で、海の気候変動の現状を説明している=オク・キウォン記者//ハンギョレ新聞社

(1の続き)

経歴27年の商船の船長の体験「初めて出会った台風の目」

 5万~7万トン級の国際商船を運航するピョン・サンス船長(46)は昨年夏(6~9月)、メキシコ湾で5回も過去最大級のハリケーンに遭遇した。さらには、乗っていた船がカテゴリー5のハリケーン「ベリル」の目に遭遇し、生死の岐路にも立たされた。気象観測史上最悪のハリケーンに襲われた怪物のような海を経験したピョン船長にとって、気候変動は「生存の脅威」だ。

 先月11日に釜山港の国際旅客ターミナルで取材に応じたピョン船長は、船に乗って27年になるが「船舶が台風の目に出会ったのは初めて」だったと語った。船舶の運航過程では数多くの気象データを参考にするうえ、各地域の管制センターなどとコミュニケーションを取りつつ運航動線を決めるため、ハリケーンにまともに出会う可能性はきわめて低いというのだ。

 「昨年6月末、原油を輸送するためにメキシコ湾のベラクルス港付近を航行していた時でした。北大西洋で発生した熱帯低気圧がメキシコ湾の方にやって来るというデータを目にしました。初夏は海水温度が低く、強いハリケーンに発達する可能性は低いため、経路を変える必要はないという管制官の意見などを反映して、計画通り運航しました。ところが、一晩で低気圧がカテゴリー5のハリケーンに発達し、カリブ海沿岸を廃墟(はいきょ)にしてしまったのです」

 時速200キロで迫って来るハリケーンを時速30キロの船が避けるにはすでに遅かった。ハリケーンの影響圏に入ると、10メートルを超える高波が甲板を襲い、大型クレーンが倒れるほどの風速180キロの風が吹きつけた。20人あまりの船員は、甲板が曲がるほどの波と風で船が座礁するかもしれないという恐怖に襲われた。やがて30分ほど静まり返り(台風の目)、幸いその時点で大陸圏の気圧に出会ったハリケーンはカテゴリー2となり、最悪の状況は避けられた。台風の目を過ぎてからもハリケーンがカテゴリー5のままだったなら、沈没や原油流出などで甚大な被害が発生する可能性があった。

 ピョン船長は、「急激な気候変動によって以前とはまったく異なる海を経験している」と話した。「ハリケーン『ベリル』も以前ならすぐ熱帯低気圧になっていたはずです。普通、6月末~7月初めは大西洋の水温が高くないので、カテゴリー4以上の強いハリケーンになる可能性は低いのですが、地球温暖化がスーパー暴風の発生時期を早めているのです。以前より海の予測が難しくなっており、備えるのが難しいから、被害は大きくならざるを得ません」

 
 
昨年7月2日、ハリケーン「ベリル」消滅前の、米ノースカロライナ州のアトランティックビーチ近海。途方もない高さの波が立っている=米国海洋大気庁のユーチューブ動画より//ハンギョレ新聞社

 ベリルは記録上、初夏の6月末に発生した最も強いハリケーンとなった。米国海洋大気庁は、初夏の6月末の海水面の温度がすでに真夏後の9月の水準にまで上昇していたことで、熱帯低気圧に莫大なエネルギーが供給されたことが原因だと判断している。昨年のメキシコ湾には、初夏の気象の異変がもたらしたカテゴリー5のハリケーンに続き、フランシーヌ(カテゴリー2)、ヘリーン(カテゴリー4)、ミルトン(カテゴリー5)、ラファエル(カテゴリー3)などの強いハリケーンが押し寄せた。メキシコ湾一帯だけで350人の死者と1820億ドル(約268兆ウォン)の財産被害が発生した。

 ピョン船長は、気候変動による船舶運航の困難が私たちの日常に及ぼす影響に懸念を表明した。ピョン船長は、昨年にハリケーン「ミルトン」がメキシコ湾を貫通した際、米国西部のテキサス産原油の価格が4%近く跳ね上がった例をあげた。

 「台風の経路を避けて航路を数百キロ遠回りすると、その分だけ運航コストが増えます。船舶が数日間停泊していなければならない時は、船を運航する船主と物を預けた荷主が支払うコストがいずれも急増します。船長の立場としては、危険な航路を選択して運航コストを減らすべきか、毎瞬間なやみます。グローバル時代に海路が閉ざされると、その追加コストはそのまま私たち全員に降りかかってきます。気候変動に安全地帯はないと考えるべきです」

オク・キウォン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

 研究チームは今回の発見が、宇宙で活動する宇宙飛行士を放射線から保護したり、核汚染を浄化したりすることだけでなく、がんの治療法を改善することにも役立てられると期待している。

2024-10-30 14:24:02 | 科学最前線
 

1ミリのクマムシ、

人間の致死量の放射線にも耐えうる3つのシステム

登録:2024-10-30 06:53 修正:2024-10-30 08:56

 

クァク・ノピルの未来の窓 
 
戦争が起きると軍需品工場に変身するかのように 
放射線被曝時には2800個の遺伝子が発現
 
 
放射線から自分の体を守るクマムシの生体分子メカニズムが明らかになった=ピクサベイ//ハンギョレ新聞社

 地球最強の生存力を持つ動物とされるクマムシは、成体になっても1.5ミリメートルにも満たない、きわめて小さな節足動物だ。

 左右の8本の脚でゆっくり動くことから、緩歩動物(Tardigrada)と呼ばれるクマムシは、マイナス270度の極低温や150度を超える高温でも死なず、水がない環境でも数十年耐え抜く。大気圧の1000倍を超える圧力や人間の致死量の約1000倍になる3000~5000グレイ(Gy)の放射線量にもびくともしない。このような驚くべき能力のおかげで、過去5億年間に起きた5回の大絶滅でも強く生き残った。

 極限の環境で生き残る秘訣は、新陳代謝の活動を止めて体を休眠状態(Cryptobiosis)にする能力にある。このような能力は、老化と寿命延長を研究する科学者にとっての良い研究対象だ。

 これまで科学者たちは、極限環境に置かれる場合に生体物質を保護するトレハロースという糖分や、新陳代謝を遅らせるタンパク質などを発見した。しかし、1500種にのぼるクマムシが持っている生存能力の大部分は、いまだ解明できていない状況にある。

 中国の北京遺伝学研究所の研究チームが、放射線から自分の体を守るクマムシの生体分子メカニズムを解明し、国際学術誌「サイエンス」に発表した。

 研究チームは6年前、中国河南省の伏牛山で採取したコケの標本から、学界に未報告のクマムシ「ヒプシビウス・ヘナネンシス」(学名Hypsibius henanensis)を発見した。今回の研究はこのクマムシの遺伝子の分析結果だ。

 
 
                        クマムシはコケや川、湖の堆積物に主に棲息する=ピクサベイ//ハンギョレ新聞社

■放射線に耐えるための3つのシステム

 研究チームがクマムシのゲノムを解読した結果、このクマムシは1万4701個の遺伝子を持っており、このうち30%は緩歩動物にだけある遺伝子だということがわかった。

 研究チームは、クマムシに人間が耐えられるよりはるかに強力な200~2000グレイの放射線に露出させた後、クマムシの遺伝子に起きる反応を調べてみた。すると、DNAの修復、細胞分裂、免疫反応に関与する遺伝子2801個が活性化することを発見した。研究チームはこの過程で、クマムシが放射線を耐えられるようにする3つの分子システムを発見した。

 1つ目と2つ目は損傷したDNAの修復能力だ。1つ目の「TRID1」という遺伝子は、特殊なタンパク質を集め、放射線で損傷したDNAの二本鎖を修復するのに役に立つタンパク質を作る。また、2つ目の遺伝子は、ミトコンドリアのATP合成に重要だとされる2種類のタンパク質を生成する。このタンパク質もDNAの修復を助けるものとみられることを、研究チームは明らかにした。

 3つ目は抗酸化タンパク質の生成能力だ。クマムシの遺伝子の0.5~3.1%は他の有機体から得たものだと推定される。これを「水平的遺伝子移転」と呼ぶ。研究チームはこのうち、バクテリアから得たとみられる遺伝子「DODA1」が、ベタレインという4つのタイプの抗酸化色素の生産に関与することを発見した。この色素は、放射線に露出するときに細胞内で作られる有害な反応性化学物質の一部を除去する。放射線による細胞障害の60~70%は、この反応性化学物質に起因する。

 研究チームがベタレインの一種で人間の細胞を処理したところ、実際に放射線に対する生存力が大幅に高まることが確認された。

 
 
インド洋のモーリシャス島のコケから採集したクマムシの走査型顕微鏡写真=ウィキメディア・コモンズ//ハンギョレ新聞社

■宇宙探査、がん治療などの応用に期待

 25年間緩歩動物を研究してきたノースカロライナ大学のボブ・ゴールドスタイン教授(細胞生物学)はネイチャーで、「(放射線に対するクマムシの反応は)遺伝子の発現が作動するしくみを再調整するようなものだ」として、戦時に工場を軍需品工場に全面改造することに例えた。

 研究チームは今回の発見が、宇宙で活動する宇宙飛行士を放射線から保護したり、核汚染を浄化したりすることだけでなく、がんの治療法を改善することにも役立てられると期待している。

 クマムシの生存力の特徴は、極限の環境に対する適応進化の産物ではなく、極限の環境に耐え抜く能力だということだ。クマムシは極限環境で棲息する生物(Extremophile)ではない。したがって、極限環境に露出する時間が長引くほど、死亡の可能性は高くなる。

 極限の気温や酸素の欠乏、脱水、飢餓のような異なる苛酷な環境に耐えられるようにするクマムシの分子システムを研究すれば、よりいっそう広範囲な応用分野が見いだされる可能性もある。ゴールドスタイン教授は、ワクチンのようにすぐに傷みやすい物質の有効期限を延ばすことにクマムシの生存の秘訣を活用できると述べた。

*論文情報
DOI:10.1126/science.adl0799
Multi-omics landscape and molecular basis of radiation tolerance in a tardigrade.

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

科学者らは、氷の地殻の隙間から噴出する水の粒子を分析すれば、厚い氷の下の海の中に直接行かなくても、生命体の存在についての糸口を見出すことが可能だと期待している。

2024-10-15 18:58:01 | 科学最前線
 

氷の天体に生命体はいるのか…エウロパ・クリッパー、

29億キロを飛ぶ

登録:2024-10-15 06:37 修正:2024-10-15 09:25

 

[クァク・ノピルの未来の窓]
 
 
木星の氷の衛星エウロパを探査中の宇宙船「エウロパ・クリッパー」の創造図=米航空宇宙局提供//ハンギョレ新聞社

 地球から平均で7億7000万キロメートル離れている木星の氷の衛星「エウロパ」を探査する宇宙船「エウロパ・クリッパー」(Europa Clipper)が、5年半かけて合計29億キロメートルに達する壮大な宇宙旅行に出発する。

 NASA(米航空宇宙局)ジェット推進研究所は、エウロパ・クリッパーを14日(韓国時間15日)、フロリダのケネディ宇宙センターからスペースXのロケット「ファルコンヘビー」に載せて打ち上げた。エウロパ・クリッパーは月を除く惑星以外の特定の衛星だけを探査する初の宇宙船だ。

 50億ドルかけて製作されたエウロパ・クリッパーは、NASAの歴代の惑星探査機では最大の宇宙船だ。地球から太陽までの距離の5倍にもなる遠い距離から日光で動力を得るために、幅30メートルにもなる巨大な太陽電池パネルが取り付けられた。

 
 
宇宙船「エウロパ・クリッパー」を搭載したスペースXのロケット「ファルコンヘビー」がフロリダのケネディ宇宙センター39A発射台に立っている=米航空宇宙局提供//ハンギョレ新聞社

 地球の月より若干小さい(直径3130キロメートル)エウロパは、太陽系で生命体が存在する可能性がある有力候補の1つだ。15~25キロメートルの厚い氷の表面層の下に塩分が多い水の海があると推定されている。科学者らは、木星の強力な重力がエウロパ内部に生じさせた摩擦熱が氷を溶かし、地下の海を作ったと考えている。海の深さは60~150キロメートル、海水の量は地球の2倍を上回ると推定される。

 エウロパでは酸素も生成されている。木星探査機「ジュノー」が送った観測データを分析した結果によると、エウロパ表面では1日に約1000トンの酸素が生成されている。ただし、酸素の生成方式は地球とは大きく異なる。地球ではバクテリアや植物、プランクトンが光合成を通じて酸素を供給するが、エウロパでは宇宙から飛んできた荷電粒子が氷の表面層に当たり、氷の水を水素分子と酸素分子に分解する。

 
 
2022年9月29日木星探査船「ジュノー」がエウロパを近接飛行して撮影した写真=米航空宇宙局提供//ハンギョレ新聞社

■4年間で25キロメートルの距離まで49回の近接飛行

 科学者らは、氷の地殻の隙間から噴出する水の粒子を分析すれば、厚い氷の下の海の中に直接行かなくても、生命体の存在についての糸口を見出すことが可能だと期待している。

 ただし、エウロパ・クリッパーの主な任務は生命体を探すことではない。生命体が存在可能な条件が整っているかどうかを調査することだ。

 探査機にはそのために、カメラ、分光計、磁力計、レーダーなど9種類の科学装置が搭載されている。宇宙船が合計80万キロメートルにわたり近接飛行する間、レーダーは地下の海の存在を確認し、磁力計は海の深さと塩度を測定し、質量分析器は氷の隙間からわき出る水柱の構造を把握する。

 
 
エウロパ・クリッパーは2030年4月に木星軌道に到着する。その後4年ほどかけて、約3週間に1回、合計49回エウロパに近接飛行して探査活動する。エウロパの表面から25キロメートルまで接近し高解像度で観測する=NASAの動画より//ハンギョレ新聞社

■生命体の「居住可能領域」の定義が変わる可能性はあるか

 探査活動の最大の障害は木星の磁場だ。木星では、地球より2万倍も強い磁場が回転しながら帯電した粒子を捕獲し、加速して放射線を生成する。NASAは放射線から宇宙船を保護するため、宇宙船に丸い保護板をかぶせる一方、エウロパ・クリッパーが放射線の多い領域に長時間留まらないよう、飛行軌道を調整した。

 NASAは打ち上げに先立ち、記念行事の一環として、エウロパ・クリッパーに自分の名前を載せて送りたい人たちの申込みを受け付けた。昨年末までに、韓国(1万9000人)を含むほぼすべての国から合計262万人が自分の名前を書き送った。人々の名前はマイクロチップに入れられ宇宙船に搭載された。

 エウロパが生命体に適合する条件を備えていることが明らかになれば、生命居住可能領域(ハビタブルゾーン)についての定義が変わる可能性もある。現在の生命居住可能領域は、表面に水が存在できるくらい恒星の暖かい光に十分近い、大気に囲まれた世界だけを指す。しかし、エウロパの海が居住可能な空間だとすれば、生命体は恒星から非常に遠く離れた場所に存在する可能性があるという話になるためだ。

 NASAの科学担当副局長のトーマス・ザブーケン博士(天体物理学)は科学誌「サイエンス」に、「エウロパが生命体に適していることが判明すれば、その次の任務はエウロパで生命体を探すこと」だと語った。

■地球中心の世界観を揺るがした「ガリレイ衛星」

 1610年、ガリレイはエウロパを含む木星の4大衛星を発見することによって、「地球が宇宙の唯一の中心」とする既存の世界観を揺るがした。

 天動説が支配していた当時、ガリレイの発見は、太陽系で初めて地球以外の天体を回る衛星を発見した一大事件だった。別名「ガリレイ衛星」とも呼ばれる4大衛星は、木星との距離を基準にして、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストの順で木星を公転する。

 400年が経った今、エウロパ・クリッパーは、エウロパからもう一度世界観を揺るがすほどの発見ができるだろうか。ジェット推進研究所のローリー・レシン所長は「サイエンス」に「宇宙における私たちの地位に対する認識を変えたエウロパが、クリッパーによってもう一度そのようなことを起こしたら素晴らしいではないか」と述べた。

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「私は、AIには本当に知能があるわけではなく、巨大言語モデルが言語を使用しているとも言えないと主張する予定だ。また、生成AIは芸術作品を作る道具ではないということも語ろうと思っている」

2024-05-29 08:36:06 | 科学最前線
 

SF小説家テッド・チャン

「AIに本当に知能がある?…そうは思わない」

登録:2024-05-27 01:27 修正:2024-05-27 07:43

 

6月12日の第3回「ハンギョレ人とデジタルフォーラム」 
成均館大学物理学科のキム・ボムジュン教授、テッド・チャンにインタビュー
 
 
世界的なSF作家テッド・チャン氏は6月12日、第3回ハンギョレ人とデジタルフォーラムに参加し、基調演説を行う。テッド・チャン氏は2023年にタイム誌の「AI分野で最も影響力のある100人」に選出されている=テッド・チャン提供//ハンギョレ新聞社

 6月12日に「人を超える人工知能(AI)、人間の価値も持ちうるのか?」をテーマに開催される第3回「ハンギョレ人とデジタルフォーラム」で基調演説を行うテッド・チャン氏にインタビューした。インタビューは、フォーラムでテッド・チャン氏と対談を行う成均館大学のキム・ボムジュン教授(物理学)がeメールでおこなった。

 テッド・チャン氏は、米国で活動する当代最高の科学小説(SF)作家だ。SF文学界で最も権威のある賞であるネビュラ賞とヒューゴ賞を複数回受賞している。短編小説『あなたの人生の物語』は2016年にドゥニ・ヴィルヌーヴ監督により映画化(『Arrival』、日本タイトルは『メッセージ』)され、大きな人気を集めた。テッド・チャンは最近、AIについて深く洞察した文章を複数発表し、大きな注目を集めている。特に昨年2月の「ChatGPTはウェブのぼんやりとした複製だ」と題する「ニューヨーカー」に寄稿したコラムは、AI論争の次元を高めたと評価されている。

-ハンギョレの読者に自己紹介を。

 「SF作家のテッド・チャンだ。短編小説集『あなたの人生の物語』、『息吹』を出している」

-あなたは大学で自然科学とコンピューター科学を専攻した。SF作家だけでなく、誰もが科学に親しむべきなのはなぜか。

 「宇宙のしくみを知ることは重要だ。まさに科学が私たちに教えてくれる知識だ。宇宙は、私たちの望むあり方で常に動いているわけではない。私たちの好みは宇宙に反映されない。例えば、米国では今も多くの人が自分の生まれた時の天体の位置が自分の性格を決定すると信じており、韓国でも血液型と性格には関係があると多くの人が信じている。人を特定のタイプに区分することは、心理的な安定を与えてくれるものに過ぎない」

-あなたの多くの作品は「もし~だったら」で始まる一種の「思考実験」にみえる。科学の思考実験とSFのそれとを比較すると?

 「SFの思考実験は科学分野のそれのように厳密である必要はない。SF小説の読者は『不信の猶予』(常識的には正しくない部分があっても気にせず物語に没頭する現象)を経験する。このような不信の猶予は小説では妥当だが、科学ではそれはありえない。科学者たちの思考実験は、科学を実際に発展させるために行われる。アインシュタインが望遠鏡で外を見ずに、ひとりで部屋の中で思考実験によって相対性理論を作り出したようにだ。SF作家は『子を産むことが禁止されている世の中であっても不死の人生は望ましいものなのだろうか』のような、哲学的な問いを文学作品にするために思考実験を利用する」

-あなたは、最近はAI批評で広く知られている。SF作家としての経験はAI問題について声をあげることに関係しているのか。

 「SF小説作家がAI技術者たちに向けてその想像を縛る必要があると言うのは、若干妙な状況だ。私たちが生きていく世の中で実際にどのようなことが起きるかについてのシナリオと、良い物語のためのシナリオは、区別することが必要だと思う。AI分野の多くの人は、コンピューターが人間より優れた知能を持つようになる瞬間、シンギュラリティー(特異点)について語る。『シンギュラリティー』という用語は米国のSF作家、バーナー・ビンジが提案したものだ。シンギュラリティーは小説では立派なアイデアであり、それをもとにした小説も好きだが、現実において苦悩する必要のあるアイデアではないと私は思う」

 
 
キム・ボムジュン教授がテッド・チャンの『あなたの人生の物語』を紹介している=ユーチューブより//ハンギョレ新聞社

-AIのことを解像度が低くてぼやけたウェブのイメージファイル(jpeg)として隠喩した1年前の「ニューヨーカー」のコラムは印象的だった。このような隠喩はなぜ重要なのか。隠喩の持つ力とは?

 「私は別のコラムで、AIを『マッキンゼー』に例えたことがあるが、この隠喩は実は成功とは言えないものだった。多くの人はコンサルティング企業マッキンゼーのことをよく知らないからだ。そこで私は、AIは資本主義の刃をさらに鋭くする『砥石(といし)』によく例える。考えていることは同じだが、より理解しやすく表現した隠喩だからだ。隠喩は私たちに馴染みのない概念をより容易に理解させてくれるという点で重要だ。英語の『握れるハンドルを得る(get a handle on something)』という表現は『理解しはじめる』ということを意味するが、隠喩の有用性についての比喩だといえる。隠喩は有用だが、それでも隠喩は真実ではないということを常に忘れてはならない。隠喩は私たちが理解をはじめるための一つのやり方だと思う」

 
 
テッド・チャンの小説集『あなたの人生の物語』//ハンギョレ新聞社

-個人的水準ではなく社会的水準においては、フィードバック的な発展が技術発展の重要な動力だと考える。AIも人間のように社会的学習ができるのか。社会を形成したAIが自分たちより良いAIを作り出すことはありうるか。

 「AIプログラム同士の相互作用は人間同士の相互作用と何ら共通点がない。AIは道具に過ぎない。道具に過ぎないAIをつなげて改善がなされたとすれば、それは単にその道具を利用する人間の優秀さを示すに過ぎない。遠い未来には、AIプログラムが本当に人間と同じになることもありうる。しかし、それに何の意味があるのか。すでに数十億人の人間がいるというのに。人々が協力して得られる大きな利益を望むなら、私たちはすでにどうすべきかをよく知っている。私は、AI開発の目標は、私たちが自分でできないことをできるようサポートする道具を作ることだと思う」

-あなたは、AIの時代に私たちは資本主義を手なずけなければならないと強調している。過去40年ほどの間、そして今も、私たちは経済的不平等の問題を解決できずにいる。あなたは資本主義の害悪を減らすためのAI破壊運動(ラッダイト)に言及してもいる。資本主義の問題を解決すために、私たちは何をすべきなのか。

 「簡単な解決策はない。より強い労働組合、そして労働者が投資家に代わって会社の所有者としてかかわることも有効であり得る。貸借対照表の数値だけで意思決定をする経営陣に代わって、労働者に重要な意思決定にかかわらせることもできる。ラッダイトになるということは、技術に反対することを意味するものではない。株主の利益よりも労働者の経済的正義に関心を持つこと。それが私の言うラッダイトだ。私たちが経済的正義を好む政策を望もうが、株主の利益を好む政策を望もうが、技術はどちらも支えうるということが重要だ」

-来月12日のハンギョレ人とデジタルフォーラムでどのようなことを語るのか。事前に紹介を。

 「私は、AIには本当に知能があるわけではなく、巨大言語モデルが言語を使用しているとも言えないと主張する予定だ。また、生成AIは芸術作品を作る道具ではないということも語ろうと思っている」

 
 
第3回ハンギョレ人とデジタルフォーラム//ハンギョレ新聞社
キム・ボムジュン|成均館大学物理学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

11月4日、中国初の国産大型クルーズ船「愛達・魔都(ADORA MAGIC CITY)」号が正式に命名され、引き渡された。「愛達·魔都」号は2024年1月1日に初の営業運航を開始する予定。

2023-11-06 10:07:07 | 科学最前線

初の国産大型クルーズ船が引き渡し 

中国造船業の「3粒の真珠」が揃う

人民網日本語版 2023年11月05日13:51
初の国産大型クルーズ船が引き渡し 中国造船業の「3粒の真珠」が揃う
 

11月4日、中国初の国産大型クルーズ船「愛達・魔都(ADORA MAGIC CITY)」号が正式に命名され、引き渡された。「愛達·魔都」号は2024年1月1日に初の営業運航を開始する予定。

「愛達·魔都」号は総トン数が13万5500トン、全長323.6メートル、幅37.2メートル、最大高度72.2メートル。全船に107系統、5万5000設備を搭載しており、部品数は2500万点に及び、4750キロメートルの電気ケーブルを敷設。客室数は2125室で、旅客定員は最大5246人。船内は16階にも及び、面積4万平方メートルの生活・娯楽用の公共スペースを備える。

中国船舶工業業界協会の李彦慶秘書長は、「中国はすでに航空母艦、大型液化天然ガス輸送船、大型クルーズ船を同時に建造する能力を備え、造船業の『3粒の真珠』が揃った」と語った。 (編集AK)

「人民網日本語版」2023年11月5日

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする