2024年8月16日(金)
裏金 責任は自民全体に
「表紙」替え 幕引き許されない
全容解明ほど遠く
「組織の長として責任を取る」―。岸田文雄首相は14日、裏金事件など一連の不祥事を理由に退陣を表明しました。自身の総裁選不出馬を「自民党が変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩」としましたが、その背景には「表紙」を替えることで裏金事件に対する国民の批判をかわす狙いがあります。しかし、裏金づくりは自民党全体が責任を取るべき問題です。真相解明と抜本的改革を投げ出したまま終幕とすることは許されません。(中野侃、柳沢哲哉)
(写真)弁明する岸田文雄首相=2月29日、衆院政倫審
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今回の裏金事件は、自民党総ぐるみの組織的犯罪行為です。リクルート事件など特定の政治家と企業・業界の賄賂が問題となったこれまでの金権腐敗事件と比べても、はるかに大規模で悪質です。誰か一人が責任を取って済む問題ではありません。
自民党が全所属議員らに実施したアンケートだけでも、政治資金収支報告書への不記載・誤記載があったのは85人(いずれも安倍派ないし二階派)で、総額は5・8億円に上ります。他方で、アンケートは収支報告書の「記載漏れ」の有無とその金額の2問を自己申告で答えるだけのもので、党として責任を持った調査とはいえません。対象期間も2018~22年の5年分に限られ、主に現職議員のみが対象とされるなど、全容解明には程遠い“お手盛り調査”です。
岸田派では約3000万円の裏金づくりで元会計責任者が有罪となっています。麻生派や茂木派でも政治資金パーティー収入を巡る不記載が指摘されており、自民党全体の腐敗が浮き彫りです。
立件された国会議員は、池田佳隆衆院議員、大野泰正参院議員、谷川弥一衆院議員(辞職)の3人のみで、裏金が4000万円以下の議員は不問とされていることにも疑問の目が向けられています。「しんぶん赤旗」日曜版報道を受け独自調査を行って裏金問題を刑事告発した上脇博之氏(神戸学院大学教授)は、不起訴となった議員らについて、東京の検察審査会に審査を申し立てています。
裏金づくりが始まった時期は少なくとも1990年代後半から2000年代初めであることが指摘されています。森喜朗元首相が派閥会長を務めていた時期に開始されたとの証言もあり、20年以上前から巨額の裏金をつくるシステムが自民党内に確立されていた疑いがあります。
今回の退陣は、裏金事件で沸騰した国民の怒りが岸田首相を追いつめた結果です。しかし、自民党内の政権のたらい回しでは何も変わりません。岸田首相以外の総裁選候補も全てこうした自民党の無責任、無為無策を「了」とした面々です。政治腐敗の根本を断つには、政権交代で自民党政治そのものを終わらせるしかありません。
政倫審出席拒み真相解明に背
自民党あげ裏金疑惑隠し
自民党裏金事件は、派閥が政治資金パーティーの名で事実上の企業・団体献金を長期にわたって組織的・系統的に集め、政治資金収支報告書を偽造し、裏金をつくっていた組織的犯罪です。しかし、自民党は、この底知れない金権腐敗の疑惑を党をあげて隠そうとしてきました。
議論すりかえ
岸田首相は、裏金事件が発覚し批判を浴びると、派閥の解散を宣言。裏金事件の真相解明を派閥の存否へと議論をすりかえ、幕引きを企てました。しかし、その後、自民党の政治刷新本部が発表した「中間とりまとめ」は、派閥の全廃には踏み込まず、「政策集団」としての存続を容認します。「派閥解消」は、重大な違法行為の隠蔽(いんぺい)のための目くらましにすぎませんでした。
しかも、同本部のメンバー38人のうち裏金疑惑の中心である安倍派が最多の10人で、うち9人は裏金疑惑がある議員。本気で裏金問題を解決する気さえ見えません。
さらに、政治刷新本部座長を務める鈴木馨祐議員はNHK番組で、裏金事件を受けた政治資金規正法改定を巡り「野党の追及は自民党の力をそぎたい政局的な話」と発言。自民党自らが引き起こした組織的犯罪を棚にあげ、無反省の態度をさらけだしています。
そのうえ同氏は、自民党の政治資金規正法「改正」案の提出者でありながら、裏金づくりをしていたことを「しんぶん赤旗」日曜版が暴露しました。
自民党裏金議員らは、まともな説明もしていません。衆院の裏金議員51人のうち政治倫理審査会に出席したのはわずか6人。参院では31人のうち3人だけ。出席して弁明した議員も「会計には一切関与していない」「秘書に任せていた」などと“知らぬ存ぜぬ”の一点張りでした。
一方、安倍派会計責任者の公判での証言で、裏金の還流再開への関与を否定した政倫審での安倍派幹部の発言が偽りだった疑いも強まっています。
政倫審で審査に付すことを全会一致で議決された73人(衆院44人、参院29人)は、いまだ出席を拒否し続けています。真相解明には、偽証罪のある証人喚問が不可欠ですが、自民党は拒否。真相解明に後ろ向きで無反省な自民党の姿が浮き彫りになっています。
政治資金規正法の改定では、金権腐敗の根を断つ改革が求められていました。しかし、ここでも自民党は疑惑隠しの「政治改革」を強行します。
法改悪を実行
裏金の原資が、パーティー券購入という形を変えた企業・団体献金だったにもかかわらず、パーティー券購入を含む企業・団体献金の禁止には踏み込まずに温存。パーティー券購入者の公開基準額を「20万円超」から「5万円超」に引き下げただけでした。そのうえ、領収書のいらない政策活動費を合法化したほか、カネの流れを見えなくさせ「赤旗」はじめメディアや有識者の追及を逃れるために政治資金収支報告書の「要旨」の作成と「官報」への掲載義務を削除するなど、法改悪を実行しました。
誰が、いつから、何の目的で裏金システムをつくり、何に使ったのか―。裏金事件の根本は明らかになっていません。調査もお手盛りで、「説明責任を果たす」とは口先だけ、真相解明に誰一人やる気も意思も示さない自民党。この状況の中で誰が「刷新」を口にしても国民の不信を解消することなどできるはずがありません。
裏金事件巡る「調査」と処分
裏金議員
(自民党アンケート調査、2018~22年)
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現職国会議員82人(衆院51人、参院31人)、選挙区支部長(元職)3人の計85人。総額5億7949万円
池田佳隆衆院議員(党除名)、大野泰正参院議員(離党)、谷川弥一前衆院議員(議員辞職)を含まず
アンケートは政治資金収支報告書への記載漏れの有無とその金額の二つだけ
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刑事処分
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国会議員3人、会計責任者ら7人の計10人
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自民党処分
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85人のうち、安倍派、二階派の計39人を処分。46人の処分は見送り。「5年間で500万円以上の裏金額」で線引き
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政治倫理審査会への出席
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9人(岸田首相のぞく)。衆参政倫審で審査・出席を議決された73人は拒否
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