[寄稿]核戦争と私たちの時代の狂気
ロシア陸軍のアレクサンドル・ドボルニコフ大将が先日、英国メディアとのインタビューで、不気味な警告を発した。「ロシアのウクライナ侵攻の『避けられない』結論は核戦争だ。大量破壊兵器の使用に切り替えるのに必要なのは、プーチン大統領の政治的決断だけあればいい。ロシアの目標と西側の目標は、それぞれの生存と歴史的な永遠性であり、これを守るためには、核兵器を含むすべての武力闘争の手段が使われるだろう。この戦争で核兵器が使われることは避けられず、そこから我々も敵も逃れることはできない」。彼は恐ろしい自己破壊的な虐殺を、高レベルの義務行為のように述べた。
この話を単なる戦略的な脅しとして片付けてはならない。たとえ脅しの意図でなされた話であっても、それを現実化へと追い込む論理がそこには内在している。この論理では、冷戦期に核災害を効果的に抑制した相互確証破壊(Mutual Assured Destruction: MAD)の論理とは違い、「我々も敵も」逃れるところがないため、相互破壊は「不可避」なこととして提示される。
ここで、「生存と歴史的な永遠性」という奇妙な表現の意味に注目する必要がある。彼はあたかもロシアがウクライナと同じように自己の生存を守るために戦っているかのように言う。彼がこのように言えるのは、「ロシア」をロシア帝国とソビエト帝国という巨大な概念を意味するものとして使っているためだ。その観点では「誰が先に攻撃を始めたのか」といった問題は些細なものになり、「ロシアのウクライナ侵攻」のような表現も平気で使うことができる。
ならば、私たちがすべきことは何か。まず、単純な線形的展開から抜け出す兆候を感知しなければならない。今月初め、キューバ政府が、ロシアの人身売買組織がウクライナ戦争に参戦させるキューバ人を傭兵として集めていたことを摘発したというメディア報道があった。キューバ政府は声明を出し、人身売買ネットワークを無力化し、解体するために努力していると発表した。厳格な統制国家であるキューバが、この組織を本当に今になって発見したという可能性は低い。キューバ政府はなぜ今、このような発表をしたのだろうか。ウクライナ戦争に対してロシアを確固として支持してきたキューバでさえ、もはやロシアの危険な冒険から距離を置くことを決めたという意味ではないだろうか。
私たちが何をすべきかについて一般化して言うならば、現在唯一の原則的かつ実用的なアプローチは、ロシアの核の脅威を認識しつつ、外交と軍事戦略の次元では、これを徹底的に無視することだ。そして、私たちが取りうる最悪のアプローチは、ロシアの脅迫に屈服し、「ロシアを刺激しすぎてはならない」という論理に従うことだ。私たちはウクライナを支援し続けなければならない。同時に、誰もロシアの領土のどんな一部も攻撃することを望まないと明確にすることによって、ロシアが核兵器の使用の名目として、自国領土への攻撃に対する防衛を掲げることができないようにしなければならない。
私たちは今、奇妙な世界に住んでいる。世界核戦争のシナリオが繰り広げられているにもかかわらず、ポピュリズムを展開する新保守主義者とキャンセルカルチャー(誤った言動をしたと判断された人をSNSから排除する文化)を主導する左派が、それぞれ相手に対して文化戦争を行っており、先進国に住む多くの人たちが、平然と悪天候やフライトのキャンセルで自分の休暇が台無しになるかもしれないことばかりを心配しているような世界だ。このまったく異なる選択肢が平和に共存しているという事実は、私たちの狂気を示している。私たちは、核戦争で全滅しかねない状況にあっても、ポピュリズムやキャンセルカルチャーをより嫌悪し、さらには、自分たちの日常を一番心配する。私たちは、理性では3つの次元が互いに結びついているという事実を知りながらも、それを無視し、あたかもこれらがまったく別の問題であるかのように行動する。
スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )