2022韓国10大ニュース:
尹大統領の「龍山時代」、158人死亡の「梨泰院惨事」
1.失言めぐる物議で「出勤時の取材対応」中止…野党との協治が課題に
3月9日、第20代大統領選挙で尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が当選した。2位のイ・ジェミョン候補(共に民主党)とは得票率0.73ポイント(24万7077票)差だった。5月10日の就任式で尹大統領は「自由、人権、公正、連帯の価値を基盤に国民が真の主人である国を作る」と宣言した。「自由」を35回強調した一方、「統合」は一度も言及しなかった。
尹大統領は就任と同時に、青瓦台に入らず「龍山(ヨンサン)時代」を開いた。政府発足3週間後の6月1日に行われた第8回地方選挙で、与党「国民の力」は17の市道知事のうち12カ所を制し圧勝した。しかし、すぐに自ら危機を招いた。大統領室は「出勤する大統領を国民が毎日目にし、国民の疑問に随時答える最初の大統領」を「尹錫悦時代」の主な変化に掲げたが、出勤時の取材対応(略式会見)で露呈した尹大統領のずけずけとした発言はしばしば物議を醸した。大統領室の「私的採用」疑惑と「尹核官」(尹大統領の核心関係者)が率いた国民の力のイ・ジュンソク代表追放をめぐる混乱まで加わり、尹大統領の国政遂行支持率は就任3カ月後の8月第2週に24%(韓国ギャラップ調査、信頼水準95%に標本誤差±3.1ポイント)まで落ち込んだ。「外交惨事」と批判された英国、米国、カナダ歴訪直後の9月第5週にも、再び最低(24%)を記録した。これといった国政運営のビジョンが見えない中、「西海(ソヘ)公務員殺害事件」や「東海(トンヘ)漁民送還事件」など文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の政策決定に対する検察捜査は急ピッチで進められた。共に民主党のイ・ジェミョン代表を狙った捜査も本格化している。
尹大統領の出勤時の取材対応は11月、61回目までで中断された。米ニューヨーク歴訪時の卑語発言を初めて報道した「文化放送(MBC)」取材陣に対する大統領専用機搭乗排除と、それに伴う摩擦の中で生じた結果だった。尹大統領が記者団と質疑応答をしていた場所には、視野と動線を遮る間仕切り壁が設置された。
出勤時の取材対応の中止で失言をめぐる物議が減り、尹大統領の支持率は上がった。貨物連帯のストライキに「法と原則」を前面に掲げて厳しく対応したことも支持率上昇につながったというのが専門家の分析だ。大統領室は、2年目の2023年を労働、教育、年金改革の元年とし、「尹錫悦流政策課題」を実行すると発表した。この過程で欠かせない野党との協治は、依然として大きな課題だ。
2.セウォル号惨事以来最大の人命被害
10月29日夜、ソウル龍山区の梨泰院(イテウォン)で158人が圧死し、196人が負傷する惨事が発生した。2014年のセウォル号惨事以来、最大の人命被害だ。ハロウィーンを迎えた週末、梨泰院のハミルトンホテル近くの幅4メートル弱の坂道に数百人が押し寄せ、身動きが取れない状態になったことで起きた悲劇だった。死亡者のうち女性犠牲者が102人(65%)、20代犠牲者は106人(67%)だった。外国人も26人(16%)含まれていた。
惨事の原因と責任を究明するため、11月1日に警察庁特別捜査本部が発足し、約20人が立件され捜査を受けている。11月24日、国会も国政調査特別調査委員会を設置し、真相調査に乗り出した。遺族は12月14日、梨泰院に市民焼香所を設置し、尹錫悦大統領の謝罪と責任者処罰を求めている。
3.南北、互いを「主敵」に…朝鮮半島危機高まる
朝鮮半島の空を戦争危機の恐怖が再び覆った。5月10日の尹錫悦政権発足以降、南北は互いを「主敵」とみなして吠え合った。尹錫悦政権の代表的な統一・北朝鮮政策である「大胆な構想」を、北朝鮮は「李明博(イ・ミョンバク)逆徒の『非核・開放3000』のコピー版」にすぎないと非難した。南北の間で、ミサイルがミサイルを呼び、砲射撃が砲射撃を呼び、また戦闘機による威力示威がさらなる威力示威を呼ぶ「パワーゲーム」が次々と繰り広げられた。南北関係の最後の安全弁と呼ばれる9・19南北軍事分野合意は崖っぷちに追い込まれた。合同参謀本部の発表基準で、北朝鮮は今年、過去最多の弾道ミサイル(36回、75発)を発射した。北朝鮮は「先制核攻撃」を排除しない「核武力政策法」(9月8日)まで作った。2023年には平和の光を再び見ることができるだろうか。
4.物価高、金利高、ドル高ウォン安の3重苦
グローバルインフレの圧力が消費、投資、輸出、金融、不動産など経済領域全般に吹き荒れた「経済の年」だった。韓国国内の消費者物価上昇率は6.3%(7月現在、23年8カ月ぶりの最高値)、米国は9.1%(6月現在、41年ぶりの最高値)まで急騰した。金融危機以後、約10年間続いた低金利による高流動性の時代が終わりを告げ、金融引き締めの時代が到来し、政策金利が米国では年率4.25~4.50%、韓国では年率3.25%まで急上昇した。「ジャイアントステップ」や「ビッグステップ」などの聞きなれない言葉が日常用語となった。インフレに端を発した金利ショックや輸出減速、貿易赤字の持続により、ウォンの相場も変動し、1ドル当たり1444.20ウォン(10月25日)までウォン安が進んだ。物価高、金利高、ドル高ウォン安の影響が本格的に押し寄せる「逆境の2023年」が目の前に来ている。
5.ストーキング、性暴力…繰り返される「ジェンダー殺人」
悲劇が再び繰り返された。女性であるというだけで犠牲になった人たちが今年もいた。2016年のソウル江南(カンナム)駅殺人事件から6年が経ったが、韓国社会はあまり変わっていない。9月、ソウル地下鉄2号線の新堂(シンダン)駅の女子トイレを巡回していた女性駅員が殺害された。犯人は被害者をストーキングしていた職場の同僚だった。ストーカー容疑で在宅起訴の状態で裁判を受け、1審判決を翌日に控えて殺人を犯した。同事件で「ストーキング被害者保護法」制定が急がれるという声が高まったが、同法案は国会の敷居を越えられずにいる。7月には仁荷大学で被害者が性的暴行を受け死亡する事件が発生した。同級生の加害者は、被害者に性的暴行を加えたうえ、押して墜落死させた容疑で起訴された。加害者は18回反省文を書いて裁判所に提出したが、検察は無期懲役を求刑した。
6.カカオトークの通信障害で日常も麻痺
10月15日、SK C&C板橋(パンギョ)データセンターの火災で、カカオトークのサービスが止まり、韓国の日常も立ち止まった。「国民メッセンジャー」のカカオトーク障害でオンライン対話が途絶え、タクシー利用(カカオT)、送金・決済(カカオペイ)、ポータル検索(ダウム)、音楽ストリーミング(Melon)、ウェブトゥーンの購読(カカオウェブトゥーン)の障害などで、多くの人が不便を強いられた。カカオサービスが復旧するまでにかかった127時間33分は、プラットフォーム独寡占時代の危険性が露呈した時間だった。カカオのナムグン・フン各自代表が辞任し、非常対策委員会体制に転換した。カカオは自主調査を通じてデータセンターの二重化が不十分であり、人材および可用資源が不足していたとし、インフラ構築への投資費用を大幅に増やすと約束した。データセンターとプラットフォーム事業者の災害管理対策の樹立などを義務化した「カカオ通信障害防止法」も国会を通過し、来年施行される。
7.2年ぶりに「ウィズコロナ」に挑戦
学校の教室が再び開かれた。野外でマスクを外す自由も戻ってきた。4月、政府は集まりの人数制限など人と人の接触を最小化する「社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)」を2年ぶりに解除した。これでコロナと共存する「ウィズコロナ」時代が開かれた。新型コロナウイルスによる社会経済的被害を最小限に抑えながらも、持続可能な防疫体制を整えるための挑戦だ。
しかし、11月に入って冬季流行(第7波)が押し寄せ、医療現場では新規の重症患者の受け入れが難しいという声があがっている。高齢層と基礎疾患を有する者の健康被害を防ぐためには、より良いシステムの構築が必要だ。病気になったら休める権利が保障されない限り、経済的脆弱層が政府の勧告通り「自発的な社会的距離措置」に参加することは不可能だ。
8.記録的豪雨で14人死亡、6人行方不明
今年は記録的な豪雨や日照りなど気候変動にともなう異常気候を体感せざるをえなかった1年だった。8月、首都圏と江原道、忠清南道などに降った大雨で14人が死亡し、6人が行方不明になった。特に、ソウルの1日降水量では気象観測115年目にして最高値を記録した。9月に朝鮮半島を襲った台風「ヒンナムノー(台風11号)」で慶尚北道浦項(ポハン)などでも人命被害(死亡・行方不明12人)が相次いだ。一方、全羅南道地域では22日基準で今年1年間の降水量が845.8ミリにとどまり、記録的な日照りが続いた。これは1995年(843.2ミリ)を除いては1973年以来最悪の日照りだ。異常気象はこれだけではない。11月末の暖かい気温で、朝鮮半島各地で春の花であるレンギョウとツツジが咲いたが、12月中旬からは最低気温氷点下10度前後の厳しい寒さが続いている。
9.「K映画」ブーム繋いだ『別れる決心』
映画『パラサイト 半地下の家族』の2019年カンヌ国際映画祭と2020年アカデミー同時席巻、2021年ネットフリックスシリーズ「イカゲーム」の世界市場制覇に続き、2022年にも韓国コンテンツの勢いは留まる所を知らなかった。第75回カンヌ国際映画祭でパク・チャヌク監督が『別れる決心』で監督賞を、俳優ソン・ガンホが『ベイビー・ブローカー』(是枝裕和監督)で主演男優賞を受賞した。メロドラマとミステリーをパク・チャヌク流に描いた『別れる決心』は、カンヌで公開された時、海外メディアの絶賛を受け、最高評点を記録した。パク監督はこれで2004年『オールドボーイ』でグランプリ、2009年『渇き』で審査員賞に続き、3度目のカンヌ受賞の栄誉に輝いた。『別れる決心』は来年3月に開かれるアカデミー国際長編映画賞のショートリスト(予備候補)にも含まれ、さらなる成果への期待が高まっている。
10.「労働改革」を掲げ、労組のストライキを弾圧
検察出身の尹錫悦大統領は労働組合と労働界を「対話と妥協」の相手とみなさず、「法と原則」により処罰し改革すべき対象と捉えた。6月2日から慶南巨済(コジェ)の大宇造船海洋玉浦造船所で51日間続いた下請け労働者のストライキ当時、公権力の行使と損害賠償請求訴訟を掲げて圧力をかけた。11月24日から16日間続いた安全運賃制サンセット条項の廃止と品目拡大を要求する貨物連帯の2次ストライキの時も、初の業務開始命令などを発動し、全面降伏を引き出した。だが、尹大統領はここに留まらず、「労組腐敗は3大腐敗の一つ」だとして、労働組合財政の透明化などさらなる攻勢をかけている。年が明けて本格的に「労働改革」が進められれば、その勢いはさらに増すものとみられる。