2022年10月31日(月)
平和考
敵基地攻撃と集団的自衛権
相手国せん滅する米国並み「抑止力」
いま政府・与党内では、敵基地攻撃能力の保有は憲法の「運用の変更」で対応でき、「専守防衛は維持される」などと語られています。
公明党の北側一雄副代表は27日の日本記者クラブでの講演で、敵基地攻撃能力の保有は「完全に合憲という認識か」と問われ、「そのように思っている」と強調。「武力攻撃の着手があったというのが大前提だ」「先制攻撃になったら9条に違反するし、専守防衛に反する。そうならないようにする」と述べました。
ここには大きなごまかしがあります。最大の問題が違憲の集団的自衛権行使との関係です。
もともと敵基地攻撃能力の保有の問題は、個別的自衛権の枠組みのもとでその可否が論じられてきたものです。
ところが現在、政府が50年以上にわたり「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」としてきた原則が安倍自公政権のもとで壊され、安保法制によって集団的自衛権行使が「可能」とされている状態です。
「専守防衛」と全く相いれず
政府は、集団的自衛権の行使として敵基地攻撃を行うことを認めています。日本共産党の小池晃書記局長の追及に、岸信夫前防衛相が答えました。(5月31日、参院予算委)
日本が攻撃されていないのに、米国への攻撃に対して反撃し、戦争に参加する集団的自衛権の行使では、日本に対する武力攻撃はなく、その「着手」もありません。日本の「反撃」は、相手国に対する先制攻撃とならざるを得ません。
それだけではありません。敵基地攻撃は、相手国領土内の軍事拠点をたたくものです。日本が攻撃されてもいないのに、米国とともに相手国領土内に深く侵入して攻撃することは、「専守防衛」と全く相いれないと言わざるを得ません。
しかも現在の自民党の提言では、「敵基地」に限定せず「指揮統制機能等」を攻撃するとされています。指揮統制機能とは、日本で言えば東京にある首相官邸や市ケ谷の防衛省などを攻撃するということです。先制攻撃として政治的中枢を攻撃すれば、相手国は個別的自衛権を行使して日本に全面的な反撃を行います。
安倍晋三元首相は、2020年9月の退任直前に異例の敵基地攻撃能力保有の「提言」を発表。その後も一貫して唱道し危険な役割を果たしてきました。
安倍氏主張に沿う形で提言
安倍氏は昨年11月の講演では「敵基地だけに限定せず『抑止力』として打撃力を持つ」と主張。さらに、「『抑止力』というのは日本に手を出すと大変な痛手を被ると相手に思わせるもの」だとし、「米国の場合はミサイル防衛によって米国本土は守るけれども、一方で反撃能力によって相手をせん滅します。この後者こそが抑止力なのです」と語っています。せん滅とは、皆殺し、徹底的に滅ぼすという意味です。安倍氏は米国並みの「抑止力」を求めてきました。
つまり敵基地に限定されない「反撃」とは、相手を滅ぼすような報復攻撃を行うこと。前述のように、こうした安倍氏の主張に沿う形で、敵基地に限定されない指揮統制機能等=中枢への攻撃として自民党提言もまとめられています。
敵基地攻撃はもともと、攻撃に着手した相手国の弾道ミサイル基地を破壊して自国防衛をはかるという個別的自衛権として議論されてきました。相手国の中枢に侵入し敵基地に限らず先制攻撃を行うというシナリオは、元来の議論と大きく異なるものとなっています。
なぜそうなるのか―。集団的自衛権を行使し米国とともに海外で戦争する以上、米国と同じ論理で軍事行動をとらざるを得ないことを示しています。米軍には、憲法9条のもとで自衛隊に課せられた必要最小限度の武力行使=専守防衛のような制限は存在しません。
敵基地攻撃能力の保有の最大の狙いは、集団的自衛権という権限に、実際に米軍とともにたたかうだけの攻撃力を充足するものです。それは、奄美大島から沖縄本島・南西諸島を通りフィリピンに至る「第1列島線」に「精密統合打撃網」を構築するという米国の対中戦略の一環ともなっています。中国東海岸の2000発を超えるともいわれる中距離ミサイル網に対抗して、長射程のミサイルをこの地域に大量配備するものです。
違憲の集団的自衛権行使のもとでの「敵基地攻撃能力」の保有は、実態として危険極まりないと同時に、先制攻撃をもたらすほか、近隣諸国に軍事的脅威をもたらし、相手国の領土内での全面攻撃につながりかねないという点で、専守防衛を全面的に逸脱する重大な違憲性を免れないものです。(中祖寅一)