スポーツ界の1年
相次ぐ不祥事は変革への萌芽
この1年、スポーツ界は不祥事に揺れました。
レスリングの伊調馨(かおり)選手をめぐる代表監督のパワハラに始まり、「悪質タックル」を生んだ日本大学アメリカンフットボール部の暴力的な指導。ボクシング連盟前会長が試合の判定をゆがめた“奈良判定”に加え、角界の暴力など、いまだその揺れが収まらないのが実態です。
指導者意識の転換が必要
“震源”には二つの要素があります。一つは指導者のあり方の問題。もう一つは、スポーツ団体の組織運営の未熟さです。
日本オリンピック委員会(JOC)など5団体は5年前、「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」を出しました。
「フェアプレーの精神やヒューマニティーの尊重を根幹とするスポーツの価値とそれらを否定する暴力とは互いに相いれない」と、一掃への決意を固めました。
当時JOC専務理事で現在、日本トップリーグ連携機構の市原則之専務理事は本紙の取材に、「残念ながら私たちはこの問題を克服できていません。スポーツ界の暴力は軍隊的な指導のなごりです。しかし、選手の人権を認めないところにスポーツ指導は成り立たない。指導者の意識の転換を図らないといけません」と語りました。
染みついた体質の一掃には長期の取り組みが必要でしょう。選手の人権を柱にすえ、科学的で合理的な方法論を身に付けた指導者の養成が決定的です。
米大学バスケットボールのある名コーチは、選手にたいする働きかけについて、「強さではなく優しさで、恐怖心ではなく誇りで」と説いています。優れた指導者を輩出するため、養成事業の質を高め、規模を抜本的に拡大することが重要です。そのための財政的な措置については、国が支えることが不可欠です。
スポーツ団体の運営の改善も大事な側面です。
スポーツ界の役員の多くは競技OBが担っています。しかし、その道の専門家が、組織運営やマネジメント能力があるとは限りません。組織原則や運営の民主的なルールの確立は最低限の責務です。
JOCなど統括団体を中心とし、スポーツ団体が主体的に規範を定め、成功している団体に学び、外部人材を招くなどオープンな組織改革が求められます。
21日、スポーツ庁が打ち出した不祥事防止策はスポーツ団体に「にらみを利かせる」(鈴木大地スポーツ庁長官)ものにすぎません。
しかも国が行動規範の「ガバナンス・コード」を定め、スポーツ団体の審査に関与する形となります。これでは国がスポーツ団体の運営に介入する危険が生まれ、その自立が損なわれる可能性があります。
上から押さえるのでなく
相次ぐ不祥事は、変革の“陣痛”でもあります。選手らが勇気をもって告発に踏み切っているのは、その注目される兆候です。暴力指導を許さない人権感覚、組織不正をただすフェアな意識など改革の萌芽がここにあります。
これを真の変革につなげるために、上から“押さえつける”対策ではなく、スポーツ界を挙げた幅広い議論が、何物にもかえがたい着実な一歩となります。