顎の骨は歯を失うと、必ず唇頬側の骨から高さを失って行く。
これは生物学的な法則で、これから逃れられることはない。
つまり、歯を失った顎堤は絶対に元々の歯があったアーチよりも小さく内側に入る。
だから、患者さんの顔貌を回復するには、それを考慮して補綴しなければならない。
総義歯を勉強すれば、以上のことは必ず学ぶし、それをどう解決するのか、も学ぶ。
唇頬側に顔貌を回復できるボリュームを付与して、その上で噛める位置に人工歯を上手く並べて作製しなければならない、と言うことだ。
更に考えなければならないのが、舌への配慮だ。
舌は筋肉組織でできているから、体積容積が結構要る。
簡単に言うと、舌房をしっかりとちゃんと確保しないといけない、と言うことだ。
こうして、所謂デンチャースペースと言うモノが形作られる、と言うことになる。
このデンチャースペース、そんなモノは存在しない、と言う論文も存在し、今の補綴学会の公式見解は知らないが、私はある程度のスペース、空間が保たれると理解してる。
天然歯列が元々あった時、それを元に顔貌の張り、膨らみは維持され、舌は歯列弓に沿うようにして形を保っていた筈。
ならば、総義歯になっても、それを元にして回復してあげれば患者さんは、顔貌の張り、膨らみは復活し、舌は記憶している気持ちの良い形になる、と言うことだ。
こんなことは少し考えれば分かること、総義歯を真面目に勉強すれば理解できる筈のこと、であると思う。
そして、この黄金の法則、鉄則は、どんな補綴を考える時でも全く同じでなければならない、と私は考えている。
何故なら、口腔内の感覚はとても鋭敏であり、視覚、指先感覚と口腔内感覚こそ、人の知覚できる最も重要な感覚だからである。
人の組織は賢い。
これは快適か否か、は大抵の場合短期間で判定できる。
しかし、ここで最大の問題が、患者さんはユニットに座り、あれこれ弄り回されてると緊張してるのと相まって成否を判定不能になる、と言うことだ。
これが大きなお師匠様の教えで、ユニットでの患者さんの言うことは信じて信じるな、と言われておられた。
つまり、日常に帰られた時、普通に戻られて、落ち着いて正常な感覚が戻った時に成否を確認して貰わないとダメ、と言うことだ。
簡単に結論から言うと、補綴は入れたその日に判断するのは間違いで、できれば翌日とかに来て貰って、精密に調整するのが良い、と言うこと。
許容範囲にちゃんと収まったのかどうか?は、後日判定するモノだ、と。
そして、強調して置くが、全ての補綴物はデンチャースペースに収まるように作製されるべきである、と言うこと。
患者さんが快適に補綴物を受け入れられるように立体的に再建するべきである、と言うこと。
これが分かるようになるには、総義歯を修得するのが良い。
否それしかない、と私は断言してしまう。
全ての基本は総義歯にあり。
だから、今の1割もまともに総義歯臨床できるDRがいるかいないかは異常事態だ、と思う。
せめて、歯科医の8割はそれなりのレベルでできるように育てるべきだ、が私の持論。
臨床研修組織を歯科界が責任持って作るべきだ、と提言する。
私みたいに定年過ぎのDRは、全面的に協力するのにやぶさかではない。
そう言う方は多いのでは、と思う。
是非やって欲しい。