The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『ハムレット』 ケネス・ブラナー版

2016-09-05 | ハムレット関連
ケネス・ブラナー版ハムレット(1996年制作)


 
先日ご案内しました様に AXNミステリーの放送を観る事が出来ました。
この作品をテレビ放映で観る事が出来るなんて予想もしていなかったので感激でした。
4時間という事で 同じテンションで全部見通せるかチョット不安が有ったのですが 面白かった
のです。
「ハムレット」が ”面白い” という表現は相応しくないかも知れませんが、時間の長さを感じ
させず最後まで見入ってしまいました。
前回も書きましたが、この作品は舞台を19世紀に置き換えてはいるものの原作のセリフをほぼ
完全に(一行もカットせずにと書かれています)
盛り込んだ史上初と云われる『完全版』と云わ
れています。
「ハムレット」は大昔に読んだきりなので ストーリーは覚えているものの セリフはごく一部を
覚えているだけなので 今回改めて原作を思い出しながら全編を見る事が出来た事はAXNミステリー
さんに感謝!です。

原作は云わずと知れたウィリアム・シェークスピアの戯曲でストーリーも良く知られた作品です
ので、今更浅学な私如きがストーリー自体に触れる事はもってのほかですので、今回はこの映画
作品に関して感想を少し書いてみました。

この作品の凄い点は、『完全版』という点に加え 兎に角配役が超豪華なんですね、繰り返しに
なりますが その凄さを下記にご紹介しておきます。



ハムレット : ケネス・ブラナー (監督兼)
オフィーリア : ケイト・ウィンスレット
ボローニアス : リチャード・ブライアーズ
ガートルード : ジュリー・クリスティ
クローディアス : デレク・ジャコビ
亡霊(ハムレットの父) : ブライアン・ブレスド
レアティーズ : マイケル・マロニー
ホレイショー : ニコラス・ファレル
フォーティンブラス(ノルウェー王子) : ルーファス・シーウェル
ノルウェー王 : ジョン・ミルズ
ローゼンクランツ : ティモシー・スポール
レイノルズ : ジェラール・パルデュー
墓掘り人 : ビリー・クリステル
イングランド大使 : リチャード・アッテンボロー
鑑定人 : ロビン・ウィリアムズ
プリアモス : ジョン・ギールグッド
劇中劇の王妃 : ローズマリー・ハリス
劇中劇の王 : チャールトン・ヘストン
マーセラス : ジャック・レモン
ヨーリック : ケン・トッド
ヘクバ : ジュディ・デンチ


先にも書きました様に 兎に角夢のような超豪華配役でして、脇のちょい役にまで凄い俳優陣が揃え
られていて 何と贅沢な事か。 特にジュディ・デンチに至ってはセリフ無でほんの数秒の出演!
それと前回出演者をご紹介した時には抜けていたのですが、何とチャールトン・ヘストンまで出演し
ていたのには本当にびっくりでした。 これ程の豪華出演者を揃え セリフもほぼ原作通りと言う
超大作はこれまで無いし、今後も制作されないのではないかとさえ感じられます。

これまで「ハムレット」の最高傑作と云われていたローレンス・オリヴィエ版は原作通りの設定で
あり モノクロの画面であったので 暗い、陰鬱な印象が有った記憶があります(とは言いながら
全編を通して見る事は出来ていませんが・・・)。
今回の作品は 舞台が19世紀という事で 原作の暗いイメージとは異なり 城の内部や調度品、衣装
などが、極めてきらびやか豪華絢爛で美しい画面になっています。 とは言いながら原作の格調高さ
は保っていると感じました。
原作の古典としての格調高さときらびやかさを同時に出すには19世紀という設定が丁度良かったので
はないかと思いました。



母と伯父の美しく豪華な結婚式の中で一人だけ喪服に身を包むハムレットの姿が 華やかな色彩の
中の黒一点という形で彼の心情を視覚から感じるシーンです。

冒頭に現れる前王の亡霊は甲冑を纏いおどろおどろしい姿で大魔神風。

サー・ケネスのハムレットは金髪で予想外(暴言)に美形で、勿論当時35,6歳という若さではあり
ますが 「刑事ヴァランダー」でのくたびれたオジサン(又暴言)の姿からは想像出来ない様な溌
剌とした姿で驚きました。



原作を読んでこれまで自分なりにイメージしていたハムレットは悪く言えば優柔不断、 繊細で憂愁
の深さと厭世感に悩むアンニュイなイメージを持っていたのですが、ブラナー版ハムレットは感情の
起伏が大きく怒り、悲しみ、時にコミカルに素晴らしく演技の幅が広く これまで勝手に持っていた
ハムレット像とは違ったイメージで生身の人間を感じさせる”動”のハムレットを描き出していた様に
思います。



又オフィーリアは原作を読んで持っていたイメージが線の細い、余り主体性の無いはかなげな女性
と言う印象だったのですが(全く個人的な感想ですが)、ケイト・ウィンスレットのオフィーリア
は気が強そうな 少し逞しいイメージを感じます。 ただ、そのせいで狂気がより強烈に感じさせ
られるような気もしますね。
気が狂ったオフィーリアが拘束服を着せられ 監禁されホースで水を浴びせられるシーンは予想外
の表現で驚きです。



鏡の前でかの有名な ”To be or not to be, that is the question” で始まる長ーーーい独白シーン。
息をもつかずあの長いセリフを語るって改めて役者さんって凄いな~と感心しながら 殆ど息を止めて
見呆けてしまいました。
余計な事ですが、鏡にカメラや照明が写らない様にするアングルが難しかっただろうなぁと妙な所が
気になり・・・

ところで、この ”To be or not to be・・・・・”の翻訳に関しては、一般的に「生きるべきか、死ぬべ
きか、それが問題だ」という訳が一番良く知られていると思われますが、明治の頃から ”be”の解釈が
色々あって、
例えば、

「ながらふべきか、しかしまた、ながらふべきにあらざるか、これが思案のしどころぞ」:矢田部良吉
「世にあるべきか、世にあらぬか、それが疑問じゃ」:坪内逍遥
「生か死か・・・それが問題だ」 : 久米正雄
「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」: 河合祥一朗
「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」: 小田島雄志

で、字幕はどうだったか?? えーっと、多分「生きるべきか・・・」だった様な。 字幕を追うだけ
でも結構大変だったのに、今回耳も動員して聞き取ろうと頑張っていたので(言い訳)

そして、ハムレットとオフィーリアの関係に関しては、古今東西研究者を含め実の多くの方々が色々
論争していたようですが、この作品においては二人は出来ている(結ばれている)、あーもう下品で
露骨にならない様に表現するのは難しい(汗)、つまり そういう事でして(?)、この点に関して
は個人的には最初に原作を読んだ時点から”プラトニック”なのだと思い込んでいた訳なのですが、
この作品での設定をもって考えると、例の有名なセリフ
”Get thee to a nunnery !”「尼寺へ行け!」が別の解釈 つまり nunnery”のもう
一つの意味である”売春宿、娼窟”という侮蔑の意味での解釈もできるのかと・・・

(注 : ”Thee ”は古英語でのyou(目的格)、主格youは ”thy”、所有格yourは ”thou”ですね。← 感心
にこれだけは大昔講義で習った事を覚えているんです)


↑ ホレイショーのニコラス・ファレルも印象的でした。



レアティーズとの決闘シーンは迫力もあり、映像的にも美しい場面でしたが、最後に王を剣で刺した
上にシャンデリアを投げつけるのはチョットやり過ぎの様な感じもありますが 殺しても飽き足らない
ハムレットの心情を表すには必要な脚色と考えたのかも知れません。

近年のハムレット作品は舞台、映画共に設定を現代に移した作品が多い様いですが、古典に触れる敷居
の高さを感じさせない為、取っつきやすさを感じさせるためなのかもしれないとは思いつつ、個人的に
はやはり原作のままの時代設定 せめてこの作品の様に19世紀あたりの設定にしないと原作の雰囲気、
キャラクターの心情を理解出来ない様な気もします(全く私見)

何れにしても 「ハムレット」の『完全版』をこれだけの高いレベルで映像化した事は大変な偉業だと
感じ、今回図らずもこの作品を見られた事は感謝ですし、幸運でありました。
久し振りに良い作品をみせて頂き堪能しました。


偶然trailerを見つけました。
短い物ですが 雰囲気だけでもご覧頂ければ・・・

https://youtu.be/UjHXIWLTsOk