<原発ADR>慰謝料「一律5割」…「被害者、不利益被る」
毎日新聞 10月29日(水)13時30分配信

原発被災者弁護団副団長の大森秀昭弁護士=東京都港区で、徳野仁子撮影
東京電力福島第1原発事故の賠償問題を裁判外で解決する手続き(原発ADR)を担当する原子力損害賠償紛争解決センターが、避難後に死亡した人の慰謝料を算定する際、事故の影響の度合いを「一律5割」とする文書を作成していた問題。被害者を支援する全国最大の「原発被災者弁護団」副団長、大森秀昭弁護士(56)は「不適正で不合理な内容で、利用されると被害者が不利益を被る」と批判する。他にも明らかにされていない内部文書が存在する可能性があり、大森氏は「利用しているなら公開すべきだ」と語る。【聞き手・高島博之】
◇弁護団副団長、内部文書公開求める
<死亡慰謝料は「基準額」×「原発事故の影響の度合い(割合)」で算定される。毎日新聞が入手した内部文書には、基準額を通常訴訟よりも低く設定できることにし、80歳以上はさらに引き下げるよう書かれている>
--問題点は。
◆年齢によって慰謝すべき命の価値に差があるはずはなく、大きな問題だ。例えば交通事故の裁判なら高齢に伴う減額はない。
--事故の影響の度合いについて、内部文書には「一律5割とし、4割か6割といった細かい認定を行わない」と記載されている。 ◆以前から5割が事実上の上限になっているとの疑いをもっていた。7、8割と認めるべき案件も低く扱われた恐れがある。基準額も低く設定され、被災者は二重の不利益を被っている。「細かい認定は行わない」という表記も、公正で適正な賠償の実現に反し不合理。和解案がこの基準によって示されてきたのなら信用を損なう。
--「訴訟より賠償額を控えめ(低額)にする必要はないか」との記載もある。
◆ADRでも、訴訟と同等の賠償水準が実現されるべきだ。
<賠償項目や期間などを示す国の原子力損害賠償紛争審査会の「中間指針」には、旧緊急時避難準備区域からの避難について、2012年8月31日に賠償を打ち切る一方「子供の通学先の状況など特段の事情」があれば賠償継続を認めている>
--ADRはどう判断してきたのか。
◆高校生を含む家族が避難した場合、賠償継続を認めるが、中学生以下では認めない傾向がある。この線引きがセンター内で基準になっている可能性があると感じてきた。
--「一律5割」以外の基準があると。
◆その疑いがある。幼い子供への放射線への影響を心配し、避難を続けている場合などでは賠償の継続が認められておらず、妥当な基準とは思えない。
--それでもADRを利用する理由とセンターへの要望は。
◆迅速に解決でき、被災者の負担が少ないADRは、早期の生活基盤の回復につながる。ただ、公正である必要がある。基準を策定しながら非公開にし続けた場合に、公正さを保てず信頼を失う可能性がある。
◇原発被災者弁護団◇
東京電力福島第1原発事故に伴う損害賠償請求を支援するため、2011年8月に東京都内の弁護士を中心に結成された。約400人が参加しており、原発事故の被災者支援としては全国最多。迅速な解決を目指し、訴訟よりも原発ADRを利用しており、20日現在532件(5493人、94法人)を申し立てている。
◇「一律5割」などと書かれた原発ADRに関する内部文書の主な問題点◇
(原発被災者弁護団の大森秀昭弁護士の指摘による)
<前提>
慰謝料額=基準額(1)×事故の影響の度合い(2)
<文書の記載と問題点>
(1)避難中の死亡慰謝料の基準額
「通常訴訟なら2000万円以上だが、ADRでは80歳以上は1000万~1800万円」
→年齢による命の価値に差はなく大きな問題
(2)原発事故の影響の度合い
「一律5割とし、4割か6割といった細かい認定を行わない」
→不適正で不合理。(1)と(2)により被災者は二重の不利益を被る
(3)その他
「訴訟よりも証明度を緩和しているため、死亡慰謝料を控えめ(低額)にする必要はないか」
→訴訟と同等の水準にすべきだ