郎女迷々日録 幕末東西

薩摩、長州、幕府、新撰組などなど。仏英を主に幕末の欧州にも話は及びます。たまには観劇、映画、読書、旅行の感想も。

皇室典範改正問題の不思議

2006年02月19日 | 時事感想
珍しく時事です。皇室典範の改正について。
私はもともと、原則的には女帝容認派です。
ただ、女系容認派であるかどうか、といわれますと、微妙なものがあります。

数年前に、男系絶対維持派の男性と、チャットで討論をしたことがありました。
そのときには私は、女系容認でした。
それが望ましいと思っていたわけではありませんけれども、現在の皇族、宮家に皇子が恵まれませんでした場合、女帝は皇室の過去に例があることですし、女帝が継がれ、さらにはそのお子が継がれることも、かならずしも伝統に反することではない、という考え方でした。旧宮家の復帰よりは、女帝の方が現代になじむのでは、という思いもあったりしましたし。

江戸期の家の相続は、天皇家と将軍家を別にして考えますと、庶民から大名、摂政関白家まで、男系がとぎれた場合は、女系で継いでいる場合が、けっこう多いのですね。娘に婿をとることもあれば、嫁に行った娘の子を養子に迎えることも、ありです。
だいたいわが家は、曾祖父の父親が婿養子で、私の父も婿養子です。皇統の話に庶民の例を持ち出すな、といわれるかもしれませんが、男子がいなければ婿養子、というのは、日本の家族制度の伝統ですし、気分として、なじみやすいんです。
皇室にしましても、例えば江戸時代、直系が途絶えて傍系の宮家から入った光格天皇の場合、中宮には、先帝・後桃園天皇の一粒種である欣子内親王を迎えられていて、養子の形をとっていますから、男系の皇統を守った上で、しかしやはり直系もまた、重んじられてはいるわけです。
余談になりますが、現在の皇室は、この光格天皇の直系となります。

ただ、やはり皇室の場合は、千数百年にわたって男系が守られてきた事実の重みがあります。
できうれば現代でも、女帝の婿君には、旧宮家の男性が望ましくはありますし、それ以前に、これまでの女帝は、独身か、天皇や皇太子の未亡人ですから、女帝の婿君を処遇する伝統がありません。
伝統の問題だけではなく、今の日本の現実として、イギリスなどとちがって貴族制もすでにありませんし、女帝の婿君という立場をどう処遇するか、難しいお話です。
女系容認にまで至らない方が、はるかに望ましくはあるでしょう。

女帝論争は、明治にもありました。当時は幼児死亡率が高く、明治大帝のお世継ぎについても、憂慮されていた期間がけっこうあったのです。
かろうじて大正天皇お一人が、無事に成人なさって、直系男子の相続がかないましたが、それは結果です。
このとき、女帝容認論を唱えたのは、保守派でした。
なぜならば、女帝を容認することが、日本の皇室の伝統であったからです。
しかし、この当時、たとえ女帝が立ったにしましても、男系の血統が変わる心配は、あまりなかったのです。血筋の遠い宮家の男性が数多くありましたので、その血筋に女帝のご結婚相手を限ればよかったからです。
実際、明治から終戦までの間、皇女のご結婚相手は宮家の男性に限られておりましたし、それには、いざとなれば宮家からお世継ぎを、という心づもりもあったでしょう。
明治天皇にも、その父君の孝明天皇にも、そのまた父君の仁孝天皇にも、無事に育たれたご兄弟はおられませんでした。したがって宮家は遠く離れた傍系であり、直系を重んじる意味からは、皇女が嫁がれた方が宮家の重みが増す、ということであったわけです。

今回の皇室典範改正の話には、唖然としました。
私は女系容認論者でしたけれども、それは、他に選択肢のない場合です。
なにがなんでも長子優先というのは、あんまりでしょう。例えご兄弟がおられても、女性の方が年上ならば優先して女帝って、伝統を断つ必要がなくとも断ってしまえ、といっていることと同じではないでしょうか。
また、もしも女帝が立った場合、婿君の処遇をどうするかなど、踏み込んだ議論もなく、ただ女帝、女系容認、長子優先では、目先のことしか考えていなかった、といわれても、仕方がないでしょう。

実際、秋篠宮家のご慶事でひっこめてしまうくらいなのですから、拙速にすぎたことは確かです。
皇室典範の改正が必要であることは、わかります。
また皇室は、これまでも時代にあわせて変わってきたのですから、新しい皇室像の模索も、必要でないとは思いません。
しかし、まったくこれまでの皇室の伝統を無視してしまうのならば、皇室が存続する意味もまた、霧散してしまうでしょう。
あまりにも軽率な今回の騒動を見ていまして、女系容認に疑問を持つようになりました。

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コメント (7)
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