田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

とある田舎町の「学校の怪談」episode14白骨をひくノコギリ 麻屋与志夫

2013-07-10 13:50:00 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode14 白骨をひくノコギリ

照正君にはきこえた。
だが彼には、とっさに、その音がなんであるか?
判断ができなかった。
死可沼北少学校の校門の付近まできていた。
低いコンクリートの塀にとりかこまれた学校。
校庭で遅くまで野球の練習をしての帰りだった。
みんな、がやがやとその日の成果をはなしあっていた。

「おい、光男。きこえたよな。なにか音がしてないか」
「ぼくには、なにも、きこえないよ」
「いや、きこえる。毎年、夏になると、いまごろきこえてくるという、あの音だよ」
「ノコギリでなにかひいているような音?」
高野君が照正にきいてきた。

「そうだ。きこえるよな」
キシュキシュという音が幽かにする。
10人ほどの仲間の半数はきこえると応えた。
それは、悲鳴にきこえるというものもいた。
それぞれいうことがビミョウニちがっていた。
金属を切断しているような音だ。
いやちがうよ、人の骨をノコギリでゴシゴシ細かくきっているんだよ。
ホラー小説好きの高野君がこわごわという。
みんな、悲鳴をあげて逃げだした。

狭い町だ。
噂がひろまった。
毎年噂になるのだが、いままでは、だれも確かめてみようとはしなかった。
ところが、高野君がパソコンでツブヤイタ。
記録破りの暑さのなかで怪談がもてはやされた。
高野君ツブヤキが萌えあがった。

その翌日。
同じく校門前。
凄い人だかりだ。

「あっ、アサヤ塾のオチャン先生だ。どうして塾の先生が……きてるのよ」
照正がいう。 
「先生は小説家なんだ。この北小学校の――歳からいっても大先輩なんだ」
アサヤ塾の塾生――高野が自慢げに応える。
地元の新聞社の要請で百目鬼剛がかけつけた。百目鬼は超短編小説を地元紙の栃木新聞に連載している。そして、高野がいうように、この北小学校の卒業生だ。
百目鬼はコンクリート塀の、犬くぐりにはめ込まれた鉄柵にかがんだ。
鉄柵は切り取られてない。

「博君か? 博君だよな」
百目鬼は「のうまくさんまんだばあさらだ」とお経をあげだした。
するとどうだ。
夕暮れ時の塀のあたりに白い影がただよいだした。
百目鬼のほうに影がながれてくる。
みんなはこの怪異に恐れおなし、後ずさる。

「なんなんだよ」
「おばけだよ」
「なにかのたたりだりよ」
「怨念のかたまりだ」
「高野君がピンポンだ」
百目鬼がそういって、なおも経をあげなから怨霊にコンタクトする。
「あのことか。あのことが恨めしいのだろう」
凄まじい怨念が影から放射されている。
みればその背後の薄闇迫る校庭から白濁した影が、わっと湧きでて群れをなしてやってくる。
はっきりと姿にはなっていない。
それでも、百目鬼には納得がいった。
「やっぱり博君だ。荒くま君だ。あのことを訴えたいのだね。だから終戦記念日が近づくとでてきたんだ」
後ろからせまってきた怨霊が博君の霊を中心によこに整然とならんだ。
みんな小学生らしい雰囲気だ。

「老人の方もいるようなので、もしわたしがこれから話す事に記憶違いがあったら、どうぞ正してください」

校門の前は、時ならぬ選挙運動の街頭演説のようなことになった。
携帯でれんらくをうけた近所の市民も大勢集まってきた。
そして、まだ怨霊も塀の周辺にただよわっている。
ギイギイなにかをひくような音も、百目鬼がお経を唱えるのをやめたので、ふたたび響きだした。
みんなからだを震わせながら百目鬼のことばに耳を傾けた。
だれも蒼ざめている。
震えている。

「あれは終戦のひと月くらい前でした。ちょうど今ごろでした。ぼくらはこの犬くぐりの鉄柵をヤスリデ切っていました。鉄を集めて弾丸をつくるためでした。供出の日がせまっていました。今夜はねずにやれ!! と体操教師のHが高飛車に命令しました」
「実名をだしたってかまわないぞ」
老人のなかで叫ぶ者がいた。
「名前をいっちまえよ。おれたちはアイツに殺されるほど殴られた。死んでしまうほど毎日殴られた」
「そうなんです。その恨み抱いたまま死んだのが博君です。夜も寝ずに、といったHに反発した博君は殴られた。倒れた時にヤスリで背中を刺し貫かれた。頭を鉄の山にぶちつけた。上都賀病院でくるしみながら死んでいった。ぼくらはだれも、真相を怖くていいだせなかった」

老人たちが怨霊の前に同じように整列した。
お互いに両手をだして握手した。

鉄を切るような、白骨を切るような、不気味な音はいつしか消えていた。


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とある田舎町の「学校の怪談」episode13 口裂け女(バラエティー) 麻屋与志夫

2013-01-31 11:57:21 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode13 口裂け女(バラエティー)

●タカコチャンはこの春、小学校に入学したばかりのピカピカの一年生です。
校舎のなかを探検して歩くのが好きです。
楽しくてしかたがありません。
「ここにはピアノがあるから音楽室ね」
一年生でも、それくらいのことはすぐわかりました。
でも、壁に飾ってあった白いお面が、なんなのかわかりません。
家にある白キツネのお面に似ています。
でも、口はトガッテいません。
口がキツネのように耳のほうまで裂けていません。
かぶってみました。
とれません。
息がつまりそうです。
必死ではがしました。
お面のうらがわに血がついていました。
とくに、口のあたりに血がべっとりとついています。
痛みよりもその赤い血をみてタカコチャンはこわくなりました。
泣き出しました。
泣き声を聞いて、どっと生徒が入ってきました。

「わあっ。口裂け女だ」

●まさか、あんなことになるとは、昭雄はおもわなかった。

「おい、富雄。邦子の両手を押さえろ」

昭雄は富雄に命令しました。
ふたりは六年生の双子です。
悪ガキです。
いまも邦子の顔に音楽室の壁にかかっている白いマスクをかぶせました。

「やあい。ぶよぶよふとったドブス。これかぶってスマートになれ!!」

女の子にはけっして言ってはいけない。
禁句です。
侮蔑用語は使ってはいけません。

邦子は夢中になって逆らいました。
でも二人の力にはかないません。
邦子が静かになった。
息がつまったのです。
ぐったりしています。
昭雄は邦子の顔からお面をはずそうとしました。
はずれません。
持ち歩いていたシャープペンシルの先をお面と邦子の顔とのあいだにさしこみました。
とがった先が邦子の肌につきたったようです。
ヤットはがした下から邦子の顔が――。

「わあっ。口裂け女だ」


●音楽室に飾ってあるマスクは。
楽聖、ベートーベンのデスマスクです。
デスマスクというのは死んだ人の顔から石膏型をとって制作するものです。
死人の魂がやどっていてもふしぎはありませんよね。

●なに、あなたの学校の音楽室にはない。
楽聖のデスマスクが飾ってないのですか。
それはやはり、なにか祟りがあったからでしょう。
部屋の奥の棚を探して御覧なさい。

●バラエティーは、寄せ集めというような意味です。



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とある田舎町の「学校の怪談」episode12 口裂け女2(第三稿) 麻屋与志夫

2013-01-30 08:00:59 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode12 口裂け女2

東武日光線の新鹿沼駅で降りた。
ここが、がわたしのhome townだ。
まだ宵の口なのに構内は暗かった。
浅草からの乗客が数人降りただけだった。
興奮して大声で話し合っていた。車内にひびきわたるような大声だ。
スカイツリーを見物してきたのがわかる。
「あんなに高いとはおもわなかったっぺ」
「二股山より高かっぺよ」
「それにひともぎょうさんいてよぉ」
U字工事のお笑いですっかり全国区となったなつかしい栃木弁だ。
にぎやかな御一行様が改札をぬけるともうあとはわしだけ。

下校時なので、それでも日光方面に帰る高校生はかなりいた。

わたしは白いマスクをして歩きだした。
母校の中央小学校が真新しくなっていた。
驚き――。でも、わたし的には、あの古びた校舎のほうが好きだ。
いろいろな思い出がいっぱいつまっていた木造の校舎。
わたしはたちどまって感傷にふけっていた。
クラブ活動でおそくなった小学生が新しい校門からどっとはきだされた。
わたしを見てギョッと男の子がたちどまった。
わたしはマスクに手をやった。
並んで歩いていた少女も青白い顔をしている。
わたしはマスクをとった。
そして「ワタシキレイ」定番のことばをささやく。
男の子は、アワアワとあわてふためいた。
あわくったように逃げ出した。
残された少女がほほ笑みながら話しかけてきた。
「おばさん、ありがとう。わたしぃ、告られていたんだけどね、あんな草食系の子とおもわなかった。つきあうの、やめた!!」
「口裂け女とまちがったのよ。おばさんがきゅうにマスクをとったから」
「怖がったから、みなくていいものが、見えてしまったのね」
口裂け女だ!
口裂け女だ!!
口裂け女だ!!!
離れたところでこちらを指さして少年が叫んでいる。
「ワー。ワー」
と、悲鳴を上げて小学生が「駅の街」の広場のほうへ逃げていく。
クモの子を散らすように逃げていく。
逃げていく。
「ワァー。ワァー。口裂け女だ。口裂け女が出たぞ」
ランドセルがガクガクと音をたてている。
ドタドタと靴音が響く。
夕暮れの街に恐怖のサプライズだ。

今宮神社の境内をぬけた。
大ケヤキが切られていた。
老樹なので幹に空洞ができて倒れる危険がある。
そのための処置。という立て札が設置されていた。
市役所前の十字路までさしかかった。
なつかしい安喜亭のラーメンの匂いがしてきた。
田舎町では、乗用車でラーメン店にやってくる。
広いのに、満車だった。
そして、その駐車場のむこうが「アサヤ塾」だ。

わたしは中学生になってから中途入塾した。
それまで、学校では陰湿ないじめにあっていた。
いじめられっ子だった。
ところが、同じ学年の塾のクラスの子がわたしを助けてくれた。
安生、星、神山、平山君たち。
わたしがいじめられていると、どこからともなく彼らが現れた。
わたしを助けてくれた。
たよりになるわたしの白馬の騎士。
仲良し4人組。
いまごろどうしているかしら? 
 
わたしがキレイだと認めてくれたのは、アサヤ先生だった。
わたしは自信をもった。みごと進学した宇都宮女子高校では演劇部で活躍した。
全国高校演劇大会で優勝した。
そのとき主役をこなした。
東京の向日葵劇団の人の目にとまった。
その劇団に研究生としはいった。
そのまま演劇をずっとつづけた。
テレビの連ドラにもでるようになっていた。
ところが、秋葉の通り魔事件にまきこまれてしまった。
いや、あれはわたしのストーカーがやったことだ。
わたしは両耳にたっする傷をおった。
悲鳴をあげだが口が裂かれていた。
声にならなかった。
もうこれで、わたしの演劇人生はおわりだ。
声のでない女優ななんて……。
わたしは母を呼んだ。母に助けを求めた。
「お母さんたすけて。まだお芝居止めたくない――」
どうしてこんなことが、起きたの。
こんなことになったの。
どうしてこうなの?
ナゼ。
ナゼなの。
こたえは、もどってこない。
ストーカーは白昼のアキバでナイフをきらめかせている。
こんなことって、あっていいの。
でも、すごくリアルな狂気の姿だ。
イタイ、いたい。
お母さん。助けて。
わたしは口裂け女なんかになりたくない。
ノロウ。のろう。呪う。
こんな運命を呪ってやる。
栄光の絶頂からの転落。
いやだぁ。
こんなのってひど過ぎる。
テッペンから地獄へ真っ逆さまだ。
天空から地獄へ投げ落とされた。
わたしは堕天使だ。
でも、わたしはなにも悪いことなんかしていない。
痛い。痛いよ。お母さん。助けて。
アサヤ先生タスケテ。
わたしの白馬の騎士。
タスケテ。
テレビドラマにだってでているのに。
まだまだこれからなのに……。
声が出ない。
口の中は血がいっぱい。
ゴボゴボと血があふれ出る。
口裂け女。
わたしは口裂け女。
わたしこんなところで口を裂かれるなんて。
いや。
これからなんだから。
これからまだまだいっぱい芝居をやりたい。
テレビにもでたい。
わたしきれい。
わたしはきれいなの。
 
掘りごたつの上は、あのころとおなじ。
乱雑。まるであのころと同じだ。
本、雑誌、原稿のやまだ。
アサヤ先生はコタツで原稿を書いている。
もちろんパソコンだ。
先生の視線の先に――わたしがいた。
先生の正面の仏壇に――わたしの写真がかざられていた。
先生はわたしの遺影をみながらブラインドタッチで打ち出した。 

episode12口裂け女2
東武日光線の新鹿沼駅で降りた。
ここが、わたしの hometownだ。

わたしはふいに気づいた。
ストーカーの二突き目は、わたしの心臓につきたった。
わたしは死んでいる。
わたし亡霊だ。
みえるひとにしか、見えないのだ。
「先生。わたしきれいだった?」
わたしは昔ながらの、すこしも変わっていない教室にいた。
わたしの白馬の騎士の声がする。
すごくきれいだよ。
美香ちゃんのことはぼくらが守るから。
守るから。
「先生。アサヤ先生。その「怪談」が打ち終わるまでココにいていいかしら」



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とある田舎町の「学校の怪談」episode12 口裂け女2(第二稿) 麻屋与志夫

2013-01-30 05:38:18 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode12 口裂け女2

東武日光線の新鹿沼駅で降りた。
ここが、がわたしのhome townだ。
まだ宵の口なのに構内は暗かった。
浅草からの乗客が数人降りただけだった。
興奮して大声で話し合っていた。車内にひびきわたるような大声だ。
スカイツリーを見物してきたのがわかる。
「あんなに高いとはおもわなかったっぺ」
「二股山より高かっぺよ」
「それにひともぎょうさんいてよぉ」
U字工事のお笑いですっかり全国区となったなつかしい栃木弁だ。
にぎやかな御一行様が改札をぬけるともうあとはわしだけ。
下校時なので、それでも日光方面に帰る高校生はかなりいた。
わたしは白いマスクをして歩きだした。
母校の中央小学校が真新しくなっている。
驚き――。でも、わたし的には、あの古びた校舎のほうが好きだ。
いろいろな思い出がいっぱいつまっていた木造の校舎。
わたしはたちどまって感傷にふけっていた。
クラブ活動でおそくなった小学生が新しい校門からどっとはきだされた。
わたしを見てギョッと男の子がたちどまった。
わたしはマスクに手をやった。
並んで歩いていた少女も青白い顔をしている。
わたしはマスクをとった。
そして「ワタシキレイ」定番のことばをささやく。
男の子は、アワアワとあわてふためいた。
あわくったように逃げ出した。
残された少女がほほ笑みながら話しかけてきた。
「おばさん、ありがとう。わたしぃ、告られていたんだけどね、あんな草食系の子とおもわなかった。つきあうの、やめた!!」
「口裂け女とまちがったのよ。おばさんがきゅうにマスクをとったから」
「怖がったから、みなくていいものが、見えてしまったのね」
口裂け女だ!
口裂け女だ!!
口裂け女だ!!!
離れたところでこちらを指さして少年が叫んでいる。

今宮神社の境内をぬけた。
大ケヤキが切られていた。
老樹なので幹に空洞ができて倒れる危険がある。
そのための処置。という立て札が設置されていた。
市役所前の十字路までさしかかった。
なつかしい安喜亭のラーメンの匂いがしてきてた。
田舎町では、乗用車でラーメン店にやってくる。
広いのに、満車だった。
そして、その駐車場のむこうが「アサヤ塾」だ。

わたしは中学生になってから中途入塾した。
それまで、学校では陰湿ないじめにあっていた。
いじめられっ子だった。
ところが、同じ学年の塾のクラスの子がわたしを助けてくれた。
安生、星、神山、平山君たち。
わたしがいじめられていると、どこからともなく彼らが現れた。
わたしを助けてくれた。
たよりになるわたしの白馬の騎士。
仲良し4人組。
いまごろどうしているかしら? 
 
わたしがキレイだと認めてくれたのは、アサヤ先生だった。
わたしは自信をもった。みごと進学した宇都宮女子高校では演劇部で活躍した。
全国高校演劇大会で優勝した。
そのとき主役をこなした。
東京の劇団の人の目にとまった。
その劇団に研究生としはいった。
そのまま演劇をずっとつづけた。
テレビの連ドラにもでるようになっていた。
ところが、秋葉の通り魔事件にまきこまれてしまった。
いや、あれはわたしのストーカーがやったことだ。
わたしは両耳にたっする傷をおった。
悲鳴をあげだが口が裂かれていた。
声にならなかった。
もうこれで、わたしの演劇人生はおわりだ。
声のでない女優ななんて……。
わたしは母を呼んだ。母に助けを求めた。
「お母さんたすけて。まだお芝居止めたくない――」
アサヤ先生たすけて。
わたしの白馬の騎士。
たすけて。
テレビドラマにだってでているのに。
まだまだこれからなのに……。
声が出ない。
口の中は血がいっぱい。
ゴボゴボと血があふれ出る。
口裂け女。
わたしは口裂け女。
わたしきれい。
わたしはきれいなの。
 
掘りごたつの上は、昔とおなじ。
乱雑。まるであのころと同じだ。
本、雑誌、原稿のやまだ。
アサヤ先生はコタツで原稿を書いている。
もちろんパソコンだ。
先生の視線の先に――わたしがいた。
先生の正面の仏壇に――わたしの写真がかざられていた。
先生はわたしの遺影をみながらブラインドタッチで打ち出した。 

episode12口裂け女2
東武日光線の新鹿沼駅で降りた。
ここが、わたしのhome hometown だ。

わたしはふいに気づいた。
ストーカーの二突き目は、わたしの心臓につきたった。
わたしは死んでいる。
わたし亡霊だ。
みえるひとにしか、見えないのだ。
「先生。わたしきれいだった?」
わたしは昔ながらの、すこしも変わっていない教室にいた。
わたしの白馬の騎士のこえがする。
すごくきれいだよ。
美香ちゃんのことはぼくらが守るから。
守るから。
「先生。アサヤ先生。その「怪談」が打ち終わるまでココにいていいかしら」

●第二稿です。すきなテーマなのでなんどでも書き改めたいと思います。コメントお願いします。


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とある田舎町の「学校の怪談」episode12 口裂け女2 麻屋与志夫

2013-01-29 17:58:18 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode12 口裂け女2
東武日光線の新鹿沼駅で降りた。ここが、がわたしのhome townだ。まだ宵の口なのに構内は暗かった。浅草からの乗客が数人降りた。こうふんして大声で話し合っていた。スカイツリーをみてきたのがわかる。その人たちが改札をぬけるともうあとはわしだけ。下校時なので、それでも日光方面に帰る高校生はかなりいた。わたしは白いマスクをして歩きだした。母校の中央小学校が真新しくなっている。でも、わたし的には、あの古びた校舎がすきだった。いろいろな思い出がいっぱいつまっていた木造の校舎。わたしはたちどまって感傷にふけっていた。クラブ活動でおそくなった小学生が新しい校門からどっとでてきた。わたしを見てギョッと男の子がたちどまった。わたしはマスクに手をやった。並んで歩いていた少女も青白い顔をしている。わたしはマスクをとった。そして「ワタシキレイ」定番のことばをささやく。男の子は、アワアワとあわてふためいた。あわくったように逃げ出した。
「おばさん、ありがとう。わたしぃ、告られていたんだけどね、あんな草食系の子とおもわなかった。つきあうの、やめた!!」
「口裂け女とまちがったのよ。おばさんがきゅうにマスクをとったから」
「怖がったから、みなくていいものが、見えてしまったのね」
 今宮神社の境内をぬけた。大ケヤキが切られていた。老樹なので幹に空洞ができて倒れる危険があるためのやむを得ない処置と立て札が設置されていた。
 市役所前の十字路までさしかかった。なつかしい安喜亭のラーメンの匂いがしてきてた。そして、駐車場のむこうが「アサヤ塾」だ。わたしは中学生になってから中途入塾した。それまで、いじめられっ子だった。ところが、同じ学年の塾のクラスの子がわたしを助けてくれた。安生、星、神山、平山君。わたしがいじめられていると、どこからともなく彼らが現れた。わたしを助けてくれた。たよりになるわたしの白馬の騎士。仲良し4人組。いまごろどうしているかしら? 
 わたしがキレイだと認めてくれたのは、アサヤ先生だった。わたしは自信をもった。高校では演劇部で活躍した。全国高校演劇大会で優勝した。そのとき主役をこなしたのが東京の劇団の人の目にとまり、そのまま演劇をずっとつづけた。ところが、秋葉の通り魔事件にまきこまれてしまった。いや、あれはわたしのストーカーがやったことだ。わたしは両耳にたっする傷をおった。悲鳴をあげだが口が裂かれていた。声にならなかった。もうこれで、わたしの演劇人生はおわりだ。テレビドラマにだってでているのに。まだまだこれからなのに……。
 掘りごたつのうえは、昔とおなじ。乱雑。本、雑誌、原稿のやまだ。アサヤ先生はコタツで原稿を書いている。もちろんパソコンだ。先生の視線の先に――わたしがいた。先生の正面に仏壇に――わたしの写真がかざられていた。先生はわたしの遺影をみながらブラインドタッチで打ち出した。 

口裂け女2
 東武日光線の新鹿沼駅で降りた。ここが、わたしのちhome hometown だ。
わたしはふいに気づいた。ストーカーの二突き目は、わたしの心臓につきたった。即死だった。
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とある田舎町の「学校の怪談」episode11 理科室の骸骨模型 麻屋与志夫

2013-01-28 10:03:24 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode11 理科室の骸骨模型。

理科室には骸骨の模型がありました。
なに……? 
そんなものないよ、だって。

骸骨の模型ってどんなものなの。

たしかにあるわけだけどな。
あのころは小学校の理科室にはかならず骸骨の模型があったんだ。
わからない子は、パソコンで「人体骨格模型・ヒューマンスカル特大フィギュア」で検索してごらん。
ていねいな紹介がみられるよ。
すこし怖いけどね。
でも、それを検索してよ。
簡単に、「人体模型」とだけ打ち込んでもみられるよ。
そう、骨の見本がでたろう。
みてくれないと。
これからのぼくの話の怖さが実感できないとおもうんだ。

理科室にはなにか薬品ににおいがしていた。
実験台の上にはまだピーカーや試験管、アルコールランプ、薬品の瓶などが乱雑に置いてあった。
それらを「片づけてきなさい」と三橋先生にいわれた。
こわがりのぼくを教育するためにその指示がくだされた。
当時のぼくは、素直に、そうおもっていた。
まさか、先生にイジメられているとは気づかないでいた。
放課後のことで部屋は静かだった。
太陽が千手山のかなたに沈むところだった。
もうすぐ、暗くなる。
はやく整頓して、先生に報告して下校しなければ――。
帰り道に宝蔵寺の暗い墓地を横切らなければならなくなる。
そう思うと手元がふるえた。
ぼくはあせっていた。
床が振動した。
動いている。
ゆれていたのは骸骨だった。
骨の一本一本が、がくがくうごいている。
おどっているようだ。
あぐががくがく開閉している。

「この標本のつくりかたしってるか」
と三橋先生が理科の時間にいった。
「死体をもらいうけてきて、酸をかけてとかすんだ。するとこうした骨だけが残る」
いまなら、先生にからかわれているとわかる。
そんなばかげたことはないと、否定できる。
でも、あのころはできなかった。
先生の言葉を素直に信じていた。

「これは交通事故でなくなったタカコちゃんの骨だぞ」
と五郎ちゃんがいっていた。
「ほら、腰のあたりの骨にひびがはいっている。くだけちまつているのを補修したんだって三橋先生がいってたぞ」
タカコちゃんは交通事故で死んだ同じクラスのいちばんきれいだった女の子だ。
あごががくがくしている。
「ショウちゃん」
とよびかけられたような気がした。
いやたしかに声がした。
ぼくはドアをあけて廊下に逃げた。
廊下はもうくらくなっていた。
だれもいない。

「死ねば骸骨。燃やせば炭素。くだけば灰。死んだ人間なんか、怖くはない。生きている人間だけが害をなす」
臆病なぼくをいつも父がはげましてくれる、諭してくれることばだった。
そんなこといっても、こわいものはこわいよ。
床がかすかに動いている。
骸骨がおいかけてきた。
「ショウちゃん。いっしょに遊ぼう」
とさそっている。
いやだぁ。
こわいよ。
ぼくはふるえながら夢中になって逃げた。
あとで、あとで遊ぼう。
こころのなかで、タカコちゃんにへんじをしながら廊下をはしった。
角をまがる。
もうすぐそこが、階段だ。
下りれば昇降口だ。
校庭にでられる。
どんとなにかに、ぶちあたった。
骸骨だ。
いや、父だった。
ぼくは父さんの顔をみるとなきだしていた。
「おまえに、理科室の整頓をいいつけておいて、帰宅するなんて教師のすることか」
事情をきいた父は激怒した。
ぼくは、父がのばした手にすがった。
冷たい。
死人のようだ。
かわいている。
かたい。
ぼくは骸骨の手をにぎっていた。
「ショウちゃん遊ぼう」
ぼくは理科室にいた。
あれから一歩もこの部屋からでていなかった。
「ショウちゃん。遊ぼう」



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とある田舎町の「学校の怪談」 episode10 ひき子さん 麻屋与志夫

2013-01-24 15:59:22 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode 10 ひき子さん

星真一は東中学の一年生。
バスケ部の部活で帰りが遅くなってしまった。
ばんばんとボールを床にたたきつけた疲れがまだのこっている。
黒川にかかった朝日橋までさしかかっていた。
そろそろ9時なる。

お腹がすいていたので、少しでも早く家に帰りたくて、この橋を渡ることにしたのだが。
こわかった。
怖いというより悲しかった。
ここは小学校のときつきあっていた恵子ちゃんがバイクにはねられて死んだところだ。
あんなことがなければ中学生になってもずっと一緒でいられたのに。
幼馴染で、幼稚園のころから仲良しだった。
いつも一緒にあそんだ。
よくこの川岸で砂遊びをしたものだった。

ああ、恵子ちゃん、いまごろ東中学ふたりでかよえたのに――。

バイクにのっていたのは暴走族化沼連合の沢木だった。
星は沢木をいまでも恨んでいた。
恵子はバイクにひきずられて血だらけの肉団子みたいになって息絶えていた。
大人たちがそうはなしていた。
あの日のことはいまでも忘れない。
忘れるわけがない。
恵子の母親はそのために神経を病みいまでも上都賀病院の精神科に入退院を繰り返している。

ふいに河川敷でバイクのエンジン音がした。
こりもせず暴走族の連中が河川敷公園をわがもの顔にのりまわしている。
――すこしおかしい。
バイクの後ろになにかひきずっている。
夜目でよくわからないが、どうやら猫らしい。
猫をロープでくくってひきずっているのだ。

「ひどいことをする」

真一は怒りがこみあげてきた。
恵子のことをいま思い出していたばかりだ。
河川敷にかけおりた。

「やめろ。やめろ。猫をひきずるなんて、やめるんだ」
「なにイキガッテルンダ」

男はまちがいなく沢木だった。

「なんなら、おまえをひきずってやろうか」

真一は怒りで体があつくなった。
こいつが、恵子をひきずって殺してしまつたのだ。
事故とうことで処理されてしまったが、こいつに殺意はなかったのか?

沢木はバイクからおりようとした。
ギョッとした顔になった。

「おまえ、だれだ」

真一の背後をみて震え声でいった。
たしかにうしろから呼吸音がする。
うしろに、だれかいるようだ。

「だれなんだよ」

沢木はおびえている。
バイクにまたがると、フルスピードで逃げ出した。
うしろにひきずられているのは、まちがいなく猫の死骸だった。
わあっと、沢木の絶叫が前方の闇の中でした。
ころころと沢木の首がころがってきた。
真一は沢木を追いかけるのをやめて、その首をひろいあげた。

あとになって、朝日橋の下の段ボールの家に住んでいるホームレスが証言した。
男の目撃証言は――。
沢木の首をバスケのボールのようにはずませていた少年がいた。
バンバンと公園の道に丸い肉団子のような首をたたきつけていた。
ということだった。
人の首が弾むわけがない。
置き去りにされていたスコップに激突したからといって。
人の首がすっぱりと切り落とされるわけがない。
そのへんのところは――。
田舎町の都市伝説ですからあまりつきつめてリアルにかんがえないでください。

もうひとつ。
蛇足。つけたしです。
上都賀病院の病室でこのころ恵子の母親が、ふいに正気にもどりました。
「恵子が、あいにきてくれた。恵子がわたしにあいにきてくれた」
とくりかえしいって、涙をこぼしていたそうです。


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とある田舎町の「学校の怪談」part2 episode9 口裂け女 麻屋与志夫

2013-01-21 13:55:19 | とある田舎町の「学校の怪談」
とある田舎町の「学校の怪談」
part 2 episode 9 口裂け女

「レイコおねえちゃん。またあの女の人たっている」
「ほんとだ。風子わたし怖い。白いマスクしているよ!! 怖いわ」
口裂け女恐怖症のレイコと風子はがくがくふるえている。
ふたりは小学6年生の双子の姉妹だ。

「レイコも風子も、怖がることないって。インフルエンザがはやっているからよ」
あとから追いついてきたマリ。
レイコと風子の背をとんとんと交互にたたいて、元気づける。
「レイコ。あまり妹を怖がらせないほうがいいよ」
「怖がらせてなんかいないよ。でも……あのマスクの下は……」

「口裂け女だぁ」

と元気なはずのマリまで叫んだ。
声は恐怖におののいている。
レイコと風子は青くなっている。
けっきょく、三人とも怖がっていたのだ。
口裂け女だぁ、と三重奏。
三人で同時に声をはりあげた。
女の子が三人あつまっているのだ。
それも騒ぎたい盛り。
おしゃまな小学6年生。
姦しいこと、かしましいこと。

小学校の校門をでてすぐだ。
まだほんの数歩しか歩いていない。
少し傾いた電柱の影に赤いワンピースの女の人がいた。
いつものように白い大きなマスクで顔をかくして立っていた。

「風子。はなしかけてみない」 
「いやだもん。レイコお姉ちゃんやってよ」

双子の姉妹だ。
いつもなかよく登下校している。
母親が気をつかって、同じ服装をさせている。
友だちでも、区別はつけにくい。

「マリちゃん、おねがい」

姉妹が同時に同じことをいった。
いうことも、かんがえることも、いつも一緒だ。
おねがいと頼まれたマリは青い顔をするどころか。
堂々とした態度で電柱に近寄っていく。
姉妹はハラハラしながらマリの背を見ていた。
マリちゃんは、ヤッパすごい。
マリは平気で女のひとにはなしかけている。
女の人の後ろ姿は電柱の影で見え隠れしている。
とつぜん、マリが倒れた。
女の人はなにもしていない。
マリの顔が恐怖でクシャクシャに歪んでいる。
その表情がはっきりと見えるところまでふたりは近づいていた。
マリが道に腰をおとした。
あまりの恐怖に腰をぬかしていた。
女のひとを指さしながら口をパクパクさせている。
声はでていない。
マリの指さす先で、女のひとはかがみこんだ。
「見たわね。見たでしょう。見てたんでしょう」 

それにしても、見てたんでしょう。なんてきくのはオカシイ。
「わたしのこと見たいの? 見たい」
といって白いマスクをとると口が裂けている。
真っ赤な口紅をぬった口が両耳のほうまでさけている。
これが定番。
口裂け女のフェアな怪談だ。
だいいち、マスクはしたままだ。
マリはなにを怖がっているだろう。
ふたりは勇気をだしてマリをかばうように、女と向かいあった。
「見たわね。見たでしょう。見てたんでしょう」
そうだ。
このときふたりは瞬時に悟った。
そうだ、この女のひとは先週自殺した同じクラスの翔太くんのお母さんだ。
マスクをしていてもいつも遊びにいっていたから。
わかる。

「おばさん。翔太くんのお母さんでしょう」
うなずきながら女のひとはマスクをはずした!!
口は――裂けてはいなかった。
でも、その口から出た言葉は……もっと怖いことを訊いてきた。

「ねえ、教えて。翔太がイジメラレテいるの見たでしょう」
「…………」
「教えて。だれにイジメラレテいたの」
すごく悲しそうだ。
「それは……」
「風子、いわないで」
「そうよ。風子ちゃん、口が裂けても――いってはダメだよ」
とマリもレイコに唱和する。

「わたしは翔太がいじめの標的になっているなんてしらなかった。死ぬほどつらい、いじめにあっているとはしらなかった。おしえて。おしえてください。おねがいです」

「バスケ部の顧問の先生。わたしたちの担任の橋田先生よ」

翔太のことを好きだった。
風子は翔太のことを想い。
いっきに、いってしまった。
風子はなんども、翔太がなぐられているのを見ていた。
みていたものは風子だけではない。
レイコもマリもみんな大勢。
翔太がキャップテンテだから試合に負けた責任を取れ――と。
橋田先生になぐられているのを目撃している。
でも、それをチクッタラ、こんどはじぶんがなぐられるのがわかっているから。
こわくていえなかったのだ。 
「そう。先生だったの。うすうすは感じていたけどこれではっきりしたわ。風子ちゃんありがとう」
翔太君のお母さんは泣きだした。
かがみこんでさめざめと泣きつづけました。

このお話には、口裂け女はでてきません。
でも、口が裂けてもいってはいけないことを。
真実を明るみに出した勇気ある風子がヒロインです。
でも、風子には心配なことができました。
その後も、白いマスクをした女の人が。
恨めしげな眼で。
橋田先生を見るために下校時には電柱の影にたっていることです。
なにか不吉なことか起きそうで、心配です。


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とある田舎町の「学校の怪談」episode8 テケテケオバケ 麻屋与志夫

2013-01-20 00:03:13 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode8 テケテケオバケ

鈴木君はひとりで残ったことを後悔していた。

「どうせ、テケテケオバケなんてつくりごとだよ」
「でるわけないって!!」
ツトム君も学君も相手にしてくれない。
だってこれで一週間も張りこんでいるのだから。
ふたりとも、張り込みにあきて帰ってしまった。

お化けの名前は。
テケテケ。
放課後昇降口にでる。
上半身だけで。
右手に大きな鎌をもっている。
両手で走る。
テケテケとおとをたてて走る。
目があうと「殺すぞ」と鎌をふるう。
下半身をきられてしまう。
テケテケお化けのように上半身だけになってしまう。
そんなふうに怖い話だ。

いま、鈴木君はその昇降口の壁の陰に潜んでいる。
中央小学校の校舎はすでに、半分はきりはなされていた。
もうじき、この正面入り口のあたりも解体される。
そのころは、ぼくは中学生になっているだろう。
なつかしい小学校の校舎がなくなってしまう。
さびしいな。

夕暮れて男体山颪が吹きだした。
そのときです。
音がした。
なにかかすかに動く気配がする。
テケテケテケテケ。
話にきいて怖がっているのと、リアルに見るのとでは。
怖さがちがった。
オバケの〈出現〉の現場にたちあってしまった。
テケテケテケテケ……。
音はします。
姿は見えません。
テケテケテケテケテケ……………。
鈴木君はこわくなって校庭に飛びだしました。
テケテケ。
うしろから音が追いかけてくる。
こわくてふりかえることはできない。

校庭にたおれている鈴木君を発見したのは父親でした。
帰りの遅い息子を心配してさがしにきたのです。
鈴木君はオバケを見たといいました。
テケテケテケという音まできいた。
追いかけられた。
怖かった。
と泣きだした。

校舎半分は解体された。
建物の嘆きじゃないかな。
そんなことをいう先生もいた。
古い建物には霊がやどっている。
校舎のお化けだよ。
この怪談に結論が出されました。
でも、鈴木君はたしかに追いかけてくるお化けの気配を感じました。
あのとき勇気をだしてたちどまり、ふりかえっていれば――。

……目があってしまったら。
大きな鎌で下半身をきられていたでしょう。
やはりふりかえらないで逃げて正解だった。
鈴木君はそうおもいました。

テケテケテケテケテケテケ。

中央小学校は新校舎が落成しました。
いまは、テケテケお化けの話はだれもしません。
やはり、あれは古い校舎に棲みついていたい霊だったのでしょうか。
だとしたら、今はどこに移転したのでしょう。
あなたの学校で。
放課後薄暗い教室に居残りしていると……。
どこからともなく。
耳にテケテケテケテケというかすかな音がきこえてきませんか。
ほら……あなたの後ろから。


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とある田舎町の「学校の怪談」 pisode7 階段は何段あるの? 麻屋与志夫

2013-01-19 00:53:37 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode7 階段は何段あるの?

1

夜更けです。
午前2時です。
ふつうだったらだれもいない昇降口。
6年生が6人。
階段の下に集まっていました。
学校のお化け階段。
この時間に挑戦すれば――。
正確に何段あるかわかる。
そういう学校怪談のある階段。
怪談と階段。
すこしややこしいですね。

「じゃ、はじめるね」
クラス委員長の中島翔太君。
おびえたような、元気のない声を精一杯はりあげた。
委員長だって、怖いものは怖いのです。

「60段あったよ」
さいしょに三階までのぼったタケシがもどってきました。
「ぼくも60段」
そのあとの金田も同じ。
二階の踊り場までもどってきた博。
三人が60段あったといいます。

たったひとりの女の子、詩織だけは59段。
そのすぐ後から降りてきた伸二も59段だった。

「委員長できまりだな」
三階にたどりついたはずの中島からは、連絡がありません。

「おうい!! 中島……。何段あった」
ピーっと詩織の携帯がなりました。
あたりが静かだったので、5人ともとびあがるほどおどろきました。

「59段だったよ」
詩織はまちがいなくそうききました。
「でも……おかしいな。60段あったような気もするんだ」
「しつかりしてよ。翔太ちゃん。戻りにも数えてみたら」
そういって詩織は携帯をきりました。

大声で数を叫びながら中島が階段を下りてきます。
「22……。あっ」
悲鳴。
「どうした。中島」
5人がいっせいに階段をかけあがりました。
いません。
二階の上の方にいるはずの中島がいません。
階段をダダッと踏みならしてかけつけた5人は――。
ふるえだしました。
真っ青な顔で泣きだしました。

夢中でそとにはしりでた5人の前に――。
パトカーがとまりました。
「明かりが見えると近所住民から通報があった」
5人はがくがくふるえています。
すぐには応えることができませんでした。

「そうだわ。GPS」
けっきょく、GPSをたどって――。
詩織たちがさがしあてた場所は上都賀病院だった。
そこのベットに翔太は収容されていた。
夜も白々とあけかけていた。

「裂け目があるんだよ。あの階段には次元の裂け目があるんだ」
さすが委員長の中島。
むずかしいことを――。
興奮からさめると詩織たちにいった。

「救急の女のひとがぼくをここへつれてきてくれたんだ」
「パトカーだけだよ。それにきみウソいってはいけない。女の救急隊員はこの町にはいない」

2

「あそこはね」
定年まじかだという婦長さんが教えてくれた。
「むかし、美術の女の先生が階段をふみはずし、打ち所が悪くて死んだところなの」 

退院する中島を詩織がむかえにきた。
「ぼくは小説家になれない。絵描きになっていた。そして……」
階段の裂け目におちたとき、パノラマ現象を体験したのだという。
中島はあとのことばを濁した。
じぶんのこれからの一生を逆パノラマというか、みてしまったのだろう。
翔太は未来をみてしまったのだ。
詩織にはわかっていた。
中島がいわなかったことばが。

ぼくらは大人になっても結婚していなかった。

わたしたちいとこ同志だから、
翔太のかんがえていることくらいわかっている。

美術の女教師は失われた夢。
死によって中断された夢。
画家になる夢。
を、翔太に託した。
教師の霊が翔太に憑依したのだ。
彼女の夢を翔太がかなえてくれるように、

翔太を改造してしまった。
だから翔太は生きてこの世にもどれたのかもしれない。
翔太はいままでの翔太ではない。
詩織はさびしくそうおもった。



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