田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

とある田舎町の「学校の怪談」 episode 6 二階の窓に人影が

2013-01-17 22:28:42 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode6 二階の窓に人影が


蒸し暑い夜。

「お父さん、車止めて!!」
「どうした。塾にわすれものか?」
「二階の窓に人影が見えた」

小学校の二階の窓。
たしかに人影を見た。
橋本修はこの小学校を去年卒業している。

「ぼくの一級センパイが東中の三年生のとき、あそこから飛び降り自殺してるんだよ」
「そんなこともあったな」

父親の修三も覚えている。
やはりこの小学校の卒業生です。
小さな田舎町だ。
何代にもわたって、同じ学校の卒業生。
そんな家庭がおおい。
それにしても、かわったものだ。
門扉は固く閉ざされている。
外部からの侵入を拒んでいる。
昔のように学校が安全な場所ではなくなってしまった。
たしかに修がいうように。
人影が見えたようなきがする。
息子は不満らしかった。
修三は校門から離れた。
このさきでは、クリーンセンターの所長が拉致され、殺されてしまった。
街灯もなく闇が支配している。

それからまもなく、銀輪のかすかなおとがした。
タケシと文彦のふたりずれだ。
修とおなじ塾からのかえりだ。
東京に本部のある大きな塾だ。
東京だったら、この時間でも人通りは途絶えません。
ここは田舎街。
ほとんど真っ暗です。
自転車のライトが闇をきりさいている。

かれらは、校門をのりこえました。
高校一年生。自殺した生徒とは中学で同級生だった。
怖いもの知らずのとしごろです。
幽霊が出るという「噂」を聞いて、校舎に忍び込んだのでしょう。
黒い影が教室の机にすわっていた。

「ぼくも進学したいよ」
幽霊がいいました。
その声は。たしかに聞きおぼえがある。
「おまえ、黒岩か?」
タケシがふるえながらききました。
ふりかえった顔は、崩れています。
「ぼくも宇都宮高校を受験したいよ」
「ああ、黒岩なら宇高なんがチョロいよ」
「これ、やってみるか?」
文彦はふるえながら、数学の問題をわたしました。
幽霊は問題を解くことに熱中している。
数学の得意だった黒岩。
幽霊になっても数学の問題を解くことに熱中している。
文彦はタケシの腕をつついた。
ふたりはそっと階段をおりた。
校門でふりかえった。
幽霊はまだ机にむかっていた。

それからまもなく、マサキと健が教室にはいた。

「ぼくも進学したいよ」
黒岩の幽霊がそっとつぶやいた。
マサキも健も恐怖のあまり腰をぬかしてしまった。
崩れた顔がせまってきます。
ウジが顔からはいだしている。
吐き気をもよおかような、腐ったにおい。
はって逃げた。
でも、幽霊のほうがはやく移動でる。

「ぼくも受験勉強したいよ」

そういって、ふたりの上におおいかぶさった。
ピチャピチャ。
ズルズル。
ふたりとも体液のすべてをぬきとられてしまった。

「ぼくも宇高へ進学したいよ」
幽霊が、まだつぶやいていた。

翌日校門の前で、マサキと健の、ふたりの自転車が発見された。
マサキと健がどこにいったのか、だれも知りません。

ただ、そのご、窓に映る影は三つになりました。

でも夜校舎に入ろうとする少年はいまのところ、いません。
 


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とある田舎町の「学校の怪談」 episode5 図書室の二宮金次郎。 麻屋与志夫

2013-01-17 09:59:55 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode5 図書室の二宮金次郎。

 
図書室をのぞいてみました。
二宮金次郎のような正しい姿勢で、座っている生徒がいました。

図書室をのぞいてみました。
昼休みも終わった。
ちょうど、一時です。
二宮金次郎。
のような。
石像が本をよんでいます。
ええ!! どうしてぇ? 
なんでぇ、校庭に立っているはずなのに……。

図書室をのぞいてみました。
たしかにうわさどおり、二宮金次郎のような石像が本をよんでいました。

図書室をのぞいてみました。
二宮金次郎の石像が本をよんでいました。
これが最終バージョンです。

噂はうわさを呼び、いつか〈ような〉ということばが消えています。

そのころになってもうひとつ風評がひろがりました。
「本をよまない子は、石になるぞ」

なんだか……あやしい。
これは先生が風評にわるのりして、広げたようです。 

「あれ、本田君だ。あの本よんでいるの、まちがいない本田君だよ」
「そうよ。本田君よ」
図書室の怪談を、実体験しょうとこわごわのぞいた。
男女の生徒。
見てしまいました。
同じクラスの本田君。
もっとも図書室にふさわしくない少年。
いじめっ子。
ひとにらみされただけで。
石にされてしまうような。
鋭い眼差し。
ド迫力。
すごみのある顔のもちぬし。
ふたりはこっそりとあとずさりしました。
教室にもどる。
明るいふんいきだ。
本田君がいないからだ――。
ふたりは、いま見てきたことはだれにも話しませんでした。
だってそれっきり、本田君の姿は教室から消えてしまったからです。

でもふたりとも知らなかったことがあります。
ほかの学校でも、いじめっ子に同じことが起こっていました。
石にされた男のこたちがはこばれていく場所は――? 
市立図書館の地下室。
未公開図書保管室。
そこにはたくさんの石の少年像が保管されています。
勉強ぎらいの子。
ともだちをいじめる子。
ワルイコ。
吸血鬼ににらまれて石にされてしまったのです。
これは本当の話です。

メデゥサのような吸血鬼がいるんだぞ!!
えっ、メデゥサを知らない。
ゴルゴンのひとりであるメデゥサ。
髪が蛇だったかな。
ひとにらみされると、石にかえられちゃうんだよ。
たしかゲームにもなっていたよね。

えっ、あまり怖くない。
じゃ、これでどうだ。
この石像は吸血鬼のための食糧になるのだ。
ここはかれらの食糧保管庫でもある。
呪いからとかれた少年たちをまっている運命は。
そのときこそ、確実に死ぬことなんだよ。
そんなことも知らない。
石にされた悪ガキは。
動かずに。
動けないのだが。
血を吸われる。
時を。
待っているんだよ。   

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とある田舎町の「学校の怪談」 pisode4 体育館の天井に手形が……  麻屋与志夫

2013-01-16 06:44:15 | とある田舎町の「学校の怪談」
pisode4 体育館の天井に手形が……
 

「キャー」
六年生の夏未ちゃんが悲鳴を上げました。
マーチングの練習をしていたチームのみんながかけよってきました。
夏未ちゃんはバトンをとりおとしてふるえています。
真っ青です。
顔から冷や汗。
タラタラとたれています。

「どうしたの、ナッチャン」
「どうしたの」
みんなが心配しています。
夏未はがくがく歯をならしています。
歯と歯がかみ合ってカチカチ乾いた音がしています。
ブキミデス。
青い顔がケイレンしています。
ヒクヒク小刻みに動いています。
顔に小さなサザナミが立ったようです。
ただごとではありません。

「手のあとが。手のあとが天井についている」
ようやくそれだけいいました。
夏未がとびはねていた場所の上の方をさしました。
ゆびさすさきの天井には――。
みんながいっせいに叫びました。
こんどはチームの全員が怖くて泣きだしました。
「なによ? あれ?? こわいよ」

たしかに、みんなの見あげた天井に。
くっきりと手のひらのあとがみえます。
それは朱印をおしたようです。
赤い手形です。
それも大きさからいって。
見あげてふるえている少女たちくらいの。
としごろの。
子どもの手の形です。

「純くんがきたんだよ。純くんがナッチヤンにあいにきたんだよ」

中山純はこの学校から転校しました。
鹿沼のクレーン車事故でこの春なくなったばかりです。
マーチングのメンバとは仲良しでした。
野球部でピッャーでした。
女子生徒に人気がありました。
よく練習の合間にマーチングの。
とくに夏未のバトンの演技を見にきていました。

「ナッチャンのことラブラブなんだよ」

みんながいっていました。
夏未は、ははずかしくてなにもいえませんでした。

「夏の少年野球大会みにきてくれよ」
転校するとき、いわれました。
夏未はただうなづくだけでした。
でも胸がどきどきしました。
すごくうれしかったのです。

それが鹿沼のクレーン車事故で死んでしまいました。

「肢体不自由で生きるより、これでよかったべよ」

と純のお父さんは葬式の席で泣いていたそうです。

下半身グシャっとつぶされた純は逆立ちしてわたしに会いに来た。
血をながしながら、逆立ちで近寄ってくる純のイメージ。
いや。
両手で歩いてきたのだ。
夏未にはその気配がわかりました。
オバケに成っても、純ちゃんはわたしに会いにきた。
夏の大会にはでられない。
かわいそうな純ちゃん。
下半身から血をながしている。
歩けないので、両手で逆立ちしてわたしを見ていてくれた。
いや。
両手を使ってあるいてきたのだろう。
逆立ちしているのではない。
あそこに、立っているのだ。
両手で。
上半身だけの体。
両手で支えている。
だから天井に手形が――。

そうだ。
まちがいない。
純ちゃんだ。
純ちゃんが会いにきた。

みんなもあれが純の手形とみとめた。
だれも、もうふるえていなかった。
オバケだっていい。
あれは純ちゃんの手形なんだ。
「純ちゃん。すきよ」
夏未はだれにも聞こえないように心の声で純に呼びかけました。
ヒタヒタと床に足音? がします。
両手で逆立ちしても、足音というのかしら。
と夏未はふと思いました。
天井からおりて純が近寄ってくるようです。
床に赤い手形がついています。
でもそれはみんなには、見えないようです。
手形が夏未の前でとまりました。
「純ちゃん。すきよ」
だれにも聞こえないように。
そっと……夏未はつぶやきました。




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とある田舎町の「学校の怪談」 episode3 音楽室から

2013-01-15 07:20:22 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode3 音楽室から……

1

音楽室からピアノの音が……もれてくる。
あたりまえのことですよね。
では……誰もいない音楽室からピアノの音がもれてくる。
となると、どうでしょうか?
さらに、誰もいないはずの音楽室で女のヒトが12時になるとピアノをひいている。
だいぶ怪談らしくなってきました。
それでは、きいてください。
いまはむかし、この小学校の音楽の女教師の初恋のはなしを――。

寺沢カナは出身校に音楽教師として赴任した。
夏休がもうはじまる。アブラゼミが校庭の樹木で鳴いていた。
前任者が精神を病んで宇都宮の滝沢病院に入院した。
彼女が回復するまで、という要請をことわるわけにはいかなかった。

音楽室から誰もいないのにピアノの音がながれてくる。
その風評の、彼女の前任者は被害者なのですよ。
その怪談を気に病んでノイローゼになってしまったのです。
校長先生がカナに説明した。
この校長はK県議の娘婿なので昇進が速かったのだ。
と……これも風評なのだが。
好男子の若い校長だ。

カナは人目もかまわず、早めに昼食を5ふんですませた。
ちょうど正午の時報を職員室の古時計がかなでている。
二階の角の音楽室にカナはいそいだ。

「カナちゃん。まっていたわよ」

音楽室のまえで女子生徒とすれちがった。
おもわぬことばがささやかれた。
カナはあわててふりかえった。
そこには生徒の姿はなかった。

赴任したばかりのわたしの名前をしっている子がいる。
おかしいわ。
とカナはゾクっとふるえた。
ふりかえった。
誰もいない。
幻聴だったのかしら?

カナは内田麗子先生との想い出のピアノの蓋をあけた。
あのころとなにもかわっていない。
連弾でよく弾いたものだった。
「上原ゆかりのようなジャズピアニストになれるわよ」
と麗子先生はキラキラした瞳でカナをはげましてくれた。

この季節だとガーシュウインの「サマータイム」をよく弾いた。
それは子守歌だった。
いつかこの学校をでていくわたしに。
麗子先生がたむけてくれるような歌詞。
 
 ある朝、お前は立ち上がって歌う、
 そして羽根を広げて飛んでいく……

 One of these mornings
 Youre goin to rise up singing
 Then youll spread your wings
 And youll take the sky

カナはそっと鍵盤に指をのせた。
弾きだした。
麗子先生の悲しみをおもうと涙がこぼれおちた。

麗子先生はいつもわたしが大空高くとびたっことをねがってはげましてくれた。

「第二の上原ゆかりになれるわよ。がんばってね」

2

「わたしはきみが職員室にはいってきたときから、わかっていた」
校長先生の声がした。
がピアノの向こう側に立っていた。
いつのまに入ってきたのだろうか。
ドアの開く音はしなかった。
「麗子さんの隣で小学生のきみが、ピアノを弾いていたのをいちどみたことがある」

えっ、ではこのひとが、
いまは校長先生の、このひとが麗子先生のすきな彼だったの。
片思いのままでおわった麗子先生の初恋の男のひと。
麗子先生が恋い焦がれた彼。死ぬほどすきだった彼。

「麗子のお弟子さんのきみがひくと、まつたく麗子がひいているようにきこえる」

校長先生はピアノの向こう側からはなしかけていた。
カナの指の動きは見えなかった。
ピアノを弾いているのはカナではなかった。
カナの指はピアノの鍵盤にふれていなかった。
自働ピアノのようだった。
鍵盤のうえに細くしなやかな麗子先生の指をカナは感じていた。
いや、麗子先生が隣に座っている。
あのころのままだ。
なにもかわっていない。
先生は暗譜した曲をわすれないように。
いつか彼にきかせたくて。
ひとりでこの音楽室でピアノをひいていたのだ。
それが怪談となったのだろう。

曲はショパンの「別れの曲」だった。
麗子先生は愛する彼のために霊力をふりしぼって弾いている。
生涯でいちどのおもいをこめて「別れの曲」を。
だが恨みがこもっていた。だからこそ、悲しい調べ。

「ぼくがもっと早く麗子の気持ちに気づいてあげれば……」

そんなことはいいわけだとカナおもった。

「ぼくらはむすばれていた……」

だったら県議の娘婿なんかにならなければよかったのだ。

「毎日、気苦労が絶えない。学校というところはいろんなことが起こるから」

じぶんから選んだ道だろうに。
胸がくるしいのか。
校長は呼吸がみだれていた。
麗子先生の怨霊がピアノを弾いているからだろう。

麗子先生は美しく発狂した。
恋狂い。
なんてロマンチックなことばだろう。
雨季で増水していた黒川に身を投げた。
彼の結婚式の日だったという。
カナは留学していたアメリカでその知らせをきいた。

3

「別れの曲」も終わりに近づいていた。
校長が胸をかきむしっている。
「ニトロが、ニトロの舌下錠が胸のポケットに……ある……」
「だめ」
という激しい麗子先生の声が耳もとでした。
幻聴ではない。
麗子先生の声がした。
たしかにきこえた。
カナは舌下錠をとりだせなかった。
「だめ。そんなことしないで」
カナは金縛りにかかった。
動けなかった。
目の前で、校長が苦しんでいる。
終曲。
さいごのピアの音が部屋のすみずみに消えていった。
校長も静かになった。
苦しそうな顔だ。
死んでいた。
麗子先生の気配も、消えた。

窓のそとは夏の日。
照りつける太陽のもとで、赤いカンナの花が咲いていた。



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とある田舎町の「学校の怪談」 episode2 トイレの太郎

2013-01-14 03:36:20 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode2 トイレの太郎

小学校の六年生のクラス。
ひとりの転校生が受け持ちのMs田中の隣に立っていた。
先生とでは身長差がガチ凄い。
田中先生が女教師にしては上背がありすぎるからだ。
バレーの選手だったからだ。
転校生の背が低かったからだ。
その差30センチはありそうだ。

「一宮和成くんです」
都会的な気の弱そうな顔。
「センセイ、二宮和也のまちがいじゃないですか」
「ほんとよくにてるね」
「わぁ!! 嵐の二宮和也のそっくりさんだ」

この女子生徒のなにげない発言に。
男子生徒の目が緑色になった。
男子生徒はジェラシーに狂った。

「おい、トイレまで顔をかせ!!」
放課後。
ヤンキーの定番の文句。
和成に声かけたのは佐々木剛。
小学生なのに中学の柔道部の生徒もかなわない。
身長165。
体重70キロ。
スリムな和成は逆らえない。
和成はぶるぶるふるえていた。
なにもされないのに真っ青になっていた。
剛をとめるものはいない。

「一宮!! すこしくらいメンがいいとおもってのぼせるなよ」
「ゆるしてください。ぼくはなにもしていません」
涙声で和成は訴えた。
「なんだ。はりあいのないヤツだな」
バンとほほを張られた。
和成はトイレのドアにふっとばされた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
ドアにたたきつけられた反動だった。
和成はまえにつんのめった。
コンクリートの床に顔をおしつけて、倒れた。
鼻血だろうか。
唇でも切ったのだろうか。
口の中からあふれでたのだろうか。
その全部かもしれない。
顔が血だらけだった。
真っ赤な血で顔がクシャクシャになってしまった。

「顔をあらってこい。このままじゃ目立ち過ぎるからな」

剛にいわれて和成はトイレにはいった。
手洗い場でみんなに見られるのがいやだったのか。
みんなに見られながら顔の血をぬぐうのが、いやだったのか。

トイレの前にある水槽の上部に突き出ている ? マークのようなパイプから水でる。
水槽いっぱいになると止まる。
旧式のベンザだった。
ところが、いつになっても水流の音がやまない。
和成もでてこない。

「あいつ、女みたいにお化粧してるのかよ」

にやっと笑いながら剛がトイレに入った。
すさまじい、剛の絶叫があがった。
仲間があわてて、トイレのドアをあけると――。
ベンザのなかは赤い血。
血はベンザから床にまでながれでていた。
剛の足が穴に吸いこまれている。

「足がぬけない。ぬけない。吸いこまれる」

真っ赤な血はさらに水流をました。
ベンザのなかで渦をまいている。
床から外になかれだした。
剛の足はその水流にのみこまれていく。
剛は気をうしなった。

救急車で上都賀病院にはこばれた。
剛は翌日もういちど絶叫する運命がまっていた。

見舞いの花束に「トイレの太郎」と書かれたネイム札がついていたのだ。
剛は失心した。
そのままぼんやりとしていた。

退院した剛はそのご、和成にはちかよらなかった。
女の子たちは、和成を太郎、太郎と呼んでいる。

その理由を知っているものはいない。
剛はよほど怖いことがあったのだろう。
剛は太郎をさけつづけている。
これでオワリ――では気になるひとに。
一つだけヒントをあげるね。
剛は見たのだとおもうんだ。
和成が太郎に化粧した顔を。
だって……化粧の〈化〉はお化けの〈化〉だよ。


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とある田舎町の「学校の怪談」episode 1 トイレの花子さん

2013-01-13 07:16:40 | とある田舎町の「学校の怪談」
とある田舎町の「学校の怪談」
episode 1 トイレの花子さん

さあ、こわがりの女の子はいないかな?
こわいはなしのすきな男の子は――キミかな。
 
放課後もだいぶおそくなった。
あすは学校祭。
演劇部のH子たちは、暗くなるまで小道具の点検をしていた。
練習のほうはもうOK。
H子は準主役のクララ。
「アルプスの少女ハイジ」がその演目だ。
H子は車いすのにあいそうな、おとなしい子だった。

H子は六年生のトイレにかけこんだ。
「ヤダァ。だれがはいっているの」
どのトイレもノブの下が使用中の赤マークになっていた。
いちばん奥なら……あいている。
だって、あそこは開かずのトイレ。
オバケトイレ。
花子さんの呪いがかかっているというトイレだ。

足踏みしながら、だれかでてくれないかな、とまった。
どのドアも赤のままだ。
だれもでてこない。
おかしいなとはおもった。
でもオシッコもれそう。
もうがまんできない。

勇気をだして奥のトイレへ進んだ。
渡り廊下がギシギシと音をたてた。
きしんだ。
わたしふとったのかな?  
少女はふとおもった。
そろそろじぶんの姿が気になるとしごろだ。
花子さんのトイレのノブにふれた。
ひんやりとした。
つめたかった。
手が凍ってしまうほどの冷気だ。
少女はブルッとふるえた。
それでも勇気をだして、おもいきってノブをひいた。
だってここまできてオシッコをもらすわけにはいかない。

さて、それからどうなったと思うかな。
トイレの内側にはノブがなかったのだよ。
少女はとじこめられてしまった。
そとに出られない。
そんなことは、きいていなかった。
ノブがないなんて……。
だれも知らなかった。
「センセイ。タスケテ」
「おかあさん。タスケテ」
「アカリちゃん。たすけて」
「絵美ちゃん。たすけて。クララの役、ゆずってもいいから」

絵美ちゃんはクラらの役、とてもやりたがっていた。
少女はいっしょに残っていた演劇部員の名前をつぎつぎに呼んだ。

そのころになって少女は気がついていた。
トイレは全部ふさがっていた。
その数は、演劇部員の員数だった。
イジワルサレテいる。
イジメだ。

……タスケテ。タスケテ。タス……ケテ。

トイレの周囲のタイルの壁に花子、花子、花子。
という文字がうかびあがった。
文字は、タイル張りの壁をながれだした。
花子。
……真っ赤な血で書いたような文字。
ながれては消えた。
消えてはまた花子、とさらにおおきな字となってうかびあがってきた。
不気味な血の色が明滅していた。

それでも、だれも助けにはきてくれなかった。

少女の声はひくくかすれてしまった。

そのあとね、少女を見た人はいない。

翌日。
クララの役をやった絵美ちゃんが――幕が下りてから叫んだ。
真っ青な顔をして。

「ごめなんさい花田さん。ごめんなさい。わたしがわるかった」

でも、絵美ちゃんはそれからずっといまでも、車いすの生活をしているんだよ。
うしろから花田さんに抱きしめられている。
悲しそうにそういっている。

少女の名前はね。花田花子というんだよ。


● 2011年の7月から連載したものです。このたび、第二部を書くにあたり、とりあえず、前作をのせます。
●第二部を楽しみに待っていてください。


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