(01)
Aさん曰く「ある人はすべての人を愛してゐる。」
Bさん曰く「すべての人はある人を愛してゐる。」
Cさん曰く「AさんとBさんは矛盾してゐる。」
(02)
この場合、
Cさん曰く「AさんとBさんは矛盾してゐる。」
といふ「発言」は「正しい」のだろうか。
(03)
{変域(ドメイン)}を{人間}とすると、
① ある人はすべての人を愛してゐる。
② すべての人はある人を愛してゐる。
といふ「命題」は、
① ∃y∀x(愛yx)
② ∀y∃x(愛yx)
といふ風に、書くことが出来る。
然るに、
(04)
(ⅰ)
1 (1)∃y∀x(愛yx) A
2(2) ∀x(愛bx) A
2(3) 愛ba 3UE
2(4) ∃x(愛bx) 3EI
2(5)∀y∃x(愛yx) 4UI
1 (6)∀y∃x(愛yx) 125EE
(ⅱ)
1 (1)∀y∃x(愛yx) A
1 (2) ∃x(愛bx) 1UE
3(3) 愛ba A
3(4) ∀x(愛bx) 3UI
3(5)∃y∀x(愛yx) 4EI
1 (6)∃y∀x(愛yx) 135EE
然るに、
(05)
(04)により、
(ⅰ)は「UI(普遍量記号導入の規則)」に「違反」してゐて、
(ⅱ)も「UI(普遍量記号導入の規則)」に「違反」してゐる。
従って、
(03)(04)により、
(05)
「述語計算(Predicate calculation)」の「結果」からすると、
① ある人はすべての人を愛してゐる。
② すべての人はある人を愛してゐる。
に於いて、
① が「真(本当)」であるからと言って、② が「真(本当)」であるとは限らないし、
② が「真(本当)」であるからと言って、① が「真(本当)」であるとは限らない。
といふ、ことになる。
然るに、
(06)
① ∃y∀x(愛yx)の「否定」。
② ∀y∃x(愛yx)の「否定」。
は、「量化子の関係」により、それぞれ、
③ ~∃y∀x(愛yx)≡∀y~∀x(愛yx)≡∀y∃x~(愛yx)≡すべての人はある人を愛してゐない(誰からも愛されない人がゐる)。
④ ~∀y∃x(愛yx)≡∃y~∃x(愛yx)≡∃y∀x~(愛yx)≡ある人はすべての人を愛してゐない(誰をも、愛さない人がゐる)。
である。
従って、
(05)(06)により、
(07)
①「ある人がすべての人を愛してゐる」からと言って「すべての人はある人を愛してゐる」とは限らない。
②「すべての人がある人を愛してゐる」からと言って「ある人がすべての人を愛してゐる」とは限らない。
といふことは、「矛盾」ではなく、
①「ある人がすべての人を愛してゐる」ならば「すべての人はある人を愛してゐない」。
②「すべての人がある人を愛してゐる」ならば「ある人はすべての人を愛してゐない」。
といふことが、「矛盾」である。
然るに、
(08)
①「すべての人はある人を愛してゐる」とは限らないのであれば、「すべての人はある人を愛してゐない」のかも知れないし、
②「ある人がすべての人を愛してゐる」とは限らないのであれば、「ある人はすべての人を愛してゐない」のかも知れない。
従って、
(01)~(07)により、
(08)
この場合、
Cさん曰く「AさんとBさんは矛盾してゐる。」
といふ「発言」は「正しく」はない。