長文をつづけます。
甥っ子との生活も明日、母に交代して終わりになる。
「5日間かぁ」
急なことだったし、もちろん不慣れだ。大いに慌てたけど「任務完了!」の達成感がある。
甥っ子の相手は大変だったけど、こちらの気の持ちようで、少しずつ余裕もでてきた。
訳もわからず詰め込んだ荷物をまたカバンに入れて帰る準備もできて、壁に貼ったドラえもんのクレヨン画を見上げている。
それにしても、我ながら落ちいてやりぬけたことが不思議に感じる。こういう満足感はいいなと思う。普段の自分でないみたい。
ぼんやり考えていると、不意にあの時の「お姉ちゃんの背中」のイメージが沸く。
4年生の冬、スズキは、スキー合宿に参加していた。
スクールは5年生の男の子ばかりだ。その中で紅一点。一緒に行くはずだった幼なじみが前日にインフルエンザになってこない。
スキーそのものには興味があまりなかったので、こんな状況にって気分は暗転してしまっている。運動は得意でもない。
雪の降るゲレンデの下の方で、小さく見えるインストラクターがストックを上げて合図をする。雪の向こうで見えずらい。
「いきまーす」と緊張気味の声を発して、男の子がスタート。最後に転んだけど無難に降りた。
次、次と男の子が滑って行って、いよいよ最後、ヤマダの番だ。下でみんなこちらを見上げている。
「何でこんなところに来っちゃたんだろ」という気分を振り払ってやるしかいない。
「はーい!」と言ってスタート。ほぼ独り言のよう。
プルークのまま斜滑降で進んでソロソロと進む。
まずは順調と思った途端。嫌な音とともにスキーのトップが交差した。途端、前につんのめるように、顔から雪の塊に突っ込んでしまった。
目を開けるとゴーグルの外側に雪が付着して、その向こうに白い木々が無関心そうにぼんやり立っている。
状況がすぐには把握できなかったが、何とかしなきゃという不安と焦りに覆われてきた。
でも、ストックを持つ腕とスキーを履いた足が今どういう位置にあるのかわからない。周りは真っ白で取り留めもない。
「大変なことになったちゃった。」
知らない男の子たち、みんな下で見ているはずだ。
ようやく体制を整えたが、無情にもスキーは意思とは別の方に動いてしまう。
ぶざま。
それでもどうにもならない。
その時、大丈夫?という声が聞こえた気がした。少し遠い。
ゲレンデの上の方、赤いウエアー。お姉ちゃんだ。
しばらくこっちを心配そうに見ながら、
「先行くよー」
と言って降りていく。姉は姉で別のコースのレッスン中だ。
赤いウエアー。
そう、1週間前に送られてきた知り合いからのお下がりだ。
「なんか、戦隊ヒーローみたいじゃない。」
という姉。確かに必要以上に大きなボタンが目立って、おかしいぐらいそんな感じだった。
「でも、これ着て街歩くわけでもないし。」
とすぐに割り切って、それを着て来ている。
その姉が、ゲレンデを降りていく。左右のターンが不ぞろいで、不器用な感じだけどなんとかしている。それなりにまとめている感じ。その背中が遠ざかっていく。
その時である。
「丁寧にやってごらん」
という姉の声がきこえた。
低学年の時、「ちゃんと鉛筆けずったの?」と言ってもらっていた感じで。
気持ちが落ち着いてきた。
「あ、そうか。」
まずは、谷足側を決めて、そこに山足をそろえる…。
ことを合理的進められるようになってきた。
立ち上がり、滑りだすと、足が雪を捉えている感じが分かった。
途中もう一回転んだが、慌てなかった。
集合地点まで着くと、インストラクターに褒めらられた。
「今の気持ちでいいんだよ」
と言われているような気がした。
あの時のあの感覚
そう、5日間の甥っ子との生活を終えた達成感は、あの時の気持ちに似ていると思っている。
つづく