諦めない教育原理

特別支援教育は教育の原点と聞いたことがあります。
その窓からどこまで見えるか…。

97 視線の先

2020年09月05日 | エッセイ
富士山! 夏 箱根スカイラインから

職員室にもどると、訪問教育の先生たちが集まって何かを覗きこんでいる。
文書の箱を抱えたままの教頭先生も肩越しにそれを見ている。
非常事態?、…でもなさそう。

近づくと、タブレットの動画である。
皆、無言で注目している。
時折、あるタイミングで、
「あー、」とか「おー、」
と言う。
無意識に頷く先生もある。

視線の先の画面には訪問教育の生徒の表情が映っているのだ。

「ちょっと戻してみて」
と一人の先生がいうと、隣の先生は眼鏡に手をやって「その一瞬」に集中している。

そこで何が分かるのか、ここからでは分からないのだが、意図は分かる。
子どもからの発信を見逃すまいとしているのだ。

動画が終わると、緊張が解けたように、
「ふーん」「あ、そうか」
と口々にいう。
教頭先生も何かを納得したように、続きの作業にもどっていく。

後で、聞くと、新しい教材に対して、どこにそれを提示すると彼の視覚として認識できるのか、そしてそれを顔の表情や、全身のおそらくは小さな動きで判断できないかを、見ていたという。


果たして、三日後。
ベッドサイドの左側でPK戦のできる小さなサッカー盤が完成した。
随意に動かせる右手の甲でビー玉を押し出し、彼が見渡せる35センチ先のゴールを狙える。
ゴールキーパーの人形は日本代表カラーの服だ。

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