諦めない教育原理

特別支援教育は教育の原点と聞いたことがあります。
その窓からどこまで見えるか…。

122 主人公

2021年02月21日 | エッセイ
道! 信濃川上村。 左右は高原野菜の畑です。

小説家の遠藤周作さんのことだからずいぶんと前の話になる。

遠藤さんは熱心に劇団を主宰していた。
「樹座(きざ)」といった。
オペレッタを上演するこの劇団は、全員舞台の経験のないアマチィアがキャストを務めた。

オーディションには毎回大勢の人が集まった。
こんなにもステージに上がりたかった人が多いことに遠藤さんも驚いたという。

それもそのはずで、キャスト以外のバックのメンバーはプロできちんとオペレッタを成功させるべき準備されていた。しかも会場は帝国劇場なのである。

「みんな、舞台にあがりたいんですよ」
と遠藤さんはいうが、気兼ねなくアマチィアが集まったのにはユニークな工夫がある。
合格基準を、
「音痴であること」
としたのである。

審査員の前で歌を披露した参加者には、合否が発表されるのだが、そういう基準だから、不合格者は結果に納得し、逆に合格者は苦笑いしていた。

果たして、稽古で磨かれた「樹座」の公演は好評だったらしい。
素人(で音痴)であってもステージにあがり主人公となったとき、何らかの魅力を発し、見るものにもそれが伝わった。

その後、公演は遠藤さんが亡くなった後の追悼公演を含めて22回も行われた。

当時、ラジオ番組に出演した遠藤さんは、劇団のことに触れ、少し小さな声で、
「でも、なんですなー、音痴はいつまでも音痴ならず、ですなー」
音痴を惜しむかのように言っていた。




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