諦めない教育原理

特別支援教育は教育の原点と聞いたことがあります。
その窓からどこまで見えるか…。

168近未来からの風#7 佐藤学さんの近未来

2022年01月23日 | 近未来からの風
久しぶりのテント泊 いよいよ天狗岳山頂 東峰から西峰を望む 風もある11月、結構寒いです。

今回からぐっと焦点を絞り日本の教育の近未来を探ります。
今回もテキストを設定します。

佐藤 学『第四次産業革命と教育の未来』岩波ブックレット

です。帯には、「子ども「一人一台端末」のその先は?」とあります。

佐藤学さんは、当ブログでもたびたび参考にさせていただいた、現場の実情を踏まえた日本の教育界を俯瞰される研究者であることは言うまでもありません。その佐藤さんがどんな近未来観をお持ちなのでしょう。今回も引用が多くなります。

〇第四次産業革命による社会の変化
佐藤さんは、ハラリさんのいう「AI社会の到来が変化を加速する」に近いイメージで、これからの未来を「第四次産業革命」といい、人類史上の過渡期としている。

第四次産業革命」と言う言葉は2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で登場しました。この言葉はAI (人工知能)とロボット、あらゆるものをつなぐインターネットとビック・データを始め、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、再生可能なエネルギー開発などによって遂行される産業革命を意味します。

第四次産業革命は2012年頃からすでにドイツの「スマート工場」(AIとロボットで生産過程を制御された工場)で現実化していたと言われます。例えば、ジーメンス者のスマート工場では、ビック・データにもとづいて顧客に300種類の香水のうち最適な商品を推奨してインターネット販売を行い、その顧客の注文によって工場が自動で香水を製造しています。現在は宅配で届けていますが、数年先にはドローンで届けることになるでしょう。そうなると宣伝、販売、製造、配達のすべてが人の労働を介さない過程になります。
この例からわかるように、第四次産業革命は急速度で人々の労働と生活を変えています。人工知能が人間の能力を上回るとされる「シンギュラリティー(技術的特異点)」が2045年と予想されていますから、第四次産業革命は向こう25年間、加速度的に進行することになるでしょう。(ただし私はシンギュラリティーの到来には懐疑的です。技術的に可能であっても、市場経済にとって有益でなければシンギュラリティーは到来しないからです。)

〇社会の変化と教育の課題
これまで産業革命も社会に大きな変化を引き起こしている。さて第四次はどんな変化なのか。

人間の労働は頭脳労働と肉体労働に大別することができますが、これまでの産業革命の技術革新によって奪われた労働は肉体労働でした。しかし、第四次産業革命における技術革新は、肉体労働だけではなく、むしろ頭脳労働を奪っています。つまり新しく喪失させる労働は、そのほとんどが現在の頭脳労働より高度の頭脳労働になります。
この事は深刻な問題を引き起こします。この変化に対応する人々の学びが追いつかなければ、大量の人々が社会から排除されて「無用階級」に転落する危険が待ち受けています。労働市場から排除された人々が多くなれば、ますます単純労働の賃金は下がってしまいます。しかも、現代の労働市場は国境越えています。労働を創出した人々は人として最低限の生活を奪われるか、あるいは単純労働が残っている国と働き口を求めて流出し、世界中をさまようことになるでしょう。この危険はなんとしても避ける必要があります。ここに教育の大きな責任が横たわっています。


〇ビッグ・データの統計力と「最適な教育プログラム」
第四次産業革命の特徴はビッグ・データとその統計による現実認識が人を「客観的」にデータ化できうることである。“アルゴリズム”が自動処理していく感じ。
教育もそのデータ処理と同じ要領で最適解が導きだせるはずである、ということになる。

第四次産業革命の基盤の1つはビック・データです。(中略)
ビックデータは指数関数的に増加し集積されています。アメリカではGoogle情報はすべての人のインターネットへのアクセスからメールに至るまですべて、最終的には国防総省に集約されています。(中略)
アメリカでは、すべての子ども、生徒、学生の小学1年からの学力テストの結果はもちろん、あらゆる教科のあらゆる内容の学習において、どこでどうつまずいていたのか、どの内容をどう理解したのか、その学習でインターネットのどの情報にどうアクセスしたのかなどの個人別データがビック・データとして集積されています。このビック・データによって、一人ひとりの能力と学習歴に照らして最適なプログラムをICT教育で提供することが可能になっています。


〇第四次産業革命と日本の「人づくり改革」
佐藤さんは、こうした世界の潮流の中で決して対応が遅れたとは考えいないようだ。しかし、第四次産業革命が背景にある教育ありようは、従来の行政組織では想定しにくいことがわかる。

内閣府も経済産業省も文部科学省も、日本経済が厳しい状況にあることも、IT革命(第三次産業革命)において国際競争から脱落したことも認識しています。しかし、その原因である外交・経済・教育政策の誤りを顧みることなく、第四次産業革命の遅れをICT教育で取り戻そうとしています。「人づくり革命(内閣府)」も「Socie-ty5.0」(経済産業省)も、内容を読むと、文部科学省の政策文章のようです。文部科学省が担当すべき政策が経済産業省で担われる状況が生まれました。(中略)これらの政策によって第四次産業革命に対応した教育イノベーションを推進することができるのでしょうか。

以上は、このブックレットの第一章から抜粋である。
近未来の風に不穏さを感じる後ろには、こんな世界情勢やIT技術の変化、ビッグデータの威力があり、教育行政の政策のパッケージすらも変えようとしているらしい。

次回は、グローバル化とビッグデータの中での教育の未来像を、行政側から見てみたい。



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