◆ 画期的な勧告! ~ 自由権規約委員会第7回日本審査 (被処分者の会通信)
1.総括所見
今年10月13日,14日に自由権規約委員会による第7回日本政府報告審査が行われ、11月3日に公表された「総括所見」の中で国旗・国歌強制問題に関して初めて具体的な勧告が出ました。
(実際の総括所見でも、勧告の奇数パラグラフはボールド体で書かれています)
今回の総括所見は、偶数のパラグラフで「懸念」が、奇数で「勧告」が述べられるという組み立てになっています。
従って、パラ39はパラ38の懸念を受けており、ここでいう「思想良心の自由の実質的な行使の保障」とは、一般的な思想良心の自由の保障ではなく、具体的に国旗国歌の強制に対する静かで破壊的でない不服従の権利の保障を表し、「規約18条で許容された制約の厳密な解釈を越えてその自由を制約する措置」とは10.23通達に基づく処分や措置を指しているのです。
また、「18条に適合させるべき」とされている「自国の法律と運用」は、政府が処分の正当化の根拠としている学習指導要領、地方公務員法、最高裁判決などを具体的に指しているものと解釈するのが最も自然です。
2.NGOブリーフィング(*)と本審査(ゴメス委員の鋭い質問)
2017年にリストオブイシュー(LOI)パラグラフ26で「10.23通達」が名指しで取り上げられ、私たちはこれに勇気を得て新たにレポートを提出して本審査を待ちましたが、COVID19のため審査は延期に延期を重ね、ようやく今年実現したのです。
今回はNGOブリーフィングも本審査もハイブリッド(会場およびオンライン参加)で行われたため、日本に居ながらどちらにも参加出来ました。
ブリーフィングでは国際人権活動日本委員会(以下日本委員会)の松田さんが代表して他のイシューと共に「日の君」問題について私たちのレポートに基づいて発言され、市民会議の寺中誠氏もこの問題について報告されていました。
(*NGOブリーフィング:本審査ではNGOの発言機会がないため、委員とNGOとの対話のために審査の前に設けられるものです)
本審査では、スペインのゴメス委員が「これは東京都教育委員会の国歌斉唱に関する規範に対する良心的命令拒否(conscientious objection)の問題だ」と質問を切り出し、最後に「国歌斉唱時に静かに座っているという教員の態度は規約18条1項の思想・良心の自由に基づく良心的命令拒否の適用を受けるのではないか?」と締めくくりました。
この語句は質問の中で計3回用いられています。
質問はNGOブリーフィングでの表現を用いてなされており、ブリーフィング参加の重要性を認識させるものでした。「総括所見」はこういう過程を経て出されたのです。
3.思えば長い道のりでした
私が自由権規約なるものを知ったのは第5回審査が行われた2008年のことでした。
審査の期日が数か月後に迫っていたため、取り敢えずチームを立ち上げてレポートを作成し、日本委員会を通して提出したのです。
そして審査傍聴のためチームから3人がジュネーブに行き、ロビー活動も行いましたが、審査では取り上げられませんでした。しかし、委員たちにこの問題の存在を知らしめた意義は大きかったと思います。
第6回審査(2014年)では、LOI採択に向けたロビー活動のため、再びジュネーブに赴き、その甲斐あって、この問題がLOIに取り上げられたのです。忘れもしません、パラ17でした。
これで良い勧告がもらえると、翌年の本審査にも勇んで3度目の”ジュネーブ詣で”をしたのですが、なんと、LOIに取り上げられた他のイシューが次々と議題に上る中、パラ17だけは完全にスルーされたのです!
案の定、「総括所見」では一般的な思想・良心の自由の保障という抽象的な勧告になってしまいました。
そして第7回審査。今度こそ具体的な勧告を得ようと決意を新たにし、まずLOI採択に向けて事前に、そしてLOIが出た後にも重ねてレポートを提出しました。
こうして、最初のレポートから14年を経て、ようやく上述のような実質的な勧告を得ることが出来ました。本当に喜ばしく、感無量です。
4.闘いは続く
しかし、私たちの最終目標は勧告を得ることではありません。「国連勧告に従う義務なし」と閣議決定した安倍内閣の方針が今なお霞が関の隅々にまで及んでいる中で、文科省や都教委との交渉を粘りつよく続け、メディアに働きかけ、裁判においてもこの勧告を生かして国際人権の視点からの主張をさらに展開するなど、運動を継続していきましょう。
『被処分者の会通信 141号』(2022年12月20日)
東京・教育の自由裁判をすすめる会国際人権PT 新井史子
1.総括所見
今年10月13日,14日に自由権規約委員会による第7回日本政府報告審査が行われ、11月3日に公表された「総括所見」の中で国旗・国歌強制問題に関して初めて具体的な勧告が出ました。
パラ38 当委員会は締約国における思想良心の自由の制約に関するレポートに懸念を持って留意する。当委員会は学校の儀式において国旗にむかって起立し国歌を斉唱することに対する静かで破壊的でない不服従の結果、教師が最高6ヶ月の停職を含む処分を受けたことを懸念する。更に儀式において生徒に起立を強制するために物理的な力が用いられたという申し立てに対しても懸念を抱く。(18条)
パラ39 締約国は思想良心の自由の実質的な行使を保障し、規約18条で許容された制約の厳密な解釈を越えてその自由を制約するいかなる措置をも控えるべきである。締約国は自国の法律とその運用を規約第18条に適合させるべきである。
(国際人権プロジェクトチーム 仮訳)
パラ39 締約国は思想良心の自由の実質的な行使を保障し、規約18条で許容された制約の厳密な解釈を越えてその自由を制約するいかなる措置をも控えるべきである。締約国は自国の法律とその運用を規約第18条に適合させるべきである。
(国際人権プロジェクトチーム 仮訳)
(実際の総括所見でも、勧告の奇数パラグラフはボールド体で書かれています)
今回の総括所見は、偶数のパラグラフで「懸念」が、奇数で「勧告」が述べられるという組み立てになっています。
従って、パラ39はパラ38の懸念を受けており、ここでいう「思想良心の自由の実質的な行使の保障」とは、一般的な思想良心の自由の保障ではなく、具体的に国旗国歌の強制に対する静かで破壊的でない不服従の権利の保障を表し、「規約18条で許容された制約の厳密な解釈を越えてその自由を制約する措置」とは10.23通達に基づく処分や措置を指しているのです。
また、「18条に適合させるべき」とされている「自国の法律と運用」は、政府が処分の正当化の根拠としている学習指導要領、地方公務員法、最高裁判決などを具体的に指しているものと解釈するのが最も自然です。
2.NGOブリーフィング(*)と本審査(ゴメス委員の鋭い質問)
2017年にリストオブイシュー(LOI)パラグラフ26で「10.23通達」が名指しで取り上げられ、私たちはこれに勇気を得て新たにレポートを提出して本審査を待ちましたが、COVID19のため審査は延期に延期を重ね、ようやく今年実現したのです。
今回はNGOブリーフィングも本審査もハイブリッド(会場およびオンライン参加)で行われたため、日本に居ながらどちらにも参加出来ました。
ブリーフィングでは国際人権活動日本委員会(以下日本委員会)の松田さんが代表して他のイシューと共に「日の君」問題について私たちのレポートに基づいて発言され、市民会議の寺中誠氏もこの問題について報告されていました。
(*NGOブリーフィング:本審査ではNGOの発言機会がないため、委員とNGOとの対話のために審査の前に設けられるものです)
本審査では、スペインのゴメス委員が「これは東京都教育委員会の国歌斉唱に関する規範に対する良心的命令拒否(conscientious objection)の問題だ」と質問を切り出し、最後に「国歌斉唱時に静かに座っているという教員の態度は規約18条1項の思想・良心の自由に基づく良心的命令拒否の適用を受けるのではないか?」と締めくくりました。
この語句は質問の中で計3回用いられています。
質問はNGOブリーフィングでの表現を用いてなされており、ブリーフィング参加の重要性を認識させるものでした。「総括所見」はこういう過程を経て出されたのです。
3.思えば長い道のりでした
私が自由権規約なるものを知ったのは第5回審査が行われた2008年のことでした。
審査の期日が数か月後に迫っていたため、取り敢えずチームを立ち上げてレポートを作成し、日本委員会を通して提出したのです。
そして審査傍聴のためチームから3人がジュネーブに行き、ロビー活動も行いましたが、審査では取り上げられませんでした。しかし、委員たちにこの問題の存在を知らしめた意義は大きかったと思います。
第6回審査(2014年)では、LOI採択に向けたロビー活動のため、再びジュネーブに赴き、その甲斐あって、この問題がLOIに取り上げられたのです。忘れもしません、パラ17でした。
これで良い勧告がもらえると、翌年の本審査にも勇んで3度目の”ジュネーブ詣で”をしたのですが、なんと、LOIに取り上げられた他のイシューが次々と議題に上る中、パラ17だけは完全にスルーされたのです!
案の定、「総括所見」では一般的な思想・良心の自由の保障という抽象的な勧告になってしまいました。
そして第7回審査。今度こそ具体的な勧告を得ようと決意を新たにし、まずLOI採択に向けて事前に、そしてLOIが出た後にも重ねてレポートを提出しました。
こうして、最初のレポートから14年を経て、ようやく上述のような実質的な勧告を得ることが出来ました。本当に喜ばしく、感無量です。
4.闘いは続く
しかし、私たちの最終目標は勧告を得ることではありません。「国連勧告に従う義務なし」と閣議決定した安倍内閣の方針が今なお霞が関の隅々にまで及んでいる中で、文科省や都教委との交渉を粘りつよく続け、メディアに働きかけ、裁判においてもこの勧告を生かして国際人権の視点からの主張をさらに展開するなど、運動を継続していきましょう。
『被処分者の会通信 141号』(2022年12月20日)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます