エグゼンプションを先取りする教育職場にはパワハラも横行している。
◆ 横行するパワハラ その根源はどこに
都立高校教員の集まりで出た話である。保護者会が行われた日、会の終了後、担任団の何人かで保護者との交流を深めるために校庭でバレーボールを楽しんでいた。そこに通りかかった副校長が、突然、2階の窓から「ヤメロ!ヤメロ!職務命令だ!」と叫んだ。何の理由もなく、その時の気分と恣意的な発想で職務命令を発する。こうしたパワーハラスメント(パワハラ)は、東京の学校では、特別のことではなくなっている。
◆ 現場から聞こえる悲鳴
筆者が参加している「予防訴訟をひきつぐ会」で都高教組組合員を対象にアンケート調査を実施した(昨年10~11月)。そこで出された現場の声は、悲鳴に近い。
①若いというだけで仕事が回ってくる。部活の合宿引率や休日の部活動など、いつも決まった人に回ってくる。
②職員室で公然と他人の悪口を言ったり、常に誰かが行動を監視したりしている。若手教員に常軌を逸した勤務を強要したり、「あいつは駄目だ」というレッテルをはり、担任を持たせてもらえなくなったり、生徒の前で叱責するなど、個人の尊厳を踏みにじられているような気がしている。
③とくに副校長から特定の教員に対する対応が目に余る。上から目線であれこれと指示を出してくることが多く、やりにくい。仕事を勝手に作って押し付けてくる。しかも自分が生徒のことを分かっているつもりでいるからタチが悪い。
④多忙すぎて職場内のコミュニケーションがとれない。上からの調査も期間が短いものが多く、突然降ってくる仕事に振り回される。
⑤「多忙でも耐えられる」「管理強化されても落ちこぼれない」・・このような「強い教員」は、生徒に対してもためらわず管理的、支配的になっている。
◆ アンケートから浮かぶ実態
都高教組が2013年度に実施したアンケート(昨年1月公表)は、パワハラの実態を表している(全分会の2178名から回答)。
これによるとほぼ全分会でパワハラが報告されている。
パワハラの行為者としては、校長、副校長、主幹や主任教諭等の中間管理職の順であった。
パワハラ行為の主なものとしては、
それにしても驚かされるのは、パワハラ行為の中には「暴力を受けた」が15件もあったことだ。
◆ 職務命令体制
東京の学校現場に職務命令体制が始まったのは2003年の「10・23通達」からである。卒入学式での「日の丸・君が代」の強制を実施するために、都教委は各学校の校長に職務命令し、校長は教員に職務命令した。その被処分者の総数は463人に達している。
民間では、上司による職務命令体制は一般的であるが、戦後の教育法体系では、教育現場での職務命令はなじまないとされてきた。教育は、教員が子どもとの人間的な接触の中で築かれるものであり、教員と子どもの数だけ教育の性格と方法が異なるからである。
それを一律の教育統制に変えていったのが「10・23通達」であり、それにもとつく職務命令体制だった。
2000年に導入された業績評価(成果主義)もパワハラの一因になっている。
教育は長いスパンで結果が現れる分野であり、成果主義にはなじまない。それを評価するのだから、恣意的にならざるをえない。「異動させるぞ」を脅しの手段として使う管理職もいる。
◆ 狙われる「新採」
パワハラは、最も弱い者に向けられる。都の教育現場では新採用教員だ。
現行制度では、都道府県の教員採用試験に合格して採用されても1年間は「条件付き採用」となる。条件付とはいえ、正採用が原則で不採用は特例、とされる。ところが、上の表を見てもわかるように、毎年100名近くが正式採用されていない。
70%以上が「自主退職」となっているが、不本意に退職に追い込まれた教員も少なくないと推測される。
正式採用されなかった教員による提訴も相次ぐ。今年1月には、その内の1件で「不採用」取り消しの地裁判決が出された。
新人教員には指導教員が付くことになっているが、その背後には管理職がいる。「恩師と生徒」のような特殊な関係を築かされ、その後の教員生活の中の主従関係にまで引きずられる例がある。そして、意に従わない条件付き採用教員がいると、パワハラが始まる。
職責の違いが不平等な扱いに転嫁されることこそ、パワハラの根源である。労働者としての権利と人権を守る闘いは、反撃の拠点となるはずである。
労働を生活を社会を変える『労働情報』(905号 2015/2/15)
http://www.rodojoho.org/
◆ 横行するパワハラ その根源はどこに
永井栄俊(「日の丸・君が代」強制反対・予防訴訟をひきつぐ会共同代表)
都立高校教員の集まりで出た話である。保護者会が行われた日、会の終了後、担任団の何人かで保護者との交流を深めるために校庭でバレーボールを楽しんでいた。そこに通りかかった副校長が、突然、2階の窓から「ヤメロ!ヤメロ!職務命令だ!」と叫んだ。何の理由もなく、その時の気分と恣意的な発想で職務命令を発する。こうしたパワーハラスメント(パワハラ)は、東京の学校では、特別のことではなくなっている。
◆ 現場から聞こえる悲鳴
筆者が参加している「予防訴訟をひきつぐ会」で都高教組組合員を対象にアンケート調査を実施した(昨年10~11月)。そこで出された現場の声は、悲鳴に近い。
①若いというだけで仕事が回ってくる。部活の合宿引率や休日の部活動など、いつも決まった人に回ってくる。
②職員室で公然と他人の悪口を言ったり、常に誰かが行動を監視したりしている。若手教員に常軌を逸した勤務を強要したり、「あいつは駄目だ」というレッテルをはり、担任を持たせてもらえなくなったり、生徒の前で叱責するなど、個人の尊厳を踏みにじられているような気がしている。
③とくに副校長から特定の教員に対する対応が目に余る。上から目線であれこれと指示を出してくることが多く、やりにくい。仕事を勝手に作って押し付けてくる。しかも自分が生徒のことを分かっているつもりでいるからタチが悪い。
④多忙すぎて職場内のコミュニケーションがとれない。上からの調査も期間が短いものが多く、突然降ってくる仕事に振り回される。
⑤「多忙でも耐えられる」「管理強化されても落ちこぼれない」・・このような「強い教員」は、生徒に対してもためらわず管理的、支配的になっている。
◆ アンケートから浮かぶ実態
都高教組が2013年度に実施したアンケート(昨年1月公表)は、パワハラの実態を表している(全分会の2178名から回答)。
これによるとほぼ全分会でパワハラが報告されている。
パワハラの行為者としては、校長、副校長、主幹や主任教諭等の中間管理職の順であった。
パワハラ行為の主なものとしては、
「怒鳴られた。感情的な叱責を受けた」14・68%、義務制組合である東京教組の統計も、ほぼ同じ結果となっている。
「自分の考え方と違う考えを一方的に押しつけられた」13・24%、
「陰で悪口を言われた」11・5%、
「時間外労働(残業・休日出勤等)を強制された」7・08%、
「生徒や保護者、同僚の前などで叱責を受けた」8・10%、
「人格否定や差別的発言による指示や指導を受けた」8・01%。
それにしても驚かされるのは、パワハラ行為の中には「暴力を受けた」が15件もあったことだ。
◆ 職務命令体制
東京の学校現場に職務命令体制が始まったのは2003年の「10・23通達」からである。卒入学式での「日の丸・君が代」の強制を実施するために、都教委は各学校の校長に職務命令し、校長は教員に職務命令した。その被処分者の総数は463人に達している。
民間では、上司による職務命令体制は一般的であるが、戦後の教育法体系では、教育現場での職務命令はなじまないとされてきた。教育は、教員が子どもとの人間的な接触の中で築かれるものであり、教員と子どもの数だけ教育の性格と方法が異なるからである。
それを一律の教育統制に変えていったのが「10・23通達」であり、それにもとつく職務命令体制だった。
2000年に導入された業績評価(成果主義)もパワハラの一因になっている。
教育は長いスパンで結果が現れる分野であり、成果主義にはなじまない。それを評価するのだから、恣意的にならざるをえない。「異動させるぞ」を脅しの手段として使う管理職もいる。
◆ 狙われる「新採」
パワハラは、最も弱い者に向けられる。都の教育現場では新採用教員だ。
現行制度では、都道府県の教員採用試験に合格して採用されても1年間は「条件付き採用」となる。条件付とはいえ、正採用が原則で不採用は特例、とされる。ところが、上の表を見てもわかるように、毎年100名近くが正式採用されていない。
70%以上が「自主退職」となっているが、不本意に退職に追い込まれた教員も少なくないと推測される。
正式採用されなかった教員による提訴も相次ぐ。今年1月には、その内の1件で「不採用」取り消しの地裁判決が出された。
新人教員には指導教員が付くことになっているが、その背後には管理職がいる。「恩師と生徒」のような特殊な関係を築かされ、その後の教員生活の中の主従関係にまで引きずられる例がある。そして、意に従わない条件付き採用教員がいると、パワハラが始まる。
職責の違いが不平等な扱いに転嫁されることこそ、パワハラの根源である。労働者としての権利と人権を守る闘いは、反撃の拠点となるはずである。
労働を生活を社会を変える『労働情報』(905号 2015/2/15)
http://www.rodojoho.org/
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます