◆ 元教諭・梅原聡さんが「君が代」不起立訴訟で逆転勝訴
大阪高裁、府の違法を認定 (金曜アンテナ)
「勝訴」の旗を掲げて逆転判決を伝える梅原聡さん。
大阪府立高校の卒業式で、「君が代」を起立斉唱せよとの職務命令に従わず、2回の戒告処分を受け、定年退職後の再任用を拒否された元教諭(理科)の梅原聡(うめはらさとし)さん(65歳)が府に550万円の損害賠償を求めた裁判の控訴審判決で、大阪高裁(本多久美子〈ほんだくみこ〉裁判長)は12月9日、梅原さんの訴えを退けた1審・大阪地裁の判決を変更、府に約315万円の賠償を命じた。
梅原さんは、定年退職直前の2017年3月、勤務先の校長から「卒業式または入学式における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従いますか、ハイかイイエで答えてください」との意向確認を受け、「生徒の就職指導で、そのような(思想・良心に関わる)質問には答えないよう指導しているので、答えられません」と述べ、その結果再任用されなかった。
大阪地裁の判決(20年11月)は、「職務命令が適法だから、将来の職務命令に従うかどうか告白させても適法」とし、裁量権も広く認め、梅原さん側が控訴していた。
国は13年に公的年金の支給開始年齢の引き上げにともない、無収入期間が発生しないよう希望者の再任用を自治体に要請。大阪府は希望者をほぼ全員再任用してきた。
その中には体罰で減給一カ月の処分を受けた人もいるが、減給より軽い戒告処分の梅原さんは再任用されなかった。この点を判決は「合理性を欠く」と認定。
「事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が望まれる」とし、大阪府教育委員会の不採用の判断は「裁量権の逸脱又は濫用に当たり、違法」と認めた。
ただ、梅原さん側が「現代の踏み絵であり違憲」と訴えていた「意向確認」は「憲法19条に違反するとは言えず……」と退けられた。
梅原さんは「意向確認が違憲だと認められなかったのは残念です。ただ、職務命令に従わなかった者を再任用しないのは違法とし、府教委が不起立者を差別してきたことを認めた判決だと思います。大阪維新の支配下で、上意下達が進む中、おかしいことはおかしいと言っていいんだということにつながれば嬉しいです」と話した。
梅原さんの代理人の谷次郎(たにじろう)弁護士は「裁量権の逸脱又は濫用を正面から認めたのが今回の判決の特徴です。判決の『事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が望まれる』とは、(思想・良心による)不起立に着目した不利益処分だということを事実上認めているようなもの。梅原さんの苦労に報いる判決です」と評価した。
◆ 維新6割の府議会は上告決定
梅原さんら不起立で処分された教員らを支援している大阪の市民団体「『日の丸・君が代』強制反対大阪ネット」は17年、府教委の意向確認が不適切と府の商工労働部、に認めさせ、同部は府教委に改善を要請した。
その後府教委の意向確認は、「今後、上司の職務命令に従いますか」だけに改められ、不起立で戒告とされた3人が「ハイ」と答え、再任用された。
東京都でも「日の丸・君が代」強制が苛烈だが、職務命令に従わず処分された都立学校教職員らの「被処分者の会」の近藤徹(こんどうとおる)事務局長はこう話した。
「社会的な常識にかなった当然の判決です。大阪府教委の突出した『日の丸・君が代』処分を弾劾した大きな意義があります。ただ、東京では不起立などで処分された教職員が定年退職後の再雇用を拒否された裁判の2次訴訟で1審、2審ともに勝訴し、2審の東京高裁判決(15年)は、職務命令違反への過大な不利益は『思想・良心の自由の侵害になり得る』と憲法違反の可能性にも言及していたのに最高裁で逆転敗訴(18年)したので、大阪の今後に注目しています」
梅原さんは、生活の柱だった生徒と過ごす時間を奪われた。この取り返しのつかない過ちを謝罪するのか、筆者は府教委に質問した。
「現在その意思はない」。重ねて理由を聞くと「答えられない」。
その後12月17日、大阪維新の会が約6割を占める大阪府議会(定数84)は、最高裁への上告受理申し立てを賛成80、反対4で決めた。
『週刊金曜日 1359号』(2021年12月24日)
大阪高裁、府の違法を認定 (金曜アンテナ)
永尾俊彦・ルポライター
「勝訴」の旗を掲げて逆転判決を伝える梅原聡さん。
大阪府立高校の卒業式で、「君が代」を起立斉唱せよとの職務命令に従わず、2回の戒告処分を受け、定年退職後の再任用を拒否された元教諭(理科)の梅原聡(うめはらさとし)さん(65歳)が府に550万円の損害賠償を求めた裁判の控訴審判決で、大阪高裁(本多久美子〈ほんだくみこ〉裁判長)は12月9日、梅原さんの訴えを退けた1審・大阪地裁の判決を変更、府に約315万円の賠償を命じた。
梅原さんは、定年退職直前の2017年3月、勤務先の校長から「卒業式または入学式における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従いますか、ハイかイイエで答えてください」との意向確認を受け、「生徒の就職指導で、そのような(思想・良心に関わる)質問には答えないよう指導しているので、答えられません」と述べ、その結果再任用されなかった。
大阪地裁の判決(20年11月)は、「職務命令が適法だから、将来の職務命令に従うかどうか告白させても適法」とし、裁量権も広く認め、梅原さん側が控訴していた。
国は13年に公的年金の支給開始年齢の引き上げにともない、無収入期間が発生しないよう希望者の再任用を自治体に要請。大阪府は希望者をほぼ全員再任用してきた。
その中には体罰で減給一カ月の処分を受けた人もいるが、減給より軽い戒告処分の梅原さんは再任用されなかった。この点を判決は「合理性を欠く」と認定。
「事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が望まれる」とし、大阪府教育委員会の不採用の判断は「裁量権の逸脱又は濫用に当たり、違法」と認めた。
ただ、梅原さん側が「現代の踏み絵であり違憲」と訴えていた「意向確認」は「憲法19条に違反するとは言えず……」と退けられた。
梅原さんは「意向確認が違憲だと認められなかったのは残念です。ただ、職務命令に従わなかった者を再任用しないのは違法とし、府教委が不起立者を差別してきたことを認めた判決だと思います。大阪維新の支配下で、上意下達が進む中、おかしいことはおかしいと言っていいんだということにつながれば嬉しいです」と話した。
梅原さんの代理人の谷次郎(たにじろう)弁護士は「裁量権の逸脱又は濫用を正面から認めたのが今回の判決の特徴です。判決の『事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が望まれる』とは、(思想・良心による)不起立に着目した不利益処分だということを事実上認めているようなもの。梅原さんの苦労に報いる判決です」と評価した。
◆ 維新6割の府議会は上告決定
梅原さんら不起立で処分された教員らを支援している大阪の市民団体「『日の丸・君が代』強制反対大阪ネット」は17年、府教委の意向確認が不適切と府の商工労働部、に認めさせ、同部は府教委に改善を要請した。
その後府教委の意向確認は、「今後、上司の職務命令に従いますか」だけに改められ、不起立で戒告とされた3人が「ハイ」と答え、再任用された。
東京都でも「日の丸・君が代」強制が苛烈だが、職務命令に従わず処分された都立学校教職員らの「被処分者の会」の近藤徹(こんどうとおる)事務局長はこう話した。
「社会的な常識にかなった当然の判決です。大阪府教委の突出した『日の丸・君が代』処分を弾劾した大きな意義があります。ただ、東京では不起立などで処分された教職員が定年退職後の再雇用を拒否された裁判の2次訴訟で1審、2審ともに勝訴し、2審の東京高裁判決(15年)は、職務命令違反への過大な不利益は『思想・良心の自由の侵害になり得る』と憲法違反の可能性にも言及していたのに最高裁で逆転敗訴(18年)したので、大阪の今後に注目しています」
梅原さんは、生活の柱だった生徒と過ごす時間を奪われた。この取り返しのつかない過ちを謝罪するのか、筆者は府教委に質問した。
「現在その意思はない」。重ねて理由を聞くと「答えられない」。
その後12月17日、大阪維新の会が約6割を占める大阪府議会(定数84)は、最高裁への上告受理申し立てを賛成80、反対4で決めた。
『週刊金曜日 1359号』(2021年12月24日)
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