◆ 2017年 大阪府の再任用拒否 国賠訴訟報告
◆ 再任用拒否までの経過
私は2012年と2014年の卒業式で、「君が代」斉唱の際に起立せず、職務命令違反で二度の戒告処分を受けました。この処分をめぐっては、他の6名と共に、処分の撤回を求めて提訴しました。この裁判では、一名の処分撤回を勝ち取りましたが、私を含めた6名の処分は撤回されず、他のメンバーと共に上告することを決め、理由書の準備中です。
2014年以降は、卒・入学式から排除される形が続き、新たな処分を受けることなく、2017年3月の定年を迎えました。再任用を申請しましたが、2月に校長から「総合的に判断して再任用結果を否とします」と口頭で通知されました。再任用審査会の議事録には、不起立による二回の処分歴と研修後の意向確認書を修正して提出したこと、校長による意向確認ができなかったことだけが記されおり、総合的な判断とは言うものの、再任用拒否の理由が「君が代」不起立に関する問題だけであることはあきらかです。
私の再任用を拒否したことの不当性を追及して、昨年2月に国家賠償を求めて大阪地裁に提訴しました。
◆ 裁判の概要
この裁判では、能力・実績などに特に問題のない私の再任用を拒否したことが、裁量権の逸脱濫用にあたるとして、1年間の報酬相当の損害賠償を求めました。
また、再任用拒否の大きな理由になっている「意向確認」を別に取り上げて、「意向確認」そのものが人権を侵害する違法なものであるとして、独立して損害賠償を求めています。
大きな争点は二つです。ひとつは、再任用制度が原則として希望者全員を採用すべきものであるという私たちの主張に対し、府教委側は、再任用制度も公務員の新規任用のための選考である以上、採否について広範な裁量権を有していると反論している点です。
もうひとつが、大阪の「君が代」不起立者の再任用の際に特徴的な、「意向確認」の問題です。
不起立で処分を受けた者は、研修の最後に「今後、入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令には従います。」と記された文書に署名・捺印をして提出するように求められます。
文書にはタイトルも宛先もなく、何に使われるかも不明でしたが、府教委内部で「意向確認書」と呼ばれていることが後に判明しました。提出は任意であるとか、書き換えて提出することもできるなどと言われる場合もありますが、提出しない者や書き換えて提出した者が再任用を申請すると、校長から「意向確認書」と同内容のことを口頭で確認され、「意向確認」にYesと答えた場合のみ、再任用が認められるのが通例です。
まさに現代の踏み絵と言える「意向確認」は、差別選考そのものであり、明らかな憲法違反の行為だと私たちは主張していますが、府教委は、職務命令に従う意向があるかどうかを確認しているだけであるという主張を繰り返しています。
◆ 昨年7月の最高裁判決に寄りかかる府教委
私たちは、再任用制度は原則として希望者全員全員を採用すべきと主張しています。
再任用を新規採用と同一視して広範な裁量権を有するという府教委の主張との誤りを指摘し、再任用における能力の実証に基づく総合考慮のあり方、具体的な審査基準が必要であること、適正比例の原則に反することなどを、さまざまな判例を引いて示しました。
また、昨年7月の最高裁判決が「その当時の再任用制度においては‥」としているように、その後、高年法が成立し、国家公務員についての閣議決定、地方公務員に対する総務省副大臣通知などが「雇用と年金の接続」を求めている本件では、最高裁判例とは事情が異なることを主張しています。
これに対し府教委は、昨年7月の最高裁判決の判断枠組みが現在もあてはまると述べるのみで、有効な反論がなされていない印象を持っています。
さらに、再任用制度について定めた府の条例そのものが、年金支給開始年齢の引き上げに対応して再任用任期の末日を定める附則を置いていることから、「雇用と年金の接続」という国の政策趣旨と目的を同じくするものであることを指摘して、本件事案の当時において、「任命権者は採用を希望する者を原則として採用しなければならないとする法令等の定め」があったと考えるべきで、その裁量権の範囲は極めて限定されるという主張を加えました。
◆ 意向確認の違憲性と府教委の不誠実な態度
「意向確認」に関しては、関西大学の高作正博教授に意見書を作成していただきました。意見書では、起立斉唱の職務命令が合憲だったとしても、「意向確認」の行為は「慣例上の儀礼的所作」には該当しないことを指摘しています。
「君が代」斉唱が思想・良心の自由に関わる問題であることは判例でも認められているところであり、厚労省も「公正選考の基本的な考え方」で「人生観・生活信条・思想」などに関することを質問すべきでないとしています。これらから「意向確認」は「特定の教育上の信念等を有する教職員」を学校教育の現場から排除しようとする意図に基づくもので、「告白強制型・思想強制型」の思想・良心の自由を直接的に制約する行為であって、違憲であると断定しています。
府教委側からは、高作意見書の指摘している内容については、これもまた、有効な反論がなされていないという印象です。
答弁書等でも「国歌斉唱時の起立斉唱にかかる職務命令違反行為について、一律に不採用としているのではなく、… 意向確認ができた者については職務命令違反の可能性が高くないと評価して採用し、他方、… 上司の職務上の命令を遵守することが期待できない者は成績良好とは言えないとして不採用としており…」と意向確認の結果で採否を決めていると、開き直って認めているのに、「本件意向確認は原告に対し、『再任用されたければ君が代斉唱時に起立斉唱すると言え』との趣旨で述べているものではないし、起立斉唱しない限り再任用されず職を失うという制裁を背景にして回答を迫るたぐいのものでもない。」と矛盾するように感じられる内容も見られ、私自身はすでに論理が破綻しているように感じています。
特に「意向確認」については、私たちの運動の成果として府の商工労働部から「再任用に関しての質問としては適切ではない」という内容の助言を引き出しています。
その結果、2017年4月以降、「意向確認」の文言は「今後、上司の職務命令には従います」と変更されており、昨年度・今年度と不起立処分者の再任用を勝ち取ってきました。これは、明らかに府教委自身が「意向確認」の内容を不適切なものと認識している証拠であると考えられますが、この文言の変更について私たちからの指摘に対して、府教委は全く触れずにここまで来ています。
自らの誤りに目をつぶり、できることならそこに触れることなく一切を処理したいという、非常に不誠実な態度に感じられます。今後、証人尋問等を通じて、府教委の姿勢を断罪し、謝罪と損害賠償を勝ち取り、「日の丸・君が代」の強制の問題点を広く考え直してもらうきっかけにしたいと考えています。
梅原 聡
◆ 再任用拒否までの経過
私は2012年と2014年の卒業式で、「君が代」斉唱の際に起立せず、職務命令違反で二度の戒告処分を受けました。この処分をめぐっては、他の6名と共に、処分の撤回を求めて提訴しました。この裁判では、一名の処分撤回を勝ち取りましたが、私を含めた6名の処分は撤回されず、他のメンバーと共に上告することを決め、理由書の準備中です。
2014年以降は、卒・入学式から排除される形が続き、新たな処分を受けることなく、2017年3月の定年を迎えました。再任用を申請しましたが、2月に校長から「総合的に判断して再任用結果を否とします」と口頭で通知されました。再任用審査会の議事録には、不起立による二回の処分歴と研修後の意向確認書を修正して提出したこと、校長による意向確認ができなかったことだけが記されおり、総合的な判断とは言うものの、再任用拒否の理由が「君が代」不起立に関する問題だけであることはあきらかです。
私の再任用を拒否したことの不当性を追及して、昨年2月に国家賠償を求めて大阪地裁に提訴しました。
◆ 裁判の概要
この裁判では、能力・実績などに特に問題のない私の再任用を拒否したことが、裁量権の逸脱濫用にあたるとして、1年間の報酬相当の損害賠償を求めました。
また、再任用拒否の大きな理由になっている「意向確認」を別に取り上げて、「意向確認」そのものが人権を侵害する違法なものであるとして、独立して損害賠償を求めています。
大きな争点は二つです。ひとつは、再任用制度が原則として希望者全員を採用すべきものであるという私たちの主張に対し、府教委側は、再任用制度も公務員の新規任用のための選考である以上、採否について広範な裁量権を有していると反論している点です。
もうひとつが、大阪の「君が代」不起立者の再任用の際に特徴的な、「意向確認」の問題です。
不起立で処分を受けた者は、研修の最後に「今後、入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令には従います。」と記された文書に署名・捺印をして提出するように求められます。
文書にはタイトルも宛先もなく、何に使われるかも不明でしたが、府教委内部で「意向確認書」と呼ばれていることが後に判明しました。提出は任意であるとか、書き換えて提出することもできるなどと言われる場合もありますが、提出しない者や書き換えて提出した者が再任用を申請すると、校長から「意向確認書」と同内容のことを口頭で確認され、「意向確認」にYesと答えた場合のみ、再任用が認められるのが通例です。
まさに現代の踏み絵と言える「意向確認」は、差別選考そのものであり、明らかな憲法違反の行為だと私たちは主張していますが、府教委は、職務命令に従う意向があるかどうかを確認しているだけであるという主張を繰り返しています。
◆ 昨年7月の最高裁判決に寄りかかる府教委
私たちは、再任用制度は原則として希望者全員全員を採用すべきと主張しています。
再任用を新規採用と同一視して広範な裁量権を有するという府教委の主張との誤りを指摘し、再任用における能力の実証に基づく総合考慮のあり方、具体的な審査基準が必要であること、適正比例の原則に反することなどを、さまざまな判例を引いて示しました。
また、昨年7月の最高裁判決が「その当時の再任用制度においては‥」としているように、その後、高年法が成立し、国家公務員についての閣議決定、地方公務員に対する総務省副大臣通知などが「雇用と年金の接続」を求めている本件では、最高裁判例とは事情が異なることを主張しています。
これに対し府教委は、昨年7月の最高裁判決の判断枠組みが現在もあてはまると述べるのみで、有効な反論がなされていない印象を持っています。
さらに、再任用制度について定めた府の条例そのものが、年金支給開始年齢の引き上げに対応して再任用任期の末日を定める附則を置いていることから、「雇用と年金の接続」という国の政策趣旨と目的を同じくするものであることを指摘して、本件事案の当時において、「任命権者は採用を希望する者を原則として採用しなければならないとする法令等の定め」があったと考えるべきで、その裁量権の範囲は極めて限定されるという主張を加えました。
◆ 意向確認の違憲性と府教委の不誠実な態度
「意向確認」に関しては、関西大学の高作正博教授に意見書を作成していただきました。意見書では、起立斉唱の職務命令が合憲だったとしても、「意向確認」の行為は「慣例上の儀礼的所作」には該当しないことを指摘しています。
「君が代」斉唱が思想・良心の自由に関わる問題であることは判例でも認められているところであり、厚労省も「公正選考の基本的な考え方」で「人生観・生活信条・思想」などに関することを質問すべきでないとしています。これらから「意向確認」は「特定の教育上の信念等を有する教職員」を学校教育の現場から排除しようとする意図に基づくもので、「告白強制型・思想強制型」の思想・良心の自由を直接的に制約する行為であって、違憲であると断定しています。
府教委側からは、高作意見書の指摘している内容については、これもまた、有効な反論がなされていないという印象です。
答弁書等でも「国歌斉唱時の起立斉唱にかかる職務命令違反行為について、一律に不採用としているのではなく、… 意向確認ができた者については職務命令違反の可能性が高くないと評価して採用し、他方、… 上司の職務上の命令を遵守することが期待できない者は成績良好とは言えないとして不採用としており…」と意向確認の結果で採否を決めていると、開き直って認めているのに、「本件意向確認は原告に対し、『再任用されたければ君が代斉唱時に起立斉唱すると言え』との趣旨で述べているものではないし、起立斉唱しない限り再任用されず職を失うという制裁を背景にして回答を迫るたぐいのものでもない。」と矛盾するように感じられる内容も見られ、私自身はすでに論理が破綻しているように感じています。
特に「意向確認」については、私たちの運動の成果として府の商工労働部から「再任用に関しての質問としては適切ではない」という内容の助言を引き出しています。
その結果、2017年4月以降、「意向確認」の文言は「今後、上司の職務命令には従います」と変更されており、昨年度・今年度と不起立処分者の再任用を勝ち取ってきました。これは、明らかに府教委自身が「意向確認」の内容を不適切なものと認識している証拠であると考えられますが、この文言の変更について私たちからの指摘に対して、府教委は全く触れずにここまで来ています。
自らの誤りに目をつぶり、できることならそこに触れることなく一切を処理したいという、非常に不誠実な態度に感じられます。今後、証人尋問等を通じて、府教委の姿勢を断罪し、謝罪と損害賠償を勝ち取り、「日の丸・君が代」の強制の問題点を広く考え直してもらうきっかけにしたいと考えています。
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