◆ 「高校教科書が危ない!東京都教育委員会の高校教科書採択妨害を許さない集会」報告
1月19日(土)、なかのゼロ西館小ホールで「高校教科書が危ない!東京都教育委員会の高校教科書採択妨害を許さない大集会」が開かれ、200人が参加しました。
昨年の一学期、来年度の教科書採択にあたって、学校が選定した教科書を都教委が強引に覆すという事件が起きました。
標的とされたのは、実教出版の「日本史A」。
これまで、教科書採択をめぐって都立学校では、障害児学校(特別支援学校)や中高一貫校の中学校で「つくる会」系教科書が都教委によって採択されるという事態が続いてきましたが、高校では学校毎にふさわしい教科書が選定・採択されることになっていました。しかも、特定の教科書が排除されるというのは前代未聞のことです。
これを許してはならないと、採択のやり直しと謝罪、再発防止を求める運動の第一歩として、研究者などの呼びかけを受け、教科書や教育問題にとりくむ団体や平和団体、出版関係の労働組合などが実行委員会をつくって、本集会が開かれました。
集会は、呼びかけ人の●岡本厚さん(前『世界』編集長)の開会挨拶に始まり、都教委が現場にかけた圧力をリアルに(?)再現するコント、●関係者からの報告(実教出版労働組合・出版労連・歴史科学協議会)、同じく実教出版の「日本史A」を排除された●横浜からの連帯挨拶と続き、●小森陽一さん(呼びかけ人・東京大学教授)の講演を受けて、アピールを採択、「子どもと教科書全国ネット21」事務局長の●俵義文さんの行動提起と挨拶で閉会しました。
◆ 重苦しい思いで迎えた2013年
開会挨拶に立った岡本厚さんは、自民党が3分の2の議席を獲得して政権を奪い返して迎えた2013年を「重苦しい思いで迎えた」として、海外からも「保守ではなく右翼の政権だ」と警戒されていると安倍内閣の危険な特徴を、とくに教育問題にかかわって発言,曽野綾子、八木秀次、全日教連など構成メンバーにも、その右翼ぶりが表れている教育再生実行会議が、教育に対する国家の介入、単一の価値観の植え付けをめざすものであると指摘しました。
今は東京都と横浜市に起きている事態が、安倍政権によって国が行う可能性があると懸念を表明した上で、これまでにないたたかいをしなければならないと訴えました。
これまで私たちの声が届かなかった人たちに、これまでにない言葉で伝えていかなくてはなりません。
◆ 出版、歴史研究者、市民からの報告
●北見昌彦さん(実教出版労働組合副委員長)は、冒頭、「過去にも民間団体から攻撃を浴びたことはあったが今回は別。“書きたいことは書けない”検定を経た教科書が高校に届かないのは前代未聞」と述べ、実教出版の労働組合としては、会社が経過をつかんでいるのか、経営側としてどうするのかを解明すべく、8・9・10月の三度にわたって交渉をもった経緯を報告してくれました。
その中で、実態のよくわからない8月の交渉でも「経営としては、これを理由に記述変更を指示することはない」と明言させ、9.10月にも再確認しました。
しかし、今年度採択をした1学年で「日本史A」を履修している都立高校は17校、来年度(2013年)採択となる2学年に位置づけている学校は180校です。2013年度にも同様の事態が起きれば経営に響く会社側が“背に腹は換えられない”となる心配は大きいものです。
他の教科書出版社の労働組合とも共同で運動している。「教科書要求」を掲げて関係9社に団体交渉をした結果、「こういうことはよくない」と回答している会社が多いとのこと。引き続きがんばります、との決意表明で報告をしめくくりました。
●吉田典裕さん(日本出版労働組合連合会副委員長)は、出版労連のとりくみと考え方を語ってくれました。
この問題は、直接には実教出版に降りかかったことですが、権力に都合の悪い教科書を封じ込める、批判はさせないということであり、その本質は憲法の問題であるとの見地から、出版労連は秋季年末闘争の最大課題と位置付けました。
11月19日には統一行動を組み、都議会各会派に要請をした他、都教委に公開質問状を提出したそうですが、驚いたことに都教委は圧力をかけた事実を(「情報提供」と言い換えて)認め、状況が変わらなければ来年も同様の対応をすると居直っています。
最後に、言論・出版の自由は出版産業が成り立つ基盤、春闘でも引き続きとりくむと決意を述べました。
●小嶋茂稔さん(歴史科学協議会)は、「そもそも検定制度がおかしいと思っているが」と前置きして、その検定すらも通っているものを採択妨害することの異常さに触れた上で、歴史研究者によるアピール運動を紹介してくれました。
●佐藤満喜子さん(教科書・市民フォーラム) 横浜でも、実教出版の「日本史A」「日本史B」が排除される事態が発生しています。
昨年、教科書選定にあたって市立高校2校が「日本史A」で、2校が「日本史B」で実教出版の教科書を選ぶという「意見報告書」を作成・提出したところ、市教委の答申書では山川に書き換えられていた事案です。
答申書は事務局である市教委が作成するものですが、本来は各校から提出された「意見報告書」を転記するものだったというのに、です。
「おかしいではないか」という委員に、市教委が答えたのは「中学の教科書と矛盾するから」という理由だったとのこと。高校教科書の問題は、中学校の教科書に端を発していたこと、高校と中学の問題をバラバラにではなくつなげて考えていかなければならないことを訴えて、佐藤さんの発言は終わりました。
◆ 「採択妨害は石原『破壊的教育改革』の危険性の証明」一小森陽一さんの講演
「採択妨害は石原『破壊的教育改革』の危険性の証明」と題し講演。
サンケイ新聞が問題にし、都教委がこだわったのは国旗国歌法制定に関する注の部分で、「国民が強制されていると誤解される」と検定意見がついたために「一部自治体では公務員に強制の動きがある」と修正されたものでした。
公務員である教員への強制を通じて、生徒にも「日の丸・君が代」を強制す意図が浮き彫りになると考えた都教委が許せなかった記述です。
小森さんは、その背景には現代史の認識の問題があるとして、自民党が野党に転落した1993年の政界再編を指摘します。
当時、一年生議員として政界に登場した安倍晋三氏が直面したのが、河野談話であり、95年の村山談話でした。
A級戦犯容賭であった岸信介を祖父に持つ世襲三世の安倍氏は、この二つの談話を覆すために、この20年をかけてきたといいます。
解釈改憲を積鍾ね、明文改憲に至るには、現代史認識を変えなければならない。描かれたのは、教育基本法を改悪し、教育委員会を解体し、国定教科書を制定して、国と自治体が一体となって国民を統制する道筋であり、そのためには、教員への統制を強化しなければならないと考えたと。
人々の行動、感情、思考を統制できれば国民統制は完成する。
小森さんはそれを見事にやり遂げた例をナチスに見ます。怖いのは、“自分の帰属する国に100%の誇りが持てなければ愛国心は保てない”という「つくる会」の捉え方で、そのために歴史を歪曲する記述で教育を統制し、生徒の思考を統制するという手法です。
「東京から日本を変える」と豪語ていた石原氏の「破壊的教育改革」は、この流れの一環として行われてきたのです。
私たちの闘いは、東京都教育委員会を相手にしているだけではなく、日本の今後をかけたものなのだという思いを新たにしした集会でした。
「子どもと教科書全国ネット21ニュース」88号(2013.2)
OK(東京都立高等学校教員)
1月19日(土)、なかのゼロ西館小ホールで「高校教科書が危ない!東京都教育委員会の高校教科書採択妨害を許さない大集会」が開かれ、200人が参加しました。
昨年の一学期、来年度の教科書採択にあたって、学校が選定した教科書を都教委が強引に覆すという事件が起きました。
標的とされたのは、実教出版の「日本史A」。
これまで、教科書採択をめぐって都立学校では、障害児学校(特別支援学校)や中高一貫校の中学校で「つくる会」系教科書が都教委によって採択されるという事態が続いてきましたが、高校では学校毎にふさわしい教科書が選定・採択されることになっていました。しかも、特定の教科書が排除されるというのは前代未聞のことです。
これを許してはならないと、採択のやり直しと謝罪、再発防止を求める運動の第一歩として、研究者などの呼びかけを受け、教科書や教育問題にとりくむ団体や平和団体、出版関係の労働組合などが実行委員会をつくって、本集会が開かれました。
集会は、呼びかけ人の●岡本厚さん(前『世界』編集長)の開会挨拶に始まり、都教委が現場にかけた圧力をリアルに(?)再現するコント、●関係者からの報告(実教出版労働組合・出版労連・歴史科学協議会)、同じく実教出版の「日本史A」を排除された●横浜からの連帯挨拶と続き、●小森陽一さん(呼びかけ人・東京大学教授)の講演を受けて、アピールを採択、「子どもと教科書全国ネット21」事務局長の●俵義文さんの行動提起と挨拶で閉会しました。
◆ 重苦しい思いで迎えた2013年
開会挨拶に立った岡本厚さんは、自民党が3分の2の議席を獲得して政権を奪い返して迎えた2013年を「重苦しい思いで迎えた」として、海外からも「保守ではなく右翼の政権だ」と警戒されていると安倍内閣の危険な特徴を、とくに教育問題にかかわって発言,曽野綾子、八木秀次、全日教連など構成メンバーにも、その右翼ぶりが表れている教育再生実行会議が、教育に対する国家の介入、単一の価値観の植え付けをめざすものであると指摘しました。
今は東京都と横浜市に起きている事態が、安倍政権によって国が行う可能性があると懸念を表明した上で、これまでにないたたかいをしなければならないと訴えました。
これまで私たちの声が届かなかった人たちに、これまでにない言葉で伝えていかなくてはなりません。
◆ 出版、歴史研究者、市民からの報告
●北見昌彦さん(実教出版労働組合副委員長)は、冒頭、「過去にも民間団体から攻撃を浴びたことはあったが今回は別。“書きたいことは書けない”検定を経た教科書が高校に届かないのは前代未聞」と述べ、実教出版の労働組合としては、会社が経過をつかんでいるのか、経営側としてどうするのかを解明すべく、8・9・10月の三度にわたって交渉をもった経緯を報告してくれました。
その中で、実態のよくわからない8月の交渉でも「経営としては、これを理由に記述変更を指示することはない」と明言させ、9.10月にも再確認しました。
しかし、今年度採択をした1学年で「日本史A」を履修している都立高校は17校、来年度(2013年)採択となる2学年に位置づけている学校は180校です。2013年度にも同様の事態が起きれば経営に響く会社側が“背に腹は換えられない”となる心配は大きいものです。
他の教科書出版社の労働組合とも共同で運動している。「教科書要求」を掲げて関係9社に団体交渉をした結果、「こういうことはよくない」と回答している会社が多いとのこと。引き続きがんばります、との決意表明で報告をしめくくりました。
●吉田典裕さん(日本出版労働組合連合会副委員長)は、出版労連のとりくみと考え方を語ってくれました。
この問題は、直接には実教出版に降りかかったことですが、権力に都合の悪い教科書を封じ込める、批判はさせないということであり、その本質は憲法の問題であるとの見地から、出版労連は秋季年末闘争の最大課題と位置付けました。
11月19日には統一行動を組み、都議会各会派に要請をした他、都教委に公開質問状を提出したそうですが、驚いたことに都教委は圧力をかけた事実を(「情報提供」と言い換えて)認め、状況が変わらなければ来年も同様の対応をすると居直っています。
最後に、言論・出版の自由は出版産業が成り立つ基盤、春闘でも引き続きとりくむと決意を述べました。
●小嶋茂稔さん(歴史科学協議会)は、「そもそも検定制度がおかしいと思っているが」と前置きして、その検定すらも通っているものを採択妨害することの異常さに触れた上で、歴史研究者によるアピール運動を紹介してくれました。
●佐藤満喜子さん(教科書・市民フォーラム) 横浜でも、実教出版の「日本史A」「日本史B」が排除される事態が発生しています。
昨年、教科書選定にあたって市立高校2校が「日本史A」で、2校が「日本史B」で実教出版の教科書を選ぶという「意見報告書」を作成・提出したところ、市教委の答申書では山川に書き換えられていた事案です。
答申書は事務局である市教委が作成するものですが、本来は各校から提出された「意見報告書」を転記するものだったというのに、です。
「おかしいではないか」という委員に、市教委が答えたのは「中学の教科書と矛盾するから」という理由だったとのこと。高校教科書の問題は、中学校の教科書に端を発していたこと、高校と中学の問題をバラバラにではなくつなげて考えていかなければならないことを訴えて、佐藤さんの発言は終わりました。
◆ 「採択妨害は石原『破壊的教育改革』の危険性の証明」一小森陽一さんの講演
「採択妨害は石原『破壊的教育改革』の危険性の証明」と題し講演。
サンケイ新聞が問題にし、都教委がこだわったのは国旗国歌法制定に関する注の部分で、「国民が強制されていると誤解される」と検定意見がついたために「一部自治体では公務員に強制の動きがある」と修正されたものでした。
公務員である教員への強制を通じて、生徒にも「日の丸・君が代」を強制す意図が浮き彫りになると考えた都教委が許せなかった記述です。
小森さんは、その背景には現代史の認識の問題があるとして、自民党が野党に転落した1993年の政界再編を指摘します。
当時、一年生議員として政界に登場した安倍晋三氏が直面したのが、河野談話であり、95年の村山談話でした。
A級戦犯容賭であった岸信介を祖父に持つ世襲三世の安倍氏は、この二つの談話を覆すために、この20年をかけてきたといいます。
解釈改憲を積鍾ね、明文改憲に至るには、現代史認識を変えなければならない。描かれたのは、教育基本法を改悪し、教育委員会を解体し、国定教科書を制定して、国と自治体が一体となって国民を統制する道筋であり、そのためには、教員への統制を強化しなければならないと考えたと。
人々の行動、感情、思考を統制できれば国民統制は完成する。
小森さんはそれを見事にやり遂げた例をナチスに見ます。怖いのは、“自分の帰属する国に100%の誇りが持てなければ愛国心は保てない”という「つくる会」の捉え方で、そのために歴史を歪曲する記述で教育を統制し、生徒の思考を統制するという手法です。
「東京から日本を変える」と豪語ていた石原氏の「破壊的教育改革」は、この流れの一環として行われてきたのです。
私たちの闘いは、東京都教育委員会を相手にしているだけではなく、日本の今後をかけたものなのだという思いを新たにしした集会でした。
「子どもと教科書全国ネット21ニュース」88号(2013.2)
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