◆ 「戦前の学校が民主的で平等」の都教委報告書を「了解」
中教審〝重鎮〟東大名誉教授 厚顔無恥の〝虚偽回答〟 (『紙の爆弾』)
小川正人氏(左から2人目)、"明治150年記念教育シンポ"で。撮影:岡本清弘氏
東京都教育委員会が二〇一七年二月に公表した『東京都におけるチームとしての学校の在り方検討委員会報告書』(以下、『報告書』)五頁には、「我が国の学校は、明治期の学制発布以来の民主的かつ平等の名の下に、同じ学校の教職員は、管理職も一般教員も、…対等な立場で学校運営に携わるべきだという…いわゆる『学校文化』が根付いていた」と明記。
高嶋伸欣(のぶよし)琉球大学名誉教授ら都民六五人は、この事実誤認の記述を、「我が国の学校は、一九四七年教育基本法制定以来の民主的かつ平等…」と、訂正するよう求める請願を一七年十二月二十八日、都教委に提出した。
だが都教委事務局の教育政策課は、教育委員会定例会での審議はもとより教育委員への報告すらせず、一八年三月三十日、請願代表者の高嶋氏と大口昭彦弁護士らに対し、光永功嗣(みつながこうじ)企画担当課長名で、「明治期以来、学校現場には、教員がお互いを専門職として尊重し合う組織風土が根付いていたことを表したものと認識しております」と訂正拒否する、わずか五行の回答を郵送し〝却下〟した。
高嶋さんらはほぼ同内容の陳情を一八年六月、都議会に提出したが、こちらも都民ファーストの会・公明党・自民党など保守系議員らが反対し、十月五日、本会議で不採択になった。
陳情を審議した九月十八日の都議会文教委員会で、共産党の米倉春奈議員の追及に、都教委の古川浩二・教育政策担当部長は「『報告書』を策定する検討委員会の委員の方々に対しては、平成二十九年十二月に請願が提出されたことを報告いたしますとともに、回答(注、前掲三月三十日付)に当たっても相談させて頂いております」と答弁した(詳細は本誌一八年十二月号)。
これを受け、請願・陳情者の都民の一人が都教委に情報開示請求すると、「回答案についてのご理解を賜りたく、取り急ぎメールさせていただいたしだいでございます」と都教委の課長代理が発信した一八年三月一日付メールと、検討委の委員長だった小川正人(まさひと)東大名誉教授(中央教育審議会副会長を兼務)が「ご連絡を頂きました件、了承致しました」と返信した三月二日付メールが、一八年十二月中旬に開示された(【注】参照)。
このメールは、「戦前の学校が民主的かつ平等」という歴史の事実に反する記述を、小川氏がこの通りでよい、と了承した証拠だ。
にもかかわらず小川氏は、後述のように請願・陳情者事務局の増田都子(みやこ)・元千代田区立中学校教諭に虚偽回答をしてしまった。
◆ 開示メールでわかる請願の効力
開示された一八年三月のメールを暴いていこう。
都教委課長代理はまず、冒頭の『報告書』五頁掲載の「くだり」は「一部団体等から事実誤認を指摘され、併せて訂正すべきとの請願を受けております。…『民主的かつ平等』となったのは戦後からであり、戦前の学校ではあり得ないという主訴でございます。…歴史認識を示す意図はなく、あくまで学校文化がいわゆる『鍋蓋(なべぶた)型』であったことを指摘するものでしたが、一部団体の方々からは看過できないものと受け取られ、都教委に請願が行われるとともに」と記述した。
この後、約10行分、黒塗り(いわゆる〝のり弁〟状態)になっているが、前記五行の回答を〝案〟として記述したうえで、何らかの都合の悪い文言を載せているのではないかと推認できる。
ここで〝鍋蓋型〟の意味を説明しておく。これは学校の組織が鍋の蓋のように、管理職は(副)校長・教頭だけで、ほかは皆平等な教諭であるという意味。
職員会議中心に学校運営ができれば、文科省や教委の言いなりの人が多い(副)校長らの上意下達の施策を押さえ込むことが可能だった。
しかし、本誌一七年六月号で述べた主幹教諭導入・増員等、職の階層化により〝ピラミッド型〟の学校組織作りを進める都教委は、この課長代理の言うように〝鍋蓋型〟を敵視しているのだ。
メールに戻ろう。黒塗り箇所の後、課長代理は「小職としましても、これまで団体等に対しては、『検討委員及び都教委の歴史認識を示したものではない』と説明しておりますが、納得をいただけていない状況です。これまでは要請の形で申し入れがあったものですが、今回は教育委員会請願という形をとっているため、正式に文書にて回答する必要があり、回答後における先方の反応等にも鑑み、あらかじめ委員の皆様にご報告するとともに、回答案についてのご理解を賜りたく、取り急ぎメールさせていただいたしだいでございます」と、苦しげに記述している。
日本国憲法第十六条はあらゆる人に請願権を保障し、請願法第五条は官公署に対し、請願の受理と誠実な処理を義務付けている。請願提出は権力を監視しブレーキをかける有効な手段といえる(本誌一八年三月号参照)。
◆ 増田元教諭の質問に小川氏が虚偽回答
前記・増田氏は一八年十二月十九日、文科省主催の「明治150年記念『教育に関するシンポジウム』」で基調講演した小川氏に、閉会後、『報告書』五頁を見せながら「都教委に『訂正しなくていい』と言われたそうですけど」と質問した。
これに対し小川氏は、「そんなこと言ってません。大体その件は、教育委員会と話が付いてるんでしょ」と虚偽回答した。
増田氏が「付いているって言っても、これ、歴史事実じゃないですよね? 先生は『それでいい』と言われたんですか?」と問うと、
小川氏は「私は、一字一句読んでいるわけじゃないですから、知りません。私が作成したわけじゃありませんから」と、税金で検討委員としての報酬を得ながら、無責任な回答。
増田氏が「このシンポの基調講演をなさると聞いたので是非、先生は『我が国の学校は、明治期の学制発布以来の民主的かつ平等』という認識でいらっしゃるか、教えて頂こうと思いまして」と追及すると、小川氏は「そんな認識はしていません」と回答。
増田氏が「ちょっと無責任ではありませんか」と言いかけたところで、小川氏は逃げるように帰って行った。
このやり取りを遠巻きに見ていた請願・陳情者らと筆者に、増田氏は会場外で「開示メールの内容から、都教委の訂正拒否回答に小川氏ら委員がOKしていたのは確実だが、同氏はメールのやりとりが開示されているとは知らず、嘘を付いたのだろう」と述べた。
ところで、「我が国の初等中等教育の成果と未来に求められる教育」と題し、明治期からの教育史を説く小川氏の講演は、「戦前の(教育システムが)統合・集権型」とは述べたものの、①戦前・戦中の教育勅語、国定教科書等による軍国主義教育が子どもたちを洗脳し戦争に駆り立てた歴史②戦後の日本国憲法下での人権教育の重要性や改定前教育基本法の意義には一切触れず、「企業・経済からのコンピテンシー育成の要請」、すなわち企業の求める人材育成のための教育について詳述するなど、偏りが見られた。
◆ 中教審答申作りに民意は?
文部科学省財務課(合田哲雄課長)は一八年十二月六日、中教審の特別部会で学校〝働き方改革〟の答申素案を公表し、十二月二十一日まで二週間だけパブリックコメントを実施した。
そして一九年一月十一日の特別部会と一月十八日の中教審初等中等教育分科会の両方に、「意見募集の結果」(三二〇八件に上るパブコメから抜粋しA4判一二頁半に要約)を報告するとともに、一部修正した答申案を出してきた。
特別部会部会長と分科会長を兼ねる小川氏は一月十八日、「答申案からは変えず一月二十五日の中教審総会で柴山昌彦文部科学相に答申として出す」旨述べ、委員らの了承を得た。
そこで教員・保護者・学生ら民衆側と文科省(一八年五月の自民党教育再生実行本部・中間まとめに忠実)との間で、考えが真っ向対立する三施策に絞り、答申案はパブコメを反映させたか否か、つまり小川氏が民意を大切にしているか、それとも文部官僚や自民党に擦り寄っているか、読者に判断頂きたく、以下事実を提示する。
1 一六年四月施行の改定地方公務員法は、人事評価を給与等の「人事管理の基礎として活用する」と規定。全国の公立学校等教員が、校長の示す方針に沿い〝高い業績〟を上げれば定期昇給時、昇給幅が大になり、低評価なら昇給幅が小、又はゼロになる仕組みになった。しかるに答申素案は、〝教職員の意識改革〟と称し、「同じような成果であればより短い在校時間でその成果を上げた教師に高い評価を付与することとすべきである」と明記した。
この記述に対し、ヨイショするパブコメはあったが、「人事評価を活用した教職員の意識改革部分の記述については、教職員の自己責任が問われ、長時間過密労働の要因を個々の教職員の意識や能率に矮小化するもの。さまざまな教職員の協力・協働で成果を上げていく学校現場にはなじまない表現であると思われるので改めるべき」と、真っ向反対するパブコメもある。
また、「人事評価により意識改革を促すことは重要だ」としつつも、「教師の業務においては、様々な子供に対応するため、同じような成果であっても単純に時間を比較することは難しい」と明記したうえ、「短い在校等時間での成果評価」が、(ワークシートやドリルの添削等の)持ち帰り業務増、在校等時間を短く記録する偽造等を招くと、危惧するパブコメも出ている。
ところが答申案二六頁は、素案の「より短い在校時間で成果を出す教員に高い評価・給与」という内容を削除しないどころか、「文部科学省が行う表彰においてそのような観点を考慮したりするなどして積極的な普及啓発を行うべきである」と加筆し、開き直っている。
2 答申案三九頁は「我が国の学校組織は、…教師間の学び合いや支え合いという同僚性・協働性によって学校組織全体としての総合力を発揮してきた。今後も、この良さを維持・発展させつつ、…対話や議論がしやすい風通しの良い組織づくりを進め…」と一見、民主的で平等な学校運営を大切にするような記述をしている。
しかしこの直後、「校長や副校長・教頭に加え、主幹教諭…等のミドルリーダーがそれぞれのリーダーシップを発揮できるような組織運営を促進する必要がある」「主幹教諭の活用を促進していくべきである」と、トップダウンの学校運営を押し付けている。
また脚注で、〇八年度から「公立小中学校等の主幹教諭が担当している授業時数の半分を軽減する加配定数」を創設し、同年度予算で千人分を措置し、一八年度予算では一七二八人分となった旨、記述している(以上、答申素案も同内容)。
文科省はパブコメ結果では、「主幹教諭の全校配置を積極的に検討すべき」というヨイショ型と、「上意下達による管理強化であり、学校の協力・協同体制が阻害される。上下関係の視点での学校マネジメントから一人一人が平等な学校運営を進めるため、主幹教諭よりも教職員定数全体を増やすべき」という意見の両方を公表した。
だが肝心の答申案は、上意下達やパワハラへの危惧には一切、言及していない。
3 第一次安倍内閣が〇七年、教育職員免許法を改定し、教員免許状の有効期間を十年としてしまったため、教員が十年おきに三万円強を自費で払い、三十時間の免許更新講習を受講・修了した上、免許管理者(都道府県教委)に申請しないと失職してしまう〝教員免許更新制〟は、教員の多忙化の元凶の一つだ。
答申素案に対し「免許更新制の『実質化』という表現がわかりにくい。免許更新制については教員の負担及び教員不足の原因となっていることから、廃止・抜本的見直しについて検討すべき」というパブコメだけを文科省は公表した。よって免許更新制に賛成の意見は皆無か、あってもごく少数と推測できる。
ところが答申案五四頁は、「今後更に検討を要する事項」という項で「免許更新制がより教師の資質能力向上に実質的に資するようにすることも含め、能力が高い多様な人材が教育界に加わり、意欲的に教育活動を行うための養成・免許・採用・研修全般にわたる改善・見直し」と字句修正するに留め、廃止要求を拒否した。
【注】小川氏以外の委員も、加藤崇英(たかひで)・茨城大学准教授が「特段、お電話等、お手を煩わせていただくことは必要ございません」、笹井宏益(ひろみ)・国立教育政策研究所客員研究員が「お任せいたしますので、引き続きよろしくお願いいたします」と返信している。
※永野厚男 (ながのあつお)
文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
『紙の爆弾』(2019年3月号)
中教審〝重鎮〟東大名誉教授 厚顔無恥の〝虚偽回答〟 (『紙の爆弾』)
取材・文 . 永野厚男
小川正人氏(左から2人目)、"明治150年記念教育シンポ"で。撮影:岡本清弘氏
東京都教育委員会が二〇一七年二月に公表した『東京都におけるチームとしての学校の在り方検討委員会報告書』(以下、『報告書』)五頁には、「我が国の学校は、明治期の学制発布以来の民主的かつ平等の名の下に、同じ学校の教職員は、管理職も一般教員も、…対等な立場で学校運営に携わるべきだという…いわゆる『学校文化』が根付いていた」と明記。
高嶋伸欣(のぶよし)琉球大学名誉教授ら都民六五人は、この事実誤認の記述を、「我が国の学校は、一九四七年教育基本法制定以来の民主的かつ平等…」と、訂正するよう求める請願を一七年十二月二十八日、都教委に提出した。
だが都教委事務局の教育政策課は、教育委員会定例会での審議はもとより教育委員への報告すらせず、一八年三月三十日、請願代表者の高嶋氏と大口昭彦弁護士らに対し、光永功嗣(みつながこうじ)企画担当課長名で、「明治期以来、学校現場には、教員がお互いを専門職として尊重し合う組織風土が根付いていたことを表したものと認識しております」と訂正拒否する、わずか五行の回答を郵送し〝却下〟した。
高嶋さんらはほぼ同内容の陳情を一八年六月、都議会に提出したが、こちらも都民ファーストの会・公明党・自民党など保守系議員らが反対し、十月五日、本会議で不採択になった。
陳情を審議した九月十八日の都議会文教委員会で、共産党の米倉春奈議員の追及に、都教委の古川浩二・教育政策担当部長は「『報告書』を策定する検討委員会の委員の方々に対しては、平成二十九年十二月に請願が提出されたことを報告いたしますとともに、回答(注、前掲三月三十日付)に当たっても相談させて頂いております」と答弁した(詳細は本誌一八年十二月号)。
これを受け、請願・陳情者の都民の一人が都教委に情報開示請求すると、「回答案についてのご理解を賜りたく、取り急ぎメールさせていただいたしだいでございます」と都教委の課長代理が発信した一八年三月一日付メールと、検討委の委員長だった小川正人(まさひと)東大名誉教授(中央教育審議会副会長を兼務)が「ご連絡を頂きました件、了承致しました」と返信した三月二日付メールが、一八年十二月中旬に開示された(【注】参照)。
このメールは、「戦前の学校が民主的かつ平等」という歴史の事実に反する記述を、小川氏がこの通りでよい、と了承した証拠だ。
にもかかわらず小川氏は、後述のように請願・陳情者事務局の増田都子(みやこ)・元千代田区立中学校教諭に虚偽回答をしてしまった。
◆ 開示メールでわかる請願の効力
開示された一八年三月のメールを暴いていこう。
都教委課長代理はまず、冒頭の『報告書』五頁掲載の「くだり」は「一部団体等から事実誤認を指摘され、併せて訂正すべきとの請願を受けております。…『民主的かつ平等』となったのは戦後からであり、戦前の学校ではあり得ないという主訴でございます。…歴史認識を示す意図はなく、あくまで学校文化がいわゆる『鍋蓋(なべぶた)型』であったことを指摘するものでしたが、一部団体の方々からは看過できないものと受け取られ、都教委に請願が行われるとともに」と記述した。
この後、約10行分、黒塗り(いわゆる〝のり弁〟状態)になっているが、前記五行の回答を〝案〟として記述したうえで、何らかの都合の悪い文言を載せているのではないかと推認できる。
ここで〝鍋蓋型〟の意味を説明しておく。これは学校の組織が鍋の蓋のように、管理職は(副)校長・教頭だけで、ほかは皆平等な教諭であるという意味。
職員会議中心に学校運営ができれば、文科省や教委の言いなりの人が多い(副)校長らの上意下達の施策を押さえ込むことが可能だった。
しかし、本誌一七年六月号で述べた主幹教諭導入・増員等、職の階層化により〝ピラミッド型〟の学校組織作りを進める都教委は、この課長代理の言うように〝鍋蓋型〟を敵視しているのだ。
メールに戻ろう。黒塗り箇所の後、課長代理は「小職としましても、これまで団体等に対しては、『検討委員及び都教委の歴史認識を示したものではない』と説明しておりますが、納得をいただけていない状況です。これまでは要請の形で申し入れがあったものですが、今回は教育委員会請願という形をとっているため、正式に文書にて回答する必要があり、回答後における先方の反応等にも鑑み、あらかじめ委員の皆様にご報告するとともに、回答案についてのご理解を賜りたく、取り急ぎメールさせていただいたしだいでございます」と、苦しげに記述している。
日本国憲法第十六条はあらゆる人に請願権を保障し、請願法第五条は官公署に対し、請願の受理と誠実な処理を義務付けている。請願提出は権力を監視しブレーキをかける有効な手段といえる(本誌一八年三月号参照)。
◆ 増田元教諭の質問に小川氏が虚偽回答
前記・増田氏は一八年十二月十九日、文科省主催の「明治150年記念『教育に関するシンポジウム』」で基調講演した小川氏に、閉会後、『報告書』五頁を見せながら「都教委に『訂正しなくていい』と言われたそうですけど」と質問した。
これに対し小川氏は、「そんなこと言ってません。大体その件は、教育委員会と話が付いてるんでしょ」と虚偽回答した。
増田氏が「付いているって言っても、これ、歴史事実じゃないですよね? 先生は『それでいい』と言われたんですか?」と問うと、
小川氏は「私は、一字一句読んでいるわけじゃないですから、知りません。私が作成したわけじゃありませんから」と、税金で検討委員としての報酬を得ながら、無責任な回答。
増田氏が「このシンポの基調講演をなさると聞いたので是非、先生は『我が国の学校は、明治期の学制発布以来の民主的かつ平等』という認識でいらっしゃるか、教えて頂こうと思いまして」と追及すると、小川氏は「そんな認識はしていません」と回答。
増田氏が「ちょっと無責任ではありませんか」と言いかけたところで、小川氏は逃げるように帰って行った。
このやり取りを遠巻きに見ていた請願・陳情者らと筆者に、増田氏は会場外で「開示メールの内容から、都教委の訂正拒否回答に小川氏ら委員がOKしていたのは確実だが、同氏はメールのやりとりが開示されているとは知らず、嘘を付いたのだろう」と述べた。
ところで、「我が国の初等中等教育の成果と未来に求められる教育」と題し、明治期からの教育史を説く小川氏の講演は、「戦前の(教育システムが)統合・集権型」とは述べたものの、①戦前・戦中の教育勅語、国定教科書等による軍国主義教育が子どもたちを洗脳し戦争に駆り立てた歴史②戦後の日本国憲法下での人権教育の重要性や改定前教育基本法の意義には一切触れず、「企業・経済からのコンピテンシー育成の要請」、すなわち企業の求める人材育成のための教育について詳述するなど、偏りが見られた。
◆ 中教審答申作りに民意は?
文部科学省財務課(合田哲雄課長)は一八年十二月六日、中教審の特別部会で学校〝働き方改革〟の答申素案を公表し、十二月二十一日まで二週間だけパブリックコメントを実施した。
そして一九年一月十一日の特別部会と一月十八日の中教審初等中等教育分科会の両方に、「意見募集の結果」(三二〇八件に上るパブコメから抜粋しA4判一二頁半に要約)を報告するとともに、一部修正した答申案を出してきた。
特別部会部会長と分科会長を兼ねる小川氏は一月十八日、「答申案からは変えず一月二十五日の中教審総会で柴山昌彦文部科学相に答申として出す」旨述べ、委員らの了承を得た。
そこで教員・保護者・学生ら民衆側と文科省(一八年五月の自民党教育再生実行本部・中間まとめに忠実)との間で、考えが真っ向対立する三施策に絞り、答申案はパブコメを反映させたか否か、つまり小川氏が民意を大切にしているか、それとも文部官僚や自民党に擦り寄っているか、読者に判断頂きたく、以下事実を提示する。
1 一六年四月施行の改定地方公務員法は、人事評価を給与等の「人事管理の基礎として活用する」と規定。全国の公立学校等教員が、校長の示す方針に沿い〝高い業績〟を上げれば定期昇給時、昇給幅が大になり、低評価なら昇給幅が小、又はゼロになる仕組みになった。しかるに答申素案は、〝教職員の意識改革〟と称し、「同じような成果であればより短い在校時間でその成果を上げた教師に高い評価を付与することとすべきである」と明記した。
この記述に対し、ヨイショするパブコメはあったが、「人事評価を活用した教職員の意識改革部分の記述については、教職員の自己責任が問われ、長時間過密労働の要因を個々の教職員の意識や能率に矮小化するもの。さまざまな教職員の協力・協働で成果を上げていく学校現場にはなじまない表現であると思われるので改めるべき」と、真っ向反対するパブコメもある。
また、「人事評価により意識改革を促すことは重要だ」としつつも、「教師の業務においては、様々な子供に対応するため、同じような成果であっても単純に時間を比較することは難しい」と明記したうえ、「短い在校等時間での成果評価」が、(ワークシートやドリルの添削等の)持ち帰り業務増、在校等時間を短く記録する偽造等を招くと、危惧するパブコメも出ている。
ところが答申案二六頁は、素案の「より短い在校時間で成果を出す教員に高い評価・給与」という内容を削除しないどころか、「文部科学省が行う表彰においてそのような観点を考慮したりするなどして積極的な普及啓発を行うべきである」と加筆し、開き直っている。
2 答申案三九頁は「我が国の学校組織は、…教師間の学び合いや支え合いという同僚性・協働性によって学校組織全体としての総合力を発揮してきた。今後も、この良さを維持・発展させつつ、…対話や議論がしやすい風通しの良い組織づくりを進め…」と一見、民主的で平等な学校運営を大切にするような記述をしている。
しかしこの直後、「校長や副校長・教頭に加え、主幹教諭…等のミドルリーダーがそれぞれのリーダーシップを発揮できるような組織運営を促進する必要がある」「主幹教諭の活用を促進していくべきである」と、トップダウンの学校運営を押し付けている。
また脚注で、〇八年度から「公立小中学校等の主幹教諭が担当している授業時数の半分を軽減する加配定数」を創設し、同年度予算で千人分を措置し、一八年度予算では一七二八人分となった旨、記述している(以上、答申素案も同内容)。
文科省はパブコメ結果では、「主幹教諭の全校配置を積極的に検討すべき」というヨイショ型と、「上意下達による管理強化であり、学校の協力・協同体制が阻害される。上下関係の視点での学校マネジメントから一人一人が平等な学校運営を進めるため、主幹教諭よりも教職員定数全体を増やすべき」という意見の両方を公表した。
だが肝心の答申案は、上意下達やパワハラへの危惧には一切、言及していない。
3 第一次安倍内閣が〇七年、教育職員免許法を改定し、教員免許状の有効期間を十年としてしまったため、教員が十年おきに三万円強を自費で払い、三十時間の免許更新講習を受講・修了した上、免許管理者(都道府県教委)に申請しないと失職してしまう〝教員免許更新制〟は、教員の多忙化の元凶の一つだ。
答申素案に対し「免許更新制の『実質化』という表現がわかりにくい。免許更新制については教員の負担及び教員不足の原因となっていることから、廃止・抜本的見直しについて検討すべき」というパブコメだけを文科省は公表した。よって免許更新制に賛成の意見は皆無か、あってもごく少数と推測できる。
ところが答申案五四頁は、「今後更に検討を要する事項」という項で「免許更新制がより教師の資質能力向上に実質的に資するようにすることも含め、能力が高い多様な人材が教育界に加わり、意欲的に教育活動を行うための養成・免許・採用・研修全般にわたる改善・見直し」と字句修正するに留め、廃止要求を拒否した。
【注】小川氏以外の委員も、加藤崇英(たかひで)・茨城大学准教授が「特段、お電話等、お手を煩わせていただくことは必要ございません」、笹井宏益(ひろみ)・国立教育政策研究所客員研究員が「お任せいたしますので、引き続きよろしくお願いいたします」と返信している。
※永野厚男 (ながのあつお)
文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
『紙の爆弾』(2019年3月号)
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