《個人情報保護条例を活かす会通信から》
◆ 新採用教員はなぜやめてしまうのか
「働き方」改革は自分たちがやるしかない
◆ 「自習」対応は、「教育を受ける権利」の侵害
12月に行われた県教委との交渉の中で、新採用者がやめてしまうという話が出てきた。
もう一方で臨任13名の欠員不補充、82時間の講師不足で自習対応を余儀なくされている学校もあるとの分代資料も目にした。
これは全国に広がっているといわれ、憲法で定める「教育を受ける権利」の侵害が常態化していることを意味する。
「日教組」が保護者とともに頑張らなくてはならない課題である。
この背景には「働かせ方」の問題や教員免許更新制度による資格者不足も影響していると思われる。
◆ 正式採用とならなかった条件附採用者数の推移
文科省統計によると条件附採用制度のもとで正式採用とならなかった数、割合は次のようになっている(条件附採用制度は地万公務員の採用条件が通常6か月であるところ、教諭等においては1年間とされている)。
上のグラフは文科省のホームページ(公立学校教職員の人事行政調査について)からとったものであり、全国の状況を示している。
2002年度から2011年度までしか公表されておらず、そこで、この前後を調べてみた。
◆ グラフの前後では
・2002年度以前
2000年度の不採用者は39名(0.37%)、2001年度は55名(0.45%)である。
グラフにある2002年度はかなり小さく見えるが前年度比較すると、数的には倍増している。
・2003年度以降はまさに急上昇である。
・2011年度以降はどうか。実はずっと高止まりで、2017年度の公表値は合計377名(1.24%)である。
◆ 正式採用とならなかった理由
2017年度の正式採用とならなかった理由は、文科省資料によると、377名のうち自己都合(224名)、病気(ほとんどが精神疾患(106名))が突出している。
希望に燃えた若者が1年の条件附採用期間でさっさと見切ったか、精神的にも肉体的にもボロボロになって職場から去っていく姿が想像できる。
この条件附採用期間について文科省は「教員としての適格性を厳正に見極めることが重要」としており、様々な観点から「厳正に見極められた」結果が上記のような結果を生んだのであろう。
とりわけ東京都(82)、大阪(30)は突出している。
しかも、大阪は病気0名、ほとんど(27名)は自己都合で処理している。大阪の報告の信頼性とともに、「自己都合」の定義も疑われる。
◆ 教員希望者数の動向は
それでは、教員希望者数の動向はどうか。NEWSポストセブンという雑誌が文科省データに基づいてグラフ化しているので参考にした。2000年から急降下である。これは文科省発表の公表値に基づいているという。
https://www.news-postseven.com/archives/20181012_779605.html?PAGE=1#container
また、“教育新聞”のweb版を見ると、今年度(2019年度)に向けた採用試験の最終合格倍率(総受験者数÷最終合格者数)が出ており、小学校)(左)と高校(右)を抽出してみた(カッコは昨年度)。
小学校教員倍率の激減はすさまじい。
◆ 新規採用だけではない精神疾患の推移
新採用からちょっと離れるが、教員全体の精神疾患による休職者の動向も見ておく。
文科省のホームページによると1997(H9)年度における1,609人(0.17%)は20年後の2017(H29)年度では5,077人(0.55%)に膨れ上がり、2007(H19)年度以降、5,000人前後で推移しているという。
それではその間はどうだったのか、毎日新聞の三木さんという記者がグラフ化している。やはり、2000年頃から急増しているのである。
新採用者だけの問題ではないのである。
◆ 2000ころからの急変の背景は
神奈川県では2000年から急速な管理強化が始まった。
それまでは昼休みの休憩時間45分は生徒との対応などで十分とれないことから16時15分で帰宅することも可能であった。
40日間の生徒の夏休み期間も自主研修(教特法22条2)としてかなり自由に使えた。
総括職も企画会議も存在しておらず、各分掌での結論がそのまま職員会議に提出され、採決で決められた。
個々の意見が反映されるシステムであったし、各分掌や学年の人事は職員の人事調整会議で実質決めることもできた。
しかし、2000年を境に急速にこれらは不可能となった。職員会議が単なる校長の伝達の場となり、上からの指示で動かされる職場へと変質した。
東京に「日の丸・君が代」強制による大量処分者が出たのは2003年度からであった。神奈川でも2004年に「起立・斉唱」の通知が発出され、全国で強制のあらしが吹き荒れた。
人事評価制度も導入され、中間管理職(神奈川の総括職はまだその位置づけにはなっていないと思う)が登場することになる。
管理職は副校長職が新設され3人となった。
教員希望者減少、正式採用拒否・断念の時期と、管理主義が徹底する時期とはほとんど軌を一にしている。
神奈川を事例として挙げたが、東京や大阪の様子なども合わせてみると全国的な傾向としてもいいのではないか。そして、これはまだ現在進行形である。
◆ 「働き方」改革の主体は労働者・組合
ようやく最近になって学校の「働かせ方」が問題にされるようになった。しかし、「働かせ方」を「働き方」に変える主体となるのは現場の労働者(教職員)であり組合であることを強調したい。
過去の事例が、現在にそのまま参考になるかどうかはわからないが、より働きやすくするヒントにはなるかもしれない。いずれにせよ職場環境のひどさの原因究明と解決は現場の教職員が主体となるしかない。
もちろん、人、金が伴わなくては「働き方」改革はできない。
最近、東京の私学の正則学園で理不尽な校長に対し教員がストライキで闘ったことが報告されていた。
それにふれた記事の中で早稲田大学の油布佐和子教授が以下のように述べている(朝日新聞2月19日。)
“「教員に労働者としての意識がなければ将来社会で働くであろう子どもたちに労働者の権利を教えることはできない。沈黙したままであれば誤ったメッセージを子どもたちに与えてしまう。労働者の権利は守ってもらえるものではない。教員も声を上げることが重要だ」”
人権感覚もこういう中で鍛えられるものと考える。
『個人情報保護条例を活かす会通信 No.29』(2019.3.10)
◆ 新採用教員はなぜやめてしまうのか
「働き方」改革は自分たちがやるしかない
神奈川・個人情報保護条例を活かす会 事務局
◆ 「自習」対応は、「教育を受ける権利」の侵害
12月に行われた県教委との交渉の中で、新採用者がやめてしまうという話が出てきた。
もう一方で臨任13名の欠員不補充、82時間の講師不足で自習対応を余儀なくされている学校もあるとの分代資料も目にした。
これは全国に広がっているといわれ、憲法で定める「教育を受ける権利」の侵害が常態化していることを意味する。
「日教組」が保護者とともに頑張らなくてはならない課題である。
この背景には「働かせ方」の問題や教員免許更新制度による資格者不足も影響していると思われる。
◆ 正式採用とならなかった条件附採用者数の推移
文科省統計によると条件附採用制度のもとで正式採用とならなかった数、割合は次のようになっている(条件附採用制度は地万公務員の採用条件が通常6か月であるところ、教諭等においては1年間とされている)。
上のグラフは文科省のホームページ(公立学校教職員の人事行政調査について)からとったものであり、全国の状況を示している。
2002年度から2011年度までしか公表されておらず、そこで、この前後を調べてみた。
◆ グラフの前後では
・2002年度以前
2000年度の不採用者は39名(0.37%)、2001年度は55名(0.45%)である。
グラフにある2002年度はかなり小さく見えるが前年度比較すると、数的には倍増している。
・2003年度以降はまさに急上昇である。
・2011年度以降はどうか。実はずっと高止まりで、2017年度の公表値は合計377名(1.24%)である。
◆ 正式採用とならなかった理由
2017年度の正式採用とならなかった理由は、文科省資料によると、377名のうち自己都合(224名)、病気(ほとんどが精神疾患(106名))が突出している。
希望に燃えた若者が1年の条件附採用期間でさっさと見切ったか、精神的にも肉体的にもボロボロになって職場から去っていく姿が想像できる。
この条件附採用期間について文科省は「教員としての適格性を厳正に見極めることが重要」としており、様々な観点から「厳正に見極められた」結果が上記のような結果を生んだのであろう。
とりわけ東京都(82)、大阪(30)は突出している。
しかも、大阪は病気0名、ほとんど(27名)は自己都合で処理している。大阪の報告の信頼性とともに、「自己都合」の定義も疑われる。
◆ 教員希望者数の動向は
それでは、教員希望者数の動向はどうか。NEWSポストセブンという雑誌が文科省データに基づいてグラフ化しているので参考にした。2000年から急降下である。これは文科省発表の公表値に基づいているという。
https://www.news-postseven.com/archives/20181012_779605.html?PAGE=1#container
また、“教育新聞”のweb版を見ると、今年度(2019年度)に向けた採用試験の最終合格倍率(総受験者数÷最終合格者数)が出ており、小学校)(左)と高校(右)を抽出してみた(カッコは昨年度)。
小学校教員倍率の激減はすさまじい。
小学校 高校
干葉県(千葉市含む?)2.3(2.7) 2.9(4.4)
東京都 1.8(2.6) 4.3(7.0)
神奈川県 3.4(3.6) 6.1(6.7)
大阪府 2.3(3.0) 9.8(11.9)
◆ 新規採用だけではない精神疾患の推移
新採用からちょっと離れるが、教員全体の精神疾患による休職者の動向も見ておく。
文科省のホームページによると1997(H9)年度における1,609人(0.17%)は20年後の2017(H29)年度では5,077人(0.55%)に膨れ上がり、2007(H19)年度以降、5,000人前後で推移しているという。
それではその間はどうだったのか、毎日新聞の三木さんという記者がグラフ化している。やはり、2000年頃から急増しているのである。
新採用者だけの問題ではないのである。
◆ 2000ころからの急変の背景は
神奈川県では2000年から急速な管理強化が始まった。
それまでは昼休みの休憩時間45分は生徒との対応などで十分とれないことから16時15分で帰宅することも可能であった。
40日間の生徒の夏休み期間も自主研修(教特法22条2)としてかなり自由に使えた。
総括職も企画会議も存在しておらず、各分掌での結論がそのまま職員会議に提出され、採決で決められた。
個々の意見が反映されるシステムであったし、各分掌や学年の人事は職員の人事調整会議で実質決めることもできた。
しかし、2000年を境に急速にこれらは不可能となった。職員会議が単なる校長の伝達の場となり、上からの指示で動かされる職場へと変質した。
東京に「日の丸・君が代」強制による大量処分者が出たのは2003年度からであった。神奈川でも2004年に「起立・斉唱」の通知が発出され、全国で強制のあらしが吹き荒れた。
人事評価制度も導入され、中間管理職(神奈川の総括職はまだその位置づけにはなっていないと思う)が登場することになる。
管理職は副校長職が新設され3人となった。
教員希望者減少、正式採用拒否・断念の時期と、管理主義が徹底する時期とはほとんど軌を一にしている。
神奈川を事例として挙げたが、東京や大阪の様子なども合わせてみると全国的な傾向としてもいいのではないか。そして、これはまだ現在進行形である。
◆ 「働き方」改革の主体は労働者・組合
ようやく最近になって学校の「働かせ方」が問題にされるようになった。しかし、「働かせ方」を「働き方」に変える主体となるのは現場の労働者(教職員)であり組合であることを強調したい。
過去の事例が、現在にそのまま参考になるかどうかはわからないが、より働きやすくするヒントにはなるかもしれない。いずれにせよ職場環境のひどさの原因究明と解決は現場の教職員が主体となるしかない。
もちろん、人、金が伴わなくては「働き方」改革はできない。
最近、東京の私学の正則学園で理不尽な校長に対し教員がストライキで闘ったことが報告されていた。
それにふれた記事の中で早稲田大学の油布佐和子教授が以下のように述べている(朝日新聞2月19日。)
“「教員に労働者としての意識がなければ将来社会で働くであろう子どもたちに労働者の権利を教えることはできない。沈黙したままであれば誤ったメッセージを子どもたちに与えてしまう。労働者の権利は守ってもらえるものではない。教員も声を上げることが重要だ」”
人権感覚もこういう中で鍛えられるものと考える。
『個人情報保護条例を活かす会通信 No.29』(2019.3.10)
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