◆ 東京高裁が原告控訴を棄却
~「安倍制度判決だ」と批判の声 (週刊金曜日)
東京都立養護学校(特別支援学校)の教員だった根津公子(ねづきみこ)さんと河原井純子(かわらいじゆんこ)さんが、2008年3月の卒業式で校長の職務命令に反して起立しなかったことなどを理由に東京都教育委員会から受けた停職6カ月の処分の取り消しと損害賠償を求めた裁判の控訴審判決が3月14日に東京高等裁判所であった。
後藤博(ひろし)裁判長は一審判決通り河原井さんの処分は違法として取り消したが、根津さんの処分は適法、2人の損害賠償請求をともに退け、控訴を棄却した。
後藤裁判長は、卒業式で国歌を起立斉唱せよとの職務命令は、「思想・良心の自由の間接的な制約となる」としつつも、学習指導要領に国旗国歌条項があることや公務員の職務の公共性などを理由に憲法19条違反ではないとした。
また、根津さんについては08年以前にも停職処分を受けた処分歴があることや、勤務時間中に「強制反対日の丸君が代」と印刷されたトレーナーを着用、学校の規律と秩序を乱したなどとして裁量権濫用の違法はないと判示した。
◆ 4年前の高裁判決との矛盾
根津さんは07年の卒業式でも起立せず、都教委から停職6カ月の処分を受けて提訴した。その判決では同じ東京高裁(須藤典明(のりあき)裁判長)が15年、不起立1回目で戒告、2回目以降減給、停職と処分を機械的に加重していくとついには免職になり「思想信条を捨てるか、それとも教職員としての身分を捨てるかの二者択一の選択を迫られる」ことになり「思想・良心の自由の実質的な侵害につながる」として、都教委の処分を取り消し、損害賠償も認め、最高裁も容認する決定をしている。
また、須藤判決は同一の「過去の処分歴」を「学校の規律と秩序を害する具体的事情としてはいけない」と判示したが、今回の後藤判決はこれに反しており、「私の『過去の処分歴』を使いまわしています。また、トレーナーの件も都教委側証人の陳述書のウソを立証したのに一言も触れていません」と根津さんは批判した。
今回、河原井さんの停職6カ月について東京高裁は、懲戒権の範囲を超え、一審同様違法として取り消した。
原告の岩井信(まこと)弁護士は、「今日の判決は、起立せよという職務命令、不起立に対する処分と再発防止研修、再度の不起立に対する加重処分という有機的に関連した都教委のねちっこい転向を強要する仕組みの全体を見ず、職務命令だけを取り出して合憲とした判決だ」と指摘した。
◆ 「見せしめ」の法廷
後藤裁判長の経歴を法務省人事などで調べると、日弁連が裁判の公正を損ねると批判する「判検交流」で過去2回検事に出向、法務省司法法制部長も務めている。
この日の法廷には警備員が10人ほども詰める物々しい警戒ぶりで、後藤裁判長は請求棄却の判決主文を述べた後、すぐに退廷せず、わざわざ判決要旨を読み上げる異例の対応をした。
根津さんは「今日は冒頭でテレビカメラが法廷を撮影し、記者もいましたが、こちらは知らせていないので、裁判長が呼んだんでしょう。今は卒業式のシーズンでもあり、日の丸・君が代に反対する者はこうなるという見せしめでしょう」と話した。
判決後には傍聴者から「裁判官失格!」「安倍付度(そんたく)判決!」などと罵声が飛んだ。
河原井さんは、養護学校の教師をしていたときに高等部の生徒を裁判所見学に引率、法衣を着てみる体験をさせた。その際、「法衣はなぜ黒いのか」という質問が出て、皆で話し合った結果、「黒は何色にも染まらない。裁判官は外からの圧力には屈しないという意味ではないか」という結論になった。裁判をしている河原井さんはコメントを求められ、こう答えた。
「残念ながら、今の裁判所は憲法の具現化もしなければ、人権の砦でもない、三権分立でもない、法の番人でもないことを痛いほど体験しています。でも諦めずにそこに持っていきたい」
2人は、最高裁に上告する。
『週刊金曜日 1225号』(2019年3月22日)
~「安倍制度判決だ」と批判の声 (週刊金曜日)
永尾俊彦・ルポライター
東京都立養護学校(特別支援学校)の教員だった根津公子(ねづきみこ)さんと河原井純子(かわらいじゆんこ)さんが、2008年3月の卒業式で校長の職務命令に反して起立しなかったことなどを理由に東京都教育委員会から受けた停職6カ月の処分の取り消しと損害賠償を求めた裁判の控訴審判決が3月14日に東京高等裁判所であった。
後藤博(ひろし)裁判長は一審判決通り河原井さんの処分は違法として取り消したが、根津さんの処分は適法、2人の損害賠償請求をともに退け、控訴を棄却した。
後藤裁判長は、卒業式で国歌を起立斉唱せよとの職務命令は、「思想・良心の自由の間接的な制約となる」としつつも、学習指導要領に国旗国歌条項があることや公務員の職務の公共性などを理由に憲法19条違反ではないとした。
また、根津さんについては08年以前にも停職処分を受けた処分歴があることや、勤務時間中に「強制反対日の丸君が代」と印刷されたトレーナーを着用、学校の規律と秩序を乱したなどとして裁量権濫用の違法はないと判示した。
◆ 4年前の高裁判決との矛盾
根津さんは07年の卒業式でも起立せず、都教委から停職6カ月の処分を受けて提訴した。その判決では同じ東京高裁(須藤典明(のりあき)裁判長)が15年、不起立1回目で戒告、2回目以降減給、停職と処分を機械的に加重していくとついには免職になり「思想信条を捨てるか、それとも教職員としての身分を捨てるかの二者択一の選択を迫られる」ことになり「思想・良心の自由の実質的な侵害につながる」として、都教委の処分を取り消し、損害賠償も認め、最高裁も容認する決定をしている。
また、須藤判決は同一の「過去の処分歴」を「学校の規律と秩序を害する具体的事情としてはいけない」と判示したが、今回の後藤判決はこれに反しており、「私の『過去の処分歴』を使いまわしています。また、トレーナーの件も都教委側証人の陳述書のウソを立証したのに一言も触れていません」と根津さんは批判した。
今回、河原井さんの停職6カ月について東京高裁は、懲戒権の範囲を超え、一審同様違法として取り消した。
原告の岩井信(まこと)弁護士は、「今日の判決は、起立せよという職務命令、不起立に対する処分と再発防止研修、再度の不起立に対する加重処分という有機的に関連した都教委のねちっこい転向を強要する仕組みの全体を見ず、職務命令だけを取り出して合憲とした判決だ」と指摘した。
◆ 「見せしめ」の法廷
後藤裁判長の経歴を法務省人事などで調べると、日弁連が裁判の公正を損ねると批判する「判検交流」で過去2回検事に出向、法務省司法法制部長も務めている。
この日の法廷には警備員が10人ほども詰める物々しい警戒ぶりで、後藤裁判長は請求棄却の判決主文を述べた後、すぐに退廷せず、わざわざ判決要旨を読み上げる異例の対応をした。
根津さんは「今日は冒頭でテレビカメラが法廷を撮影し、記者もいましたが、こちらは知らせていないので、裁判長が呼んだんでしょう。今は卒業式のシーズンでもあり、日の丸・君が代に反対する者はこうなるという見せしめでしょう」と話した。
判決後には傍聴者から「裁判官失格!」「安倍付度(そんたく)判決!」などと罵声が飛んだ。
河原井さんは、養護学校の教師をしていたときに高等部の生徒を裁判所見学に引率、法衣を着てみる体験をさせた。その際、「法衣はなぜ黒いのか」という質問が出て、皆で話し合った結果、「黒は何色にも染まらない。裁判官は外からの圧力には屈しないという意味ではないか」という結論になった。裁判をしている河原井さんはコメントを求められ、こう答えた。
「残念ながら、今の裁判所は憲法の具現化もしなければ、人権の砦でもない、三権分立でもない、法の番人でもないことを痛いほど体験しています。でも諦めずにそこに持っていきたい」
2人は、最高裁に上告する。
『週刊金曜日 1225号』(2019年3月22日)
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