☆ 反戦運動をつぶして労働者階級を戦争に動員しようとする８・６ヒロシマ弾圧

　　《月刊救援から【人権とメディア】》
　☆ 「８・６原爆ドーム集会」で五人強行起訴は岸田政権の政治弾圧

　広島県警公安課と広島中央署は二月二八日、昨年八月六日の原爆ドーム前集会（８・６ヒロシマ大行動実行委員会主催）で、広島市職員を転倒させたとして、「中核派の男五人を暴力行為等処罰法違反容疑で逮捕した」（中国放送）と広報した。
　「静かな８月６日を願う広島市民の会」を名乗る約二百人が岸田文雄首相の平和記念式典出席を弾劾する集会の阻止を企んだが、学生、労働者がスクラムを組み、集会を勝ち取った。それが今になって「犯罪」とされた。

　報道各社は県警記者クラブで行われた警察広報を裏付けもせず、五人の実名、住所、年齢を掲載し、〈市職員らが参列者の誘導などのためにロープで規制線を張っていたところ、突破しようとして職員を転倒させた〉（中国新聞）などと報じた。
　県警と警視庁などは中核派の「前進社」（東京都江戸川区）など八都府県の一四カ所を捜索。京都大学熊野寮も含まれていた。

　三月一六日の京都大学新聞によると、二月二八日午前七時、機動隊員約百名と捜査員約五十名が令状を提示することなく立ち入り、鉄扉をエンジンカッターで切り付けた。寮生らが拡声器を使って抗議した。警察が寮の捜索を京大へ通知したのは午前七時。捜索は午後三時四五分に終了した。

　実行委は三月七日、五人の即時釈放を求める緊急声明を広島地裁に出した。三十名以上の被爆者、被爆二・三世らが弾圧に抗議した声明には、七百名近い賛同が集まった。私も呼び掛け人の一人だ。
　実行委は「岸田政権の大弾圧を許すな」という大救援運動を作り出すと宣言した。

　五人は五カ所の警察署の代用監獄に分散留置されている。同日、五人の勾留理由開示手続きが広島地裁であったが、五人別々に開かれた。傍聴席からは抗議の声が上がり、複数人が退廷を命じられた。
　三月一五日には、松井一実市長宛に「反戦運動弾圧に加担し、絶対許されない」などとする抗議文を提出した。

　広島地検は三月一九日、不当逮捕された五名の起訴を強行した。
　起訴状は〈５人は共謀し午前５時５０分頃、互いに腕を組み、４列縦隊の最前列で行進し、市職員に体当たりした。他にも大勢のデモ参加者がいた〉とした。
　今回の弾圧に使われた特別法の「暴力行為等処罰法（暴処法）」は、治安維持法体制の戦前から労働運動などの社会運動を「暴力行為等」として潰すことに使われてきた。この“事件”で「転倒した」とされる市職員の氏名、役職は明らかにされていない。

　中国新聞は〈暴力行為法違反（集団的暴行）の疑いで逮捕〉と伝え、法律名を書いていない。
　各社の逮捕・起訴の記事には、五人の実名があるが、逮捕・勾留状を発付した裁判官、逮捕状を執行した警察官、起訴した検察官の実名がない。記者の署名もない。
　五人を弁護している森川文人弁護士（第二東京弁護士会）によると、勾留決定の裁判官は林宏樹、起訴検事は小野間薫の各氏。弁護人は森川、本田兆司、端野真、藤田正人各弁護士で、もう一名増える予定という。
　森川弁護士は三月三一日、「今も広島に来ており、接見行脚だ、『尻もちをついた』という職員は起訴状では、Ａと記され特定されていない。秘匿措置の求めあり、となっている。未確認だが、職員は被害届を出していないようだ。だから暴処法適用だと思う」と話した。

　昨年の「八・六」は、岸田政権が五月の先進七力国首脳（Ｇ７）広島サミットで米欧の核保有を肯定する広島ビジョンを出し、対朝鮮・中国侵略戦争に突き進む中で開かれた。
　私は市役所広報課から取材許可証を交付されて、式典や岸田首相と被爆者ヒ団体代表との意見交換会を取材した。
　式典当日の早朝、原爆ドーム前に行くと、全国から動員された日本会議・在特会系団体の集団が結集していた。「静粛な式典」を求めるファシストたちが集会参加者に大声で罵声を浴びせ、威嚇した。
　私服も含む警察官と市職員は右翼の側に立つて警備し、物々しい雰囲気で一般市民が集会に参加しにくい雰囲気を作った。
　集会は整然と開催され、市職員には「けが」もなかった昨年五月、米誌「タイム」表紙に「数十年の平和主義を捨て、自国を真の軍事大国にすることを望む」政治家として掲載された岸田氏による政治弾圧だ。
　広島の企業メディアの社員記者たちも現場を取材しており、警察・検察の逮捕、捜索がでっち上げと分かっているはずだ。

　広島では、『はだしのゲン』の学校教材からの排除や市職員研修での「教育勅語」使用が行われ、五人逮捕前日の二月二七日には広島市議会で、原爆ドーム前集会の事実上「禁止」を求めて、右翼勢力が提出した「請願」が採択された。
　広島市は一九年から、「八・六」参列者に、式典中、デモで拡声機を使うのは「うるさい」かを聞くアンケートを実施している。
　広島大学自治会の森田寛隆氏は「岸田政権が中国侵略戦争を決断し、反戦運動をつぶして労働者階級を戦争に動員しようとする弾圧だ。今年の８・６は戦争を止めるのかどうかの重大な転換点になる」と語った。

　実行委の矢田三恵氏は「市議会は反戦集会・デモを禁止する決議を行い、五人の逮捕に手を貸した。戦争反対の声を上げたら、右翼と国家権力が一体となって弾圧する。今年の原爆ドーム前集会を何としても成功させたい」と話している。
（浅野健一）

『月刊救援』（2024年4月10日）