■ 国旗国歌 道人事委が拘束力否定
男性教諭、懲戒処分取り消し ■
中学校の卒業式で君が代演奏のカセットテープを止めたとして、懲戒戒告処分となった男性教諭(49)が処分取り消しを求めていた不服申し立てで、道人事委員会は二十三日、処分取り消しの裁決を決め、教諭に通知した。文部科学省や教諭の主任代理人の後藤徹弁護士によると、日の丸・君が代をめぐる懲戒処分で都道府県人事委が懲戒処分を取り消したのは、全国初とみられる。
裁決によると、教諭は二00一年三月、後志管内倶知安中の卒業式で、校長席の前に置かれていたCDカセットを運び出し、君が代の演奏を止めた。同校では、君が代演奏について校長と教職員間の意見が対立したまま、校長が国旗掲揚と国歌演奏の実施を最終判断した。式次第には、国歌斉唱の表記はなかった。
裁決は、「教職員にも個人としての思想、良心の自由が保障されるべきことは当然であり、式での日の丸・君が代の強制は思想・良心の不当な侵害と解される」と指摘した。
その上で、学習指導要領にある日の丸・君が代指導条項は「その法的拘束力は否定せざるを得ない」、「式の運営について生徒や保護者にも意見表明の機会が与えられるべきであり、こうした過程がなく斉唱・演奏の実施、不実施が決まることは、子どもの権利条約に反する」などと判断した。
また「(式の運営について)学校方針の正式決定がなく、手続き上、重大な瑕疵(かし)がある。混乱は一瞬にとどまった上、他の事案と比べても処分は相当重い」として処分を取り消した。日教組によると、「ここまで踏み込んだ判断は全国で例がない」としている。
道教委は0一年七月、「式の円滑な遂行を妨げた」として教諭を懲戒戒告処分とした。教諭は九月、道人事委に処分取り消しを求め不服を申し立てていた。
『北海道新聞』(2006/10/23 14:25)
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20061023&j=0022&k=200610230959
■北教組倶知安中学校「君が代」事件・北海道人事委員会採決についてのまとめ
まとめ TS(06・10・23)
1 主 文
処分者が平成13年7月27日付けで請求者に対して行った戒告処分を取消す。
2 事件の概要
倶知安町立倶知安中学校の教諭である請求者が、平成13年3月15日に挙行された卒業式会場において、「君が代」の演奏が始まった直後、CDカセットを持ち去りながらスイッチを切り、卒業式の円滑な進行を妨げたとして、地公法第29条第1項第1号及び第2号に基づき、同年7月27日戒告処分に付された。
3 認定した事実経過
・北海道教委は、学習指導要領の国旗国歌条項に従って各種の行事においては、国旗掲揚・国歌斉唱をするよう各学校に対し指導していた。
・北教組と道教委は「日の丸・君が代の扱いについては、各学校で事前に十分話し合いを持ち、教職員の理解を得て実施すること。共通理解が得られない段階では実施しないこともあり得ること」などをおもな内容する労使確認をしていた。
・校長は卒業式での国旗掲揚・国歌斉唱導入を提案したが、教職員からの反対意見が多く、何度か話し合いが持たれたが不調に終わった。
・予行では国旗国歌はなく、当日の式次第にも表記はなかったが、教頭が印刷、当日配布した学事報告の式次第には国歌斉唱の項目が示されていた。
・式当日は、予定になかった国旗が三脚で掲揚され、開式の辞ののち、教頭が全員に起立を求め、国歌を唱和できる者は唱和するよう告げて、持参のCDカセットの再生ボタンを押した。
・請求人はとっさにCDカセットに近づき、手をかけて持ち出そうとした。校長は請求人の名を呼び制止しようとしたが、請求人はこれを振り切り、歩きながらスイッチを押して演奏を止めた。
・その後教頭が、とっさの判断で校歌斉唱へと次第をすすめたため、式の進行には特に支障が生じることなく、大きな混乱にも至らなかった。
4 人事委員会の判断
本件行為は地公法第33条、第29条第1項第1号及び第3号に該当するが、本件行為が行われた背景事情や経過、動機、目的、態様、本件行為の影響その他諸般の事情を考慮すれば、これに対し戒告処分をもってしなければならないほどの違法性があるとはいえず、処分者の裁量権を逸脱したものとして取消を免れない。
※懲戒事由の該当性について
卒業式の挙行方法を巡る意見の対立を式の進行中にまでそのまま持ち込み、卒業式を混乱させたのは明らかであるから、教育公務員としての職の信用を失墜させる行為に該当するものといわなければならない。
※考慮すべき点は以下の通り。
・校長は国歌斉唱に対する協力を求める提案を繰り返すのみで、国旗・国歌の取り扱いに関する学校の方針を明確にせず、具体的な指示は一切行わなかった。したがって本件君が代の演奏は、校長の校務掌理権の行使としては手続き上の重大な瑕疵があった。
・請求者が本件行為に及んだのは卒業式等の学校行事において君が代を演奏することは違憲・違法であり、教育公務員としてこれを黙過することは許されないとの教育上の信念に基づくもので、式の進行を故意に妨げることを目的としたものではなかった。
・教頭がCDカセットによる君が代の演奏を突然開始したことについては、驚きや奇異の念を感じたとしても当然であり、請求者が本件君が代の演奏を排除しようとした動機については強く非難するべきことはできないというべきである。
・請求者らが、労使確認にもとづいて行事運営が行われると強い期待を持ち、これに反する校長の行為を許されぬものとして考えたとしても無理からぬものである。
・本件行為による混乱は一瞬のものに止まったから、式全体に与えた影響は軽微であった。
・他の類似事案(日の丸・君が代に関する教職員の非違行為)に対し懲戒処分に付された例が一件もないことからすると、処分量定は、他の類似事案に比較して相当に重いものであり、均衡を欠く。
※本件卒業式での君が代演奏の適法性について(積極的判断部分)
・子どもの権利条約第12条(意見表明権の保障)に照らせば、これらの事項に関しては卒業式に参加する生徒やその保護者である父母らにもその意見表明の機会が与えられるべきであり、そのためには日の丸の掲揚や君が代の斉唱の意義等について事前に学習する機会が確保される必要があるというべきである。そのような過程を経ることなく日の丸の掲揚や君が代の斉唱ないし演奏について、その実施や不実施が決定されることは、同条約に反するものと解される。
・学習指導要領の国旗国歌条項は教育の内容及び方法についての大綱的な規準とはいい難く、その法的拘束力は否定せざるを得ないというべきである
・教職員にも個人としての思想、良心の自由が保障されるべきことは当然であり、自己の信条として日の丸・君が代を受け入れ難いと考えるものがあれば、そのような思いも保護の対象となることは論を待たない。したがって、その意思に反して日の丸への拝礼や君が代の斉唱ないし演奏を強制することは教職員の思想・良心に対する不当な侵害として許されないと解さなければならない。
・思想、良心の自由は、自己の思想、良心の内容等について外部に表明することを強制されない自由、すなわち沈黙の自由を含むものと解される。
・教育課程の編成に関する限り一般の行政組織における上位の者が発した職務命令に下位の者が従うといった意思決定方法がそのまま当てはまると解することは妥当ではなく、校長の校務掌理権は教育の本質的要請に基づき認められる個々の教員の裁量権限を十分に尊重し、教育的配慮のもとに行使される必要があるというべきである。このような観点に立てば、卒業式等の学校行事をどのような内容、形式とするか、また、その式次第をどのように定めるかは、校長を含む全教職員の総意により教育的配慮に基づき決定されることが望ましいといえる。
男性教諭、懲戒処分取り消し ■
中学校の卒業式で君が代演奏のカセットテープを止めたとして、懲戒戒告処分となった男性教諭(49)が処分取り消しを求めていた不服申し立てで、道人事委員会は二十三日、処分取り消しの裁決を決め、教諭に通知した。文部科学省や教諭の主任代理人の後藤徹弁護士によると、日の丸・君が代をめぐる懲戒処分で都道府県人事委が懲戒処分を取り消したのは、全国初とみられる。
裁決によると、教諭は二00一年三月、後志管内倶知安中の卒業式で、校長席の前に置かれていたCDカセットを運び出し、君が代の演奏を止めた。同校では、君が代演奏について校長と教職員間の意見が対立したまま、校長が国旗掲揚と国歌演奏の実施を最終判断した。式次第には、国歌斉唱の表記はなかった。
裁決は、「教職員にも個人としての思想、良心の自由が保障されるべきことは当然であり、式での日の丸・君が代の強制は思想・良心の不当な侵害と解される」と指摘した。
その上で、学習指導要領にある日の丸・君が代指導条項は「その法的拘束力は否定せざるを得ない」、「式の運営について生徒や保護者にも意見表明の機会が与えられるべきであり、こうした過程がなく斉唱・演奏の実施、不実施が決まることは、子どもの権利条約に反する」などと判断した。
また「(式の運営について)学校方針の正式決定がなく、手続き上、重大な瑕疵(かし)がある。混乱は一瞬にとどまった上、他の事案と比べても処分は相当重い」として処分を取り消した。日教組によると、「ここまで踏み込んだ判断は全国で例がない」としている。
道教委は0一年七月、「式の円滑な遂行を妨げた」として教諭を懲戒戒告処分とした。教諭は九月、道人事委に処分取り消しを求め不服を申し立てていた。
『北海道新聞』(2006/10/23 14:25)
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20061023&j=0022&k=200610230959
■北教組倶知安中学校「君が代」事件・北海道人事委員会採決についてのまとめ
まとめ TS(06・10・23)
1 主 文
処分者が平成13年7月27日付けで請求者に対して行った戒告処分を取消す。
2 事件の概要
倶知安町立倶知安中学校の教諭である請求者が、平成13年3月15日に挙行された卒業式会場において、「君が代」の演奏が始まった直後、CDカセットを持ち去りながらスイッチを切り、卒業式の円滑な進行を妨げたとして、地公法第29条第1項第1号及び第2号に基づき、同年7月27日戒告処分に付された。
3 認定した事実経過
・北海道教委は、学習指導要領の国旗国歌条項に従って各種の行事においては、国旗掲揚・国歌斉唱をするよう各学校に対し指導していた。
・北教組と道教委は「日の丸・君が代の扱いについては、各学校で事前に十分話し合いを持ち、教職員の理解を得て実施すること。共通理解が得られない段階では実施しないこともあり得ること」などをおもな内容する労使確認をしていた。
・校長は卒業式での国旗掲揚・国歌斉唱導入を提案したが、教職員からの反対意見が多く、何度か話し合いが持たれたが不調に終わった。
・予行では国旗国歌はなく、当日の式次第にも表記はなかったが、教頭が印刷、当日配布した学事報告の式次第には国歌斉唱の項目が示されていた。
・式当日は、予定になかった国旗が三脚で掲揚され、開式の辞ののち、教頭が全員に起立を求め、国歌を唱和できる者は唱和するよう告げて、持参のCDカセットの再生ボタンを押した。
・請求人はとっさにCDカセットに近づき、手をかけて持ち出そうとした。校長は請求人の名を呼び制止しようとしたが、請求人はこれを振り切り、歩きながらスイッチを押して演奏を止めた。
・その後教頭が、とっさの判断で校歌斉唱へと次第をすすめたため、式の進行には特に支障が生じることなく、大きな混乱にも至らなかった。
4 人事委員会の判断
本件行為は地公法第33条、第29条第1項第1号及び第3号に該当するが、本件行為が行われた背景事情や経過、動機、目的、態様、本件行為の影響その他諸般の事情を考慮すれば、これに対し戒告処分をもってしなければならないほどの違法性があるとはいえず、処分者の裁量権を逸脱したものとして取消を免れない。
※懲戒事由の該当性について
卒業式の挙行方法を巡る意見の対立を式の進行中にまでそのまま持ち込み、卒業式を混乱させたのは明らかであるから、教育公務員としての職の信用を失墜させる行為に該当するものといわなければならない。
※考慮すべき点は以下の通り。
・校長は国歌斉唱に対する協力を求める提案を繰り返すのみで、国旗・国歌の取り扱いに関する学校の方針を明確にせず、具体的な指示は一切行わなかった。したがって本件君が代の演奏は、校長の校務掌理権の行使としては手続き上の重大な瑕疵があった。
・請求者が本件行為に及んだのは卒業式等の学校行事において君が代を演奏することは違憲・違法であり、教育公務員としてこれを黙過することは許されないとの教育上の信念に基づくもので、式の進行を故意に妨げることを目的としたものではなかった。
・教頭がCDカセットによる君が代の演奏を突然開始したことについては、驚きや奇異の念を感じたとしても当然であり、請求者が本件君が代の演奏を排除しようとした動機については強く非難するべきことはできないというべきである。
・請求者らが、労使確認にもとづいて行事運営が行われると強い期待を持ち、これに反する校長の行為を許されぬものとして考えたとしても無理からぬものである。
・本件行為による混乱は一瞬のものに止まったから、式全体に与えた影響は軽微であった。
・他の類似事案(日の丸・君が代に関する教職員の非違行為)に対し懲戒処分に付された例が一件もないことからすると、処分量定は、他の類似事案に比較して相当に重いものであり、均衡を欠く。
※本件卒業式での君が代演奏の適法性について(積極的判断部分)
・子どもの権利条約第12条(意見表明権の保障)に照らせば、これらの事項に関しては卒業式に参加する生徒やその保護者である父母らにもその意見表明の機会が与えられるべきであり、そのためには日の丸の掲揚や君が代の斉唱の意義等について事前に学習する機会が確保される必要があるというべきである。そのような過程を経ることなく日の丸の掲揚や君が代の斉唱ないし演奏について、その実施や不実施が決定されることは、同条約に反するものと解される。
・学習指導要領の国旗国歌条項は教育の内容及び方法についての大綱的な規準とはいい難く、その法的拘束力は否定せざるを得ないというべきである
・教職員にも個人としての思想、良心の自由が保障されるべきことは当然であり、自己の信条として日の丸・君が代を受け入れ難いと考えるものがあれば、そのような思いも保護の対象となることは論を待たない。したがって、その意思に反して日の丸への拝礼や君が代の斉唱ないし演奏を強制することは教職員の思想・良心に対する不当な侵害として許されないと解さなければならない。
・思想、良心の自由は、自己の思想、良心の内容等について外部に表明することを強制されない自由、すなわち沈黙の自由を含むものと解される。
・教育課程の編成に関する限り一般の行政組織における上位の者が発した職務命令に下位の者が従うといった意思決定方法がそのまま当てはまると解することは妥当ではなく、校長の校務掌理権は教育の本質的要請に基づき認められる個々の教員の裁量権限を十分に尊重し、教育的配慮のもとに行使される必要があるというべきである。このような観点に立てば、卒業式等の学校行事をどのような内容、形式とするか、また、その式次第をどのように定めるかは、校長を含む全教職員の総意により教育的配慮に基づき決定されることが望ましいといえる。