《侵略に関する政府見解》 1995年8月15日、当時の村山富市首相が「戦後50周年の終戦記念日に当たって」と題する談話を発表。その中で過去の戦争などについて「わが国は遠くない過去の一時期、国策を誤り、植民地支配と侵略によって、アジア諸国の人々に多大の損害と苦痛を与えた」と「侵略」を明確に認め、「痛切な反省と心からのおわびの気持ち」を表明した。その後も日本政府の基本的見解として踏襲され、麻生太郎首相も「私の内閣でも引き継ぐ」と表明している。
■『小学校から勉強を』 「低レベル」論文内容 識者らあきれ顔
「わが国は日中戦争に引きずり込まれた被害者」という田母神俊雄航空幕僚長の文章に、近現代史に詳しい学者らはあきれ顔。内容をことごとく批判し「レベルが低すぎる」とため息が漏れた。
「小学校、中学校から勉強し直した方がいいのでは」と都留文科大の笠原十九司(とくし)教授(日中関係史)は話す。
空幕長の文章は旧満州について「極めて穏健な植民地統治」とするが、笠原教授は「満州事変から日中戦争での抗日闘争を武力弾圧した事実を知らないのか」と批判。「侵略は一九七四年の国連総会決議で定義されていて、日本の当時の行為は完全に当てはまる。(昭和初期の)三三年にも、日本は署名していないが『侵略の定義に関する条約』が結ばれ、できつつあった国際的な認識から見ても侵略というほかない」と説明。
「国際法の常識を知らない軍の上層部というのでは、戦前と同じ。ひどすぎる」と話す。
「レベルが低すぎる」と断じるのは纐纈(こうけつ)厚・山口大人文学部教授(近現代政治史)。
「根拠がなく一笑に付すしかない」と話し「アジアの人たちを『制服組トップがいまだにこういう認識か』と不安にさせる」と懸念する。
「日本の戦争責任資料センター」事務局長の上杉聡さんは「こんなの論文じゃない」とうんざりした様子。
「特徴的なのは、満州事変にまったく触れていないこと。満州事変は謀略で起こしたことを旧軍部自体が認めている。論文は『相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない』というが、満州事変一つで否定される」と指摘する。
◆文民統制揺るがす
小林節・慶応大教授の話 田母神論文は、民族派の主張と同じであまりに稚拙だ。
国家と軍事力に関する部分は、現職の空自トップが言っていい範囲を明らかに逸脱した政治的発言で、シビリアンコントロール(文民統制)の根幹を揺るがす。諸国に仕掛けられた戦争だったとしても、出て行って勝とうとしたのも事実で、負けた今となって「はめられた」と言っても仕方がない。
現在の基準や戦争相手国の視点で見れば、日本がアジア諸国を侵略したのは間違いのない事実だ。世界史に関する“新説”を述べるのは自由だが、発表の場にも細心の注意を払い、学問的に語るべきだ。
◆一行一行、辞職に値
水島朝穂・早大教授の話 航空自衛隊のイラク空輸活動を違憲とした名古屋高裁判決に「そんなの関係ねえ」という驚くべき司法軽視の発言をした空幕長とはいえ、閣僚なら一行一行が辞職に値するような論文で、アジア諸国との外交関係を危うくするのは間違いない。
自衛隊法は自衛官に政治的な発言を過剰なまでに制限し、倫理規程は私企業との付き合いも細部にわたって規制している。内容のひどさは言うまでもないが、最高幹部が底の抜けたような政治的発言をして三百万円もの賞金をもらうのは資金援助に近い。
『東京新聞』(2008年11月1日【社会】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008110102000087.html
■空幕長論文 不祥事続発省内怒り 『内容は持論』認める
航空自衛隊のトップが政府見解に公然と反旗を翻した。日本の過去の侵略や植民地支配を正当化した田母神俊雄航空幕僚長の懸賞論文。浜田靖一防衛相は三十一日夜、空幕長解任に踏み切った。イラクへの自衛隊派遣をめぐる司法の違憲判断に「そんなの関係ねえ」と言い放った人物。その立場をわきまえない主張に「あきれ果てた」「あまりにひどい」と批判が渦巻いた。
田母神俊雄航空幕僚長が更迭された三十一日夜、防衛省には激震が走った。「職にふさわしくない」。険しい表情の浜田靖一防衛相は厳しい言葉を連発。不祥事の続発に「何を考えているんだ」と省内からも嘆きと怒りの声が上がった。
午後十時すぎ、東京・市谷の防衛省一階ロビーで記者団に囲まれた浜田防衛相は「職にとどまるのはふさわしくない。職を解く」と更迭を表明した。
浜田防衛相は「思い切ったことを言う方だとは聞いていた」と述べ、論文について「皆さん方が感じていることと同じ。極めて不適切な部分があった」と言い切った。
中国や韓国などの反発については「あると思うが(更迭で)考え方は示せたと思う」と強調。「自分の立場をもう少し重く考えてほしかった」との恨み節も漏れた。
東京都目黒区の空幕長官舎。スーツ姿で玄関先に現れた田母神空幕長は「淡々と政府の指示に従う。連休明けに皆さんに説明する」と述べた。「論文の内容は持論か」と問われると「ああ、そうでしょうな」と答えた。
論文を一読した内局幹部は「政府見解とは異なる」と話すのがやっと。別の幹部は「あまりにひどい内容で、あきれた」と憤った。制服組幹部は「トップが公に発言するのは問題だ。『自衛官はみんなこういう考えなのか』と思われる」と渋い表情だった。
内局幹部も「歴史認識のレベルは低いし、内容も稚拙。何のために論文を書いたのか、あきれ果てる」と怒りを込めて話した。
「(日教組批判で辞任した)中山成彬前国土交通相と同レベル」と批判したのは別の内局幹部。「定年前に持論を述べたかった確信犯的行動では」とも。
国防族議員は「こんな人物が空自のトップだったのか」と吐き捨てるように言った。
◆違憲判決『関係ねえ』イラク派遣で放言
更迭された田母神俊雄航空幕僚長は、防衛大卒業後、一九七一年に空自に入隊。二〇〇七年三月に空幕長に就任し、次の統合幕僚長の有力候補だった。
しかし、時に発言は脱線しがち。今年四月に名古屋高裁が空自のイラクでの空輸活動を違憲と認定した判決を出した際は、記者会見で、お笑いタレントの流行語のように「そんなの関係ねえ」と述べ、物議を醸した。
一方、物事の本質を端的にとらえ伝える能力は高く「(発言などが)防衛省のガス抜きになっている」と話す防衛省幹部も。制服組からは「気持ちを代弁してくれている」との評価もあった。
今回の懸賞論文を主催したアパグループの代表は、小松基地金沢友の会会長で、第六航空団司令時代からつながりがあった。九年前には、この代表と同社の情報誌で対談。「国家が悪い、日本の国が悪いという戦後の教育が行きすぎている」と今回の騒動を予感させる発言をしていた。
対談で、自衛官の心得を説く際も「自分たちのやっていることが正しいことである、正義である、という気持ちが使命感だと思う」と強気だった。
五月には東大の学園祭で現役幕僚長としては異例の講演を実施。「爆弾発言を期待しないように」と冗談を言いながら、「日本は悪かったという意見があるが、そうではないという説も。両方聞いて皆さんで判断して」と持論を展開。省内にもこの持論は知れ渡っていたが、論文として公表することまでは周囲の想定外だった。
『東京新聞』(2008年11月1日 朝刊)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008110102000086.html
■『小学校から勉強を』 「低レベル」論文内容 識者らあきれ顔
「わが国は日中戦争に引きずり込まれた被害者」という田母神俊雄航空幕僚長の文章に、近現代史に詳しい学者らはあきれ顔。内容をことごとく批判し「レベルが低すぎる」とため息が漏れた。
「小学校、中学校から勉強し直した方がいいのでは」と都留文科大の笠原十九司(とくし)教授(日中関係史)は話す。
空幕長の文章は旧満州について「極めて穏健な植民地統治」とするが、笠原教授は「満州事変から日中戦争での抗日闘争を武力弾圧した事実を知らないのか」と批判。「侵略は一九七四年の国連総会決議で定義されていて、日本の当時の行為は完全に当てはまる。(昭和初期の)三三年にも、日本は署名していないが『侵略の定義に関する条約』が結ばれ、できつつあった国際的な認識から見ても侵略というほかない」と説明。
「国際法の常識を知らない軍の上層部というのでは、戦前と同じ。ひどすぎる」と話す。
「レベルが低すぎる」と断じるのは纐纈(こうけつ)厚・山口大人文学部教授(近現代政治史)。
「根拠がなく一笑に付すしかない」と話し「アジアの人たちを『制服組トップがいまだにこういう認識か』と不安にさせる」と懸念する。
「日本の戦争責任資料センター」事務局長の上杉聡さんは「こんなの論文じゃない」とうんざりした様子。
「特徴的なのは、満州事変にまったく触れていないこと。満州事変は謀略で起こしたことを旧軍部自体が認めている。論文は『相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない』というが、満州事変一つで否定される」と指摘する。
◆文民統制揺るがす
小林節・慶応大教授の話 田母神論文は、民族派の主張と同じであまりに稚拙だ。
国家と軍事力に関する部分は、現職の空自トップが言っていい範囲を明らかに逸脱した政治的発言で、シビリアンコントロール(文民統制)の根幹を揺るがす。諸国に仕掛けられた戦争だったとしても、出て行って勝とうとしたのも事実で、負けた今となって「はめられた」と言っても仕方がない。
現在の基準や戦争相手国の視点で見れば、日本がアジア諸国を侵略したのは間違いのない事実だ。世界史に関する“新説”を述べるのは自由だが、発表の場にも細心の注意を払い、学問的に語るべきだ。
◆一行一行、辞職に値
水島朝穂・早大教授の話 航空自衛隊のイラク空輸活動を違憲とした名古屋高裁判決に「そんなの関係ねえ」という驚くべき司法軽視の発言をした空幕長とはいえ、閣僚なら一行一行が辞職に値するような論文で、アジア諸国との外交関係を危うくするのは間違いない。
自衛隊法は自衛官に政治的な発言を過剰なまでに制限し、倫理規程は私企業との付き合いも細部にわたって規制している。内容のひどさは言うまでもないが、最高幹部が底の抜けたような政治的発言をして三百万円もの賞金をもらうのは資金援助に近い。
『東京新聞』(2008年11月1日【社会】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008110102000087.html
■空幕長論文 不祥事続発省内怒り 『内容は持論』認める
航空自衛隊のトップが政府見解に公然と反旗を翻した。日本の過去の侵略や植民地支配を正当化した田母神俊雄航空幕僚長の懸賞論文。浜田靖一防衛相は三十一日夜、空幕長解任に踏み切った。イラクへの自衛隊派遣をめぐる司法の違憲判断に「そんなの関係ねえ」と言い放った人物。その立場をわきまえない主張に「あきれ果てた」「あまりにひどい」と批判が渦巻いた。
田母神俊雄航空幕僚長が更迭された三十一日夜、防衛省には激震が走った。「職にふさわしくない」。険しい表情の浜田靖一防衛相は厳しい言葉を連発。不祥事の続発に「何を考えているんだ」と省内からも嘆きと怒りの声が上がった。
午後十時すぎ、東京・市谷の防衛省一階ロビーで記者団に囲まれた浜田防衛相は「職にとどまるのはふさわしくない。職を解く」と更迭を表明した。
浜田防衛相は「思い切ったことを言う方だとは聞いていた」と述べ、論文について「皆さん方が感じていることと同じ。極めて不適切な部分があった」と言い切った。
中国や韓国などの反発については「あると思うが(更迭で)考え方は示せたと思う」と強調。「自分の立場をもう少し重く考えてほしかった」との恨み節も漏れた。
東京都目黒区の空幕長官舎。スーツ姿で玄関先に現れた田母神空幕長は「淡々と政府の指示に従う。連休明けに皆さんに説明する」と述べた。「論文の内容は持論か」と問われると「ああ、そうでしょうな」と答えた。
論文を一読した内局幹部は「政府見解とは異なる」と話すのがやっと。別の幹部は「あまりにひどい内容で、あきれた」と憤った。制服組幹部は「トップが公に発言するのは問題だ。『自衛官はみんなこういう考えなのか』と思われる」と渋い表情だった。
内局幹部も「歴史認識のレベルは低いし、内容も稚拙。何のために論文を書いたのか、あきれ果てる」と怒りを込めて話した。
「(日教組批判で辞任した)中山成彬前国土交通相と同レベル」と批判したのは別の内局幹部。「定年前に持論を述べたかった確信犯的行動では」とも。
国防族議員は「こんな人物が空自のトップだったのか」と吐き捨てるように言った。
◆違憲判決『関係ねえ』イラク派遣で放言
更迭された田母神俊雄航空幕僚長は、防衛大卒業後、一九七一年に空自に入隊。二〇〇七年三月に空幕長に就任し、次の統合幕僚長の有力候補だった。
しかし、時に発言は脱線しがち。今年四月に名古屋高裁が空自のイラクでの空輸活動を違憲と認定した判決を出した際は、記者会見で、お笑いタレントの流行語のように「そんなの関係ねえ」と述べ、物議を醸した。
一方、物事の本質を端的にとらえ伝える能力は高く「(発言などが)防衛省のガス抜きになっている」と話す防衛省幹部も。制服組からは「気持ちを代弁してくれている」との評価もあった。
今回の懸賞論文を主催したアパグループの代表は、小松基地金沢友の会会長で、第六航空団司令時代からつながりがあった。九年前には、この代表と同社の情報誌で対談。「国家が悪い、日本の国が悪いという戦後の教育が行きすぎている」と今回の騒動を予感させる発言をしていた。
対談で、自衛官の心得を説く際も「自分たちのやっていることが正しいことである、正義である、という気持ちが使命感だと思う」と強気だった。
五月には東大の学園祭で現役幕僚長としては異例の講演を実施。「爆弾発言を期待しないように」と冗談を言いながら、「日本は悪かったという意見があるが、そうではないという説も。両方聞いて皆さんで判断して」と持論を展開。省内にもこの持論は知れ渡っていたが、論文として公表することまでは周囲の想定外だった。
『東京新聞』(2008年11月1日 朝刊)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008110102000086.html
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