◆ 「規制緩和」じゃない ~どこに暮らしていても最低限の保育を (教科書ネット)
放課後児童クラブ(学童保育)の「従うべき基準」の参酌化でどうなるのか?
2019年1月28日、首相の施政方針演説に「学童保育」が盛り込まれました。「自治体の裁量を拡大するなどにより、学童保育の充実を進めます」
学童保育が注目されているのには、歴史の重みを感じますが、学童保育の「従うべき基準」の参酌化が「学童保育の充実」に進むのでしょうか。
私は、学童保育に二人の子どもがお世話になりながら、仕事、失業、ヘルパー資格取得、登録ヘルパー、介護事業所起業と人生を支えてもらいました。現在28歳になる長男が学童保育を利用し始めた1997年に法制化し、児童福祉法に根拠をもつ公的な事業になりました。
当時、学童保育の利用児童数は30万人ほどだったと記憶しています。
30万人でもかなり多い印象で、20年前の当時ですら、入所できないかもしれないと、我が家は、隣の学区に引っ越して、学童保育に入れそうな小学校に入学させたほどでした。
念願かなって、入所できた学童保育でしたが、当時のクラブは、落ち着かない雰囲気で、「ここに行かせて、働くのか」、喧騒の中、戸惑っている長男の寂しそうな姿に人生で1度だけ、働き続けることを切なく思いました。
それから20年が過ぎ、2018年5月の学童保育の利用者は121万人。それでも入れない子どもがいます。
待機児数も発表されていますが、保育園とは違い、きちんとした待機児数をカウントする仕組みが整っていないため、潜在的な待機児童、あるいは、集団生活になじめない等の理由で退所している子どももいるはずです。保育園や高齢者のサービスと違って、多くの地域では学区にひとつで、選択肢のない場合が多いのです。
学童保育は、法律上は「放課後児童クラブ」と呼ばれ、就労等の理由により日中、家庭に保護者のいない子どもが、放課後および学校休業日に安全に安心して過ごすことのできる「毎日の生活の場」とされています。
子どもたちのよりよい「生活の場」を保障しようと、全国各地で保護者や指導員が要望を自治体に届け、そして、自治体がそれぞれの状況に合わせて、整備してきた歴史があります。
戦後から、高度経済成長期を経て、少子化、50年以上にわたって、先人たちの思い、今の保護者の願い、行政の力で、地域の子どもたちの生活を守ってきました。
こうした歩みであるが故に、地域差が大きいのが学童保育の特徴でもあります。
運営主体、施設・指導員・開設時間、おやつの有無、利用料、市町村でも違い、同じ市内でも異なるという場合もあります。
そんな中・4年前の2015年には、厚生労働省令「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」(以下・「省令基準」)および「放課後児童クラブ運営指針」が策定されました。
そして、それに呼応して国の予算も大幅に拡充されはじめました。
○2015年に策定された「省令基準」では、以下の2点が「従うべき基準」として定められました。
①「放課後児童支援員」を「支援の単位」ごとに原則2人以上配置する(配置基準)
②「放課後児童支援員」の資格を取得するためには・保育士や社会福祉士・教諭などの有資格者、大学で一定の決められた課程を履修した者、高卒以上で2年以上児童福祉事業に従事した者などの9項目のいずれかの基礎要件をもつ者が、都道府県が実施する16科目24時間の「放課後児童支援員認定資格研修」を受講し、修了することが必要である(資格)
待望の1歩でした。全国の様々な状況の中、せめて、全国、どこに住んでいても、「資格者を含む複数配置での保育」が保障されました。
保護者の安心はもちろんですが、これまで待遇の良くない中、子どもの保育に力を注いできた学童保育指導員が職業として、社会的に認められた喜びも大きく、さらに、「資格者の複数配置」へ進むものと期待しました。
1997年の法制化から18年、長い道のりでした。共通の基準としてありましたが、学童保育の実施主体である「市町村」が「従うべき基準」はこの2つのみです。
ところが、「省令基準」が定められてわずか4年、このたびの「対応方針(案)」では、経過措置期間中にもかかわらず、「学童保育の『全国的な一定水準の質』」を確保するという「省令基準」策定時の趣旨と逆行する方向が発表されました。
学童保育に関わって、児童福祉法を次のように改定することが閣議決定され、大きく報道されています。
「従うべき基準」が「参酌すべき基準」に変更されることで、学童保育の質の低下、市町村格差の拡大を危惧しています。3年前の状況に逆戻り、それ以上の悪化も考えられます。
最悪の場合は、「1人の無資格者が40人の子どもを保育する」ということもあり得るというように考えられます。
子どもの発達と生活の保障を考えるきちんとした指導員が、この条件での保育をよしとするでしょうか。自由でのびのびとした生活が保障されるでしょうか。安全に見守れるでしょうか。何かあった時の対応は可能でしょうか。
指導員の多くは、この方向に、この職業に将来の希望を失っています。新卒者や若い人の就職先にはならないでしょう。岡山県の場合、地域運営委員会方式が多く、地元の運営者も人材確保に頭を抱えています。
人材確保の困難は、誰が考えても、処遇の悪さです。
処遇改善のための制度がつくられていますが、その活用率は、低調なものです。保育士の待遇が改善傾向にあり、そして、世の中の景気が上向き傾向なら、子どもの安心安全を守るという負担の大きく、時間が不規則、処遇のよくない、さらには、雇用の継続が保障されない仕事を選ぶ人は、一気に減ります。
過重労働で、さらに職場環境は悪くなり、人が辞めていく。悪い職場の典型のような変更をなぜ行うのかと、怒りと悲しみでいっぱいです。
「国の基準撤廃」とも報じられていますが、現行の省令基準と市町村の条例基準は残り、「従うべき基準」を「参酌すべき基準」とするのが、今回の対応方針(案)です。
①国会を通って、②市町村の条例の変更があっての実施となりますので、まだまだ声を上げていきます。
全国学童保育連絡協議会の署名や有志によるネット署名が始まっています。①の国会での決定までに社会的な気運を作っていく作戦です。
また、「地方からの要望」という内閣府からの声でスタートしたと言われていますので、「いや、それは地方の声ではない」という地方議会からの意見書も多く、次々とあげられています。
そして、国会が通過したとしても、各地の実施主体である市町村がそれぞれの方針として、「資格者を含む複数配置」による保育を維持していく働きかけも併せて行っています。
「都道府県は、学童保育の質を守る」という投げかけをしてほしいと思います。
私の子育てから20年経ち、学童保育にかけられる予算は格段に増加しました。数は増えたけれども、少しはよくなったけれども、子どもが入れない、子どもが行きたがらない、安心して働けない、まだまだ、同じような声を闘きます。「量も質も向上」となぜならないのでしょう。
一般企業なら、「量を増やすから、質は下がります。ごめんね。」これはないですよね。
10年前、フィンランドの学童保育を見に行きました。学童保育の指導員は、学校の教員と同じ待遇で子どもの生活を見守っていました。がんばり時。あきらめずに、がんばります。ともに。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 124号』(2019.2)
放課後児童クラブ(学童保育)の「従うべき基準」の参酌化でどうなるのか?
糸山智栄(いとやまともえ 岡山県学童保育連絡協議会会長)
2019年1月28日、首相の施政方針演説に「学童保育」が盛り込まれました。「自治体の裁量を拡大するなどにより、学童保育の充実を進めます」
学童保育が注目されているのには、歴史の重みを感じますが、学童保育の「従うべき基準」の参酌化が「学童保育の充実」に進むのでしょうか。
私は、学童保育に二人の子どもがお世話になりながら、仕事、失業、ヘルパー資格取得、登録ヘルパー、介護事業所起業と人生を支えてもらいました。現在28歳になる長男が学童保育を利用し始めた1997年に法制化し、児童福祉法に根拠をもつ公的な事業になりました。
当時、学童保育の利用児童数は30万人ほどだったと記憶しています。
30万人でもかなり多い印象で、20年前の当時ですら、入所できないかもしれないと、我が家は、隣の学区に引っ越して、学童保育に入れそうな小学校に入学させたほどでした。
念願かなって、入所できた学童保育でしたが、当時のクラブは、落ち着かない雰囲気で、「ここに行かせて、働くのか」、喧騒の中、戸惑っている長男の寂しそうな姿に人生で1度だけ、働き続けることを切なく思いました。
それから20年が過ぎ、2018年5月の学童保育の利用者は121万人。それでも入れない子どもがいます。
待機児数も発表されていますが、保育園とは違い、きちんとした待機児数をカウントする仕組みが整っていないため、潜在的な待機児童、あるいは、集団生活になじめない等の理由で退所している子どももいるはずです。保育園や高齢者のサービスと違って、多くの地域では学区にひとつで、選択肢のない場合が多いのです。
学童保育は、法律上は「放課後児童クラブ」と呼ばれ、就労等の理由により日中、家庭に保護者のいない子どもが、放課後および学校休業日に安全に安心して過ごすことのできる「毎日の生活の場」とされています。
子どもたちのよりよい「生活の場」を保障しようと、全国各地で保護者や指導員が要望を自治体に届け、そして、自治体がそれぞれの状況に合わせて、整備してきた歴史があります。
戦後から、高度経済成長期を経て、少子化、50年以上にわたって、先人たちの思い、今の保護者の願い、行政の力で、地域の子どもたちの生活を守ってきました。
こうした歩みであるが故に、地域差が大きいのが学童保育の特徴でもあります。
運営主体、施設・指導員・開設時間、おやつの有無、利用料、市町村でも違い、同じ市内でも異なるという場合もあります。
そんな中・4年前の2015年には、厚生労働省令「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」(以下・「省令基準」)および「放課後児童クラブ運営指針」が策定されました。
そして、それに呼応して国の予算も大幅に拡充されはじめました。
○2015年に策定された「省令基準」では、以下の2点が「従うべき基準」として定められました。
①「放課後児童支援員」を「支援の単位」ごとに原則2人以上配置する(配置基準)
②「放課後児童支援員」の資格を取得するためには・保育士や社会福祉士・教諭などの有資格者、大学で一定の決められた課程を履修した者、高卒以上で2年以上児童福祉事業に従事した者などの9項目のいずれかの基礎要件をもつ者が、都道府県が実施する16科目24時間の「放課後児童支援員認定資格研修」を受講し、修了することが必要である(資格)
待望の1歩でした。全国の様々な状況の中、せめて、全国、どこに住んでいても、「資格者を含む複数配置での保育」が保障されました。
保護者の安心はもちろんですが、これまで待遇の良くない中、子どもの保育に力を注いできた学童保育指導員が職業として、社会的に認められた喜びも大きく、さらに、「資格者の複数配置」へ進むものと期待しました。
1997年の法制化から18年、長い道のりでした。共通の基準としてありましたが、学童保育の実施主体である「市町村」が「従うべき基準」はこの2つのみです。
ところが、「省令基準」が定められてわずか4年、このたびの「対応方針(案)」では、経過措置期間中にもかかわらず、「学童保育の『全国的な一定水準の質』」を確保するという「省令基準」策定時の趣旨と逆行する方向が発表されました。
学童保育に関わって、児童福祉法を次のように改定することが閣議決定され、大きく報道されています。
「従うべき基準」が「参酌すべき基準」に変更されることで、学童保育の質の低下、市町村格差の拡大を危惧しています。3年前の状況に逆戻り、それ以上の悪化も考えられます。
放課後児童健全育成事業(6条の3第2項及び子ども・子育て支援法(平24法65)59条5号)に従事する者及びその員数(34条の8の2第2項)に係る「従うべき基準」については、現行の基準の内容を「参酌すべき基準」とする。人材確保の困難さから、この「参酌化」はスタートしていると思われます。現場は動揺しています。
なお、施行後3年を目途として、その施行の状況を勘案し、放課後児童健全育成事業の質の確保の観点から検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる。
最悪の場合は、「1人の無資格者が40人の子どもを保育する」ということもあり得るというように考えられます。
子どもの発達と生活の保障を考えるきちんとした指導員が、この条件での保育をよしとするでしょうか。自由でのびのびとした生活が保障されるでしょうか。安全に見守れるでしょうか。何かあった時の対応は可能でしょうか。
指導員の多くは、この方向に、この職業に将来の希望を失っています。新卒者や若い人の就職先にはならないでしょう。岡山県の場合、地域運営委員会方式が多く、地元の運営者も人材確保に頭を抱えています。
人材確保の困難は、誰が考えても、処遇の悪さです。
処遇改善のための制度がつくられていますが、その活用率は、低調なものです。保育士の待遇が改善傾向にあり、そして、世の中の景気が上向き傾向なら、子どもの安心安全を守るという負担の大きく、時間が不規則、処遇のよくない、さらには、雇用の継続が保障されない仕事を選ぶ人は、一気に減ります。
過重労働で、さらに職場環境は悪くなり、人が辞めていく。悪い職場の典型のような変更をなぜ行うのかと、怒りと悲しみでいっぱいです。
「国の基準撤廃」とも報じられていますが、現行の省令基準と市町村の条例基準は残り、「従うべき基準」を「参酌すべき基準」とするのが、今回の対応方針(案)です。
①国会を通って、②市町村の条例の変更があっての実施となりますので、まだまだ声を上げていきます。
全国学童保育連絡協議会の署名や有志によるネット署名が始まっています。①の国会での決定までに社会的な気運を作っていく作戦です。
また、「地方からの要望」という内閣府からの声でスタートしたと言われていますので、「いや、それは地方の声ではない」という地方議会からの意見書も多く、次々とあげられています。
そして、国会が通過したとしても、各地の実施主体である市町村がそれぞれの方針として、「資格者を含む複数配置」による保育を維持していく働きかけも併せて行っています。
「都道府県は、学童保育の質を守る」という投げかけをしてほしいと思います。
私の子育てから20年経ち、学童保育にかけられる予算は格段に増加しました。数は増えたけれども、少しはよくなったけれども、子どもが入れない、子どもが行きたがらない、安心して働けない、まだまだ、同じような声を闘きます。「量も質も向上」となぜならないのでしょう。
一般企業なら、「量を増やすから、質は下がります。ごめんね。」これはないですよね。
10年前、フィンランドの学童保育を見に行きました。学童保育の指導員は、学校の教員と同じ待遇で子どもの生活を見守っていました。がんばり時。あきらめずに、がんばります。ともに。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 124号』(2019.2)
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