パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

東京「君が代」訴訟 勝訴判決の意義

2011年05月18日 | 日の丸・君が代関連ニュース
 東京「君が代」訴訟(第一次処分取り消し訴訟)
  ★ 勝訴判決の意義
弁護士 雪竹奈緒

 1 はじめに~3・10の衝撃

 1月28日、唯一、地裁で勝利していた予防訴訟判決が覆され、原告の皆様と同様、弁護団も暗い雰囲気が漂っていました。やはり敗訴したら弁護団は責められるのだろう、2日後の原告団総会は針の筵だろう…と、初めての「事務局長」で迎える判決に胃が痛く、白井弁護士や加藤弁護士のご苦労を身に沁みて迎えた3月10日当日。
 着席した裁判長が、控訴人の名前の読み方を確認し始めたのを聞いて、皆様より少しだけ早く、「全面敗訴ではない」ことを確信しました。なぜなら、「全面敗訴」なら、控訴人の名前を読み上げることはないからです。それでも判決謄本を読むまでは、どうも信じられず、記者会見会場ですごい報道陣の数と熱気を見て、ようやく実感がわいてきた、というのが正直なところです。
 2 3・10判決の内容
(1) 3・10判決は、原告が求めた「懲戒処分の取り消し」と「損害賠償」のうち、「懲戒処分の取消し」を認め、損害賠償は認めませんでした
 判決は懲戒処分取消を求め167名(166名戒告、1名減給)全員の処分を取り消しましたが、その理由は、「裁量権の逸脱・濫用」です。
 通達と職務命令が憲法19条・20条等に違反すること、教育基本法の「不当な支配」に該当して違法であること、という我々の核となる主張については、残念ながら認められませんでした。
(2) まず教育基本法の「不当な支配」については、これまでの判決とほぼ同様の理屈で、教育委員会には必要性に応じて具体的命令を出す権限があり、10・23通達には必要性・合理性があるから違法ではない、としました。
(3) 憲法19条(20条)については(これまでの2007年2月ピアノ最高裁判決後の下級審では、ほぼすべての判決で、最高裁判決の理屈をそのまま引用していました。しかし3・10判決は、「一般的には」起立斉唱は原告らの思想良心と不可分ではない、という最高裁判決の枠組みを取り入れながらも、起立斉唱できないという「思い」を有する卒業式の参列者(保護者・来賓)に強制することは許されない、と明言しています。
 これは、ピアノ判決の理屈を推し進めれば、生徒や保護者に強制してもよいということになってしまう、という危惧を抱いたからでしょう。
 その上で、「都立学校の教師」であり「公務員」である原告らは一般の参列者とは別であるとし、最終的に憲法19条・20条違反とはならないとしました。
 教師はなぜ一般市民と別の人権制約が許されるのか、というところは大いに疑問ですが、起立斉唱強制が憲法19条の「思想良心」の侵害になり得るのだと認めさせたことは大きな成果だと思います(皆さんからすれば「当たり前」だろう、という感想かもしれませんが)。
(4) 判決は通達・職務命令の憲法違反や教育基本法違反は否定した上で、実際に下された懲戒処分は行政の裁量権の逸脱・濫用で違法だとして取消しました。簡単に言うと、実際に原告らに懲戒処分まで下したのは「やりすぎ」だ、ということです。
 その理由は、原告らの不起立は職務怠慢や破廉恥行為ではなく「生徒に正しい教育を行いたい」などという真摯な動機によるもので、やむにやまれぬ行動であったこと、不起立により卒業式等が混乱したとはいえないこと、他の処分事例と比べて重きに失すること、憲法学説や日弁連の声明等、起立斉唱の強制が違憲であることが通説であり原告らの考えは独自とは言えないこと(判決自身が、法学界の通説に従っていないことを自認している!)、等としています。
 この部分を読む限り、裁判官は相当に、原告の皆さんの「思い」に対する共感があったのだと思われます。もしピアノ最高裁判決がなければ、きっと違憲判決を書いてくれたのではないでしょうか。高裁としては、最高裁に真っ向から対立した判決を書いても最高裁に覆されてしまう、でもなんとか原告たちを救いたい、そのぎりぎりの思いが「裁量権逸脱」による処分取消、という結論になったのだと思います
 本件が、懲戒としては一番軽い「戒告」であっても許されないとしたことは、理屈はどうあれ非常に大きな意義があります。なぜなら、通達は命令違反者を「懲戒処分」することが前提となっていますから、懲戒処分が出来ないのであれば通達そのものの意味が大きく減殺されることになります。実質的には裁判所は、懲戒処分を前提とした通達そのものにダメ出しをした、ともいえます。
 3 最高裁に向けて
 この判決は、都は上告しました。原告側は処分取消しについては勝訴しているので上告できませんが、損害賠償については負けていますので、その部分を上告しました。舞台はいよいよ最高裁に移ります。
 ピアノ最高裁判決以来、「冬の時代」が続いてきた通達関連訴訟ですが、ようやく希望の光が見えてきました。もちろん、まだ「違憲違法」が認められたわけではなく、満足はできません。でももう一息、ハードルを越えた先に必ず勝利がある、と確信させてくれる判決でした。
『エデュカシオン エ リベルテ(東京・教育の自由裁判をすすめる会ニュース)』
第23号 2011年4月30日発行
連絡先〒160・0008東京都新宿区三栄町6小椋ビル401号

コメント    この記事についてブログを書く
« 「君が代」処分一次訴訟、高... | トップ | 8月高校生が集うふくしま総文 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日の丸・君が代関連ニュース」カテゴリの最新記事