=特別区の13年度組織・定数(下)=
◆ 休職者の影響じわり
職員支える取り組みを
09年度以降、1%台の削減が続く特別区全体の職員数だが、一部には増員や増減ゼロといった底打ちの兆しも見られる。
しかし、各区の職員数として挙げられた数字には休職者も含まれ、額面通りには受け止められない部分がある。特に精神疾患による休職者の存在は無視できず、職場にじわりと影響が出ている。
本紙アンケート調査では、12年度の休職者のうち、6割余りの約600人が精神疾患によるものと分かった。ここ数年、高止まりの状態が続いている。
公的な調査も実態を証明している。(一財)地方公務員安全衛生推進協会は毎年度、地方公務員の健康状況を調べているが、11年度の特別区の長期病休者1888人のうち、「精神及び行動の障害」は863人(男性447人、女性416人)を占めた。
率にして、男性で51・8%(10年度49・8%)、女性で40・6%(同38・6%)が該当し、疾病分類別の構成比のトップとなっている。
同協会は「定数が少なくなっている中で専門的あるいは高度な知識を求められたり、人事考課制度の導入などを受け、過剰な仕事、職場全体の余裕のなさ、助け合うおおらかさの欠如などが要因として挙げられている」と話す。
メンタルヘルス不全が社会問題化し始めたのは90年代後半ごろから。公務の職場でも心の病による長期病休者が急増し、同協会は地方公務員災害補償基金から委託を受けて、04年に予防策を探る研究会を設置。
06年に第1次、08年に第2次、09年に第3次の報告書をまとめた。
1次から3次までの全てに委員として入っていたのが、目黒区総務部人事課の保健師である田中智恵子さんだ。
◆ 職場の保健室
田中さんが普段いるのは区役所地下1階にある保健室。
「隣の同僚が元気がない」「本人は何も言わないが、この仕事がきつかったようだ」「Aさんは合わない上司からこんなことを言われたのが応えたらしい」。
廊下の奥に印刷室があるため、印刷のついでに立ち寄る職員などからいろいろな話が耳に入る。
田中さんは28年間、目黒区の職員の健康状態を見続けてきた。臨床心理士や産業医と連携して、メンタルヘルス支援に当たる。
「昔は一人が力量を超えた仕事を抱え込むのではなく、みんなで仕事を分け合って、助け合っていたが、今はその余裕がない」と実態を話す。
仕事だけではなく、家庭の問題が影響していることもある。
「特に女性の場合、親の介護や子育てなどと仕事の両立の負担がかかる。抱え込んだ重さが発症の要因となる」と分析する。
同区には休職後の職場復帰支援のため、「試し出勤」の仕組みがある。
田中さんは精神疾患の休職者が掛かっている主治医の診察に同行し、主治医と連携しながら、職場での作業時間を徐々に増やしていく復帰プログラムを作成する。
日頃の支援では「私の顔が職員に良く知られていることが一番重要」と言う。
田中さんのように常勤の保健師を置く区は半数程度だが、大半の保健師は2、3年で別の部署に異動してしまう。
同区では、保健室に行けば必ず田中さんに会えるという安心感と信頼感が相談者の支援に当たる上でプラスとなっている。
◆ 専用メールも
他区の取り組みはどうか。足立区は産業医12人のうち7人が精神科医で、常勤保健師2人は専用の電子メールアドレスを持っており、相談しやすい工夫をしている。
荒川区は、産業医の面談などを通じて專門機関の治療が必要と判断されながらも主治医がいない人の場合には、提携を結んでいる日本医科大学で速やかに治療に入ることが出来る体制を取っている。
相談者本人だけでなく、職場の対応も予防と対策に欠かせない。
地方公務員安全衛生推進協会は、人事・厚生担当者などを対象にメンタルヘルスマネジメント実践研修会を開き、必要な体制作りや実際的な実例研究、カウンセリングの実習などを行っている。
各区はこれまで職員の大幅な削減を続けてきた。一向に減らない精神疾患の状況は、職場のひずみの現れとの指摘もある。削減が行き着いた先にある新たな委託手法の検討など組織体制を模索することも重要だが、足元を見つめ直し、今、公務を担っている職員を支える地道な取り組みも求められる。
特別区の組織・人員をめぐる動きは、内に向けても外に向けても転機にある。(おわり)
『都政新報』(2013/6/4)
◆ 休職者の影響じわり
職員支える取り組みを
09年度以降、1%台の削減が続く特別区全体の職員数だが、一部には増員や増減ゼロといった底打ちの兆しも見られる。
しかし、各区の職員数として挙げられた数字には休職者も含まれ、額面通りには受け止められない部分がある。特に精神疾患による休職者の存在は無視できず、職場にじわりと影響が出ている。
本紙アンケート調査では、12年度の休職者のうち、6割余りの約600人が精神疾患によるものと分かった。ここ数年、高止まりの状態が続いている。
公的な調査も実態を証明している。(一財)地方公務員安全衛生推進協会は毎年度、地方公務員の健康状況を調べているが、11年度の特別区の長期病休者1888人のうち、「精神及び行動の障害」は863人(男性447人、女性416人)を占めた。
率にして、男性で51・8%(10年度49・8%)、女性で40・6%(同38・6%)が該当し、疾病分類別の構成比のトップとなっている。
同協会は「定数が少なくなっている中で専門的あるいは高度な知識を求められたり、人事考課制度の導入などを受け、過剰な仕事、職場全体の余裕のなさ、助け合うおおらかさの欠如などが要因として挙げられている」と話す。
メンタルヘルス不全が社会問題化し始めたのは90年代後半ごろから。公務の職場でも心の病による長期病休者が急増し、同協会は地方公務員災害補償基金から委託を受けて、04年に予防策を探る研究会を設置。
06年に第1次、08年に第2次、09年に第3次の報告書をまとめた。
1次から3次までの全てに委員として入っていたのが、目黒区総務部人事課の保健師である田中智恵子さんだ。
◆ 職場の保健室
田中さんが普段いるのは区役所地下1階にある保健室。
「隣の同僚が元気がない」「本人は何も言わないが、この仕事がきつかったようだ」「Aさんは合わない上司からこんなことを言われたのが応えたらしい」。
廊下の奥に印刷室があるため、印刷のついでに立ち寄る職員などからいろいろな話が耳に入る。
田中さんは28年間、目黒区の職員の健康状態を見続けてきた。臨床心理士や産業医と連携して、メンタルヘルス支援に当たる。
「昔は一人が力量を超えた仕事を抱え込むのではなく、みんなで仕事を分け合って、助け合っていたが、今はその余裕がない」と実態を話す。
仕事だけではなく、家庭の問題が影響していることもある。
「特に女性の場合、親の介護や子育てなどと仕事の両立の負担がかかる。抱え込んだ重さが発症の要因となる」と分析する。
同区には休職後の職場復帰支援のため、「試し出勤」の仕組みがある。
田中さんは精神疾患の休職者が掛かっている主治医の診察に同行し、主治医と連携しながら、職場での作業時間を徐々に増やしていく復帰プログラムを作成する。
日頃の支援では「私の顔が職員に良く知られていることが一番重要」と言う。
田中さんのように常勤の保健師を置く区は半数程度だが、大半の保健師は2、3年で別の部署に異動してしまう。
同区では、保健室に行けば必ず田中さんに会えるという安心感と信頼感が相談者の支援に当たる上でプラスとなっている。
◆ 専用メールも
他区の取り組みはどうか。足立区は産業医12人のうち7人が精神科医で、常勤保健師2人は専用の電子メールアドレスを持っており、相談しやすい工夫をしている。
荒川区は、産業医の面談などを通じて專門機関の治療が必要と判断されながらも主治医がいない人の場合には、提携を結んでいる日本医科大学で速やかに治療に入ることが出来る体制を取っている。
相談者本人だけでなく、職場の対応も予防と対策に欠かせない。
地方公務員安全衛生推進協会は、人事・厚生担当者などを対象にメンタルヘルスマネジメント実践研修会を開き、必要な体制作りや実際的な実例研究、カウンセリングの実習などを行っている。
各区はこれまで職員の大幅な削減を続けてきた。一向に減らない精神疾患の状況は、職場のひずみの現れとの指摘もある。削減が行き着いた先にある新たな委託手法の検討など組織体制を模索することも重要だが、足元を見つめ直し、今、公務を担っている職員を支える地道な取り組みも求められる。
特別区の組織・人員をめぐる動きは、内に向けても外に向けても転機にある。(おわり)
『都政新報』(2013/6/4)
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