◇ 中学歴史教科書に「慰安婦」記述を復活させよう!!
2006年から2007年にかけて、米下院決議をはじめ、カナダ議会、オランダ議会、EU議会、韓国議会、台湾議会、国連・規約人権委員会(自由権規約委員会)など国際社会は、日本政府に対して「慰安婦」問題の明確な解決を迫る決議を次々に採択した。
国内でも宝塚市議会・清瀬市議会・札幌市議会が意見書を採択する等、「慰安婦」問題について日本政府が一刻も早く被害者が納得する正当な措置を講じるよう求める声は、国内外の強い要請となっている。
勧告などに示された内容は、
①法的、歴史的責任を公式に認め、明確かつ曖昧さのない形で謝罪すること、
②賠償を支払う立法的・行政的な措置を講ずること、
③「慰安婦」の事実や責任を否定するような言論に対して明確に反駁すること、
④「慰安婦」の事実を歴史の教訓として教え、教育すること、
⑤加害者を処罰すること、
などであった。
しかし、日本政府はこうした声に全く耳を傾けようとしていない。
昨年から今年一月にかけて、民主党の谷岡郁子参議院議員は国会質問や質問主意書などで日本政府の姿勢を質したが、それに対する政府答弁は、
①(国連自由権規約委員会などの)勧告は法的拘束力を持つものではなく、勧告に従うことを義務づけているものではない、
②河野官房長官談話は、特に具体的な研究や教育を念頭に置いたものではない、
③「慰安婦」問題を含め、教科用図書で具体的にどのような事象を取り上げ、それをどのように記述するかは、教科用図書検定基準等に沿っている限り、当該図書の著作音等の判断にゆだねられている、
というものだった。
国際法の遵守義務を軽視する認識や、河野談話踏襲を繰り返しながらそこで述べられている決意(「我々はこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい」「われわれは、歴史研究、歴史教育を通じてこのような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する」)を骨抜きにする許すまじき答弁であるが、注目したいのは、「教科用図書検定基準等に沿っている限り」と前置きして「当該図書の著作者等の判断にゆだねられている」という点である。
◇ 「慰安婦」問題の解決と教科書記述
1997年度版中学歴史教科書は7社すべてに「慰安婦」が記述されたが、検定申請本8社のうち「慰安婦」についての記述が3社に減少(4社が削除)したのは2002年度版だった。
記述が激減した背景に政治圧力があったことは、2000年8月9日付け毎目新聞が「教科書会社が『政府関係者から記述を削除して欲しい』といわれたので了解して欲しいいわれた」と、執筆関係者のコメントを報道したことで一気に明るみに出た。
2000年は検定本の申請があった年で、「つくる会」教科書が登場した年であったが、当時は森内閣で安倍晋三氏が官房副長官を担い、文相当時の98年に「偏向教科書を検定提出前に是正させる」国会答弁した町村信孝議員(俵義文著『あぶない教科書NO!』)が教育担当の首相補佐官だった時期である。
安倍・中川議員らが、女性国際戦犯法廷を取り上げたNHK番組に圧力をかけて番組が改変された事件は、同時期の出来事だった。いわば、教科書記述後退とNHK番組改変は、同じ構図のなかで政治が教育とメディアに介人した重大な事件だったのである。
麻生首相は、教科書記述は「当該図書の著作者等の判断にゆだねられている」と言いつつ、「教科用図書検定基準等に沿っている限り」というのは、まさに検定制度改悪を念頭に置いた縛りである。
検定制度改悪案が、各教科書の内容と教育基本法等の目的・目標との対照表を提出させようとしていることは、「愛国心」のフィルターで「慰安婦」の記述を抑え込む危険性をはらんでいる。
また、著作者・監修者の担当箇所・役割を教科書上に明記することを促すとしていることは、記述後退が歴史修圧主義の攻撃に対する「自主規制」という側面があったことを考えると、執筆者の白由意思をけん制する恐れが十分にある。このような動きは記述復活を抑え込むものであり、断じて容認することはできない。
こうした状況が続く限り、教科書会社が記述復活に踏み出すことは極めて難しいと思われ、検定制度改悪を阻止する声を上げると同時に、教科書会社の背中を押す運動にも取り組んでいくことが必要である。
現在、各教科書会社は新学習指導要領に基づき12年度版中学歴史教科書の編集作業を始めているが、愛国心強化を謳い、国家に従順に従う人間をつくる教育を推し進めようという新学習指導要領を理由に、教科書会社が記述復活に背を向けることにならないよう、VAWW-NETジャパンは2月、教科書会社に記述復活を求める要請を送付した。
記述復活を実現するには、これまで明らかになった事実や、国際社会の声などを広め、教科書会社が勇気を持って記述に踏み出せるよう強い世論を作っていくことが必要である。
是非、各地で地方議会での意見書採択に取り組み、「慰安婦」記述復活の声を上げていただきたいとおもう。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース』65号(2009.4)
西野瑠美子(子どもと教科書全国ネット21代表委員、VAWW-NETジャパン共同代表)
2006年から2007年にかけて、米下院決議をはじめ、カナダ議会、オランダ議会、EU議会、韓国議会、台湾議会、国連・規約人権委員会(自由権規約委員会)など国際社会は、日本政府に対して「慰安婦」問題の明確な解決を迫る決議を次々に採択した。
国内でも宝塚市議会・清瀬市議会・札幌市議会が意見書を採択する等、「慰安婦」問題について日本政府が一刻も早く被害者が納得する正当な措置を講じるよう求める声は、国内外の強い要請となっている。
勧告などに示された内容は、
①法的、歴史的責任を公式に認め、明確かつ曖昧さのない形で謝罪すること、
②賠償を支払う立法的・行政的な措置を講ずること、
③「慰安婦」の事実や責任を否定するような言論に対して明確に反駁すること、
④「慰安婦」の事実を歴史の教訓として教え、教育すること、
⑤加害者を処罰すること、
などであった。
しかし、日本政府はこうした声に全く耳を傾けようとしていない。
昨年から今年一月にかけて、民主党の谷岡郁子参議院議員は国会質問や質問主意書などで日本政府の姿勢を質したが、それに対する政府答弁は、
①(国連自由権規約委員会などの)勧告は法的拘束力を持つものではなく、勧告に従うことを義務づけているものではない、
②河野官房長官談話は、特に具体的な研究や教育を念頭に置いたものではない、
③「慰安婦」問題を含め、教科用図書で具体的にどのような事象を取り上げ、それをどのように記述するかは、教科用図書検定基準等に沿っている限り、当該図書の著作音等の判断にゆだねられている、
というものだった。
国際法の遵守義務を軽視する認識や、河野談話踏襲を繰り返しながらそこで述べられている決意(「我々はこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい」「われわれは、歴史研究、歴史教育を通じてこのような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する」)を骨抜きにする許すまじき答弁であるが、注目したいのは、「教科用図書検定基準等に沿っている限り」と前置きして「当該図書の著作者等の判断にゆだねられている」という点である。
◇ 「慰安婦」問題の解決と教科書記述
1997年度版中学歴史教科書は7社すべてに「慰安婦」が記述されたが、検定申請本8社のうち「慰安婦」についての記述が3社に減少(4社が削除)したのは2002年度版だった。
記述が激減した背景に政治圧力があったことは、2000年8月9日付け毎目新聞が「教科書会社が『政府関係者から記述を削除して欲しい』といわれたので了解して欲しいいわれた」と、執筆関係者のコメントを報道したことで一気に明るみに出た。
2000年は検定本の申請があった年で、「つくる会」教科書が登場した年であったが、当時は森内閣で安倍晋三氏が官房副長官を担い、文相当時の98年に「偏向教科書を検定提出前に是正させる」国会答弁した町村信孝議員(俵義文著『あぶない教科書NO!』)が教育担当の首相補佐官だった時期である。
安倍・中川議員らが、女性国際戦犯法廷を取り上げたNHK番組に圧力をかけて番組が改変された事件は、同時期の出来事だった。いわば、教科書記述後退とNHK番組改変は、同じ構図のなかで政治が教育とメディアに介人した重大な事件だったのである。
麻生首相は、教科書記述は「当該図書の著作者等の判断にゆだねられている」と言いつつ、「教科用図書検定基準等に沿っている限り」というのは、まさに検定制度改悪を念頭に置いた縛りである。
検定制度改悪案が、各教科書の内容と教育基本法等の目的・目標との対照表を提出させようとしていることは、「愛国心」のフィルターで「慰安婦」の記述を抑え込む危険性をはらんでいる。
また、著作者・監修者の担当箇所・役割を教科書上に明記することを促すとしていることは、記述後退が歴史修圧主義の攻撃に対する「自主規制」という側面があったことを考えると、執筆者の白由意思をけん制する恐れが十分にある。このような動きは記述復活を抑え込むものであり、断じて容認することはできない。
こうした状況が続く限り、教科書会社が記述復活に踏み出すことは極めて難しいと思われ、検定制度改悪を阻止する声を上げると同時に、教科書会社の背中を押す運動にも取り組んでいくことが必要である。
現在、各教科書会社は新学習指導要領に基づき12年度版中学歴史教科書の編集作業を始めているが、愛国心強化を謳い、国家に従順に従う人間をつくる教育を推し進めようという新学習指導要領を理由に、教科書会社が記述復活に背を向けることにならないよう、VAWW-NETジャパンは2月、教科書会社に記述復活を求める要請を送付した。
記述復活を実現するには、これまで明らかになった事実や、国際社会の声などを広め、教科書会社が勇気を持って記述に踏み出せるよう強い世論を作っていくことが必要である。
是非、各地で地方議会での意見書採択に取り組み、「慰安婦」記述復活の声を上げていただきたいとおもう。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース』65号(2009.4)
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