世にある日々

現世(うつしよ)は 愛おしくもあり 疎ましくもあり・・・・

レコード屋さん

2010-08-11 | ひとりごと











音楽の神様、レコード屋の店主に尊敬と感謝の思いをこめて・・・・

高校3年の頃、気になっていたレコード屋さんがあった。
そのレコード屋さんは、ヘンなレコード屋さんだった。
店は普通の家で、入り口も普通のガラガラと横に戸を開ける入り口である。
入り口の横に小さなショーウインドがあってレコードが3枚ほど飾ってある。
すごく気になっていた。
実はこのレコード屋さん、父も気になっていたようだ。
父は、オーディオマニアでよく真空管アンプを自分で設計して作っていた。
真空管をこのレコード屋の近く店で買っていたから知っていたのだと思う。

「おもしろいレコード屋があるぞ!」と父に言われてついていった。
僕は、初めて気になっていたレコード屋さんに入った。
ガラガラと戸を開けたら、コンクリートが打ってある土間があった。
右側に和室があった。その和室を見た瞬間、僕は感動した。
縦1m、横1.5mくらいのピンクフロイドの大きな写真が額に入れて立てかけてあった。
それも、その当時一番欲しかった写真。
来日して、箱根の湖畔で行った「アフロディーテ」というコンサートの時の写真だった。
そして、でかいスピーカーがその両サイドにおいてあり、
そのまわりにレコードが入った段ボール箱がおいてあった。
歳は60~70くらいのおじさんがいた。

更におもしろいのは、始めて来るお客さんはレコードを売ってもらえないのだ。
いろいろと話を聞かされる。行儀が悪いと叱られる。人生訓を長々と聞かされる。
で、ビートルズくらいを30秒ほど聞かされる。
そして、もう今日は帰りなさいと言われて帰らされる。

だが、この「ビートルズくらい」の30秒が、その人の音楽観を変えることになる。
別になんとも思わない人は、もうこのレコード屋に二度とこない。
しかし、このレコードが市販のレコードと違うと分かった人は、その音が忘れられず
もう一度この店に足を運ぶ。

店主曰く
「君が誰にもまねのすることが出来ない素晴らしい精巧な時計を作ったとする。
 それを、よその国の時計屋が作り方を教えて欲しいと言ったら、
 君は持っている技術を全部教えるかね・・・・。
 ところが、君が尊敬しいる親友に時計を贈るとしたら
 君はどんな時計を作って贈るかね・・・・。」

どうやら、商業ベースで聞かされているレコードは、それなりの音らしい。

そして、2回目に行っても売ってもらえないことがある。
ここで売っているレコードの価値がわかっていると
店主に認めてもらわければ売ってもらえない。
そして、やっと売ってもらえるのだが、自分の欲しいレコードは売ってもらえない。
「これ聞きなさい。」その一言ではじめてレコードが手に入る。
しかも、その当時の市販のレコードの倍の値段だ。
何回も通って、「ビートルズが全部欲しいのですが、よろしくお願いします。」と言えるようになる。

そのレコードの音は、市販のレコードと全然違う。
特に、ビートルズとかカーペンターズは声が違うのだ。
このレコードを聴くと市販のレコードは、モヤがかかったように聞こえる。
この手のレコードは、日本では放送局にしか入らないそうだ。
FMは音がイイというが、それ以前にかけているレコードが違うみたいだ。

ここの店主は、仲良くなるとおもしろい。
70近くの歳をしてレッドツェッペリンを聞きながら
「どえりゃあ、ええ音しとるがや~」っていって喜んでいる。
それで、壁にはクラシックの有名な指揮者、演奏者と写った写真がサイン入りで飾られている。
僕は若い頃、この店主に
「イギリスで貴族とつきあうと名前を一字間違えただけで絶交になる。」
とか、いろいろおもしろいことを教えてもらった。

今、CDの時代になって、このレコード屋さんはどうなったかは知らない。
それでもふと、このレコード屋さんを思い出す。

音を大切にして、音楽をこよなく愛し、音に関しては絶対妥協しなかった店主。

この店で、ビートルズの「サージェント ペッパーズ ロンリー ハーツ クラブ バンド」
のピクチャーレコードをもらった。

これは、僕の宝物である。







Sgt Peppers Lonely Hearts Club Band